BOOK REVIEW解説

■ 愛する人と交われない…
 女性たちの人生に影を落とす「女性器コンプレックス」

自分の性器にコンプレックスを持ち、性交渉ができなくなってしまう――そんな、“女性器コンプレックス”を抱く女性たちがいます。

総合商社に勤める33歳の独身女性。
彼女は、20代の10年間、学生時代からの恋人と交際していました。別れたのは、結婚も考えていた30歳の誕生日の直前。理由は彼の浮気でした。

浮気の理由について、彼女は「私とのセックスが悪かったのではないか」と考えています。実は10代の頃から自分の小陰唇が下着からはみ出していることに悩んでいたのです。

「カレとの性格的な相性は良かった。となれば、違いはセックスだけじゃないかと。思い当たるのは“大きすぎる小陰唇のヒダ”のことだけでした」

10年付き合っていた彼氏から、自分の性器について何か指摘されたことは一度もありません。

しかし、この浮気の原因が自分の性器にあると思い込んだ彼女は、その後、お見合いを通して付き合い始めた彼氏ができたものの、性器に対するコンプレックスからセックスを拒絶。交際は解消となりました。

お見合いを勧めた両親には、別れた理由なんてとても言えないと語る彼女は、「生涯セックスのない人生でも仕方がない」と思い始めているそうです。

■ 交際相手や医師の何気ない一言がコンプレックスの原因にも

このエピソードは、美容婦人科医の喜田直江さんによる『女性器コンプレックス 愛する人と交われない女たちの苦悩』(幻冬舎刊)に登場する事例の一つです。

女性器コンプレックスとは、その名の通り、女性が自らの性器にコンプレックスを持ってしまうこと。
他人に見られるのが怖い、痛みを恐れて性交渉を持てない、性交渉のつらい経験がトラウマになってしまったなど、コンプレックスの程度や原因はさまざまですが、性交渉ができなくなることのほかに、温泉や大浴場に入れない、婦人科系のがん検診を受けられないなど、生活に支障をきたしてしまうこともあります。

また、コンプレックスを抱くタイミングはさまざま。
前述した女性のように元から悩みを持っていて、何かのきっかけからそのコンプレックスが強くなる人もいれば、付き合っている男性と性交渉中に何気なく言われた一言が引き金になったり、産科や婦人科の医師からセクハラとも受け取れるような言葉を投げかけられてしまったところから、コンプレックスを抱くようになってしまうということもあるといいます。

「お前のは、いままでの彼女たちと違うんだよな」
「出産すれば(あるいは年を取れば)誰でもそう、仕方ない」

これらの言葉が、コンプレックスを抱かせる大きな要因となってしまうのです。

■ 悩みを他人に打ち明けにくいからこそ深刻化する

もともと産婦人科医としてキャリアをスタートした喜田さんが、間もなく直面したのがこうした女性たちの悩みだったそうです。

出産によって膣がゆるんでしまった、生まれつきの形や大きさに悩んでいる、妊娠を望んでいるのに生交渉ができない…。こうした悩みはとてもデリケートであり、男性医師には相談しにくいものです。また、勇気を出して打ち明けてみても、明確な解決策が提示されないということは珍しくありません。

喜田さんは、多くの女性が「女性器」の正しい知識がないために、おぼろげに女性器コンプレックスを持っていることを指摘します。

本書は、具体的にどんなケアが必要かといったことなど、コンプレックスを解決するための方法を含めて、女性器コンプレックスの実情を捉えています。打ち明けにくい問題だからこそ、知っておきたい情報が詰まった一冊です。

(新刊JP編集部)

BOOKDATA書籍情報

プロフィール

喜田 直江

キダ ナオエ
平成13年京都府立医科大学卒業後、産婦人科医として多数の分娩・手術症例を経験。
平成15年形成外科医として、形成外科の基本から縫合の技術まで幅広く習得。平成18年大手美容外科にて美容外科・美容皮膚科全般を習得。とくに婦人科系の美容手術は、日本でも有数の症例数を誇る。平成23年10月、東京都中央区銀座でなおえビューティークリニックを開院。日本形成外科学会会員、日本性科学会会員、ビビーブ認定医、ウルトラヴェラ指導医。

