今、求められる「力」とは? 新時代のリーダー論
新時代のリーダーに必要な12のチカラ

新時代のリーダーに必要な12のチカラ

著者:深澤 哲洋
出版:幻冬舎
価格:1,650円(税込)

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本書の解説

一時代前のリーダー像といえば、チームの先頭に立ってメンバーを引っ張る司令塔であり、絶対的な力を持っていて、近寄れない雰囲気すら身に纏っている。そんなイメージだったのではないだろうか。

しかし、価値観は変わり、ビジネスの現場では生産性が重要視されるようになった。そこでは、リーダーからメンバーへの一方的なコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションや、メンバーの心理的安全性などが必須と言われる。

では、そんな現在において、リーダーに求められる力とは何か。
27歳まで音楽活動をするも夢に敗れ、28歳でイベントの企画・制作・プロデュースを手掛けるサンコミュニケーションズに入社。その約10年後に社長となった深澤哲洋氏による新時代のリーダー論が書かれているのが『新時代のリーダーに必要な12のチカラ』(幻冬舎刊)である。

本書では、「キャラ系」「スキル系」「トライ系」という3つの系統に分けて、合計12の「チカラ」を説明。一体どんな力が求められているのだろうか。

リーダーはキャラクターありき!「キャラ系〇〇力」

まずは「キャラ系」だが、ここでは「いじられ力」「頼まれ力」「平和力」「主役力」の4つの力がピックアップされている。

例えば「いじられ力」はこれまでのリーダー像とは一線を画す概念で、「接しやすさ」や「話しやすさ」につながる。普通に考えるなら、自分の上に立つ人を気軽に「いじる」なんてできないだろう。しかし、そこに信頼関係があり、「いじってもよい」と思わせる心の広さがリーダー自身にあることを認識してもらえば、そのコミュニケーションは成立する。

キャラクター系の力には接しやすさや心の大らかさが求められる。敵味方をつくらず、より多くの人と関わるために必要なのが「平和力」だ。嫌なことを言われたりしても、相手に近づいてその人の本心を理解しようと心がける。そうすることで、だんだんと自分の周囲に人が寄ってくるようになり、その結果、良いリーダーとして自分が成長することができるのだ。

リーダーなら習得すべき「スキル系〇〇力」

続いての「スキル系」には、「ハッタリ力」「采配力」「言語化力」の3つがある。

「ハッタリ力」とは、ビジネスをする上で相手を不安にさせないスキルだ。依頼されたプロジェクトに対して「これはやったことがないから…」などと弱気なことを言うと、相手は不安になる。もし自分にとって経験のないチャレンジだったとしても「お任せください」と自信満々にハッタリをかます。ビジネスで勝つために必須の力と言えよう。

また、「采配力」はチームビルディングにおけるリーダーの役割を説いている。ここで深澤氏はリーダーに必要な五カ条として、「1,指針を貫くこと」「2.モチベーションをコントロールすること」「3.スケジュールを管理すること」「4.予算をマネジメントすること」「5.最終的に責任を持つこと」という普遍的な考え方をつづる。リーダーに求められる基本の力と言えるだろう。

チャレンジ精神で変わることのできる「トライ系〇〇力」

最後の「トライ系」には「やめない力」「お任せ力」「感謝力」「傾聴力」「寄り添い力」の5つの力がある。

いずれもリーダーたる自分自身が持つべき姿勢に関わる力だ。例えば「感謝力」では、仕事をするうえで感謝の気持ちを忘れないということがつづられている。さらにその感謝の気持ちを相手に伝えることが大事だ。本書ではLINEのメッセージでの伝え方や、DXで仕組み化した深澤氏の会社の例があげられている。

「傾聴力」はいわば上司として部下とどう向き合うかという点で必要な「聞くこと」の重要性を訴えている。とにかく上司やリーダーは「聞き手」に回り、部下の話を聞く。そして部下が何を考え、何に困っているのかを知る。そこには部下へのリスペクトも欠かせない。部下はそうした姿勢で接してくれる上司やリーダーに信頼を覚えるのだ。



