「成功法則本」にありがちな聖書の誤解
――今回文庫化された『聖書に隠された成功法則』についてお話をうかがえればと思います。ほとんどの日本人にとって、聖書はなじみが薄いものです。まずは、聖書のどんなところに成功法則が隠されているのかというところについて、教えていただきたいです。
松島:たしかに、普段から聖書に親しんでいるという人は日本には少ないかもしれません。しかし、聖書で説かれている内容は、本来日本人の感覚によく合うものです。
「天命に従って生きる」「利他の精神」「和を以って尊し」といったことが聖書からは読み取れるわけですが、日本古来の神道の教えとも共通するものがありますよね。
――松島さんは本の中で聖書を引用しながらその教えについて解説されていましたが、たしかに自分とかけ離れた価値観だという感じはしませんでした。
松島:そうだと思います。聖書には三つの原則がありまして、それは「人は神に愛されている」「人は神に創られた最高傑作である」「人には神に与えられた使命がある」というものです。これを理解することが、自分の人生を成功させる大前提になります。
また、それとは別に人生には敵からの攻撃もあるわけです。敵というのは「サタン」なのですが、サタンがどんな攻撃をしてくるかは、人によって違います。この攻撃のパターンを、本の中で性格別に解説しているので、ぜひ参考にしていただきたいですね。
――この本では、旧約聖書も新訳聖書も扱われていますが、旧約聖書から数えると、聖書には6000年の歴史があるとされています。この歴史上、聖書を「成功法則」として読む動きはあったのでしょうか?
松島:有名な「引き寄せの法則」ですとか、ナポレオン・ヒルの成功法則など、欧米で生まれた成功法則は、ほとんどが聖書をベースにしていると考えていいと思います。
ただ、こうした成功法則の聖書の解釈はまちがっていることが多いんです。「引き寄せの法則」にしても、「人にはいろいろなものを引き寄せる力がある」と。
そこは聖書の観点から見てもまちがいではないのですが、それを「お金を引き寄せる」とか「幸せを引き寄せる」とか、個人の利益を引き寄せる方向に向かってしまって、使命とか世の中のためという視点が欠けているのが欧米の成功法則の特徴です。
――個人主義の文脈で聖書を理解してしまっている。
松島:そうですね。半分は合っているのですが、根本がまちがっているということです。自己中心に原理原則を解釈して、自分の利益だけに結び付けようとしてもうまくはいかないものです。
――松島さんが考える「成功」とはどんなものですか?
松島:成功を定義するならば、「この地上で、幸せで、豊かで、充実した人生を歩むこと」だと思っています。
問題は「豊か」とは何かということですが、もちろん物質的な豊かさもあるでしょうし、人から感謝されたり、喜ばれたりすることで感じる精神的な豊かさもあります。
ほとんどの人は、まずお金を稼いで物質的な豊かさを得てから、それだけではダメだということで精神的な豊かさを求めるようになるのですが、もう一つ忘れてはいけないのが「存在することの豊かさ」です。
「自分は神に愛されている」「天に愛されている」と思える人は、この世に存在していることだけですばらしいことだと思えるはずです。「物質的な豊かさ」「精神的な豊かさ」「存在の豊かさ」の3つが揃って初めて「豊かさ」なんです。
「使命」とは仕事・社会貢献・遊びが一体になったもの
――松島さんは、聖書をベースにした本を書かれているとともに、投資の世界で活躍されています。ご自身のビジネスの成功と聖書にどんな関係があるとお考えですか?
松島:聖書の教えの中で一番大切なのは、「神と共に歩む」という概念です。それは、「神に与えられた使命を生きる」ということと重なるのですが、これができていれば人生は勝手に拓けていくんですよ。
私は「これを成し遂げよう」とか「これをやろう」と考えて事業をしたことはありませんし、数値目標を設定して、それを達成するためにがんばるといったこともしていません。
それよりも風に乗るというか、物事を大きくとらえて、自然な流れに乗っていく。それが神と共に歩むことだと思っています。そのおかげか、事業の方は創業して22年間右肩上がりで、利益を出し続けることができています。
――経営者としては、かなり珍しい経営方針ですね。
松島:そうかもしれません。具体的な数値目標を作って、中期計画、長期計画を立てて、という考えがもともとないんですよね。
――「神に与えられた使命を生きる」というお話が出ましたが、「使命」というものはどのようにして見つけるべきものなのでしょうか。本の中では「ワクワクする方に行きなさい」というようなことが書かれていましたが。
松島:ただワクワクすればいいというわけではなくて、「自分がそれをやることで世の中が永続的にいい方向に変わるか」という視点も大事です。
自分を例に出すなら、私は投資自体も好きなのですが、世の中に出回っている投資へのまちがった考え方を正したいという気持ちもあります。それは「ワクワク」とは少し違うものですが、おもしろいですし、これからもやっていきたい。
おそらく「使命」というのは、仕事と社会貢献と遊びが一体になったものなのだと思います。お金を稼げるし、やっていて楽しいから遊びでもあるし、人に喜ばれる社会貢献でもある。この3つの感覚があるのであれば、それは「使命」なんだと思います。
――それは見つけるのがなかなか難しそうです。
松島:ほとんどの人は、性格と才能と役割の真ん中に使命があるものなので、ある程度自然に行き着くものではあります。
本来の性格が内向的な人の使命が外交的だったら辛いでしょうが、外交的なことが使命として与えられた人は、使命のために外交的な性格が与えられているんですよ。
――「使命」という認識ではない人が多いはずですが、自分のやるべきことが見つからずに悩んでいる人にアドバイスをお願いします。
松島:あまりやるべきことや使命が、明確な職業の形であるとは思わないことです。もちろん、弁護士だとかバイオリニストだとか、明確に与えられている人もいるのですが、ほとんどの場合は、もっと漠然としたものです。
本の出版に携わりたい、といった場合を考えても、あてはまる職業はたくさんあるはずで、かならずしも作家や編集者である必要はありません。
使命というものは、人生の選択肢をすべてまちがえずに選択していくことではありません。
自分が神に愛されていることが分かり、神と共に人生を歩んでいる意識をもって生活していくこと自体が使命なのです。
――この本のなかで書かれている「才能が見つかる4つのタイプ別攻略法」は、使命を見つけるのに役立ちそうです。
松島:そうですね。今もお話したように、使命というのは方向性なので、たとえば就職の時に、どんな分野に進むか、どんな職種にするかといったことを考えるのに役立ててもらえればと思います。
――また、松島さんは聖書の教えの中でも「与えること」を大切にされています。私たちは他者にどんなものを与えればいいのでしょうか。
松島:与えるものはお金でもいいですし、時間でも構いません。人にアドバイスをしたり、教えたりすることも、与えることに含まれます。
本の中では、収入の10分の1を寄付に回すことを勧めていますが、自分の時間の10分の1を他人のために使う、ということでもいい。お金にこだわる必要はありません。
――最後になりますが、今回文庫化されて手に取りやすくなった本書の内容を踏まえて、充実した人生を送りたいと願う方々にメッセージをいただければと思います。
松島:世の中には、さまざまな成功法則がありますが、この本で書いた成功法則はそのなかでも一番ニュートラルなものだと思います。
この本が出たのは2010年なのですが、この本を読んで人生の成功見出せたという声を多くいただきました。ぜひ読んでいただいて、偏りのない、成功法則のど真ん中を知っていただければと思っています。