「傾聴」ができればマネジメントはうまくいく!
優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?

優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?

著者:林 健太郎
出版:三笠書房
価格:1,540円(税込)

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本書の解説

頭ごなしに叱ったり、「仕事なんだから文句を言わずにやれ」とタスクを押しつけていればマネジメントができていた時代は終わり。今そんなことをしていたら部下と信頼関係を築くことができないばかりか、パワハラだと言われかねない。

これからは共感力のある上司が求められる。こんな風潮から部下と積極的にコミュニケーションを取ったり、部下の話を聞く大切さに多くの上司は気づいているはずだ。ただ、この「聞く」が意外に難しい。あなたの部下は、あなたに本音を話しているだろうか?

部下が本音を話さなくなる上司とは

『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?: 職場の心理的安全性が高まる本』(林健太郎著、三笠書房刊)は、今マネジメントで必要とされる「傾聴力」をテーマに、その本質と磨き方を解説する。

「傾聴」とは読んで字の如く相手の話に耳を傾けることだが、「話し方」と比べて「聞き方」を学ぶ場面は極めて少ない。だから、「部下の話を聞くことが大切なのはわかるが、何をどう聞けばいいのかわからない」となりやすい。

それゆえに、自分が良かれと思ったやり方で部下とコミュニケーションを取ろうとするのだが、間違った方向に行ってしまうことも多々ある。以下は、部下が本音を話さなくなる上司の話の聞き方だ。心当たりがある人は多いのではないだろうか?

行き当たりばったりに聞いている

単なる雑談であれば、上司はただ部下の話に耳を傾けていればいい。ただ、そこは仕事上のコミュニケーション。部下に話させつつ、手綱は上司が持っておくべき。部下の話を聞く時は「行き当たりばったり」ではダメなのだ。

これを避けるためには「ゴール」を設定しておくこと。
「部下の成長を促す」「心身の健康状態を確認する」「倫理観のない行動を是正する」など、その部下と話すうえでのゴールを決めて面談することで、部下にとっても上司にとっても有益な会話になる。

話の腰を折ってしまう

上司からすると、部下がする仕事の話は大体展開が読めてしまう。部下よりも経験を積んでいるのだから、これは当然だろう。

それゆえ、部下が話し終わらないうちに「それ、こういう話だよね」と結論を先取りしてしまう。つまり「知っている筋書き」を最後まで聞くことができずに話の腰を折ってしまう上司が多いのだ。そうなると部下はその先を話さなくなってしまう。

「あ、この話はこういう展開になるな」と察しがついても、口を挟むのをぐっと堪えて、まずは部下の話を最後まで聞いてみよう。もしかしたら予想外の展開が待っていて、そこに部下の本音があるかもしれないのだから。

「部下の愚痴なんて聞いている時間はない」と思っている

「部下の本音=愚痴」だと考えている上司もいる。こういう上司ほど「愚痴なんて聞くヒマはない」となりやすいのだが、ここも注意が必要だ。

仕事と関係のないプライベートな心配事や悩みがあるだけでも仕事のパフォーマンスが落ちてしまうのが人間というもの。だからこそ、たとえ愚痴であっても耳を傾けるべきだ。上司に思いの丈を聞いてもらったことで気持ちが軽くなり、仕事に集中できることだってあるのが人間なのである。



「話を聞く」という行動は、誰でもできるようでいて、実は奥が深く、難しい。ただの雑談で終わらせてはいけない職場での会話であればなおさらだ。

もし、ここで取り上げた「部下が本音を話さなくなる上司」に当てはまっているなら要注意。部下と信頼関係を築き、成長させ、チームとして成果を出すためにも、本書を参考に部下とのコミュニケーション方法について模索してみてはいかがだろう。

(新刊J P編集部)

インタビュー

 