本書はこれからリーダーになろうとしている「リーダー候補生」から、すでにリーダーとなっている人まで幅広く読んでほしい一冊。深澤氏の経験を交えながら、これからの時代の普遍的なリーダー像を読者に提示してくれる。

他にも深澤氏が身を置くイベント業界ならではのエピソードも豊富だ。本書を通してリーダーとして大切にすべきものを改めて教わることができるだろう。

インタビュー

■これからのリーダーは部下を「褒めて伸ばす」

まずは本書を執筆したきっかけをお聞かせください。

深澤: 僕はイベントの企画、制作、プロモーションを行うサンコミュニケーションズという会社を経営しています。ですが、実はもともとは27歳まで音楽活動をしていて、今の会社に入ったのは28歳のとき。それが初めての就職でした。それから10年勤めて、5年前に前社長が体調を崩されたこともあって社長に抜擢されました。

それが結構急な話で、どうしたら社員をまとめていけるのかと考えたんです。そこで始めたのが、社員向けのコラムを書くことでした。こういう風に今の会社を考えている、次はこういうことに挑戦したい、あるいは業界の情報などを毎日発信していたのですが、やっぱり最初はあんまり読んでもらえなかったんですよね(苦笑)。ただ、やり続けることでだんだんと反応が出てきて「本にしないんですか?」と言われたり、自分もより長い文章が書けるようになり内容も充実するようになったので、本としてまとめたいと思ったのが、執筆のきっかけです。

今、ご経歴のお話をされましたが、28歳のときに新卒同然の状態で就職されて、それから10年後に社長というスピード感は驚きます。もともと深澤さんにはリーダーシップがあったということでしょうか。

深澤: 会社に入ったときはゼロの状態だった自分がなぜ社長になれたのかということを考えてみると、理由は1つだけではないと思っています。たとえば、この本に書いたものでいえば「やめない力」ですね。28歳で会社に入ってからやめずにやってきたからこそ、自然と上にたどり着いたというところはあると思います。

また、自分を社長に抜擢した創業者、今の会長には「君は組織論を持っているから社長に指名した」と言われました。弊社のプロデューサーはみな優秀で、クリエイティブの世界で能力をしっかり発揮しています。スポーツで言うならエースストライカーであったり、ホームランバッターですね。一方で僕はプレイヤーとして力を発揮するよりは、全体をまとめるコーチや監督タイプです。そういう背景もあって、リーダーにもともと向いていたということもあると思います。

では、昔からリーダー的なポジションにいることが多かった。

深澤: そうですね。振り返ってみると、子どもの頃から今に至るまでリーダー的な役割を結構やってきているんです。それはなぜだろうと思って、その答えを探すためにこの本を書いたところはあって、ここに書いた12の力が自分にあったということが分かりました。

会長から「君は組織論を持っている」と言われたとおっしゃいましたが、ご自身ではそういう感覚はありましたか?

深澤: もともと人を育成することは得意だと感じていました。自分が個人で結果を出すよりも、人を育ててその人に結果を出してもらうほうがモチベーションは高いですし、自分自身の仕事も結果的に楽になりますからね。

本書では「キャラ系」「スキル系」「トライ系」という3つの系統に分けて、リーダーに必要な12の「力」を紹介しています。まずは「キャラ系」ですが、一時代前の引っ張るタイプのリーダー像から、今は調和型のリーダー像に理想像が変化しているように感じます。その変化について深澤さんはどのようにお考えですか?

深澤: そうですね。僕自身は引っ張るタイプのリーダーのもとで仕事を学んできて、だいぶ厳しい環境にも身を置きました。ただ、今はそうしても部下がついて来ないんですよね。自分自身も引っ張られるタイプのマネジメントは合わなかったと感じていますし、今はそうした経験を反面教師にしている部分もあります。

「調和」という言葉はまさにぴったりで、僕はよく「潤滑油だよね」と言われることがあるんです。周囲と調和をしながら、みんなで成果を出していく。そういうリーダー像を自分なりに模索してきました。

おそらく深澤さんは人の能力を引き出すことに長けているのではないかと思います。これは部下の育成において重要なスキルだと思いますが、社長として社員と接するときに意識されていることはありますか?

