子どもの脳を刺激し、将来の選択肢を増やす
「七田式」究極の読み聞かせ
著者:七田 厚
出版:幻冬舎
価格:1,430円(税込)
著者:七田 厚
出版:幻冬舎
価格:1,430円(税込)
今、日本の子どもや若者たちの読解力の低下が問題になっている。
経済協力開発機構(OECD)が進めている学習到達度の国際的な調査「PISA」の2018年版の調査結果が昨年12月に公開され、全79の参加国・地域中15位と、前回調査の8位からランクを大きく下げたことは記憶に新しいだろう。
では「読解力」を育むにはどうすればいいのだろうか。「七田式教育」の主宰者であり、教育者の七田厚氏は著書『子どもの脳を刺激し、将来の選択肢を増やす「七田式」究極の読み聞かせ』(幻冬舎刊)の中で、幼児期からの「読み聞かせ」の効果について言及している。
絵本や児童文学などを、親が子どもに読んで聞かせてあげる「読み聞かせ」。一体どんな効果があるのだろうか。
「読解力」とは「読む力+理解する力」のこと。文章を読むことはできても、理解できていなければ、読解力とはいえない。しかし実はこの力は子どもにとって「高度なテクニック」だと七田氏は言う。そもそも読むことと理解する力はまったく別。その2つを同時に求められるため、読むことに集中してしまうと、理解が追い付かなくなるのだ。
そこで「読み聞かせ」だ。「読む」ことを代わりに親がやることで、内容を理解することだけに集中できる。
また、七田氏いわく、子どもは読んでもらえば2学年以上の理解力があるとされており、小学1年生でも3年生向けの内容までなら理解できる力が、平均的に備わっているという。幼い頃から読み聞かせをすることで理解力を上げることができれば、「教科書を読みながら理解する力」をすでに備えた状態で小学校に入学することができるのだ。
他にも「読み聞かせ」で期待できる効果がある。その一つが「自己肯定感」の向上だ。近年、自分らしい人生を生きていくために必要な力として取り上げられている「自己肯定感」。それが「読み聞かせ」を通じて育むことができるという。
その理由は、父親や母親が読み聞かせをすることで、「自分のことを受け入れてくれている」と感じられるから。「この本を読んで」と子どもが言い、親が「いいよ」と応える。それは自分の要求を親が受け入れてくれたということになり、愛情を感じるのだ。
これは子どもに弟や妹ができたときに特に有効だ。下の子に手を焼いてしまい、上の子の世話がなおざりになってしまう。そんなときに、上の子に読み聞かせをしてあげると、その時間は、上の子どもが親を独占できる。七田氏は子どもに「時間を割く」ということが大切だと指摘する。「時間を取ってくれた」が子どもに満足感を与えるのだ。
◇
本書では読み聞かせの力の他にも、読み聞かせを習慣にする方法、どんな本が読み聞かせに向いているのかといったことを説明している。さらに圧巻なのが、「子どもが喜ぶオススメ本63冊」だ。
ちょっとしたゲーム感覚で楽しめる『ぜったいにおしちゃダメ?』や、親子で一緒に読み進める参加型絵本『とらさんおねがいおきないで』、おでんがテーマのしかけ絵本『へんなおでん』など、近年刊行された絵本を中心に、幅広くピックアップされている。
親子のコミュニケーションになる「読み聞かせ」。絵本一冊あればできるので、ぜひ実践してみてほしい。
(新刊JP編集部)
■子どもの能力を読み聞かせが引き出す。その6つの力とは
七田: この本は、自分の教育の経験を踏まえて書かせていただいていますが、実は読み聞かせの効果について私自身最初から分かっていたわけではなく、子どもたちを本好きに育てたいという目的があって読み聞かせをしていたんです。
七田式の創始者であり、私の父でもある七田眞が「子どもを読書好きに育てたら親の仕事の半分は終わりだ」と言っていましてね。それはどういうことかというと、七田式教育の考え方の中に「才能逓減の法則」という理論がありまして、人間が持って生まれた才能が100だとすると、年を重ねるごとに少しずつ逓減していくというものなんですが、早い段階から才能に対して働きかけをすることが大切なんです。
若かりし頃、病を患っていた父は闘病中に教育の理論と実践について書かれた本を読み、この「才能逓減の法則」に出合い、閃いたわけです。病気が治ったら、この研究をしようと。その後、さらに別のある本と出合って自分なりの健康法を実践し、一命を取り留めて、結婚し、私が生まれるわけですが、そうした経験から父はどんな本と出合うかが人生を決めると悟っていたんだと思います。
七田: 子どもに小さい頃から本を読んであげて、本好きに育てる。そうすると、自分が亡くなったあともきっとこの子は本に救いを求めるだろう。良書との出会いがこの子を助けてくれるだろうと。そうした意味でその言葉を言ったのだと思います。このことを私も最近気づいてきました。
