「グチ活」会議
社員のホンネをお金に変える技術
著者:仁科 雅朋
出版:日本経済新聞出版
価格:1,500円+税
著者:仁科 雅朋
出版:日本経済新聞出版
価格:1,500円+税
「上司の言うことがコロコロ変わって、振り回されるのがストレス」
「残業時間を減らせと言うわりには仕事の量が減らない」
などなど、誰にでも職場への不満の一つや二つはあるはず。だけど、それを自分の上司や経営者に面と向かって言えるかといったら、おそらく言えない人の方が圧倒的に多いだろう。
だから、居酒屋で同僚に、自宅で家族に、あるいは身元がバレないように注意しながら、SNSでその不満を吐き出す。これが「グチ」である。
こうした経緯を考えると、「グチ」は自分が勤める会社や組織に対するいつわらざる「ホンネ」であって、よくよく見てみると、その中にはその組織の問題を改善するヒントが隠されているはずなのだ。しかし、グチは一般的に悪いことだとされていて、言うと自分の評価を落とす。だから、みんな社内では口にしない。
『「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術』(日本経済新聞出版刊)は、社員たちの秘めたるグチをすくい上げ、企業や組織の改善と業績向上に生かすための一冊。
著者で組織改革コンサルタントの仁科雅朋氏は「愚痴には必ずその組織の本質が隠されている」として、企業が社員のグチを活用することで業績は向上すると断言。そのための方法を明かしている。
先述の通り、仁科氏が「グチ」を有用だとしているのは、そこに組織改善や業績向上のカギが隠されているからだ。問題はそのグチが、居酒屋や家庭など「オフレコ」の場から外に出ないこと。これではたとえ経営陣が組織の改革に前向きだったとしても、社員の本心を知ることはできない。ならば、「グチは悪いこと」だという思い込みを捨てて、普段から立場の上下や状況に影響を受けることなく、グチ(ホンネ)を言い合える組織にすることが、組織改革には必要なのだ。
そのための方法として、仁科氏が提唱しているのが「グチ活」会議である。
これは会議室や社外の研修センターなどクローズな場所で4~6人ほどで思う存分グチを発表する会議。
あくまでも組織の改善が目的なので、グチは発言するのではなく、付箋に書くことで記録しておき、問題点の洗い出しと解決の優先順位付け、解決のための計画策定というのが大まかな手順になる。
もちろん、この会議では年齢も役職も関係ない。思っていることを、誰にもおもねることなく発信することが何より大切となるため、守秘義務の徹底や人事評価に影響しないという確約、会議で出たグチを口外しないという保証などはマストだし、ホンネを言いやすい空気づくりや、グチを言うことで自分にプラスになるというイメージを持ってもらうことも大切な要素である。
とはいえ、これまでホンネを言えない風土だった会社が、会議だからといって急にホンネを言えるようになるとは限らない。一回だけでなく、二回目、三回目と繰り返し行うことで、徐々にホンネを出しやすい風土を養っていくことが必要かもしれない。
◇
会社で自分のホンネを言いにくいのだとしたら、普段の会社で行っているコミュニケーションは、会議の発言も、業務改善の意見も、部下への指導も、「タテマエ」ということになるし、ホンネで言い合える人間関係を築いている方が、組織としても強い。
グチを引き出すことで業績アップにつなげる手法や「グチ活」会議の詳しい手順など、本書から自分の会社や組織をいい方向に向けるヒントを学んでみてはいかがだろう。
(新刊JP編集部)
■社員の「グチ」を解放せよ 組織の生産性向上を実現する「グチ活」とは?