深澤: 部下の育成においては、その部下の良いところを常に見るようにしています。その人が新人ならできないのは当たり前です。その中で光る部分を探して、「ここは才能があるよね」「ここはスキルがあるね」と褒めて良いところを伸ばしていき、強みにしていく。そちらの方が短所を無理に改善するよりも成長が早いように思うんです。

それにモチベーションの管理も大切です。ちょっとでも成果を出したり、貢献をしてくれたら褒める。「君のおかげだよ」と伝える。これを意識的にやっていると、みんな頑張ってくれるんですよね。

まさに褒めて伸ばすタイプですね。社員がチャレンジしやすい環境をつくっているような意識でしょうか。

深澤: そうですね。本の中でも「お任せ力」という項目が出てきますが、まだ早いかなと思うことでも、任せてみると意外に力を発揮したりしますし、逆に任せないと全然成長しません。

僕自身、28歳で未経験だった自分に先輩はどんどん挑戦させてくれました。そうせざるを得ない状況もあったのですが、2年目から何億円規模の仕事を任せてくれたりして、プレッシャーの中で成長できたという実感があるので、後輩にもそうしてあげたいという思いがあります。

「スキル系」では「ハッタリ力」や「采配力」「言語化力」といった、学んで身に付く力が紹介されています。こうしたスキル系の力を身につけていくうえで必要なことは何だと思いますか?

深澤: 繰り返しやって習慣化することが大事だと思います。先ほど僕が社長になって社員たちにコラムを書いていたとお伝えしましたが、実は文章を書くのは苦手で、それを克服するためにやっていたというのも理由の一つなんです。

それを続けてきて、こうして本を出せるまでになったわけですから、「継続は力なり」なのだと思います。だから、今の若い世代に伝えたいこととしては、とにかくいろいろ繰り返してやってみてほしいですね。習慣化できる力は特別なものではないですから。

■リーダーに向いている人の特徴とは?

3つ目の力である「トライ系」の「やめない力」「お任せ力」については、どうしても失敗がつきものですよね。その失敗との向き合い方についてはいかがでしょうか。

深澤: うまくいかないことや続かないことを周囲の環境や他人のせいにしないことが大切です。たとえば「お任せ力」だと、部下に任せたけれど失敗した。それを部下のせいにするのではなく、自分のフォローが足りなかったなど、自分の責任だと考えるんです。

任せた仕事を部下が失敗してもそれは上司の責任です。任せるのが早かった、能力が足りていなかったと部下の責任にせず、自責思考になることが大事なことだと思っています。

「傾聴力」を含めてリーダーは我慢をする力が必要にも思えます。

深澤: おっしゃる通りで、僕も我慢の日々みたいなところはありますし、会社でそれぞれのユニットのリーダーを任されている人たちも苦労している様子がうかがえます。ただ、自分についてこいというリーダーシップだと上手くいかないということも分かっているので、そこは我慢ですね。

「リーダーの育成」という点については、特別に何か声掛けをしているということはあるのですか?

深澤: 本の中で「エンパワーメント」と表現しているのですが、リーダーに権限や裁量をかなり委譲しています。そして、その部下たちはリーダーの指示に従うようにしているので、リーダーの考えを尊重して会社が動くようになっています。もちろん、売上の目標であったり、大きなルールは上で決めますが。また、リーダーに権限を委譲するぶん、対話を十分にするように心がけています。

深澤さんご自身で本書の12の力の中で一番得意なものはなんですか?

