業績が思わしくない会社にありがちなコミュニケーションの形とは?
「部下との関係はうまくいっていますか?」と聞かれ、「うまくいっています!」と自信を持って答えられる上司は、世の中にどれほどいるだろう。
また、この質問に自信を持ってイエスと答えられても、それはそれで心配である。
ビジネスの現場において、上司と部下の理想的な関係とはどのようなものなのか、またそのような関係はどうすれば築くことができるのか。
今回は、『壁を崩して橋を架ける 結果を出すリーダーがやっているたった1つのこと』(集英社)の著者であり、様々な企業の組織変革にもかかわる道幸武久さんにお話をうかがった。
■上司がやってしまいがちな「独りよがり」なコミュニケーションとは
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本書のキーワードである「クロスコミュニケーション」がどのようなものなのかについて、まずは教えていただけますか。
道幸:
文字どおり対話ができている状態を指します。たとえば、上司と部下が1対1で1時間話すなら、それぞれが30分ずつ話すというイメージです。
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互いに、同じだけ話したり聞いたりできているという状態を指すわけですね。他にも、「クロスコミュニケーションになっているかどうか」をチェックする目安はありますか。
道幸:
大まかにいって二つあります。まず、お互いに「心から言いたいこと」を言い合える状態にあるか。もう一つは、相手の価値観に寄りすぎず、かつ自分の価値観に固執しすぎていないかです。
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そう言われてみると、組織のなかでクロスコミュニケーションを実現させるのは、なかなか難しい気がしてきます……。
道幸:
そうですね。よく見かけるのが、上司側が一方的なコミュニケーションしか取れていないにもかかわらず、「自分は部下と良好な関係を築けている」と勘違いしているようなケースです。
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具体的には、どういうことでしょう?
道幸:
たとえば、部下をしょっちゅう“当日いきなり”飲みニケーションに誘う上司がいたとしましょう。
部下としては、上司が自分のことを気づかって誘ってくれているのが分かるために、誘いを断れない。すると上司は「いつ誘っても、ついてきてくれる」と思うようになる。でも、これが悲劇の始まりなんです。
つまり、部下は内心、「ただでさえ毎日残業続きなのだから、たまには早く帰って家でご飯を食べたいなあ……」と思っているけれど、そのような本音に上司がまったく気づいていない。気づいていないために、以後も同じような誘い方が延々と繰り返されるというケースです。
これは、お互いに心から言いたいことを言えていない典型例といえるでしょう。
■スタッフ同士の人間関係の良し悪しが業績に直結することも!?
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ところで、道幸さんは普段どのような活動をするなかで、そういった気づきを得ていったのですか。
道幸:
企業研修コンサルタントとして様々な会社に出向き、ワークショップなどを通じて現場改革を促すための活動を行なっています。
元々はブランディングなども含め、手広く活動していていました。ですが、職場の人間関係がうまくいっていないために、思ったようなパフォーマンスが出ない組織をイヤというほど見ることになり……。
そういったなかで、「機能するチーム」を作り上げることに特化するようになっていったんです。
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それは言葉をかえれば、世の中全体の傾向として、職場の人間関係を良好に保つことがどんどん難しくなっているとも言えるかもしれません。そのように状況が変化してきた背景には、どのような問題があると思われますか。
道幸:
かつては軍隊式の組織、つまり上に立つ人がある程度トップダウンで意思決定をして、あとは現場の人が実行するという「縦のコミュニケーション」だけでも充分成果があがっていました。
でも、今はそういう時代ではありません。ビジネス環境が複雑化したため、縦のコミュニケーションだけでなく、部署間での「横のコミュニケーション」も活発におこなわないと、組織として機能しなくなってきました。
縦と横のコミュニケーションを活発に行えない状態を放置しておけば自ずと結果が出なくなり、職場の人間関係もギスギスしがちになるというわけです。
--具体例として、どのようなものがありますか。
道幸:
「箱モノ」ビジネスは、顕著にこういう傾向が見られます。携帯ショップやディーラーなど、お客さんが箱、つまり店舗に出かけてきてくれるのを待つというスタイルのビジネスですね。
こうしたビジネスにおいて、スタッフ同士の人間関係がうまくいっていないと、そのドヨーンとした空気がお客さんにも伝わるのか、ビックリするほど人が寄りつかなくなり、業績が落ちるということがよくあります。
つまり職場の人間関係が業績に直結するというわけです。
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人間関係が悪化した状態のまま、いくら表面的な施策を打っても成果が出ないのは当然と言えば当然という気もします。そのような状況を改善する上で、特に重要になるのは、どのようなことでしょうか。
道幸:
冒頭の話に戻りますが、互いの価値観を認め合い、精神的なつながりを強めていくことが重要だと考えます。本書ではその喩えとして、「橋を架ける」という表現を使っているのです。
ただ、ひと口に「精神的なつながり」といっても、会社が置かれている状況によって、目指すべき方向はそれぞれ異なります。
本書では「糸の橋」から「石の橋」まで5つのステップを紹介していますが、最後の「石の橋」とは、公私ともに互いのことを深く理解し合い、「どんな苦労も共にできる」と強く思えている状態。でも、すべての組織が「石の橋」を目指す必要はありません。
たとえば、創業したてのベンチャー企業であれば、すべてのスタッフ同士が互いに石の橋を架け合い、強固なチームを作り上げておかないと、ちょっと想定外なことが起こるだけでたちまち組織として立ち行かなくなる危険性がある。
でも、創業から10年経過し、ある程度の安定フェーズに入った企業であれば、話は違ってきます。スタッフによっては「プライベートと仕事は分けて考えたい」という人が出てきてもおかしくないし、そういうスタッフを許容できる程度の余裕がなければ、組織としてマズいということにもなるでしょう。
