インタビュー
●「面倒くさい」は心のヘルプサイン!? 自分の心の状態の知りかた
5月といえば「五月病」の季節。
4月はあんなに頑張れたのに、連休明け、なぜか体が重くてなかなか動けない。考えがまとまらない。朝起きられない…。そんな異変を感じているならば要注意だ。
『心は1分で軽くなる!』(自由国民社刊)の著者であり、臨床心理カウンセラーの石野みどりさんは、「好きだったことが楽しめなくなってくると本格的に危険な状態」と訴える。
今回、新刊JPは石野さんに五月病のメカニズムや、自身の経験に基づくうつからの脱し方、そして気を病まない物事の考え方についてお話をうかがった。
前編のテーマは「“自分は今、疲れている”というサインの気付き方」だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)
新しい環境・立場の人は要注意!五月病の恐怖
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5月といえば五月病の季節です。なぜ、5月になると心が疲れてしまう症状が出てくるのでしょうか。
石野:五月病は正しく言えば「適応障害」です。特定の環境下にいると強いストレスを受けて、気分や行動面に影響が出るという障害ですね。
4月は新学期や引っ越し、就職、異動、昇進などで新しい環境に身を置く人も多いと思うのですが、その環境に上手く馴染めないこともあります。それでも、4月中は(環境に)適応しようと思って頑張るわけで、「ちょっと疲れたな」と思っても病院に行っている暇がないんですね。
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常に緊張している状態ですね。
石野:そう。早く慣れなきゃということもプレッシャーで、そんな中でゴールデンウイークに入ります。そこで1週間ほど休む。すると、緊張がほぐれます。ただ緊張が強すぎるほど反動も強くなるので、連休明けになっても4月と同じような状態に戻せないんです。
また、走り続けた4月が終わり、「自分はちゃんとできていたのかな」とか「仕事がうまくこなせていないな」と考えちゃうのが5月なんですよ。それもあって、五月病になってしまうんです。
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4月中も週末の土日に休みがある会社は多いと思います。その休みでは回復できないのですか?
石野:新しい環境というのは、想像以上にストレスが強いんですよ。人間関係も変わったりするじゃないですか。だから休みが足りない部分もあるのかな。
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なるほど。今でこそ「休むこと」が大切だと認識されていますけど、少し前は24時間働いて、「休まないことが美徳」というような風潮もありました。そういう意味では「休むこと」に対してかなり意識が変わってきていると思います。
石野:おっしゃる通り、世の中の流れ的には休みをちゃんと取りましょうという方向に行っていますし、政府が働き方改革を打ち出して、残業時間を規制したり、プレミアムフライデーを制定したりしていますよね。
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最近「休息法」がテーマの本をよく見かけるのですが、これまでの世代の人たちは逆に休むことに慣れていないのではと思うこともあります。
石野:高度経済成長からバブル期までは、サラリーマンたちが寝る間も惜しんで一生懸命働くのが当たり前でそれが成長に結びつくことを知っていました。その頃を経験していると、やっぱり「働いてこそ」という考えになります。
一方で、今の若者たち、ゆとり世代やさとり世代の子たちは、成長のない時代で育って、ゆとりを持って勉強してきたんですね。そんな子たちが急に昭和世代の働き方の文化に触れると、ギャップが激しいですよね。そこでも疲れてしまうわけです。
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頑張っている人の中には、「自分はまだまだ大丈夫」と思って頑張り続けてしまう人もいると思うんですね。そんな人が気付ける「疲れている」という心のサインはどのようなものがありますか?