仁科: 私は組織改革コンサルタントとして活動しているのですが、この仕事を始めてから、自分で「しっかりやれるようになったな」と思えるようになるまでに結構時間がかかっていて、いろいろと失敗をしているんです。
その一つなのですが、ある大手食品会社の営業部の売上を上げるために組織改革をするというプロジェクトを何人かのコンサルタントで担当することがあって、私はそのなかの3チームを担当していたんです。1チーム4人ですから全員で12人、みんな大手の社員だけあってすごく優秀なんですよ。私が「こうしよう」と提案したことをすぐに資料にまとめてくれましたし、書面や資料の提出などは非常に早くて上手でした。
仁科: そうです。だから営業チームの改革にしても、ある程度のことはしっかり実践できているのかなと思っていたんですね。でも、3ヶ月後にそれぞれのチームで進捗報告をしたら、私が担当している3チームだけ、まったく改革が進んでいなかったんです。
仁科: 資料を作っただけで、実践はまるでされていなかったんです。うまくいっていると思っていたのは私だけで、実務レベルでの改善は何もされていませんでした。
営業部のプロジェクトですから、その進捗報告を営業部長クラスの方々も見に来ています。当然、私たちの報告にはかなり厳しいコメントをいただきました。
仁科: 建前の資料を作っていたということなんでしょうね。大手の文化として「こういうことになっています」「こういうことに取り組んでいます」という「やっています感」を出す報告書を作るのはみんなすごく上手なんですけど、本心で納得して取り組んでいるかというと、それは別問題じゃないですか。
仁科: そうです。私もショックでしたから、その報告会が終わった後で3チームのメンバーを集めて「もうやめましょうか」と言ったんです。
メンバーと意思疎通ができていなかったのですから、コンサルタントとしての自分の力不足は認めないといけません。だけど、メンバーの方にプロジェクトに対するやる気がないなら、お互いに時間の無駄になってしまうので、それはやめましょうと。
そうしたら、「他の業務で忙しい」とか「クレーム対応に追われていてそれどころじゃなかった」とか、そういうメンバーの「本音」が出てきたんですね。こちらからしたら「それを最初に言ってくださいよ」という感じなのですが(笑)。
仁科: そうした本音をお互いに理解したうえでやると、メンバーたちのモチベーションが違うんです。
実際、本心を言い合えるようになってからプロジェクトは進むようになりましたし、結果的に営業部の売上も上がりました。最初から本音で語れるような状態にしないと、組織の改革はできないと思いました。だから、今は「グチでも誰かの悪口でもいいから、何でも言ってください」と最初に話しています。これが、この本で書いている「グチ活会議」が生まれたきっかけです。
仁科: 一つは、組織で上位にいる人にとって、部下からグチや不満を言われるのは、自分が攻撃されたり否定されたように感じやすいというのがあります。
そもそも、上司といっても社長じゃないかぎりは、不満を言われたってどうにもできないことが多いじゃないですか。だから部下からのグチや不満に自己防衛本能が働いて「俺に言っても無理だよ」となってしまう。これでは部下も言えないですよね。
上司の方も「俺には無理だから」と認めたうえで、どうすればいいか一緒に考えようという方向に持っていければいいんでしょうけど、なかなかそうはならないのが実態です。
仁科: 「無能な人間」だと思われたくないというのがあるんでしょうね。ビジネスというのは、基本的には成長発展させるのを目的としてやっているのが大前提としてあって、それに貢献するために雇われているというのはみんなわかっているので、後ろ向きな発言はしにくいんだと思います。会社の中では特にしにくいから、みんな居酒屋でやる。
仁科: 程度もありますけど、共通するところだと思いますね。日本人の気質としても、あまりネガティブなことは言いたがらないんだと思います。特に私はコンサルタントですから、トップからの依頼で現場に入ることが多いわけで、やっぱり最初は警戒されますね。
仁科: そこは組織人の習性で、「許可」が必要なんです。いきなり本心を話せと言ってもなかなか話さないものですが、誰かから「グチも不満も言っていいですよ」と許可をして、どんなことを言っても人事評価には影響しないし、守秘義務があるから許可なく発言を公開することはない点を保証すると、徐々にではありますが、話してくれますね。
仁科: その通りです。経験上、不満や鬱憤が溜まっているグチほど、組織をいい方向に向けるパワーがあります。だから、社員が不満を溜め込んでいる時は組織改革のチャンスです。ただ、グチが「諦め」になっている場合は、組織を変えようと思っても時間がかかりますね。
仁科: もちろん、経営者の方々にも読んで欲しいのですが、立場にかかわらず読んでいただける本になったと思っています。会社で業績向上のための施策を実務レベルで担っているのは管理職の方々にも、若手社員の方にも役立つことを書いたつもりなので。
■社員が「ホンネ」を言える組織作り 経営側が考えるべきこと
