『逆境の教科書 ピンチをチャンスに変える思考法』
230億円もの資産を失った逆境時代。立ち直りのきっかけとなったのは?
鬼頭: まず初めに山口さんの逆境時代の経験について教えていただけませんか?
以前、建築と不動産関係の会社を経営していたんですが、自分は外回りが好きだったので、実印やら株券やらを営業部長に預けていたら、そのまま会社を乗っ取られてしまったという……。気が付いたら当時住んでいたプール付きの家も差し押さえられていたんです。
鬼頭: え!?山口さんが創業して地道に大きくしてこられた会社だったんですよね?それは想像を超えた逆境ですね……。
そうですね。びっくりしました。
鬼頭: それほどの逆境から山口さんが今のように再起されたきっかけというのは?
破産直後は、裁判を繰り返す日々が続きましたし、それまでお付き合いのあった方々にも避けられるようになってしまって、正直かなり落ち込んでいましたね。駅のホームで電車が通る時、もう楽になってしまえたらな……と思った時もありました。ですが、百何人かいた社員の内、4人だけが私についてきてくれたんです。その4人に対してはなんとか給料を渡してあげられるように頑張りたいと思いました。この気持ちが支えになったのかもしれませんね。「自分のため」という事だけを考えていたら、おそらく今の私はいないと思います。
破産後に残ったのはこれまでの「ビジネススタイル」
鬼頭: その4名の社員に給料を払うために、まずどんなことから始めたんですか?
当時の私には、家も貯金も保険もなく、一文無しになってしまったんですけど、無くならなかったものもありました。何かというと、それまで追求してきたビジネススタイルです。商売のやり方や、考え方は差し押さえられる事なく手元に残っていたんです。
鬼頭: なるほど……。
一度自転車に乗る事が出来た人は一生自転車に乗れるのと同じように、一回覚えちゃったビジネスの成功法って身に染みついているものなんです。そこでまずは1億円だけ自分の貯金をつくって、社員と家族が食べていけるようにしたいなぁと思い、一生懸命商売していたら、1億円は何とかなってしまって……。そのお金でまた商売を続けていたら、それが2億円になり、4億円になり、2桁になって……。昔、美術館も運営していたんですけど、それも乗っ取られてしまったので、今度は美術館の再建に向けて頑張ろうという気持ちになっていました。
鬼頭: どんどん新しい目標を作っていくことも大切ですよね。とはいえ、それなりのモチベーションを持っていても、大きな挫折のあった直後に1億円の利益を上げるというのはなかなか難しい事かと思うんですが……。
確かに30~40代の人が普通に貯金をしていってもお金はあんまり貯まらないと思います。桁の小さい事からは大きな利益は生まれないんです。例えば喫茶店を始めて、お金を稼ごうとしても、コーヒーの単価ってせいぜい500円くらいで桁が少ないですよね。趣味の一環として「ただ美味しいコーヒーを作りたい!」という考えなら良いんですけど、ビジネスとして考えると効率がよくありません。なので、何か大きな夢があったり、大きな額のお金を残したいと思ったなら、もっと桁の多いものや、金融機関を上手く使うと良いと思いますね。
暗い気分から脱却するためには、まず不安要素を全て書き出してみる!
鬼頭: 逆境に立たされた時って、どうしても気分が暗くなってしまったり、家に籠りがちになったりする人も多いと思うんですけど、そんな時はまず具体的にどのような行動をとるといいんでしょう?
人や運って明るい人のところ集まってくるものなんです。なので、まずは暗くなってしまわないことが重要ですね。暗さの原因となっている不安感を持たない事。それって技術だと思うんです。スポーツと同じですね。人の生き方、考え方にも技術があってそれは生きていく上でも絶対に必要な事だと思うんです。
鬼頭: 確かに、そういう技術だと思ってしまえば出来るかもしれない……。
そうですよね。そこで、じゃあ暗くならないためにはどうすればいいかというと、まずは悩みを因数分解してみるんです。自分の抱えているマイナス要素を全て書き出して、その内容としっかり向き合ってみてください。例えば、「上司との関係が上手くいかなくてストレスがたまる!」という内容であれば、「じゃあ他の部署に移ったらどうか?」とか「他の会社に行ったら?」とか、考えた分だけ解決法が見えてくると思います。それを続けていると、だんだん怖いものがなくなっていくんです。また、手帳等に人と会う予定をびっしり詰め込んで自分を暇にしないことも重要です。
鬼頭: 落ち込んでいる時って1人で何もせずにいると、どんどん気分が沈んでいきますもんね……。
そうなんです。ましてや、そんな時にゲームやパチンコ等に没頭してしまうと、自分の大切な時間を大幅に削られてしまう事になります。そんな時こそ、お金だけではなく自分の将来のための「知的な貯金」、「体験の貯金」をしていくことが大切だと思います。