石野:まずは生活のリズムを整えられない。朝起きられないとか、夜眠れなくなるということですね。また、それまでできていたことができなくなることもサインの一つです。食器を洗うことが面倒くさいと感じるとか、日常の中でやっていたことを面倒だと感じると、どこか心が疲れていると思った方がいいです。
あと、自分が今何をしたいと思っていたのかが分からなくなるんですよ。ご飯を食べたいのか、テレビを見たいのか。好きなものも分からなくなりますし、コミュニケーションも取りたくなくなる。特に好きだったはずなのに楽しめない、できないという状態は相当まずいです。気を付けてください。
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では、職場や家庭などで疲れている人を察知する方法を教えて下さい。
石野:客観的に見た方が、疲れているかどうかは分かると思うんです。例えば1日3回くらいうっかりミスをしてしまったA君がいるとして、A君は疲れているのか、集中できていない状態なのか、別のことを考えているのか、まずは本人ではなく周囲の人にA君の状態を聞いてみるんです。
そこで情報を得た上で、A君にどういう言葉をかけるのか考えるべきでしょうね。「彼は最近食欲がない」とか「お昼休みをいつ取っているのかわからない」という証言が出てくると、本人が空回りしちゃっている可能性がありますよね。
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そういう意味では、石野さんの本はマネジメントの立場にいる人も読んでほしいですよね。バリバリ働く姿を見せることも大切ですけれど、行き過ぎた労働になる可能性もあるので。
石野:頑張ることも大事だと思いますが、頑張りに〆切りをつくるといいと思います。このイベントまでは頑張って、そのあと休む時間を作るとか。人間、頑張り続けることはできないですから、そういう風にリーダーが仕向けることも大事だと思います。
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チームの中での助け合いですよね。
石野:チームマネジメントも大事だし、本人によるセルフマネジメントも大事です。「できます」「やります」で抱え過ぎて全部やろうとして倒れられても、全体に迷惑がかかってしまいますからね。
●カウンセラーが経験した“うつ” 「できることが当たり前」を捨てることが大事
自分の心は自分にしか分からないものだが、その一方で、自分に分からないこともある。
身体は「もう無理をしないで!」とサインを発しているのに、その一方で無理をしてしまう自分もいる。それがひどくなると、うつという症状が出てくる。
『心は1分で軽くなる!』(自由国民社刊)の著者であり、臨床心理カウンセラーの石野みどりさんもうつに悩んだ経験を持ち、その経験を活かしてスクールカウンセラーとして学生たちと向き合っている。
今回、新刊JPは石野さんに五月病のメカニズムや、ご自身の経験に基づくうつからの脱し方、そして気を病まない物事の考え方についてお話をうかがった。
後編のテーマは「うつからの脱し方」「燃え尽きないための方法」だ。
「できることが当たり前」ではない。
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本書の冒頭で石野さんが軽いうつに悩まれていたということが書かれていました。具体的にそのときのお話をお伺いしたいのですが。
石野:離婚をしたんです。それで一人で食べていかないといけないということで、カウンセリング関連の会社を立ち上げたんですね。それで一人で頑張って経営をしていたんだけど、離婚っていうトラブルですごくストレスがかかっていたところに、一人で会社を立ち上げちゃったから、もう大変なんですよ。
カウンセリング関連の会社を経営しているのに、自分は人のことを考えている余裕もないわけで、抱えている荷物が重すぎてついに倒れちゃったんです。
それで本当に何もできなくなってしまって、当時はマンガも読めないしテレビも見られない。まったく頭に入らないんですよ。それでパニックにもなる。マンガは読んでいてもストーリーがつながらない。朝起きても、ずっと寝ているような感じで外にも出られないという状況でした。
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そんな状況だったのですか…。そこからどのように改善していったのですか?
石野:事業に失敗して借金を抱えているので、まずは家賃の安いところに引っ越さないといけない。それが環境を変えるきっかけになりました。生活習慣も全部変えて、太陽にあたるようにしたんですよ。歩かなくてもいいから、公園で日に当たる。あとは大好きなことしかない。
そういう風に少しずつできることを増やしていったという感じですね。うつは一気に治るものではありません。もし一気に治ったように見えるなら、それは躁鬱という病気です。うつはちょっとずつしか治らないので。
精神安定剤も山ほど飲んでいたのを少しずつ減らしていきました。
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うつになる前となった後ってその見方は大きく変わったのではないですか?