目次

  1. はじめに
  2. 第1章 愛する人と交わりたいのに交われない。「女性器コンプレックス」の女たち
  3. 第2章 パートナー、医師……彼女たちを追い詰める周囲の人たちからのひと言
  4. 第3章 コンプレックスが引き金となる。女の人生に暗い影を落とす「セックス恐怖症」
  5. 第4章 「女性器コンプレックス」を克服して、新しい人生を踏み出した女たち
  6. 第5章 恋愛、出産……コンプレックスを克服すれば、女の人生は輝きだす
  7. おわりに
  8. 巻末資料 女性器にまつわるよくあるお悩みQ&A

INTERVIEWインタビュー

■ 男性は要注意…!何気ない一言が女性たちを悩ませている

―― 「性器」というと、そう簡単には人に相談できない部分ですよね。そこにコンプレックスを抱いて悩んでいる女性たちがいる。

喜田:
そうですね。多く見受けられるのは、パートナーや医者から指摘を受けて「自分は普通じゃないんだ」と悩みを抱え込んでしまうというケースです。でも、実際に性器の形や大きさ、色などに正解はありません。

もう一つは、生まれてからずっと不便を感じているというケースですね。例えば、自転車やオートバイに乗ったり、細身のパンツをはくと、性器が挟まったような感覚で痛みを感じるという方がいらっしゃいます。この場合、原因は小陰唇というひだの大きさにあることが多いです。

私の元に相談にいらっしゃる方はごくごく普通の女性ばかりですよ。

著者写真

――悩みに悩んだ末に喜田さんの元にいらっしゃるのですか?

喜田:
長い期間悩んで来られる方もいらっしゃいますし、「普通じゃない」と思ってすぐに来られる方もいらっしゃいますね。また、例えばインターネットで性器に関する噂を見て、「自分はこれに当てはまるかも…」と思って相談にいらっしゃる方もいます。

―― 例えば、「性器が黒ずんでいると経験人数が多い」というような噂話をネットで見て…ということでしょうか。

喜田:
そうです。でもそれは都市伝説のようなもので、肌の色と同様に元から個人差があるものです。ネットの情報には間違えているものも多いのですが、知識がないと本当かどうか判断できません。だから悩んでしまうのでしょうね。

―― 本書では20代から70代まで幅広い年齢の女性の悩みが出てきますが、年齢によって悩みの傾向は違うのでしょうか。

喜田:
違いますね。例えばすべての年代に多いのは小陰唇が大きいといった悩みです。20代だと処女膜が原因の性交痛が多いですね。痛くて性行為ができないという方もいます。30代、40代になると膣のゆるみが気になる。それ以上になると加齢による性交痛のご相談が多いです。

―― 性交痛といえば、扶桑社から出版されている『夫のちんぽが入らない』という本が大きな話題を呼んでいます。夫のペニスだけが入らないというケースというのはありえるのでしょうか?

喜田:
私も読ませていただきましたが、このように誰にも言えずに悩んでいる方は想像以上に多いのではないかと思いました。実際のところは診察してみないと分かりませんが、おそらく何かしらの対処はできたのではないかと思います。

性交痛の場合、物理的な問題だけでなく、メンタル的な問題もあります。特定の人に対してだけ緊張してしまい、入らないということもあるのですよ。

―― 性器に関する悩みは周囲の人たちになかなか相談しにくいと思います。コンプレックスを抱えたら、まずどうすればいいのでしょうか?

喜田:
一人で抱え込むことだけはしないほうがいいですね。でも、友だちにそう簡単に言えることでもないですし、産婦人科医に話しても、「病気じゃないから」と軽く返事されて終わりということもあるようです。

悩みを抱えているときに、その悩みを簡単につっぱねられたらそれこそショックが大きくなりますよね。だから、ちゃんと話を聞いてくれる人に相談すべきでしょうね。

―― そういえば、先ほどもおっしゃっていましたが医者の言葉が原因で性器にコンプレックスを抱いてしまうという女性も多いとか。

喜田:
そうなんです。産婦人科を受診したところ、膣のゆるみについて「命に関わる病気じゃないんだから、気にしなくていい」とだけ言われたり、婦人科のがん検診で医者がカルテに「大きい」と所見を書いているのを見てしまったり…。

それらは、医学的に問題はありません。でも、そこが引き金になり、コンプレックスに陥ってしまう女性は少なくないんです。性交痛に悩んでいると言うと、「最初は痛いのが当たり前だから我慢が足りない」と言われてショックを受けた女性もいました。

―― 「我慢が足りない」で済ませてしまう、と。

喜田:
そうなんです。そういったことがきっかけでコンプレックスになり、がん検診を受けられなくなったり…ということがあるから怖いんです。

また、そういった発言をしてしまうのは、男性の医師に限りません。女性の医師から言われて塞ぎ込んでしまったということもあります。

「女性だから悩みを聞いてくれる」というわけではありません。悩みを相談できる人がいない…。そこがこのコンプレックスの根を深くさせている部分なのだと思います。

■ 名器は存在しない? においケアなら毛を剃る?