仁科: 同じ人員で翌年の売上を伸ばそうと考えたら、今いる従業員が成長させないといけません。今の従業員が成長したぶんだけ業績が上がるというのと、成長の原動力はモチベーションだというのをまずわかっていただきたいと思います。
そしてモチベーションを高めるためには「言いたいことがあるけど言えない」という状態は良くなくて、不満や考えていることを出させないといけません。というのも、言いたいことを溜めている状態で仕事をすると「やらされている感」が出てしまうので。
この本で解説している「グチ活」は、グチを出して終わりではなくて、そのグチによって組織の問題を炙り出して、解決して、最終的に個人と組織の生産性を高めて業績の向上に結びつける取り組みです。グチは目的ではなくて「始まり」なので、組織のボトルネックを見つけて、解消するために試してみていただきたいです。
仁科: グチそのものの違いはあまりないのですが、大企業の方がそのグチを組織の改善につなげやすいというのはあります。というのも中小企業は、いわゆる「オーナー企業」が多いんですよね。
そういうところのオーナー社長は、自分のリーダーシップがあってここまで会社を引っ張ってこれたという自負がありますし、実際カリスマ性がある方も多いんです。だけど、そういうところだからこそ、社員からすると言いたいことがあっても言いにくいんですよ。
仁科: そうですね。実際現場に入ってみると「オーナーには言えないけど・・・」といってたくさん意見が出ます。
ただ、問題意識を持っていたとしても、一人では言いにくいというのは組織の規模関係なく同じなのでそれを「みんなの声」にまとめるというところで外部の人間は必要なのかなと思います。
仁科: そうですね。だからこそ、上司や経営者はその不満やグチについてのジャッジをしないで聞いていただきたいです。いったん相手の言い分をすべて聞いて、じゃあどうやって問題点を解決していこうか、と聞くと、グチや不満を言った相手も他責思考だけではいられなくなるので。
仁科: 確かに、上の人から「意見を言え」と言われても、当然みんな忖度した答えしか書かないですよね。
僕だってコンサルティングに言った会社でいきなり「このチームの問題点を教えてください」と言ってもなかなかみんな本当に考えていることは言いません。そこはハードルを下げないといけなくて、「グチでも悪口でもいいので何でも言ってください」というと、結構みんな思っていることを言ったりします。
仁科: 業種にもよりますが、多くのケースでは三カ月ほどで変化は出てきます。というのも、グチや不満が持っているエネルギーにはものすごいものがあって、それが解消された時は大きなパワーが出るんです。グチや不満の中には組織のボトルネックに直結するものが含まれていて、それらに対処することでボトルネックが外れるんですね。
業績というのは曖昧な表現ですが、売上アップやコスト低減、生産性向上のどれかを業績アップというのであれば、「グチ活」で組織の問題点を見つけ出して、その問題を対処するためのPDCAを回し続ければ必ず業績は上がります。
仁科: 大きな話ですが、「グチ活」が日本企業の生産性を上げる一助になればいいと思っています。繰り返しになりますが、組織の生産性を決める一番の要因は、働く一人ひとりのモチベーションです。「この会社で働いていれば自分の可能性は拓ける」「ここにいれば自分は成長できる」と思えればみんながんばって働くわけで、そのためには自分も言いたいことを言えて、まちがったことはまちがっていると言ってもらえる組織にするのが一番なんです。そういう組織を作りましょうということを言いたいですね。
一方で、「グチ活」といっても、従業員が上司や経営者に言いたいことを言える組織にすればそれでいいということではありません。上司や経営者から見て、従業員の至らない点もたくさんあるはずです。だからこそ人材育成が必要で、人材育成をやっているからこそ「グチ活」も生きてきます。この両輪を意識して、生産性の高い組織にしていただきたいです。
(新刊JP編集部)
仁科 雅朋(にしな・まさとも)
株式会社ジーンパートナーズ代表取締役
1966年生まれ。東京都町田市出身。中央大学法学部卒。
大学卒業後、大手食品会社に就職。営業部に配属となり、戦略的商品のシェア拡大により入社最短年数で社長賞を獲得。
1997年、31歳で独立起業。企業研修の営業からスタートし、2005年、当時最大級の2500人規模の新入社員研修を100社の競合を押さえて受注。その後、人材育成のHR部門から営業部門の業績支援に移り、組織変革コンサルタントとして数々の企業変革に携わる。
20年のコンサルティング実績は業種を問わず、10億円の中堅企業から1兆円を超えるグローバル企業までと幅広い。業績向上を狙いとした「本音を語れる組織づくり」を組織変革のベースとしている。
国際コーチ連盟認定CPCC(Certified Professional Co-Active Coach)、ダイヤモンド社認定アクションラーニングコーチ。『グチ活』は商標登録申請中。
著者:仁科 雅朋
出版:日本経済新聞出版
価格:1,500円+税