気持ちよく人を動かす
著者:高橋 浩一
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)
著者:高橋 浩一
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)
「お客様への提案」「上司への提案」「社内への協力依頼」「社内外との交渉」「メンバー指導」……、ビジネスパーソンは仕事時間の4割以上を「誰かに動いてもらうための活動」に充てていると言われている。
相手が思い通りに動いてくれないとき、正論だけで相手を説得しようとしてもうまくいかない。「心からの合意」によって気持ちよく相手に動いてもらうにはどうしたらいいのだろうか。
そのキーワードは「共創」だ。
『気持ちよく人を動かす』(高橋浩一著、クロスメディア・パブリッシング刊)では、“「競争」よりも「共創」で人は動く”としたうえで、相手に気持ちよく動いてもらうためのスキルについて解説している。
では、「共創」とは一体なんなのか?
たとえば顧客にプレゼンテーションをする際に、まずこちら側の提案資料を一気に説明してしまうことはないだろうか。相手の会社の課題を指摘し、一方的にそのまま説明し、解決策を提案する。その結果、相手からは「検討しますね」という保留の言葉が出てくる。
これは悪い例だ。お互いの足並みが揃っておらず、商談での会話もキャッチボールになっていない。「共創」とは双方向のコミュニケーションによって成り立つ。初期説明は最小限の情報にとどめ、会話のボールを相手に渡し、疑問や反論を引き出し、自分と相手が同じ結論に向かうやりとりを進めていくことで、相手は納得して選択をすることができる。
本書では「悪い例」と「良い例」を具体的なケースで対比させながら、この「共に創るディスカッション」について説明している。正しさやロジックだけでは、人は動かない。社内相手でも、社外相手でも、相手と認識の目線を合わせていくことが、納得できる結論を生むのだ。
「共に創るディスカッション」は7つのスキルによって支えられていると高橋氏は述べる。
1、想定する力
その場のゴールを設定したうえで、発生しうる壁(疑問や反論)をできる限り洗い出し、どう対応するのかシミュレーションをするスキル。
2、段取りする力
相手の発言を引き出し、双方向に進めながら、目的を達成するために、資料やアジェンダに落とし込むスキル。
3、理解を深める力
質問や積極的傾聴により、理解を通じて相手との関係を深めていくスキル。
4、見える化する力
その場に出ている情報をビジュアルで整理して相手と確認することで、場を前進させるスキル。
5、思い込みを外す力
相手のなかにある思い込みを特定して、認知の枠組みを再定義(リフレーミング)するスキル。
6、軸を動かす力
選択肢を増やしたり、判断基準を問いかけたりすることによって、意思決定の軸を動かすスキル。
7、巻き込む力
合意ができたら、決めたアクションが着実に遂行されるまで、相手と一体になって推進していくスキル。
相手と共創するには、乗り越えるべき「壁」がある。本書では、人が動いてくれない理由を「関係性の壁(気を許していない)」「情報整理の壁(状況がクリアになっていない)」「思い込みの壁(過去の経験から前向きではない)」「損得勘定の壁(割に合わない)」という4つの「壁」で定義している。
7つのスキルのうち、「1、想定する力」と「2、段取りする力」は、「壁」を乗り越えるための土台となる。そして「3、理解を深める力」から「6、軸を動かす力」にわたる4つのスキルが、それぞれの「壁」を乗り越える具体的な解決策。最後の「7、巻き込む力」で相手と二人三脚になるというわけだ。
ただ相手に働きかけても、それだけで人は動いてくれない。相手が動かない理由となる「壁」を乗り越えなければ、人を動かすのは難しい。
本書で解説されているのは、交渉術であり、コミュニケーション術であり、合意形成術である。相手に動いてもらうなら、納得して気持ちよく動いてもらった方が、成果も大いに出るはずだ。どんな立場にいる人でも、誰かを動かす機会はあるはず。その意味でビジネスパーソンは読んでおきたい一冊といえるだろう。
(新刊JP編集部)
■「ロジックでは人は動かない」から「共に創るディスカッション」へ
高橋: 私は研修やコンサルティングといった、お客様のビジネスを支援する仕事をしているのですが、お客様や研修の参加者から「思ったよりも人が動いてくれない」という悩み相談をよく受けるんです。分かりやすい例で言うと、「お客様に改善案を提案したが、動いてくれない」「上司が納得してくれない」といったことですね。
そのような相談をしてくる方の話をよく聞くと、提案の内容は間違っていないことが多いです。ロジックもしっかりしていて、正しいことを言っているはずなのに、なぜかみんなが動いてくれないという感じなんですよね。
そうした相談を聞いているうちに、実はこの問題に多くの人が悩んでいるのではないかと思いました。そこで、解決法が書かれた本を執筆しようと考えたわけです。
高橋: このコロナ禍の影響から、リモートワークが増え、チャットやメッセンジャーツールといったコミュニケーションの手段が広がり、世の中はすごく便利になりました。また、人を動かすコミュニケーションの取り方についても色々な情報が出ていて、みなさんそれを見て勉強していると思います。