七田: 絵本の読み聞かせによって身につくことはたくさんありますが、今回は6つの力をご紹介しましょう。
まずは「語彙力」ですね。語彙が増えると表現力が豊かになり、人間関係も良くなる。言葉足らずで人を傷つけてしまうということがなくなるし、これは良いけどこれはダメというようなグレーの部分を表現できる言葉も見つかります。
七田式教育では、絵が書かれたフラッシュカードを使って右脳を鍛えたりするのですが、カードで見せるものってだいたいは名詞か形容詞なんです。一方、絵本には副詞をはじめ、絵に表現しようのない言葉たちがたくさん載っています。だから、どんどん語彙や表現力が深まっていくわけですね。絵本をたくさん読んであげると、これから必要だと言われている思考力の基礎が高まっていくので、読み聞かせは非常にいいんです。
次は「イメージ力」です。アニメや動画も子育てには使われますが、絵本は動画と違って絵が動いていないので、自分の想像力で場面をつないでいかないといけません。また、親御さんが絵本を読むとき、1人で何役もこなすと思いますが、子どもは頭の中で別の人だと認識しながらそれを聞いています。
七田: そういうことです。今やイメージする力はトップスポーツや医療など、さまざまなところで活用されています。例えばフィギュアスケートの羽生結弦選手は試合のために移動をする国際線の飛行機の中で、試合の日の一日の流れをイメージしていると聞いたことがあります。そのイメージが成功を手繰り寄せるわけですね。
まずは絵本のストーリーをイメージできるようになり、そこから自分が上手くいくイメージ――ピアノの発表会で間違えずに弾けるとか、入学試験で日頃の成果を発揮できるというように、発展的に使えるようになるのは、やはり読み聞かせの力ではないかと思いますね。
3つめは「読解力」です。私は、この読解力というのは幼児、あるいは小学生時代に身につけることができる力だと考えています。読解力って要は内容を理解する力ということですが、小学1年生のお子さんにとって実は文章を読みながら理解することって、とてつもなく難しいことなんですよ。
ピアノを弾きながら歌うとか、ギターを弾きながら歌うって、楽器を修得するよりもさらに難しいですよね。一握りの人しかできない芸当です。実は、読みながら理解するって、それと一緒なんです。読み始めの頃って文字を追うのに必死で、何が書いてあるのかまでは追いついていません。
ただ、読み聞かせをすることで、自分で読まなくてもいいので、文章の理解に傾注できるため、どんどん内容をイメージしながら理解できるようになります。それに理解するだけなら、絵本に書いている推奨年齢の2歳上程度くらいならできると言われています。だから、幼児期から読み聞かせをしていれば、自然と自分より上の年齢向けの本が理解できるようになり、小学校入学時には、教科書を読みながら理解する能力をすでに備えた状態になっているということがありますね。
七田: そうですね。そして、4つめの力です。これは提案になりますが、どうせ読み聞かせをするなら「集中力」や「聞く力」を育てませんか? ということです。
つまり、お父さんお母さんが絵本を読んでいる間に、子どもに質問をさせない。分からないところは、読み終わったら教えてあげる。それを事前に言っておいて、相手が話しているときは口を挟まないという習慣を読み聞かせを通してつけていく。黙って親がする話にじっと傾聴できる。それによって集中力が磨かれます。傾聴する時間は年齢プラス1分と言いますが、4歳くらいの子でも6~7分の話が聞けるように育ちます。
また、今は少子化傾向もあって一人っ子も多いですけれど、兄弟げんかをしたことがない子って、我慢するとか謝るといった経験もしづらいですし、兄弟の関わりから学べるものも学べない。そういうときは絵本を読んであげて、主人公や登場人物の行動や言動を通して疑似体験をさせてあげるんです。
その意味で育っていくのが、5つめの力である「コミュニケーション能力」ですね。
七田: これが一番の絵本の読み聞かせのメリットになりますが、読み聞かせは親の愛情を感じ取ることができるコミュニケーションタイムなんです。絵本の読み聞かせって片手間にやるものではないし、しっかりと子どもと向き合ってやるものだと思うんですね。私の時間をあなたにあげる、といった具合に。
だから、読み聞かせをされている子どもは、自分は大事にされている、愛されているという感覚を持てると思うんです。こうして自己肯定感が高まるわけです。
七田: そうですね。
■絵本選びのコツ。たまには子どもの興味が向いてないジャンルの絵本を選ぼう
七田: そうですよね。自分が子どもの頃になかったような仕掛け絵本をはじめ、いろいろなスタイルの絵本が出ていて感心します。
