AI分析でわかった
トップ5%社員の習慣
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,500円+税
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,500円+税
テクノロジーの発達や価値観の変化、働き方の根本から見直しの中で、「評価される人」の基準が変わってきている。
これまでは、実直に実行できる人が評価されてきた。そこでは、自分を評価する上司に取り入る能力が必要不可欠だった。しかし、今はそうではない。同僚や関係者からも厚く信頼され、公平な評価制度のもと、定量的な目標を達成できる人材が、「評価される人」になっている。
元日本マイクロソフト役員で現クロスリバー代表の越川慎司氏は、こうした「評価される人」たちの働き方や習慣を調査すべく、クライアント企業25社に協力を仰ぎ、人事評価「上位5%」の社員9,142人と、「それ以外の95%」の社員約8,827人の行動や発言を記録。AI分析を用いて、「5%社員」と「95%社員」それぞれの共通点を抽出した。
それを一冊にまとめたのが『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)だ。本書を読むと、「5%社員」と「95%社員」の間には大きな差があることが分かる。その差とは一体どのようなものなのか、少しご紹介しよう。
「5%社員」と「95%社員」の差を明確にしているものの一つは、「量よりも質」という姿勢である。例えば、「95%社員」は資料を作成するにしても、必要そうな情報をとにかく詰め込み、膨大な量の資料に仕立て上げる。しかし、「5%社員」の作る資料はいたってシンプル。資料作成にかける時間も「5%社員」の方が20%少ない。
越川氏の調査によれば、役員会議を1時間開催するのに、現場の社員たちは70~80時間かけて準備をし、その65%は資料作成に費やされていたという。だが、これだけ苦労したのにも関わらず、その資料の23%はめくられもしなかった。
ここに生産性の低下を引き起こす「作業の無駄」が発生している。「95%社員」が考える「重要そうだ」「必要だろう」といったことの多くは、実は思い込みであることが多く、「入れておけば安心」という個人的な感情だけが存在しているのだ。
また、同様に完璧を求めすぎるということも生産性低下を招く。確かに準備を完璧にすれば安心感を得られるが、その分、かなりの時間を取られてしまうだろう。一方、実は「5%社員」は、完璧を求めずに、8割程度の完成度で動き出し、反応を見ながらチューニングしていくスタイルを取っている。PDCAを回すサイクルが早いのだ。
さらに、あえて小さな失敗をする「5%社員」もいるという。「5%社員」が重視しているのは、一発の成功や失敗ではなく「再現性」だ。小さな失敗を上手に経験していき、どのようなパターンになると失敗するのかを知っておくことで、大きく動く時のリスクを最小限にとどめられることを知っているのだ。
「再現性」を見つけられることは、評価されるための重要なポイントである。その人のスキルや能力となるからだ。例えば、パワーポイントの資料作成において、「この部分を抑えておけば」という勘所を知っておけば、余計な情報を集めたり、データを載せたりするなど、無駄な時間を費やさなくてもよくなる。
生産性向上とは「より短い時間でより大きな成果を出し続ける」こと。短い時間の中で、常に成果を出し続けられる人材こそが、今の「評価される人」であり、「5%社員」ということになる。
そして彼らは習慣として、成功をしても、失敗をしても、必ず振り返りをして、「どうしてこうなったのか」と原因を把握し、もっと良い方法はないかを模索する。これができなければ、「再現性をもった人」ではなく「同じことしかできない人」になってしまう。安定して成功し、成長し続ける人こそが、「5%社員」たりえるのだ。
◇
「5%社員」は能動的で、意欲的で、無駄を嫌い、そして目的のみを見ている。誰かの顔色をうかがうことなく、失敗を恐れることもない。むしろ、失敗は成功するための実験ととらえている。そんな像が浮かんでくる。
「95%社員」からすると、こうしたスーパーな人材になるのは難しいと思うかもしれない。しかし、本書に書かれている「5%社員」の習慣を少しずつ取り入れていくことで、少しずつ近づいていけるはずだ。
働き方改革が叫ばれて約5年。そして、このコロナ禍で、自分の働き方について考え直した人も多いだろう。価値観の大きな変化が起きている中で、評価される人材の定義も変わりつつある。今こそ、「5%社員」の習慣を身につけ、生産性の高い仕事をしていきたいものだ。
(新刊JP編集部)
■「5%社員」は常にギャップから考えている
越川: 多くの会社の評価査定はSABCDなどの5段階評価で、20%くらいの人は最上位評価を得ています。ただ、トップ評価の中でも突出した成果を残している、いわゆる「SS級」の方っているんですよ。
それは例えば、1年だけ突出した成果を上げているというわけではなく、売上目標を3年続けて200%達成している人ですとか、社内異動をしても全く評価を落とすことなく高いパフォーマンスを維持できている人です。ジョブ型雇用にシフトする中で、人柄や上司に好かれるといった評価基準ではなく、安定して最高評価を受けていて、社内外から認められる人を抽出しました。
越川: そうですね。執行役員、管理職、一般社員分け隔てなく抽出しています。ただ、成果の出し方というのは職能や職責によって違っていて、評価されにくい人も中にはいます。例えば、労働時間や売上を管理するようなタイプのマネージャー職は評価されにくくて、評価されやすいのはリーダー職だったりします。
特に「5%社員」に当てはまるリーダーは、常に未来を見ていて、今年だけでなく、来年再来年も目標を達成して行き続けられる人たちです。
越川: この調査では、対面・リモートによるヒアリングやWebアンケート、定点カメラなどでの行動分析を「5%社員」9142人、それ以外の社員8827人行い、そのデータをAIで分析しました。そこで分かったことは、「5%社員」は聞き上手で、変化に対して柔軟に対応できるという共通点がありました。常に変化を感じ取っていて、それに対応しようとする姿勢を持っているんです。
越川: 彼らの言動を分析すると、意識が社内ではなく社外に向いています。仮に人事や経理といったコーポレート部門であっても、社内の閉ざされた環境にこもるのではなく、社会全体を俯瞰し、アンテナ高くして情報収集を行い、自分の業務に生かそうと努力しているんです。
越川: そうですね。私自身ヒアリングを行ってみて、「5%社員」は惹きつけられるような方が多かったです。話していると心地よくなるんですよ。私がヒアリングする側なのに(笑)。コミュニケーション能力が非常に高いのでしょうね。
また、私たちの調査に対して興味を抱いて、他社の「5%社員」はどういう人たちなのかということをすごく聞かれました。面白かったのは、その時に彼らは自分との共通点を探るのではなく、「自分との違い」を探しているんです。つまり、自分にはないものを吸収しようとしていたわけですね。
常に「ギャップ」を意識していて、自分にプラスになることはないかという貪欲な視点で物事を捉えてくる姿勢を感じました。
越川: そうです。皆さん、最も嫌なことは「思考停止に陥ること」だとおっしゃっていました。言われたことだけをやるとか、社内を上手く渡り歩いていけばいいという考え方はすごく危険であると考えていて、だからこそ、社内の常識に染まらないように、社外に対して常にアンテナを張って見ているように感じます。
■テレワークでも集中力を保つ「5%社員」の工夫とは?