■社会が変わっても上司のコミュニケーション力が変わらないワケ

本書は「傾聴力」とは何かという根本のところから、「傾聴力」の磨き方という実用的なところまでカバーされています。主にマネジメント層に向けた本ですが、林さんが今の上司のコミュニケーションに対して持っている問題意識についてお聞かせください。

林: 社会環境がどんどん変わっている中で、コミュニケーションのやり方だけが旧態依然としているように感じています。「昭和型のリーダーシップ」のようなものがまだまだ残っていますし、上位者が下位者に上から何かを伝えるというコミュニケーションはたくさんあります。

今しきりに言われている「多様性」を担保していくためのコミュニケーションは開発されていないような気がしています。

コミュニケーションのスタイルが変わっていかない理由はどんなところにあるのでしょうか。

林: 「現状維持バイアス」があるのでしょうね。自分が部下の時に上司からされてきたやり方しか知らない人もいるでしょうし。

私自身もその世代なのですが、「何やってんだ!」とか「気合が足りないぞ」と怒鳴られながら、いわゆる「プル型」のコミュニケーションで育てられた人が上司になると、部下に対して同じようなコミュニケーションをしたくなるんだと思います。でも、それも今はパワハラ、モラハラと言われてしまいます。

パワハラやモラハラはいけないということとは別に、旧来の上から頭ごなしに命令するようなコミュニケーションを変える必要がある理由はどんなところにあるのでしょうか。

林: ネット検索が簡単にできる環境になって、上司が持っている情報量を武器に威厳を保つことができなくなったというのは一つ言えると思います。

社会通念的にも、「結婚して子どもを作って家を買って定年まで勤める」というモデルがなくなってしまったので、そういう人参をぶら下げても部下は食いつかないですよね。そこで自ずとコミュニケーションを変える必要が出てきているのだと思います。

林さんご自身も部下とのコミュニケーションで苦労されたそうですが、どのように変えていかれたのでしょうか?

林: たくさん失敗はしましたが、コーチングを学んだのが大きかったと思います。その過程で「言葉として表現されたことは、伝えたいことの1割か2割でしかない」ということを知ってから「言葉にされなかったこと」に好奇心を持てるようになったのが分岐点だったように思います。

どんなところに注目するようになったのでしょうか?

林: たとえば、部下に「この仕事やっておいてくれない?」と頼んだとして、相手から「いいですよ」と返ってきたら、昔の私は「いいんだ、じゃあお願い」としか思わなかったのですが、声のトーンや「いいですよ」の間合いが変だったら「もしかしたら、あまりやりたくないのかな」とか想像するようにはなりました。もしかしたら違うことを考えているのかもしれない、と。

「部下の話を聞く」のが上司の力量任せになってしまっている、というご意見はごもっともだと思いました。「聞くこと」は教えなくてもできる人はできる一方で、教えても人の話を聞くことができない人もいます。「傾聴力」は訓練によって身につけることができるものなのでしょうか。

林: 情報を聞きとるということ自体はみんなやっていると思うのですが、相手との関係を育むための聴き方ができているか、というところですよね。

特にリーダーになるような人は自分で仕事をどんどんできてしまうので、部下とのコミュニケーションにかける時間は生産性が低いと捉えがちです。話を聞くくらいなら自分で仕事をこなしてしまった方が早いと考える人もいるでしょう。短期的にはそれは正しいのですが、中長期的に見ると、預かる部下が増えれば誰かに仕事を任せざるを得ない場面はどうしても出てくるじゃないですか。

「自分がやった方が早い」には限界が来るということですね。

林: そうです。そうすると部下とコミュニケーションを取らざるを得ないわけですし、変えざるを得ない。その過程で部下との関係性を育むようなコミュニケーションを身につけていく方は多いです。だから後天的に身につけられるものだと考えています。本人にとってコミュニケーションの優先順位が上がるかどうか、という話なんです。

色々な人との会話がある中で「部下との会話」に特有の難しさはありますか?