―― 喜田さんが自分の性器にコンプレックスを抱いている女性がいるということに気付いたきっかけはなんだったのですか?

喜田:
私の場合、もともと産婦人科医だったので、同じ女性ということもあって悩みを相談されることが多かったんです。ただ、病気ではないので、産婦人科では治療することができず、美容の範疇に入るんですね。

―― だから喜田さんは美容婦人科医の肩書きなんですね。

喜田:
そうです。美容外科ともイメージが違うのですが、切り分けるとそちらに入るんです。病気ではないものにメスを入れることになるので。

―― では、『女性器コンプレックス』を執筆した経緯は?

喜田:
いろいろな患者さんのお話を聞いていて、女性器に対する知識があまりにも少ないという印象を抱いたんですね。

今のクリニックを開業して5年ほど経って、同じように悩んでいる人がたくさんいること、そして対処の方法があることを、なるべく多くの女性に知ってほしいというところで、本という形であれば広まるかなと。

―― やはりパートナーからの何気ない一言から自分の性器にコンプレックスを抱いてしまう方が多いという事実がある以上、男性側も不用意な一言を言わないように気をつけないといけないということを痛感しました。

喜田:
そうなんですよね。実はこの本は女性に向けて書いたのですが、本を読んだ女性が男性にも読んでほしいと貸したりすることが少なくないようで、読んでいただいた男性からも反応がきています。

「大きくない?」「ゆるいなあ」と思ってしまう男性側の心理もあるでしょう。でも、伝え方を間違えれば女性はただ傷つくだけ。また、女性が「(小陰唇が)大きいよね」と言われたら、誰と比べてそんなことを言ってるんだろうと疑心暗鬼になるでしょう。

―― それならば、男性側が不満を言わなければいいのではないでしょうか。

喜田:
ただ、もし男性側が不満に思ってしまった場合、後々それが喧嘩の引き金になってしまうこともあります。

反対に男性も自分の性器にコンプレックスを持っている人はいらっしゃると思いますし、男性の性器に不満がある女性もいるでしょう。

不満を抱えたままお付き合いするのは2人にとって良いことではありません。ただ、言いにくいことでもあるので、そこはしっかりとした信頼関係を築いて、「一緒に治療してみない?」とかお互いが協力的になっていく必要があると思います。

―― カップルの話が出てきましたが、よく「性の不一致から別れる」という話がありますよね。物理的な相性ってあるのですか?

喜田:
物理的にはありません。結局は気持ちです。例えば、「名器って存在するんですか?」と聞かれるのですが、実際のところ医学的にはありません。お互い気持ち良い、気持ち良くないというのは気持ちの相性です。

―― では、よく言われている「名器」とは何なのでしょうか。

喜田:
それが存在しないということです。確かに締まりがよく、見た目もきれいな方がいいのでしょうけど、男性の感じ方で名器と言っているだけなので定義のしようがないんです。

―― あくまで「個人の感想です」ということなんですね。また、本書には性器のケア方法についても書かれていますが、例えば黒ずみやにおいの正しいケア方法について教えていただけますか?

喜田:
ゴシゴシと粗い布なんかで洗うのはNGです。顔と一緒だと考えていただくといいです。ゴシゴシと強い刺激を与えれば傷ついてカサカサになりますし、洗わなかったら油でギトギトになります。

ですから、デリケートゾーン用の石鹸を使って、手でやさしく洗うのがいいです。

また、毛の処理については、実は(毛が)ないにこしたことはないです。毛は雑菌の温床になってしまいがちなので、においの元にもなります。どうしても抵抗があるようでしたら、カットして整える程度はしたほうがいいです。下着からはみ出てしまうくらいの長さはよくないですね。

著者写真

―― 本書をどのような方に読んでほしいですか?

喜田:
一人で悩んでいる女性にはもちろん、パートナーに対して不満があるけど言えない男性にもぜひ目を通していただきたいです。この本によって、性別を問わずひとりでも多くの方のお悩みが解決されますように、そして人生の新たな1歩の手助けになりますように願っています。

(了)

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