深澤: 「采配力」は得意だと思います。昔、レストランのアルバイトでバイトリーダーをしていたことがあって、10箇所くらいのポジションをまとめていたのですが、誰をどのポジションに配置してどう動かせば、手際よく料理をお客様に出せるかということを常に考えていたりしました。

この経験は会社に入ってからも、イベントのスタッフのオペレーションを考えることに活きましたし、会社経営においても役に立っています。常に俯瞰して全体を見ながら、足りないところをフォローしたり、人員配置を考えたりしていますね。

深澤さんが考えるリーダーに向いている人の特徴について教えてください。

深澤: 先ほどの回答と重複しますが、自責思考の人はリーダーに向いていると思います。あとは「寄添い力」ではないですが、人に寄り添えて、良いところを見つけてあげられる人もリーダーの資質を兼ね揃えていると思いますね。また、周囲に気配りができるということも大事かもしれません。

これまでの先頭に立って我が道を行くリーダー像とは真逆のように思えますが、自分なりのリーダー像というのは今お話ししたようなことができる人のことです。もちろん推進力や突破力も必要で、自分もすべてのことをみんなと考えながら決めているわけではないのですが、部下や社員には寄り添う姿勢を見せるほうがいいと思いますね。

また、「いじられ力」も大事だと思っていて、接しやすさや相談しやすさがあった方が、何か問題が起きたときも早めにキャッチしやすくなります。

接しやすさを出すために、意識的にやっていることはありますか?

深澤: 意識していることは、相手が誰であってもあまり呼び捨てにしないことですね。また、自分より年齢が上の人には社員であっても敬語を使うようにしていて、立場が上だからといって高圧的な態度をとらないように気を付けています。

本書はこれからリーダーを目指す人も読まれると思います。リーダーを目指すうえで、最初に身につけるべきおすすめの力を教えてください。

深澤: 簡単なところで身近なものとしては「感謝力」ですね。当たり前のことなのでわざわざ書かなくてもいいのかもしれませんが、それでもやはり感謝をする気持ちは大事です。感謝を伝えていれば相手からも嫌われないでしょうし、逆に感謝されることもあります。日々の小さな感謝を忘れないようにする。それは誰でもできることです。

感謝力が高まると自分にとって良いことがたくさん起こりそうですね。

深澤: そうです。感謝することで喜びが増えたり、ポジティブになれたり、ストレスが軽減するといったこともありますし、人間関係が良くなって仕事が楽しくなったりもしますよね。

部下側からしても、上司から「ありがとう」と言われるだけで気持ちがだいぶ違うと思います。その点でも、自分は感謝を伝えることを意識してやっていますね。

最後に、本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

深澤: もちろんリーダーとして頑張っている方々もそうなんですが、これからリーダーを目指す若い方や、リーダーになったけれど上手くいかずに悩んでいる方にもぜひ読んでほしいです。良いリーダーになるために必要なことを書かせていただいたので、参考にしてもらえると嬉しいです。

(了)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 第1のチカラ
    キャラ系◯◯力 〜人を惹きつけるリーダーの魅力〜
  3.  いじられ力
  4.  頼まれ力
  5.  平和力
  6.  主役力
  7. 第2のチカラ
    スキル系◯◯力 〜リーダーは人を納得させる〜
  8.  ハッタリ力
  9.  采配力
  10.  言語化力
  11. 第3のチカラ
    トライ系◯◯力 〜努力でリーダーになれる〜
  12.  やめない力
  13.  お任せ力
  14.  感謝力
  15.  傾聴力
  16.  寄添い力
  17. あとがき

プロフィール

深澤 哲洋(ふかさわ・てつひろ)
深澤 哲洋(ふかさわ・てつひろ)

深澤 哲洋(ふかさわ・てつひろ)

1978 年5月3日、東京都小金井市に、男3人兄弟の次男として生まれる。
趣味・特技は料理と音楽、現在は3人の娘の父親。
小中学校は地元の公立、その後慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学経済学部を卒業。大学卒業後は学生時代のバンドメンバーと音楽の道でプロを目指し、CD2枚をリリースしインディーズデビュー。その後、27 歳でバンドを解散し、2006年に現在の会社、株式会社サンコミュニケーションズに中途で入社。
入社後は、スポーツや企業、行政などさまざまなイベントプランニング・プロデュースを経験し、2018 年39 歳で社長に就任。会社経営の傍ら、プロモーション、イベントプランニング・プロデュース、吉本芸人ダイノジのYouTube プロデューサー、Voicyパーソナリティ、そして新たなビジネスや事業にも挑戦を続けている。

新時代のリーダーに必要な12のチカラ

新時代のリーダーに必要な12のチカラ

著者:深澤 哲洋
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