林: 部下の側からすると上司というものは、仕事を教えてくれて、指示をくれる人というイメージを持っていますから、そのイメージをまず崩さないといけない難しさはありますよね。だから、上司がコミュニケーションのスタイルを変えて、部下の話を注意深く聴くようになると、関係性が一瞬不安定になるはずです。ただそれを習慣化していくことで、部下の方も慣れていきます。

部下のことをできるだけ知っておくことは重要ですが、「どこまで踏み込んでいいか」で悩む上司は多いのではないかと思いました。例えば仕事を離れた私生活のことを上司はどこまで知っておくべきなのでしょうか。

林: こちらからはたらきかける時のコツというところで言うと、話したいことを話したい分量だけ話してもらえればいいよという姿勢を見せることですね。どこまで開示するかと言うのは相手によって違うわけで、開示する範囲は相手が決めるべきです。だから、こちらとしては「好きなだけ話していいよ」と言った時に教えてくれることが、上司が得られる情報だというアプローチが適切だと思います。

性格や嗜好などパーソナルなことも、知っておくことで仕事に役立つことはありますよね。

林: そうですね。例えば「この前こんな話をしてくれたよね。それで言うと興味がありそうな仕事があるんだけど」というようなコミュニケーションができるようになります。そうすると相手によってモチベーションの個別化をすることができますから、上から押さえつけるように仕事を与えずに済むのではないかと思います。

ひとりひとりの性格や嗜好を把握して、声がけも変えて、ということだと、上司の負担は大きそうですね。

林: それはおっしゃる通りで、今時の上司は負担が大きいと思います。軍隊型のチームを作る場合には全員に同じメッセージを打ち出せばいいのですが、共創型の組織を作りたい場合は、個々の能力を最大限発揮してもらうことを考えなければいけません。そうすると管理する側は個々人の強みや性質を把握する必要があるわけで、その意味では「部下の話を聴く」というのも上司の仕事の一つだと思います。

■部下が本音を話すようになる「心理的安全性」の作り方

テレワークが普及して部下と直接顔を合わせる場面が減った上司もいるかと思います。オンライン上でのコミュニケーションの注意点がありましたら教えていただきたいです。

林: 非言語の要素は伝わりにくくなりますから、頷き方ひとつとっても動きを大きくした方がいいと思います。あとはリーダーの方で多いのはモニターに顔が全部映っていないケースですね。自分がどう見えるかという演出は必要です。

ここまでは上司本人の話ですが、部下に対しては今どんな環境なのか聞くことが大切です。「そこは自分の部屋?」というように聞いていくと部下が集中できる状態にあるのかや、どんなふうに仕事とプライベートを両立させているのかがわかってくると思います。つまり画面に見えているもの以外にも気を配る、ということですね。

部下が本音を話す条件として「心理的安全性の確保」が挙げられています。この心理的安全性の確保についてポイントがありましたら教えていただきたいです。

林: いくつか段階があって、まずは「自分が聴き役に徹する時間を作ることにした」ということが部下にわかることが重要です。

それまでは「これしろ、あれしろ」みたいな接し方をしていた上司が、ある日突然「なんでも言っていいよ」と言ってきたら、部下からしたら怖いはずなんですよ。でもそれはみんなが通過する道で、もう一回言ってみたら部下も「あれ、上司が変わった?」と異変に気づきます。でも、部下はまだ自由に話してくれないでしょうね。

その時はそれで終わったとしても、また別の機会に同じアプローチを取ってみて欲しいんです。2回目のチャレンジをすると部下からはもしかしたら、「最近どうしたんですか、気持ち悪いですよ」というような反応が返ってくるかもしれません。そんなチャレンジを何度か繰り返すうちに部下の方も、上司がこれからずっとこういう調子なのだとわかりますから、それに対応する策を準備するようになります。次また「なんでも話していいよ」と言ったら、そこでようやく「そう言われると思ってました」ということで部下が話しはじめる。このように何回かやってみることがポイントです。

何回かはたらきかけることで部下も上司が変わったことに気づくんですね。

林: そうです。こういうやりとりを繰り返していくと、やがては上司の顔を見たら自分から話してくれるようになります。上司側としてはそれが理想の形なのではないでしょうか。

部下の性格によっては、多忙な上司に自分の話を聞いてもらうのは気が引けるというケースもありそうです。部下が相談や愚痴を言いやすい雰囲気を作るにはどうすればいいのでしょうか?

