RAIL 人生には2本のレールが訪れる
著者:馬場 憲之
出版:ゴマブックス
価格:1,650円(税込)
著者:馬場 憲之
出版:ゴマブックス
価格:1,650円(税込)
自分の殻を破って、新しい一歩を踏み出したい。
何か大きなチャレンジをしたい。
誰もが「ワクワク」を感じる人生を送りたいと思う一方で、その「ワクワク」にはリスクも存在する。何か新しいことを始めるときには失敗がつきものであり、上手くいかないことも多い。だから、手を出せずにやり過ごしてしまうこともある。
だが、成功を手にした人たちはそれでも前に進んだ。「やる」という選択肢しかないのだから。
愛知県常滑市でワイナリーをはじめとした飲食業、観光農園業を展開する株式会社ブルーチップ代表取締役の馬場憲之氏は著書の中で次のようにつづる。
「40代で起業して、15年間でどうしてここまで来れたの?」「何か特別なコネや力があったのでは?」と聞かれることもありますが、特に変わった何かをしてきたわけではありません。何かを思いついたら「やる」ことを徹底的にしてきたのです。「やる」「やらない」で迷うことなんてありません。徹底的に「迷う前にやる」を徹底してきたのです。正確に言えばいつの間にか「自動的にやる」ようになっていました。(p.4-5より引用)
そんな馬場氏が上梓した『RAIL 人生には2本のレールが訪れる』(ゴマブックス刊)につづられているのは、これまでの半生とビジネス哲学だ。
1967年、長崎県出身。少年時代、夢中になったのは『白バイ野郎ジョン&パンチ』というアメリカのテレビドラマで、異国の都市の景色やカーチェイスのかっこよさ、魅力溢れる登場人物に魅了された。ここで心に植えられたアメリカへの思いは、その後の馬場氏の人生に大きく影響し、今に至るまで続く。
転機となったのは27歳のときだ。大学を卒業し、証券会社に入社したものの、時代はバブル崩壊直後。営業ノルマは厳しく、上手くいかない日々が続いた。そんなあるとき、営業でアフリカのアーティストたちの絵画を集めている顧客の家を訪れ、話を聞き、その生き様に感銘を受ける。
自分は結果も出せず、本気にもなれていない。こんな人生でいいのか――。
馬場氏の心は決まっていた。「アメリカ」を仕事にしたい。妻も「ちゃんとやりたいこと、見つけたら」と後押ししてくれた。次の一手を考えないまま会社を辞め、家族の健康問題にも見舞われた。それでもアメリカへの想いは諦めきれなかった。なんとかして仕事を見つけ、「アメリカ」と仕事をするという大きな一歩を踏み出した。人生は大きく変わろうとしていた。
しかし、順風満帆とはいかないのが人生だ。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件や2003年のSARSウイルス流行は、空港チケットの手続き代行会社で中心人物として勤務していた馬場氏の仕事に少なからず影響を与えた。さらに苦労を共にしてきたスタッフの裏切りに遭遇する。社内がガタガタの状況の中、馬場氏はチケットデリバリーサービスの事業を引き継ぐ形で独立し、「ブルーチップ」という会社を創業する。
前述の通り、現在は飲食業、観光農園業を事業として展開しているが、その中心がワイナリーレストランだ。
2008年、仕事でデトロイトに向かう飛行機の機内誌で偶然紹介されていたオレゴンのワイナリーに魅せられた馬場氏は、打ち合わせが終わるとすぐに現地に向かった。ワイナリーに漂う自由な空気とカルチャーに魅せられ、その余韻がいつまでも残った。そして、「日本でもできないだろうか」と考えた。
資金はない。クリアしなければいけない法律も多い。馬場氏が考えていたのは、ワイナリーとレストランがセットになった「ワイナリーレストラン」だが、そこには高い壁が立ちはだかっている。さらに、ぶどう栽培のチャレンジも1年に一度しかできない。それでも、馬場氏は着実に歩みを進めていた。壁を乗り越えたら、また新たな壁にぶつかる。そんなときでも真摯に学び、全力で実行すべき策を考えた。
問題に直面しては一つ一つ解決していき、自分の描いた世界を少しずつ形にしていく。馬場氏の言葉からは、自分の足で新たな道を一歩ずつ進んでいく実感とワクワク感が溢れてくる。2008年に始まったワイナリーレストランをめぐる冒険は、10年後の2018年に結実した。酒造免許を取得し、秋には初めてワインを醸造。「常滑ワイナリーネイバーフッド」をオープン。ゼロからのワイナリー立ち上げを、見事実現してみせたのだ。
