とらおさんと犬のお話
著者:Kumpoo
出版:幻冬舎
価格:1,320円(税込)
著者:Kumpoo
出版:幻冬舎
価格:1,320円(税込)
狩猟のパートナーとして、そしてペットとして、1万年以上前から人間と生活を共にしてきたのが犬という動物だ。
飼い主に恵まれて幸せな一生を送れる犬がいる一方で、飼い主が亡くなったことで犬が残されてしまうケースもある。そして一部のブリーダーやペットショップ、そして飼い主から放棄されてしまう犬もいる。『とらおさんと犬のお話』(Kumpoo著、幻冬舎刊)によると、こうした「無責任な人々」はコロナ禍で一気に増えたという。
本書ではこうした不幸な犬たちのために新たな家族を探す活動をしている「とらおさん」と保護された犬たちに光を当てる写真絵本。傷ついた犬たちと生き物を愛する人々の心の交流が描かれている。
とらおさんのもとで、たくさんの犬たちが新しい飼い主が見つかるのを待っている。ただ、新しい飼い主が見つかりやすい犬もいれば、そうでない犬もいるのが現実だ。
生まれてすぐペットショップに「売り物にならない」ということで放棄された子犬の「ファンキー」はまだ0歳4か月。愛らしい見た目の「ラムネ」もまだ子犬だ。まだ小さい犬の方が、里親が見つかりやすい。
保護されてすぐに里親に引き取られていく犬と、それを見送り続ける犬。これまで何匹もの仲間を見送ってきた元繁殖犬の「マム」や、山でやせ細っているところを保護された「ドングリ」は、なかなか飼い主が見つからない。
ファンキーは、あたしと違って若くてかわいいわ。すぐ卒業するでしょうね。
こんなことを考えているのだろうか、マムの表情は少し寂しそう。本書には飼い主に引き取られていくファンキーを「あたしは大人だからさ。寂しくないし」と見送るマムの印象的なカットが収められている。マムは年老いた自分を迎え入れる飼い主などいないことがわかっているのだ。
しかし、ある日とらおさんが「マム、卒業よ!!」と告げた。マムは信じられない思いだったが、そこには「マムがいいの。マムがいるだけで、私たちは幸せになれるの」と言う女性が迎えにきていた。ほどなく「ドングリ」にも、「私たちの家族になってほしい」という申し出が。
「ぼくみたいな仲間が、たくさん増えるといいな」と考えるドングリのカットで物語は結ばれる。そこからは彼らのような幸運に恵まれない犬も少なくないことがうかがえる。
欧米では当たり前の保護犬を飼うということは、日本においてはまだこれからです。(本書あとがきより)
犬たちの愛らしい表情に癒されるとともに、彼らを取り巻く環境の厳しさにも思いをはせずにいられない一冊だ。
(新刊JP編集部)
■保護された捨て犬のその後は…
Kumpoo: 最初の作品で保護犬をテーマにしたいと決めていたわけではないのですが、もともとずっと犬を飼っている身として、今の保護犬を巡る報道に疑問を持っていたというのはあります。
Kumpoo: 捨てられた犬が保健所に引き取られて殺処分される、それを何とか救いましょう、とか悲惨なパターンが多く伝えられているじゃないですか。
Kumpoo: そうなると、「捨てられた犬」というトピックが、そもそも慈悲心が強い人にしか刺さらないと思うんです。言い換えるなら、一般の人にとって「捨てられて保護された犬を飼う」という行為がすごくハードルが高く感じられてしまう。
捨てられて殺処分というケースは、今は愛護団体や自治体の努力でかなり減っています。大変な努力だと思います。具体的には自治体に引き取られた犬たちを、愛護団体が引き取って新しい家族を探す、というのが一般的になっています。そういった広く伝えられているのとは違う現状をこの本を通じて伝えられたらいいなと思っています。
Kumpoo: まずはペットショップで売られている子犬がかわいいといって飼ってみたら、思ったより大変で捨ててしまうというパターン。あとは今すごく問題になっているのが、飼い主が高齢化して犬より先に亡くなってしまうというパターンです。
また、引っ越しでやむなく手放さないといけないとか、飼い主が病気で飼えなくなってしまうケースもあります。