したがって、上司は会社の置かれた状況をよくよく踏まえた上で、部下とどの程度の精神的つながりを作っていくかを考えていかなければならないのです。
組織を崩壊させる、「男の嫉妬」が持つ恐るべき破壊力
組織のなかで働くことには評価がつきまとう。
また、ややこしいことに、ひとりの上司から高評価をもらったことで、べつの上司の嫉妬を買ってしまうこともある。
組織のなかで働く以上は逃れられない、こうした人間関係の難しさとどう向き合えばいいのか。
『壁を崩して橋を架ける 結果を出すリーダーがやっているたった1つのこと』(集英社)の著者であり、コンサルタントとして様々な企業の組織改革を手がけている道幸武久さんに、組織のなかで人間関係を円滑に保つためのきっかけの作り方をうかがった。
■コミュニケーションの阻害要因となる「壁」
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インタビュー前編では、クロスコミュニケーションを実現する上で、「互いの価値観を認め合うことが重要」とおっしゃっていました。それは本書に出てくる「壁」の話につながりますか。
道幸:
はい、つながります。どちらかが「コンプレックスを隠したい」と思っていたり、相手の気持ちを尊重しようとしすぎて自分の気持ちを押さえこんでしまうと、相手との間に「壁」ができてしまいます。
こうなってしまうと、正常なコミュニケーションをとることができません。私のような仕事をしていると、コーチングの依頼を受けることもあるのですが、壁ができたままコーチングを取り入れたところで、まったく機能しないのです。
そこでまずは、壁を崩すことが必要になる。そして壁を崩すために欠かせないのが、互いの価値観を認めることなんです。
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本書のなかには、我慢や無理が原因でできる壁、努力や理念が原因でできる壁など、様々なタイプの壁が紹介されています。気づきにくい壁は、どのタイプですか。
道幸:
嫉妬が原因でできる壁は気づきにくいですね。実際、こんなケースがありました。
社長、副社長、課長の3人がいて、それぞれ皆、人格者。仕事もよくできる人たちでした。ちなみに社長と副社長は同世代で50代。課長はまだ30代。
社長は副社長と課長、それぞれの長所を認め等しく評価していましたが、課長は若い分、つい社長としても声をかけやすかった。社長と課長が仲良さそうに話をしている様子がたびたび見られました。傍から見て「社長は課長に目をかけている」という印象を持たれてもおかしくない状況だったんです。
間にはさまれた副社長としては面白くなかったようで、社長の目が届かないところで、課長にものすごいプレッシャーをかけるようになり……。冷静に考えて、ひと世代以上も下の課長が副社長のライバルになるわけはありません。でも、副社長は嫉妬心をおさえられなかった。こうして、副社長と課長との間には高い壁ができあがってしまったのです。
--そのような壁を崩すため、道幸さんはまず何をしたのですか。
道幸:
私がコンサルとして入るまで、社長はこの状況にまったく気づいていませんでした。そこで単刀直入に「いま、副社長と課長との間で、こういうことが起きていますよ」と報告することから始めました。まずは正しく現状認識をしていただかないことには、改革も進めようがないですから。
■キャッチボールで関係改善
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なるほど。たしかに最初のボタンをかけ違えたまま、いくら色々な施策を講じたところで効果は薄いでしょうね。他にはどのようなケースがありましたか。
道幸:
従業員数が40名ほどの 地方企業で、事務所のなかでテニスボールを使ってキャッチボールをするという研修を行なったことがあります。
この会社は地方ということもあり、皆、車通勤。なので、基本的に飲みニケーションはできない会社でした。そこで、メンバー間のラフなコミュニケーションを促すためのきっかけとして、キャッチボールを勧めたんです。
やったことは極めてシンプルです。ボールを持った人が、誰かに向ってテニスボールを投げる。そして、ただ投げるだけじゃなく、投げる相手に向かって普段から思っていること……良いことも悪いことも含めて伝えるようにする。そしてボールを受け取る側は、言われたことを、その場で承認する。これらのルールを設けた上でキャッチボールをし合ってもらったんです。
すると、どんなコミュニケーションが起きたか。平社員が社長に向かって、「もっとこういうふうにしてほしい」と、日頃不満に思っていたようなことをサラッと伝えたりする。ボールを投げながらですから、それを見ている周囲の人も社長本人も和やかに、そのことを受け止められるんです。
たったこれだけのことですが、15分ほど続けるだけで、だいぶ壁はなくなり、メンバーの帰属意識も高まりました。
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そのような研修を積み重ね、クロスコミュニケーションが実現した暁には、組織としてどのような変化があらわれるのですか。
道幸:
てきめんに業績がアップします。
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業績アップ以外の副産物はありますか。
道幸:
これはやや主観的な話になりますが、クロスコミュニケーションができている組織では、仮に退職者が出ても、「辞めたあとで悪口を言われる」みたなことがなくなることが多いように感じます。
つまり、クロスコミュニケーションがとれるようになって対話が進むなかで、どちらが良い悪いではなく、メンバー同士の立場の違いが鮮明になる。その結果、「これ以上、歩み寄るのは、互いにとってメリットも少ないから、私は組織を離れることにします」というメンバーも出てくる。
でも、それはいわゆるケンカ別れとは全く次元が異なります。辞めたあとにネガティブなことを言われずにすむというわけです。
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最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
道幸:
もし、この記事がきっかけで本書を手にとっていただけたなら、5回、10回と繰り返し読んでいただきたいですね。
私自身、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』は500回以上読み、いまでは内容を暗唱できるほどです。なので、私の本を気に入っていただけたなら、繰り返し読んで、そのたびに得られるであろう気づきを味わっていただきたいです。
(新刊JP編集部)