七田: 実はここで紹介している絵本は、七田式から出している子育て情報誌『夢そだて』の中で、私が紹介した絵本を引っ張りだしてきたんです。さらに、ここにある絵本は全部、自分が書店に行って探してきたもので、出張などで全国を飛び回る際に地方の書店で絵本を吟味したりしますし、取り上げる絵本はかなり考えていますね。
『夢そだて』の読者アンケートでも「絵本のチョイスが良いです」という声をいただくことがあって、そういう声を聞いてさらに良い絵本を選ぼうと本腰を入れるという感じです(笑)。そういえば、読み聞かせをするお母さん自身が物語に感動してしまって、涙で最後まで読めませんでしたという声をいただいたこともあります。
七田: そうなんですよ。登場人物に感情移入して読み始めたら、ぐっと込み上げてくるものがあったそうです。かく言う私も、実はそういう経験をしたことがあります(笑)。読み聞かせている立場ではありますが、あまり気持ちを入れ過ぎると、自分自身がやられてしまうということってありますよね。
七田: 子どもが興味を持っている絵本、「この本読んで!」って言ってくる本を読んであげてほしいです。場所や費用の問題もあると思うので図書館も大いに利用しながら、でも子どものお気に入りの絵本はいつでも手にとって読めるようにすべきなので、子ども用の本棚を作って購入して、繰り返し読むといいと思います。
あとは、ときどきは子どもが絶対に選ばないような絵本を読んであげてください。それはなぜかというと、子どもの世界は親が広げてあげないと広がらないんです。例えば子どもに「将来何になりたいの?」と聞いても、その子が知っている職業の中でしか選べません。だから、知らない世界がいっぱいあることを、親自身が子どもに見せてあげることが必要です。
星座の神話について書かれた絵本を読んであげれば、もしかしたら星座に興味を持って、プラネタリウムに行こうという話になるかもしれない。絵本や図鑑を使って子どもの興味や関心を広げていってほしいです。本当はいろんな場所に連れていくといいのでしょうけど、コロナ禍で外に出にくいですからね。こういう時こそ絵本を大いに利用して、親が子どもにどんどん新しい興味を提案してほしいです。
七田: 児童書は絵本よりも難しいですよね。登場人物も増えますし、状況設定も細かくなります。その把握ができるまでは難解で退屈なものという印象を持たれてしまうかもしれません。だから、絵本と児童書の境目にあるような本、例えば『かいけつゾロリ』シリーズを挟んだりするといいと思います。
七田: 幼児期のお子さんを持つ親御さんはもちろん、小学生の子どもがいる親御さんにも読んでほしいですね。ぜひ、この本の内容やブックリストを読み聞かせをするときに参考にして欲しいと思います。
読み聞かせを毎日30分以上する必要はなくて、続けていくことが大事だと思っているので、1日3冊15分とかでも全然いいんです。日常のワンシーンに読み聞かせを組み入れてもらえればいいですね。
また、読み聞かせを自分の子だけでなく、ボランティアとしてよその子にもされている方がいらっしゃいますが、献身的に読み聞かせをすることでこんな効果があるんだ、こんな本があるんだということを知ってもらえるとありがたいです。
七田: 絵本を子どもの身近な存在にしてほしいと思います。読み聞かせって子どもにとっては受け身的な感じに思えるかもしれないけれど、絵本がいつもそばにある環境を子どもに作ってあげることで、いろいろなことに興味を持たせることができるし、どんどん語彙力やイメージ力といった6つの力を育てることができます。
なので、特に3歳くらいまでのお子さんには、スマートフォンで動画を見せるよりは、絵本と親しませてあげてください。それが生きていくうえで大事な力を養うことになりますから。
(了)
七田 厚(しちだ・こう)
七田式の創始者七田 眞の次男。1963年島根県生まれ。東京理科大学理学部数学科卒業。
1987年より株式会社しちだ・教育研究所代表取締役社長。七田式主宰。2006年東久邇宮記念賞受賞。七田式教室は国内だけでなく、台湾、シンガポール、マレーシア、アメリカ、インドネシア、タイ、オーストラリア、香港、中国、カナダ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア、イギリス、ルーマニアなど世界に広がっている。
主な著書に『忙しいママのための 七田式「自分で学ぶ子」の育て方』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『七田式 子どもの才能は親の口グセで引き出せる!』『七田式頭が鋭くなる大人の算数ドリル』(ともに青春出版社)、『できる子が育つ 七田式 親子あそび33』(徳間書店)、『お父さんのための子育ての教科書』(ダイヤモンド社)などがある。
著者:七田 厚
出版:幻冬舎
価格:1,430円(税込)