ただ、人を動かす側はそれでいいものの、動かされる側はどうかというと「はい、分かりました」と一応合意はしたものの、実は納得していないケースが多いのではないかと思うんですね。同意はしたけれど、モヤモヤが残っているというような。見せかけの合意と、心からの合意はやっぱり違うもので、その後の動きにも大きく関わってきます。心からの合意の方がみな、納得して積極的に動くでしょう。
心からの合意は、短時間の打ち合わせを通した「はい、分かりました」だけでは形成できません。相手との会話の応酬、ともに壁を乗り越えていく作業などがあって、たどり着けるのではないかと思うんですね。
高橋: 長い目で見ると、合意に対する納得の深さが重要です。今は、効率が重視される世の中ですから、余計な衝突を避け、コストをかけないことが求められていますが、実際は衝突や摩擦が一切ないものから生まれた合意は浅くなりやすいです。
本書に出てくる「共に創るディスカッション」は、「一見すると面倒に思えることが、実は深い納得につながる」というのがポイントです。動かされる側が深く納得して、腑に落ちるうえでは、疑問や反論が一時的に発生するのは、むしろ「よいこと」なんです。
それは、相手に自分の正しさを押し付けて、無理に納得してもらうコミュニケーションではありません。「正しい」「間違っている」というコミュニケーションからは生産的な人間関係は生まれないと思います。この本で目指しているのは、お互い歩み寄るような合意形成です。異なる意見を、頭ごなしに「違う」と避けるのではなく、よりよい結論を作るためのきっかけと捉えて、相手とディスカッションをしていくことが必要です。
高橋: 本書でも書かせていただきましたが、私が新卒で入社した会社は戦略コンサルティングの会社で、仕事でもロジカルシンキングの考え方が求められると最初は思っていたのです。ところが、入社してすぐにそのイメージは裏切られました。「ロジックだけでは人は動かない」ということを上司や先輩から言われたんですね。ロジックよりも感情や精神的要因の方が、人に動いてもらうためには重要だと。
それを身に染みて理解できたのが、若手の時に関わったある会社の業務改革プロジェクトでした。最終報告の場で、お客様に対して正論をぶつけたところ、その領域を担当していた取締役がお怒りになってしまったんです。そのときは、マネジャーがお客様やその場をうまく収めてくれたのですが。
それに対してモヤモヤしたものを抱えながらも、数年経ってから起業して、自らお客様に対して営業するようになりました。当時、お客様への提案は、ロジカルな構成を意識しながら、「突っ込まれないように」「反論されないように」資料を作っていたのですが、あるとき、あまり準備の時間が取れず、1枚の簡単なディスカッション資料で営業に行くことになったんです。
内心不安ですよ。しっかりと作り込まないまま打ち合わせに出るわけですから。ところが、その1枚の資料をきっかけにとてもいいディスカッションができました。もちろん突っ込まれたりもしましたが、それは全然悪いことではない。むしろ、お互い納得した結論に着地して、その後相手が気持ちよく動いてくれているのを見て、考え方がガラリと変わったのです。
高橋: そうですね。考え方を変えてから、気持ちの余裕が生まれるようになりました。それまでは「お客様から反論がないように」と気を張っていたわけですが、お客様から出てくる反論や疑問は、いい結論を導くために必要なステップだと思うようになったので、それもウエルカムという気持ちになったんです。
相手の納得感が深くなったことを実感してからは、商談の進め方だけでなく、社内のコミュニケーションも変えました。当時ベンチャー企業の役員を務めていたのですが、メンバーたちに経営陣のメッセージを伝えるときも、練りに練って伝えるよりは、こんな感じで考えているけれど、みんなどう思う?と意見をもらって、一緒に考えながら作るようにしました。その方が、メンバーの腹落ち度も深いと実感しました。
高橋: 相手に動いてもらうのが一見すると難しく思える場面ですね。例えば、上司との関係で、自分の言ったことを上司がすぐに承認してくれるような関係性ができていれば、それまで通りにやればいいと思うのですが、「上司の突っ込みが鋭くて、何か言ってもすぐに跳ね返されてしまう」ときなんかは、効果を発揮します。
あとは、1対1だけではなく、1対複数の場合も同様です。
高橋: はい。大勢の人の参加度合いを上げるときなどにも有効です。大勢の人を正論で説得するよりは、みんなの意見や考えを引き出しながらの方がいい結論を作れます。
■「共に創るディスカッション」が自分らしい人生をつくり上げていく
高橋: 「共に創るディスカッション」は、相手からの信頼感を高めるというのも一つありますが、ニュアンス的には仲間意識やチーム感を高めると言った方が近いかもしれません。それは社外の人が相手でも、社内の上司やチームメンバー、部下相手でもそうです。
高橋: もちろん、全部身につけるのが理想ですが、本書をお読みいただくうえでは、7つのうち「これを使えるようになりたい」というものを1〜2つ選んでもいいでしょう。
読んでいただくと、7つのうち「このスキルは普段から意識しているな」というのも出てくるはずです。人を動かすのが得意な人は、7つのスキルを一通り無意識で使いこなしています。本書では、多くの人にとって再現性が上がるように体系化しました。基本から学びたい方にとっては、まずは自分が苦手意識を感じるスキルから選んでやってみるという形でもいいでしょう。
そういう風に身につけていくと、徐々に揃っていきます。本書の原稿を、私が運営するオンラインサロンのメンバー何人かに企画段階で読んでもらったのですが、どの章が一番良かったか聞くと意見がばらけるんです。刺さるところは人それぞれなんですよね。