石野:うつになった後は、マンガも読めないでしょう? それが悔しくて泣いたんです。読めなくても困ることはないけれど、マンガも読めない、テレビも見られない自分がいるということが情けなかった。できないことが積み重なって落ち込みました。
でも、そこからひとつずつできることを増やしていく。「公園に行けた、良かったね」と。次は「お茶が飲めた、良かったね」です。それを繰り返していって、少しずつ自分に自信が出てくる感じでした。
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つい、何でも「できることが当たり前」と思ってしまいますけど、そうではないんですよね。
石野:うつになる人に完璧主義が多いのは、そういう風に思ってしまうからでしょうね。できないと自分を責めちゃう。でも、赤ちゃんのときは歩けなかったし、話すこともできなかったわけだからね。
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あとは、「あの人はできるのになぜ自分はできないんだ」という比較もストレスの大きな要因の一つですよね。今はSNSで個人の情報がたくさん入ってきますが、その中の画像や動画が幸せ自慢やリア充アピールに写るということもあるそうです。
石野:先日、とある著者さんから聞いた話なんですが、Facebookを長くやっている人は幸福度が低いそうなんです。
Facebookって基本的には投稿に「いいね!」をもらうSNSだと思うのですが、自分の投稿ネタが切れているときも、誰かの幸せを写したがどんどん流れてくるわけですよね。すると、「この子はいいな。私は載せるものがない」と考えちゃうんですって。
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つまり、幸せ自慢の場に浸ることは自分を不幸にしてしまうことでもある、と。
石野:SNSは比較の文化ですよね。私は大学でスクールカウンセラーをしているのですが、「LINEでグループからはぶられた」と男の子がカウンセリングに来るんですよ。今どきの悩みだと思うけれど、その一方でコミュニケーションがすごく大変になっているとも感じます。人づきあいの仕方は誰も教えてくれないし。
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学生たちの心の闇を受け止めているわけですね。
石野:闇はいっぱいありますよ。あと、張り切っている人ほど燃え尽きてしまうよね。それは学生に限らず、社会人もそうだと思います。「頑張ります!」って率先して言う人ほど、燃え尽きちゃう可能性が高い。
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では、燃え尽きてしまわないようにするにはどうすればいいのでしょうか。
石野:こまめな気分転換は大事ですね。何か落ち込んだときに、自分が何をすれば心地よいのか紙に書いてまとめておくといいと思います。なぜなら、落ち込むと好きなものが分からなくなるんですよ。
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無心になれるものを見えるようにしておくと。
石野:そうです。猫と遊ぶとか、歌うとか、踊るでもいいです。抱えているものを忘れられる何かですね。それを見えるようにしておいて、ちょっと疲れたかなと思ったらすぐにやる。
あとは、裸足で土の上を歩くということも結構効果あります。もちろん硝子の破片とか危険物が落ちていないか注意した上でね。人間は動物ですから、土の感触は結構大事なんですよ。土の上はちょっと…というなら、海岸の砂浜でも芝生の上でもいいです。大地のエネルギーを感じることがリセットになるんです。
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『心は1分で軽くなる!』をどのような人に読んでほしいですか?
石野:20代、30代の女性がメインですが、男性ももちろん読んでほしいですね。20代、30代って自分の価値観がまだ定まっていなくて、自分の確固たる判断基準を持っていないことが多いんです。だから悩んでしまうのだけど、誰に聞いても答えを教えてくれない。そんなときに「こういう考え方があるんだ」と参考にしてもらいたいですね。
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最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
石野:「なんかちょっとうつっぽいな」とか「疲れたな」と思う時に読んでもらって、別の選択肢があるという「気付き」になってほしいです。
悩んでいるときは一つの考え方にこだわっているか、もしくはAかBしかないというような狭い視野になっています。でもそこで第三の選択肢があることで、余裕が生まれるんですね。
例えば「彼氏と別れるかどうか」を悩んでいるとして、今それを決める必要はないわけですよね。だから、「25歳の春までに答えを出す」ということを決めて、それまでに考える時間をつくる。そういう風にもできるわけです。そうしたヒントを書いたつもりなので、ぜひページを開いてみてください。
(新刊JP編集部)