Kumpoo: また、その時々で「ブーム」の犬がいるんですよ。今だとトイプードルなどです。そういう犬は売れるのでブリーダーがたくさん繁殖させるのですが、そうなると必然的に病気になりやすかったり関節などに障害を持った犬も増えるわけです。そういう犬を飼うことになった飼い主が負担になって手放してしまうケースもありますし、ペットショップ側はそういう犬を売ってはいけないので、病気がわかった時点で愛護団体に引き取ってもらいに来ることもあります。
Kumpoo: そうです。犬は年に2回出産できるのですが、ひどいところだと小さな檻の中にずっと座らされて、文字通り繁殖だけをする。小さなところに閉じ込められているからお尻がとこずれのようになってしまって手術をしなければいけない犬もいるんですね。
マムもまさにそういう環境にいた犬だったのですが、保護されてよかったです。実は「マムに新しい家族が見つかる」という話は、あくまで「ストーリー」として描いただけだったのですが、本ができた後に本当に新しい家族が見つかったんです。
Kumpoo: そうです。今はもうお姫様みたいに扱われていますよ。
Kumpoo: あとは売れ残った時です。ブリーダーに戻されたり、愛護団体に引き取られたりします。いいところに行くといいのですが。
■「保護犬を飼う=犬を救う」ではない
Kumpoo: 基本的には殺処分を避けるために愛護団体が引き取るわけですから、愛護団体に引き取られた後で殺処分される犬は少ないはずです。愛護団体の方が新しい飼い主を探すわけですが、どうしても見つからない場合は愛護団体に保護されたままになることもありますし、ボランティアの里親の方々が預かることもあります。その里親さんがそのまま「じゃあ私が引き取ります」となるケースもかなりありますね。
Kumpoo: そこは愛護団体によります。たとえば去勢手術費用プラスちょっとした手数料だけという団体もありますし、格安とはいえ料金をとる団体もあります。だからどのくらい費用がかかるかはまちまちです。
Kumpoo: 先ほどお話ししたように、保護犬について知ることのハードルを下げたかったですし、悲惨な形で伝えられることの多い保護犬をもっと違った角度から知っていただきたいという気持ちが強くありました。
Kumpoo: 撮影に関しては、とにかくこちら側の意図が入らないようにというか、感情を消して撮りましたね。動物のあるがままの姿を撮るように心がけました。
Kumpoo: 捨て犬のレスキューの現場に立ち会わせていただいたこともありましたし、保護犬の愛護団体についてお話をうかがったり、お世話になりました。多頭飼育崩壊の現場を見せていただいたり、衝撃的な経験をさせていただきました。
とらおさんと話したことで今回の本の内容が変わったということはないのですが、自分なりに取材したことの答え合わせをさせていただいたと思っています。
Kumpoo: 寒立馬を撮りためてるのでこの物語を作ってみたいと思ってます。あとはアラスカに熊を撮りに行きたいですね。今回の本もそうですが、社会に少しでも波紋を呼ぶような作品を作っていけたらいいなと考えています。
Kumpoo: 「保護犬を飼う」ということは、欧米ではあたりまえになっているのですが、日本ではまだこれからというのが現状です。この本を通じて保護犬の現実を知っていただくのと同時に、ただ悲惨なだけではない保護犬を巡るあたたかな側面を伝えられたらと思っています。
また一頭でも多くの保護犬が新しい家族と出会い、家族を幸せにする存在になってほしいと願っています。「保護犬を飼う=犬を救う」と考えられがちですが、それはちょっと違っていて、犬を飼うことで人間が幸せになれるのであれば、人間の方も犬に救われているんです。人間と犬がお互いに幸せになってほしいというのがこの本のメッセージです。
(新刊JP編集部)
Kumpoo(くんぷう)
鎌倉在住の写真作家。写真家テラウチマサト氏に師事し、海外の撮影多数。学芸員資格を有し、その資格を活かしたアート的作品も得意とする。『とらおさんと犬のお話』は写真絵本としてのデビュー作となる。
著者:Kumpoo
出版:幻冬舎
価格:1,320円(税込)