推してみて
著者:ナカムラ エム
出版:幻冬舎
価格:1,650円(税込)
著者:ナカムラ エム
出版:幻冬舎
価格:1,650円(税込)
近年、すっかり定着した「推し」という言葉。
「推し」ができれば、つらいこと続きだった人生に彩りが生まれる。
そこから世界は思わぬ勢いで広がっていき、いつもの景色からいろんなことが発見できる。
『推してみて』(幻冬舎刊)はそんな「推し」ができたことによって毎日が変わる様子を描いたエッセイである。
著者のナカムラエムさんは勤務していた会社で室長による陰湿なハラスメントに悩まされていた。相談窓口に訴えても、部長に話しても、状況は変わらない。そんなときに寄り添ってくれたのが杏子さんだった。
そして杏子さんの存在はナカムラさんの「推し活」を後押しする。
ナカムラさんは杏子さんの家をまねして、テレビを買い換えることに。そして、ネットに接続し、動画配信サービスで見つけたのがドラマ版『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(『チェリまほ』)だった。それから映画を楽しみにし、コミックを買い、どっぷりと『チェリまほ』に浸かり、まさに「思わぬ勢いで」世界は広がっていった。
この『推してみて』には、さまざまなナカムラさんの『推し』が登場し、語られている。その中でもひときわ愛を注いでいるのが「BL」だ。
「BL」にときめく理由について、ナカムラさんは「相手にどう受け取られるか、わからないだけに、なかなか言えなかったりして、思いが募るせつなさ」(p.44より)だとつづり、「もうあほと言われようが、きしょいと言われようが、かまいません。私はBLが大好きです」(p.58より)と宣言する。
世の中の出来事、誕生日を迎えたあとに役所から届いた封書、デパートに行ったことなど、日常のちょっとした話も織り交ぜられているが、そうした話の先にはしっかりと「推し」がいる。
しかし、「推し」に傾倒しすぎる自分に注意を払うこともあるという。
推しがあると、毎日アンテナ張っているから、楽しいしどんどん興味が広がっていきます。ちなみに私はBLに傾き過ぎの調整と言ったら失礼かと思うのですが、『闇金ウシジマくん』を観ます。(p.42より)
自分の中でバランスを持ちつつ、好きなものに愛を注ぐ。これがナカムラさん流の「推し方」なのだろう。
◇
ナカムラさんは1958年生まれの65歳。「推し活」に本格的にはまったのはここ数年のことだ。パワハラを乗り越えて、本当の友情を見つけ、「推し」を見つけ、ナカムラさんの人生が大きく変わっていく様子が本書ではうかがえる。
もし、毎日の生活に停滞を感じているのであれば、試しに何かを推してみてはどうだろう。対象は人でも創作物でもなんでもいい。その対象への愛で心は満たされる。
「推しはきっと思わぬところにあなたを連れて行ってくれますよ」――「推し」の存在によって毎日が彩りあふれるものになったナカムラさんの言葉は、説得力がある。
(新刊JP編集部)
■好きなものを見つけて楽しむコツは「健康」から
ナカムラ: はい、実は以前に一度、自作の小説を応募したことがありました。それが最終審査まで残りまして、書籍化の話も持ち上がったのですが、そのときあまり余裕がなくてお断りさせていただいたんです。もう15年くらい前のことですね。
だから、書くということに慣れていたほどではないのですが、本当はそういう仕事がしたかったという経緯があります。
ナカムラ: 自分はこれまで何かを「推す」ということをしてこなかったんですけど、好きなものを推してみたら、そこから世界がすごく広がりました。だから、皆さんにも自分がいいなと思うものは推してみて。世界が変わるよという気持ちでつけました。
ナカムラ: そうですね。
ナカムラ: この本にも書かせていただいていますが、私は職場でパワハラを受けていたんです。それがひと段落して、体調的にも少し戻ってきた頃に「推し活」をはじめました。
心の中に一つ何か楽しみを持っていると、それを思い出すだけで笑顔になるというか、楽しくなるようになりましたね。
ナカムラ: そうですね。それに自分の好きなもの、興味のあるものに関係あるものの情報も入ってくるようになるじゃないですか。そうすると、また新たな世界が広がって、「この映画観に行きたいな」とか「この本読みたいな」となるわけですよね。
それまでは仕事以外も、子育てとかあったりしたし、45歳で離婚したのですが、お金のゆとりもあまりなかったので、好きなものがあっても自由に楽しむことができませんでしたから。