林: 「今いいよ」とか「今5分時間あるよ」というように、自分が今、時間が空いていることや持ち時間を伝えるのがポイントだと思います。

あとは「こういうことを聞きたいんだけど、どう?」というように話題を少し限定するのも有効です。「自由になんでも話していいよ」というとかえって話しにくいと感じる人もいるので。

話題を限定する方が話しやすいというのはすごく理解できます。

林: 言葉ってアプリケーションなので、自由に話していいよと言うことにより相手が「やった!」という反応をするという「結果」を求めていると思うんですよ。でもそれが起きないなら、どうしたら「やった!」といういわゆる「結果」が出るのかを考える必要があります。例えば、「この話とあの話、どちらを話したい?」というふうに相手に話題を選んでもらうのもいいと思います。

上司からすると「この人、何を聞いても話してくれないな」と思った時に、「いや、待てよ」と思えるかどうかなんですよね。人によってすぐに話せる人と、立ち上がりに時間がかかる人がいるので。それを待てるか、あるいはアプローチを変えられるかどうかが大切です。

最後になりますが、部下とのコミュニケーションや信頼関係の構築に悩む上司の方々にメッセージをお願いいたします。

林: コミュニケーションについてはたくさん本が出ている中で、今回の本は「傾聴」とは何かという定義だけでも、データを提示するだけでもなくて、「どうやったら部下の話を聴けるのか」という実用的なところまでしっかり書いたつもりです。ただ読むだけではなくて、使ってみるというところまで進んでいただけるとすごく嬉しいです。特に4章はハウツーを10個のツールとして書いていますので、ぜひ試してみていただきたいですね。

あとは部下の話を聴くだけでなく、自分の声を聴くことも大切にしてほしいと思います。おろそかにされがちなのですが、自分が何を考えていてどう感じているのかを把握することもリーダーとして大事なスキルです。たとえば部下に対して「最近定時で帰るよね」と言う時、自分も早く帰りたくて羨ましいと思っているのか、それともただそういう状態だと伝えたかっただけなのかによって言葉は変わってくるのでご自身の心の声を「聴く」時間を取ってみることをお勧めします。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. なぜ、上司に「傾聴力」が求められるのか?
  3. なぜ、部下の本音を聞き出せないのか?
  4. 部下の話を聞くときの心がまえと実践法
  5. 部下の本音を引き出す「聞き方」の手順
  6. 上司と部下の関係性による落とし穴とその対策
  7. 自分の「心の声」の聞き方
  8. 「部下以外の相手」の話の聞き方
  9. おわりに

プロフィール

林 健太郎(はやし・けんたろう)
林 健太郎(はやし・けんたろう)

林 健太郎(はやし・けんたろう)

リーダー育成家。合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。
一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。
1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。2016年には、フィリップ・モリス社の依頼で、管理職200名超に対するコーチング研修を実施。日本を代表する大手企業や外資系企業、ベンチャー企業や家族経営の会社まで、のべ650人を超える経営者やビジネスリーダーに対してコーチングを実施。企業向けの研修講師としての実績も豊富で、フェラーリ社の日本の認定講師を8年間務めるなど、リーダー育成に尽力。『コーチング忍者の2分コーチング入門講座』など、斬新な切り口でコーチングを啓発中。
著書に『できる上司は会話が9割』(三笠書房)。

優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?

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著者:林 健太郎
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