女性がイキイキと働き続けるための
ヘルスリテラシー
著者:北 奈央子
出版:セルバ出版
価格:1,760円(税込)
著者:北 奈央子
出版:セルバ出版
価格:1,760円(税込)
「男性は外で稼ぎ、女性はいいお母さんになる」といったかつての価値観が薄れてきているとは言われているが、実際のところ、いまだに男女の差は大きい。日本のジェンダーギャップ指数ランキングは2021年の段階で156か国中120位、先進国の中では最低レベルだ。
意思決定ができる場にいる女性の割合もまだまだ低く、例えば東京商工リサーチによる上場2220社を対象とした2021年3月期決算「女性役員比率」調査によれば、女性役員の比率は7.4%(*1)と、前年よりは高くなっているものの、低水準となっている。日本社会は未だに男性目線でできていると言える。
そうした社会の中で、女性がイキイキと働き続けるためには何が必要なのか。
徹底した女性目線で女性向けのサービスを提供する株式会社ジョコネ。を経営する北奈央子さんは、著書『女性がイキイキと働き続けるためのヘルスリテラシー』(セルバ出版刊)で「自分力」が大切だと訴える。
北さんは「女性のヘルスリテラシー」を「自分力」と表現する。
ヘルスリテラシーと聞くと、「健康や医療の情報を見極める力」と考える人もいるだろう。もちろん、その力も大切だが、それだけではない。北さんは次のようにつづる。
ヘルスリテラシーの定義は、使う方、その状況によっていろいろな使われ方をしているのが現状です。中でも情報の入手や理解として使われている方が多いと思います。
しかし、本書の中でのヘルスリテラシーは「行動」を含むまでの定義としています。女性が自分の健康のために必要な行動をとるところまでを範囲と考えて、大事なことをお伝えしていきます。
(本書p.17より)
女性の健康課題の中でも、最も身近なものが月経だ。女性にとっては、月に1回その日がきて、調子の悪さを感じることが当たり前になっている。そのため女性自身もそれを前向きに対処しようと思わずやりすごしていることも実は多い。
さらに月経による不調は、複数の症状が重なっていることがある。症状の代表的なものが月経困難症と月経前症候群(PMS)だ。
月経困難症は、月経痛の中でも日常生活に影響をきたすほどのものをいう。PMSは排卵と月経の間に起こる不調で、月経前1週間ほどに心、身体、行動などにさまざまな症状が出る。月経よりもPMSのほうがつらさを感じるという人もいる。月経による不調は個人差が大きいことも男女ともに知っておいてほしいポイントだ。
北さんは、こうした月経時の不調の影響を小さくするための方法として次の3つのステップを取り上げている。
(1)まずは自分の月経と体調を知る
どの心身の不調が月経と連動しているか知るために、手帳やアプリを使って、体調と月経の記録をつける。月経の期間だけではなく自分の不調についても記録していくと、連動が見え、自分をより知ることができる。
(2)改善するための工夫をする
女性ホルモンの不調には薬やセルフケアなど選択肢があり、人によって合う方法が異なるので、自分なりに試してみることが大切だ。婦人科を受診してみるという選択肢もあり、また、睡眠や食事などの生活面の改善を試すなど、いろいろ試して自分に合ったセルフケアを探っていくことが重要。
仕事面では、可能であれば仕事の山場を外す、在宅勤務を選択するといったことが有効だが、職場の環境にもよる。北さんは「企業側にも調整しやすい文化、制度づくりをお願いしたいです」と呼びかけている。
(3)周囲に相談する
それでもやはりできることには限界がある。そのときは、周囲に相談することが大切だ。友人に相談する、婦人科で専門家から情報をもらうでもいい。職場の場合は、上司や先輩に、仕事の調整の相談をしてみるのもいいだろう。
「1人で我慢をしてしまうと、そこから状況が変わりません」と北さん。勇気を出して相談してみてほしいと呼びかけている。そして相談を受けた周囲は、その人に合った対策を一緒に考えてほしい。なぜなら月経による不調も、それをどう対処したいかも人それぞれだからだ。
◇
これまで多くの女性の話を聴いてきたという北さん。そうした中で気づいたことが、自分を大切にする「自分力」の大切さだった。女性はマルチタスクになることが多く、どうしても自分のことを後回しにしがちだ。健康課題や社会からの要求に苦しんでいる多くの女性たちに対して、「完璧を求めなくていい。もっと手をぬいていい。周りに頼っていい。いい女性、妻、母じゃなくていい。自分を大事にしていい。」と訴える。
本書は、女性が実は頑張りすぎている自分に気付くとともに、本当に大切にすべきことは何かを教えてくれるとともに、周囲がそれをどう支えるべきかを考えさせられる一冊だ。女性だけでなく、家庭や職場で女性を支える立場にある男性にも読んでほしい。
(新刊JP編集部)
参考ウェブページ
*1…上場企業2220社 2021年3月期決算「女性役員比率」調査