また、馬場氏の熱量が伝わるエピソードが一つある。実は馬場氏はアルコールをほとんど受けつけない体質で、ワインの試飲会などでもグラスワイン半分弱程度の量しか飲めないのだという。そんな体質であってもワイナリーにこだわった理由が、アメリカで体験したワインをツールとしてコミュニケーションを膨らませるカルチャーだった。「自分の店で、新しいカルチャーに触れてほしい。そして何かのきっかけになれば」と馬場氏は述べる。
飲めなくても、情熱を持ってワイン造りに取り組むことができる。その中心にあるのが、アメリカのカルチャーを日本で広げたいという馬場氏の純粋な想いなのだ。
◇
馬場氏が自身の事業を軌道に乗せられたのは、まさに「能動的に動く」ということを実践してきたからだろう。動いたからこそ、成果が出る。それは時に失敗することもあるだろう。しかし、それを乗り越えれば失敗は些細なものになる。成功するまでチャレンジすることが大切だということを本書は教えてくれる。
「どんなに小さなことで構いません。やるのです」と馬場氏は読者に訴える。今までの自分を変えたい。そんな思いを持っている人にとって、馬場氏の言葉は大きなきっかけになるはずだ。
(新刊JP編集部)
■「本当にこのままでいいのか?」という人生から一念発起。転換点をどうやって作った?
馬場: 釈然としない人生の中で新しいことをしたいという思いと、小さな頃から憧れてきたアメリカのカルチャーを仕事にしたいという2つの思いを持ってやってきました。
「すごく努力されてきたでしょう?」と聞かれることもあります。ただ、自分としてはやりたいことをやっているだけなので、努力している感覚はないんですよね。
馬場: そうですね。ワイナリーの立ち上げはゼロからのスタートでしたが、真新しいことをやるわけではなく、アメリカで見たワイナリーの風景があっていかにそれに向かっていくかということだけでしたから、そこに向かってまい進してきたという感覚です。
馬場: 当時観ていたのは『白バイ野郎ジョン&パンチ』というカリフォルニアハイウェイパトロールのテレビドラマでした。青く抜けた空の下で悪いやつをやっつけるという内容でかっこいいのもあるんだけど、自由な空気が漂っているんですよね。それが憧れた理由の一つだと思います。
馬場: 僕が就職をするくらいのタイミングでちょうどバブルが弾けたんです。ただ、まだ浮かれた空気があって、卒業旅行でアメリカに行ったりもしましたし、就職した後もまた(旅行に)行けばいいと思っていたくらいなので、モヤモヤはなかったです。
ただ、就職してからは壁にぶつかって、本当にこれでいいのかとよく考えていました。今は会社を経営しているので、最終的な決定権は自分にあります。でも、当時はやらされている感じがすごくあったんです。もちろん、自分の中で整理して主体的に動くこともできたのかもしれませんが、まだ若かったところもあります。
ノルマが達成できなければ給料は下がるし、仕事柄、大人の事情を垣間見ることも多かった。しかもその事情すらクリアではないんですよね。そういうところで自分の中に落としどころが見つからず、釈然としない時間を送っていました。バブルが弾けたあとの空気感も息苦しかったですし。
馬場: そうです。自分が在籍していた証券会社に勤めていた女性にセールスに行ったんです。そこでアフリカのアーティストの話を一生懸命にされて、この人はキラキラしているなと思ったんです。僕はセールスに行くのも嫌だというスタンスだったし、モチベーションも全然なかったので、その人を見て自分が悲しくなりました。
馬場: 自分には根拠のない自信がありました。それはおそらく自分がバブル時代の空気を経験していたからなのだろうと思います。
バブル当時はみんな浮かれていて、一万円札をぶら下げてタクシーを止めていたような時代です。なにやっても成功できるという風潮があって、その空気にすごく影響を受けていたので、リスクはあまり考えなかったですね。
馬場: スタートアップでは自分が主体的に動ける環境だったので幸せでした。自分たちで決められて、スタッフみんなでコンセンサスを取って前に進めるという環境はまったくストレスがなかったです。
もちろん、責任も自分で取らないといけないのですが、そちらの方がやりがいはありました。