高橋: そうです。それぞれ課題意識も違うし、状況も異なります。だから、どのスキルから身につけても大丈夫です。
高橋: やはり最初の2つ、「想定する力」と「段取りする力」ですね。これは世界観をつくるスキルですから。
「想定する力」とは、どのような反論や疑問が返ってくるかをしっかり洗い出して想定し、どうなったらゴール達成かをシミュレーションするスキル。そして「段取りする力」は相手の発言を引き出して、双方向のディスカッションになるよう進めながら、資料やアジェンダの組み立てに落とし込むスキルです。この2つができていれば、あとがスムーズに進みます。
「想定する力」では、相手が動いてくれない原因となる4つの壁について書いています。「関係性の壁」「情報整理の壁」「思い込みの壁」「損得勘定の壁」です。
これらの壁が疑問・反論になって表現されるわけですが、人によって得意・不得意が分かれるところがあります。たとえばロジカルシンキングに頼りすぎる人は、理解を深める「関係性の壁」をなかなか乗り越えられなかったりしますし、理解を深めるのは得意だけど話をうまく整理できない人は「情報整理の壁」につまづきがちです。人によって強化ポイントが変わってきます。
高橋: この類の本は、「営業術」「上司の動かし方」「メンバー指導術」「交渉術」といった具合に、別々のテーマで書かれることが多いです。しかし、その裏に通っている本質は共通しているというメッセージをこの本で書いています。
高橋: まずは相手との関係性が深まるという点があげられます。最初は意見を異にしていた人との衝突を乗り越えることで、結果として大事な体験を共有でき、仲間が増えるということになります。
さらに、「共に創るディスカッション」を続けていくことで、仕事の影響範囲が広がります。これまで自分と異なる意見を持っていた人と関係を築けると、周囲にいる人の層が必然的に変わります。相手を打ち負かそうとする人よりも、他者と一緒に良い結論を出そうとする人の方に、共感は集まってきますね。結果として、不信をむき出しにしてくる人と無理に付き合わず、気持ちよく仕事ができる人と付き合えばいいようになります。
具体的には、社内で物事を進めやすいネットワークができたり、営業の方でいえばお客様の質が良くなったりします。商品やサービスの価値を理解して買ってくれるお客様が増えれば、価値を理解しようとしないお客様と無理に付き合わなくても、売上が作れるようになるはずです。
また、周りの人の層が変わってくることで、自分の内面も変わってきます。自分が正しいと主張して相手を論破するより、多少の意見の食い違いがあっても乗り越えて一緒に創っていったほうが、一段上のリーダーシップを発揮できるようになります。やっぱり、ついていくなら懐が広い人の方がいいですよね。そういうところも本書の内容につながってきます。
高橋: はい。次に起こる変化は、自分の内面の弱さをさらけ出しても大丈夫な状態になることです。「心理的安全性」という言葉が流行りましたが、内面の弱さを外に出すことが怖くなくなると、生きるうえでの安心感が出てくると思うんですね。
「自分は仕事ができると証明しないといけない」「みっともないところを出してはいけない」と思いながら仕事をするより、「自分は完璧ではない」とオープンにしながら仕事できたほうが、心は病まないはずです。自然体で仕事に取り組めるようになるので、もともと備わっていた「良さ」や「強み」がより出てきます。
高橋: そうです。無理に自分らしく生きようとせずとも、「共に創り出す力」を上げていけば、自然と自分らしい人生に近づきます。
高橋: 「人に動いてもらうこと」に自信がある人は、意外と少ないと思うんです。多くの人は、「相手が動いてくれないのではないか」という不安を持っているはずです。それはしばしば、「過剰な準備」や「無理な論破」につながりがちです。相手からの疑問や反論は悪いものではなく、むしろチャンスにつながるのだということを、不安を抱いている人に知ってほしいですね。それを分かってもらえれば、仕事に対するものの見方が変わるはずです。
また、今の世の中、ビジネスパーソン向けに「言い方」指南の本がすごく増えていますよね。私は、「言い方」のさらに先の世界があると思っています。気持ちよく人に動いてもらうために、「言い方」だけではなく、本質を突き詰めて知りたいという人には、しっかりお答えできるのではないかと思います。
高橋: そうです。「相手に納得感を持って動いてもらうにはどうしたらいいか」を深めたい人は、特にこの本にフィットすると思います。
(了)
高橋 浩一(たかはし・こういち)
TORiX株式会社 代表取締役。東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で社員数70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで3万人以上の営業強化支援に携わる。コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略 オンラインとリアル ハイブリッドで勝つ』(ともに日経BP)を出版、シリーズ累計6万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)を出版。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。
著者:高橋 浩一
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)