ナカムラ: この4月に仕事を辞めて、その後少しは働くつもりだったのですが、まったく働く気にならなかったんです。それで子どもたちに「お母さん、もう働くのが嫌になっちゃった」って言ったら、「大丈夫だよ、働かなくていいじゃん」と言ってくれて。「ごはん食べるときはうちにおいで」と。
ナカムラ: そうですね。そのときはラッキーと思っていました(笑)。
ナカムラ: 最初は小さなことでいいと思います。思い出したら笑ってしまうくらいの小さなことを心の中に持っていると、それが広がって好きなものを見つけるレーダーになるんじゃないかなと。
あとは、その時の健康状態にも左右しますよね。健康じゃないと「好きなものを楽しもう!」という風に気持ちが向かないように思うんです。私がパワハラされていたときは、整体師の先生にも「すごくひどかった」と言われるような精神状態で、何事も楽しむ余裕もありませんでした。
当時、毎日ノートにそのときのことを書いていたんですけど、今からするとあのノートは開きたくないですね。怖いから。でも、書くことで自分自身の状況を眺められるところはありました。
ナカムラ: 好きなものが新たな好きなものをどんどん引き寄せていくような感じです。本を読んでいて、「あれ、これはどういうことなんだろう?」と興味を持って、新たな世界に手を出すような。
だから好奇心を持ったら、ちょっと突き詰めて調べてみる。そうするとどんどんつながっていくんですよね。
ナカムラ: はい、そうです。私もすぐに調べるようになりました。
■「文化を愛でる心」が人間関係をもっと良くする
ナカムラ: そうですね。コロナ禍になって家にいる時間が増えたので、テレビをインターネットと接続して動画配信サービスを観られるようにしました。それに読書量もかなり増えましたね。週に3、4冊は本を読むし、映画も観るし。
また、その前に断捨離をしたんです。家の内装をきれいにしたり、いらないものを捨てたりして、やることをやってから、エンタメ方向に行った感じですね。
ナカムラ: コロナ禍に自分を見つめ直す時間を取れた人って結構多かったんじゃないかなと思います。
ただ、私からすると孫の世代、小学生や中学生くらいの子どもたちにとっては、ちょっと大変だったんじゃないかなとも思います。活動範囲が広がる時期に、外に出てはいけないと言われてしまって。
ナカムラ: 今って、ハラスメントにしても、コンプライアンスにしても厳しくなっていて、何か発言するだけでも「これは良いだろうか」と考えてしまうことってありますよね。私はお客様と接する仕事をしていましたが、すごく厳しくなった印象があります。
ただ、そういう中でもう少し自由があってもいいじゃないか。規則で縛りつけるだけではなくて、もう少し愛があってもいいんじゃないかということを、エッセイを通じて言いたかったんです。何もかもがダメって言って規制すると、だんだん人間らしさが失われていくような気がして。
ナカムラ: 私、いじめの問題についても興味があって、先日もテレビでいじめの対策について放送していましたけど、やはり何十人といる学校のクラスの中でそういうことが起こってしまって、そうしたときに周囲の人たちが「それは違うんじゃないの」と言えるような目がないといけないと思うんです。ただ、一方でそうしたいじめの芽を摘むのは大変だということも分かっています。
話が逸れてしまってすみません。こういう風にどんどん多方面に広がっていくんですよね。それは好きなものについても同じで。
ナカムラ: そうなんですよね。世の中はいろいろなことがつながっていますから、興味を持つ心があれば、どんどん世界が広がっていきます。
ナカムラ: 若い方で今仕事に行き詰っている人にぜひ読んでほしいです。
ナカムラ: この本の帯に「私たち、ホモ・サピエンスだけが、文化を愛でた」と書いてあるのですが、実はもともとの文章はもっとキラキラしたものだったんです。楽しいものをみつけると、人生がキラキラしてくるというような。ただ、それだと読む人が限定されてしまうんじゃないかと思って、変えてもらいました。
この本の最後でも書いていますが、文化をつくったのはホモ・サピエンスである私たちだけなんだそうです。その文化を愛でることで心の中に少しあたたかい愛が芽生えたら、人間関係ももっと良くなるんじゃないかと思うんですね。
ナカムラ: そうですね。「エンタメは心の栄養」と書きましたが、その栄養をぜひとってほしいです。
(了)
ナカムラ エム(なかむら・えむ)
1958 年、横浜生まれで、静岡育ちです。独身時代はアパレル業界、その後は保険会社勤務。趣味はバレエ、BL、読書、これを機にいろんな事を発信していけたら幸せです。
著者:ナカムラ エム
出版:幻冬舎
価格:1,650円(税込)