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210716_03.html
■過酷な仕事環境から病気に…。その後悔と気づき
北: 私は会社を経営しながら大学院で女性のヘルスリテラシーについて研究をしているのですが、その中で女性である自分自身ですら体のことや心のことを知らなかったということに気づいて、驚いたんです。そして、同じように自分自身のことを知らない女性たちに、自分の体や心のことを知ってほしいと思って、執筆をさせていただきました。
北: 「ヘルスリテラシー」は、私が研究をしている大学院の教授は「健康を決める力」としています。いろいろな使われ方をしていますが、一番大きな概念で言うと、健康になるための力なので、健康・医療の情報を入手するところから、何が書いてあるかを理解し、その情報が正しいかどうか、自分に必要かどうかを見極め、実際に行動に取り入れるまでを含みます。
ヘルスリテラシーの研究をしていて、まだまだ日本はジェンダーギャップが高い状況にあり、これにより女性特有の月経や更年期の不調といった健康課題も周囲に言いにくいとか、我慢してしまうところがあって、女性自身も症状を抑えて見ぬふりをしているところがあることに気づきました。
そんな頑張りすぎている女性に対して、自分を大切する力である「自分力」を高めていこうとメッセージを送りたい。ご自身を大事にしてくださいとこの本を通してお伝えしたいんですね。
北: 研究の中でたくさんの女性にインタビューさせていただいたのですが、非常に印象的だったのが「良い女性でなくてはいけない」「良い奥さんにならないといけない」「子どもを産まないといけない」といった、社会から期待されている女性像になろうとして、苦しんでいる方が多かったということなんです。
でも、子どもを産むかどうかは選択肢の一つですし、女性だって料理ができなくてもいいし、おしとやかでなくてもいい。世間が要請する女性像ではなく、自分自身を受け入れて認めることが大事だと感じます。また、更年期の方ですと、若くなくなる自分を受け入れられないというおっしゃる方も多くて、やはり自分を受け入れて、わがままになってもいいのではないかと思うんです。
北: そう思いますね。多様性と言われるようになってきましたが、とても根強く残っています。私の娘は今、3歳なのですが、いつの間にか女の子は可愛い、男の子は格好いい、ということがインプットされていて、驚くくらいジェンダー意識が頭に入っています。
私の娘は早くから保育園に入れているので、周囲の大人であったり、あとは祖母ともよく話すので、そういうところから少しずつインプットされているのかなと。また、子供服売り場に行っても、男の子は青、女の子はピンクが定番ということは変わっていなくて、そういう部分からも影響があるのではないかと思います。
北: そうなんです。心臓外科の担当が長くて、お医者さんも男性、現場の営業も男性、私はその営業と一緒に動くことが多い職種だったのですごく働いていました。月経がつらくても言い出しにくかったし、そもそもその会社自体に「発熱しても出社して働く」みたいな風潮が当時あったので、つらいから休ませてほしいということも言えませんでした。当時はどっぷりつかっていたのでそれを楽しんでしまっているようなところもありました。
また、私自身キャリア志向が強かったこともあって、子どもを産むとなるとキャリアにマイナスになるのではないかという思い込みもあって、子どもを持つかどうかを自分自身、そしてパートナーと向き合って考えられなかった部分もあります。
北: 30代半ばになって、あるとき会社を休むくらい月経痛がすごくつらくなってしまって、ようやく婦人科に行きました。そうしたら子宮内膜症という病気が見つかったんです。今思えば、鎮痛剤を飲んで痛みを抑えずに、もっと早くちゃんと病院に行って診てもらっていたら、手術までしなくて済んだかもしれないし、毎月つらい思いをしなくて済んだのかもしれなかったですね。
北: そうですね。その時は、症状が抑えられて仕事ができればいいと思っていたので…。ただ、当時のキャリア志向も含めて、結局は周囲からの評価を気にしたり、人から「すごい」と言われたいという思いが強かったのではないかとも思います。自分が本当にそうしたかったのかというと、今では自信を持って「そうしたかった」とは言えません。
北: 子どもを産むということをちゃんと考えて、月経痛をメンテナンスすることが大事だと思えていれば、仕事を優先せず、1回病院に行ったと思います。自分の人生を大事にできていなかったということに気づきましたね。
また、ヘルスリテラシーの勉強をするまでは、人が病気になるのは運だと思っていたんですよ。でも、実際はライフスタイルが半分影響するというデータもあって、結局自分の生活スタイルが決めているといっても過言ではないんですよね。それを知ってからはだいぶ意識が変わりました。
■女性特有の体調不良、職場内で「相談しやすくする」ために必要なことは?