馬場: ブルーチップを創業する2年ほど前に、いちご農家を取り上げたドキュメンタリー番組を見たんですね。それで農業に興味を持ちまして、さっそくいちご農家に弟子入りをさせていただいたんです。1年半くらいそこで修業をしまして、観光農園の可能性について実感することができた。
また、農業をするには条件が必要です。その条件の1つが「認定農業者(都道府県が認定している農業者)のもとで、一定期間働くこと」なんですが、その修業を通して農業資格を手にすることができました。
実は「いちご」にこだわった理由もアメリカにあるんです。ロサンゼルス近郊にあるナッツ・ベリー・ファームというテーマパークはもともといちご農園からスタートしていて、ロスというといちご農園のイメージが強いんです。ロスで朝ごはんを食べると必ずいちごジャムが出てきます。
馬場: そうですね。アメリカのオレゴン州のワイナリーに影響を受けて、これを日本でもできないかと考えたのがきっかけです。
馬場: 勝算は100%です。アメリカでワイナリーレストランを見て、そこにあるものをそのまま日本でつくればいいのですから、そこに壁があるとは思っていなかったですね。ただ、実際に始めてみると壁だらけだったのですが(笑)。
まず、ワインの原材料となるブドウも、ワイン用と生食用で違うんです。そのワイン用のブドウの苗が手に入らない。そこからです。
馬場: ただとにかく今できることを考えて、やってみる。その連続ですね。実際に国内のワイナリーに話を聞きに行って、さらに1か月そこで草刈要員として滞在したりもしました。八方ふさがりのようでも道は必ずあるはずで、それを考え抜くことが大切です。
ワイナリーレストランはすでに存在しているものですから、できるだろうという確信はありました。
馬場: よく聞かれるんですけど、自分でも分からないんですよね(笑)。むしろ、なぜみんなそんなに心配するんだろうと思います。
馬場: アドバイスというか、「君は未来に悪いことが起こると思って生きているの?」と伝えたいですね。未来のことは誰にも分からないし、今、全力で目の前のことをやれば未来が明るくなるのは当然の話だと思います。
■「どんなレールの上を行くにしても、それはあなた自身が選択すること」
馬場: 農地にレストランをつくってはいけないという法律があったので、その部分をどうやってクリアしていったかということもこの本に書かせていただきました。詳しくは読んでいただければと思うのですが、ちょうど2015年に僕たちのワイナリーがある愛知県全体が国家戦略特別区域に指定され、ブルーチップファームの農家レストランも無事に国家戦略特区における認定事業になりました。その意味でもすごく運が良かったと思います。
馬場: そうですね。農家レストランをつくりたい。ワイナリーレストランをつくりたい。その夢をいろんなところで語ってきました。それが愛知県庁の方の耳に届いて、わざわざ話を聞きに来てくださったりして、「国家戦略特区」という道があることを教えてくださったわけですから、思いは言葉にしないと伝わらないんですよね。
馬場: 発信していれば、誰かしらがご縁をつないでくださることを実感しています。
馬場: そうなんです、実は僕はお酒がほとんど飲めません。仕事柄、試飲会などで飲む機会はあるのですが、ワイングラス半分弱くらいにとどめています。そんな自分がなぜワイナリーを、と思った方もいるでしょう。
アメリカには自分の意見をはっきり言い、相手の意見を聞くディスカッションの文化があります。そして、そのコミュニケーションのツールの一つしてワインがあり、アルコールがあるんです。文化とワインや食が密接に結びついている。そうしたアメリカンなカルチャーを表現したいという思いがありましたし、ぜひ僕らの店でそれに触れてほしいと思っています。
馬場: まだまだ“on the way”です。ただ、以前ならばできなかったようなこと、たとえば本を執筆するということもそうですけど、それができるようになったという点ではビジネスのステージが上がっていることを実感します。
それでも自分が思い描いているゴールにはまったく到達していません。ワイナリーにたくさんの方が来て、そこで幸せな時間を過ごしてもらう。毎日満席でオーバーフローしている状態が1、2年は続かないと自分の中で納得はできません。