北: 一般的には教育や経済状況が影響するとは言われていますが、日本のヘルスリテラシーの特徴は少し違うんです。私の指導教授の研究だと、日本人は意志決定が苦手で、情報はちゃんと手に入れて、理解もするんだけど、正しいかどうかを評価して、使うかどうかを決めるのが苦手だと言われています。
北: これは学術的なものではないですが、私の周囲の方の傾向として私が感じるのは、自分のやりたいこと、目標、どうありたいかという自分像がはっきりとしていて、そこに向かって何をするべきかがよく分かっている方が多いですね。そういう方はエネルギッシュで魅力的ですし、見た目も心も若々しく見えるように思います。健康に対する意識だけでなく、人生全体への主体性が大きく影響しているなと思います。
健康は生きるうえのベースですから、人生の目標が主体的にあると、その活動のベースになる健康の大切さ、優先順位も見えてくるのではないでしょうか。年齢を重ねていくと不具合も多くなってくるわけで、全部対処をするのは難しくなりますから、そういうところで自分が何を取り入れるかという意思決定力が必要になるのではないかと思います。
北: これは本の中でも書かせていただいていますが、月経とご自身の体調の連動を見ていくことが大事だと思います。
それは月経期間だけではなく、月経が始まって終わるその前後の体調まで記録をつけて、月経とどう連動しているのかが見つかれば、なんらかの対策を取れますから、まずは知ることをおすすめしますね。
また、女性にとって月経は繰り返しくるものですから、つらいのが当たり前という風になってしまっているところがあります。でも、改善する方法がある可能性は高いので、諦めずに良くする方法を探してほしいですね。健康は自分でつくるという意識を持っていただいて、より快適な生活、人生を手に入れてほしいです。
北: 月経のつらさもどういったケアが効くかも人によって異なるので、まずは自分自身の専門家になっていただいて、ご自身が効くものを探してみてもらうというのが回答です。
月経1週間ほど前から心身にさまざまな症状が出るPMS(月経前症候群)に関していうと、適度な運動であったり、お風呂につかったり、鍼灸などの血の巡りを良くする方法がきくという方もいらっしゃいます。あとはタンパク質、ビタミンB6やビタミンD、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルといった栄養素を意識して摂取することで改善する方、ストレスを減らすことで効果がある方、これらを組み合わせるといい方もいるので、ぜひご自身でいろいろ試してみていただきたいです。
ただ、本当につらいと毎回感じているのであれば、婦人科に相談してみることも大切です。お薬で対処できることもありますから。
北: まずは調子が悪いときに、それを言えるような雰囲気をつくることですね。それができていれば、誰かが体調悪くなってもカバーし合える関係ができているはずですから、セットでそうした雰囲気づくりを進めていくことがまず一点。
後は制度設計ですが、生理休暇はほとんど使われていないのが現状です。だから、当事者が使いやすいような制度設計を企業側がしなければいけません。特に上司が男性であったり、男性が多いチームだと、休みたいと言えないという女性も多いと思います。ただ、それだといけないので、気を遣わずに生理休暇を取れるように設計していただくことが大事です。
また、話しやすい場をつくるという意味では、セミナーを男女の社員一緒受けてもらうという手もあります。お互い同じ知識と問題意識を持っている土壌を作れますし、セミナーの中なら「こんなにつらいんです」という話ができるという方もいらっしゃいます。
北: そうなんですよね。そういう土壌が作れれば相談しやすい雰囲気につながるのではないかと思います。一方で男性上司が配慮をして月経中の女性の仕事を減らしたけれど、実は女性側はそれを望んでいなかったというミスマッチも起こり得ます。それも相談せずに一方的な配慮でそうなってしまったわけですから、「話しにくい」というギャップを埋めることがスタートなのだと思いますね。
ただ、この質問は実はよく聞かれるのですが、最終的には職場の人間関係と文化によるので、「これをやったら大丈夫」という確固たる回答が申し上げられないんです。
北: はい、それが第一歩になります。それに、10人に1人くらいは、月経などの女性の健康課題とその対処方法について詳しい女性の方が社内にいらっしゃったりするんですよ。そういう人がいれば、社内の女性同士でも相談しやすくなりますから、かなり変わりますよね。
北: 最初は以前の自分と似たような思いを持った女性、生理痛や更年期の症状に苦しみながら働いている女性にぜひ読んでほしいと思っていました。
ただ、本が出版されてから意外と老若男女幅広くフィードバックをもらっていまして、男性管理職の方が若手の女性にプレゼントしたいとか、女性、男性、管理職含めて話をしてほしいという要望がきたり、ご年配の方からは終活に向けて考える良いきっかけになったという声もいただきました。だから、今は幅広く、いろいろな方に読んでほしいと考えています。
(了)
北 奈央子(きた・なおこ)
愛知県豊橋市出身、東京都中野区在住。
株式会社ジョコネ。代表取締役。
NPO法人女性医療ネットワーク理事。
聖路加国際大学大学院看護学研究科で女性のヘルスリテラシーの研究に従事。
メノポーズカウンセラー、女性の健康推進員、女性の健康総合アドバイザー。
早稲田大学理工学部卒業、修了(工学修士)後、主に外資系医療機器メーカーでキャリアを積む。医療に携わる中で日本の医療に危機感を持ち、ヘルスリテラシーに出会い、女性のヘルスリテラシーをライフワークとすることを決める。2019年、女性のヘルスリテラシーの研究をする中で感じた課題感から株式会社ジョコネ。を創業。2018年に出産し、子育てにも奮闘するワーキングマザー。
著者:北 奈央子
出版:セルバ出版
価格:1,760円(税込)