馬場: もっとできることがあると常に思っています。たとえば、今日50万円売上が上がったとして、それで「良かったね」ではなくて、もう少し頑張ったら60万円いったんじゃないかと考えるわけです。そうやって、何かできることを探します。
ただ、これも体力がないとできないことだと最近思うようになりました。
馬場: 僕は今56歳なのですが、たとえば10年後に同じモチベーションでいられるか、ということですね。年齢とともに体は衰えていきますから。だから体力には気を使うようにしています。体力の上にメンタリティが乗っていると思っているので。
馬場: 早寝早起きです。朝5時半に起きて、日の出とともにランニングをしています。走っていると頭がクリアになって、スイッチが入ります。夜は22時になるともう眠くなりますね。睡眠時間は7時間半から8時間しっかり取ります。
そのおかげか、年齢を重ねていくにつれて、バイタリティもどんどん上がっています(笑)。20代のときよりも40代のときの方が体力はありました。“Age is just a number.”ですよ。ただ先ほど言ったように、これから先さらに年を取るなかで、体力が落ちてくることもあるのかもしれないとは思います。
馬場: 無理に生きるレールを変えなくてもいいのではないでしょうか。今のレールだけで生きていくことも一つの人生です。ただ、新しい人生を踏み出して、明るい未来を歩みたいと思っているのであれば、新しいレールを敷くことが必要です。
「誰かに決められたレール」に乗るのも悪いことではありません。たとえば親の会社を継がなければいけないという状況も、不幸せかといったら必ずしもそうではないでしょう。そういう生き方もあります。
結局どんなレールの上を行くにしても、それはあなた自身が選択することです。もし、今乗っているレールが不本意ならば、それに抗うこともできるはずです。だから、どのレールの上に乗るかは自分自身でしっかり決めてほしいですね。
馬場: この本をきっかけに仲間が増えることを期待しています。新しいカルチャーを生み出して、多くの方に幸せを届ける場所をつくるには、仲間がたくさん必要です。これから事業をさらに拡張していきたいと考えているので、僕たちの仲間に加わりたいと思ったらぜひ手をあげてほしいですね。
また、今後は海外にも事業を拡大していきたいと考えています。働いている人たちがわくわくするような会社をつくりたいと思うと、やはり仲間が必要ですし、事業の拡張もそうですし、海外にも目を向けたカルチャーをしっかり作っていくことも大事になります。やることはたくさんありますが、自分たちの未来に期待しかありません。
馬場: 転職組が多いです。もともとやっていた仕事に釈然とせず、自分の道を歩みたいという思いで入ってきたスタッフも多くいます。また、農業と向き合って野菜や果物を育てたいという強い意志を持って入ってきたスタッフもいますね。
馬場: そうですね。結局、自由じゃないとつまらないですから。そうした自由な空気の中で能力を発揮してもらえたら嬉しいです。
馬場: 今の生活に釈然としていなくて、やりたいことがあるという人にはぜひ読んでほしいです。また、目標が見つからなかったり、夢を持っていないという人にとっても何かヒントになるかもしれません。
一緒に夢を見ながら仕事をしてくれる仲間を増やしたいと思っています。もし興味を持ったら、ぜひInstagramでDMをください(笑)。
(了)
■馬場憲之さんInstagram
https://www.instagram.com/bluechip_co_ltd/
馬場 憲之(ばば・のりゆき)
株式会社ブルーチップ代表、ワイン醸造家
1967年生まれ。長崎県佐世保市出身。
大学卒業後に証券会社に就職するが、幼少期からのアメリカン・カルチャーへの憧れもあり、渡米しフリーの旅行添乗員として働き始める。帰国後、空港関連業務会社の立ち上げに参加するが、アメリカ同時多発テロなどの影響により独立し、現在のブルーチップを立ち上げる。その後、アメリカのオレゴン州で体験したキングエステートワイナリーに触発され、日本でワイナリーを作ることを決意。愛知県常滑市にて何もないところからぶどう栽培、ワイン醸造を手探りで始め、農地法などの困難な壁にぶつかりながらも、「常滑ワイナリー ネイバーフッド」、農家レストラン「サンセットウォーカーヒル」、名古屋市にワインレストラン「commone」などをオープンさせる。
著者:馬場 憲之
出版:ゴマブックス
価格:1,650円(税込)