越川: 私はマイクロソフトなどの外資系企業で働きましたが、そういった企業で評価される人は自己アピールが強い人が多いのは事実です。ただ、日本企業の場合は物静かな方が評価される傾向にあると感じました。話し上手よりも圧倒的に聞き上手の方が評価される。彼らは話を聞くときの頷きが大きいですし、ちゃんと最後まで聞くという姿勢が徹底されている印象です。
ヒアリングはコロナの影響で、マスクをしながらだったり、Zoomで行ったりということもあったのですが、とにかく大きく頷く方が多かったです。そこは先ほど話したように、ギャップを見つけて吸収しようという姿勢が行動に出ているのだと思いますね。
あともう一つ意外だったことがあります。生産性が高い人たちなのでマルチタスクで仕事を進めているかと思っていたんですよ。例えば、メールを打ちつつ、PowerPointで資料をつくって、Slackで反応して、ということを同時にやっているというような。
そうしたら意外とシングルタスクといいますか、一つの作業に集中をして、タスクを終わらせて、リラックスタイムを取り、また集中するという方が多かったんです。いわゆる「一点集中主義」ですね。
越川: そうなのだと思います。脳科学上では、人間は3つくらいだったらマルチタスクができると言われているのですが、それでもタスクを変える瞬間に若干集中力が落ちるんです。それを知ってか知らずか、「5%社員」は集中力を落とさないように意識しているんです。特に午前中の集中力がみなぎっている時間帯は、一点集中主義を徹底している感じでしたね。
越川: そうですね。この結果を踏まえて、私のクライアント各社で「キッチンタイマーをセットして、その間は集中して仕事をする」というルールを展開してもらいました。「締切り効果」もあり、成果が上がったと答えた人が67%もいました。これは特にオン・オフの切り替えが難しいテレワークに有効です。
越川: テレワークではセルフマネジメント力が求められますが、実は「仕事をサボりたい」「早く終わらせたい」と思っている「5%社員」って意外と多いんです。だから、意識的にタスクに締め切りを設けて、「あと30分は頑張ってこのタスクを終わらす。終わったらコーヒーを飲んでリラックスする」と決めて集中するんですよね。
つまり、「5%社員」は集中と緩和の切り分けを完全にコントロールしているんです。集中の邪魔にならないよう、TeamsやSlack、メールなどの通知設定を細かく設定していて、特定の人しかアラートが来ないようにするとか、雑談チャンネルはアラートが鳴らないようするみたいな工夫もしています。あとは自分の仕事の進捗と状態を外に向けて見えるように、集中したい時間はわざとオフライン状態にするみたいなことをしたり。
自分の名前のところに「越川@●時までプログラミング集中」と書いて、自分の状況を意図的に見せている点は特徴的でしたね。
越川: そういうことですね。ただ、その一方で、「5%社員」の中で、テレワークの休憩中にラジオを聴いている方が多かったのも興味深い事実です。
それはどういうことかというと、聞き流しができる点もあるのですが、ラジオパーソナリティーの言語化のレベルが高く、そこから説明の仕方や話し方を学んでいるんです。そこが「5%社員」のコミュニケーション力の高さに結びついていくのではないかと思います。
■「5%社員」は成功をするために、小さな失敗をわざと経験する
越川: これもコミュニケーション力になりますが、雑談力が非常に高いですね。とにかく話題の引き出しの数が多くて、一つのことを掘り下げるというよりは多趣味な方が多いです。情報に対する感度が高いし、良いと思ったらすぐにやってみるので、例えば「ハヤシライスにトマトケチャップを入れると美味しくなるよ」みたいなネタをポンと投げ入れることができます。
どんな話題にもちゃんと興味を示してくれるし、会話したくなる人と言えます。
越川: おっしゃる通りです。その最たる例がありまして、「5%社員」の59%は、失敗をわざと経験するということをしているんです。つまり、自分にとって難しいチャレンジを失敗前提で行って、そこから学びを得るということをしている。
もちろん失敗前提なので、実際に失敗しても大きなリスクにはならないようにしているし、成功するために材料を集めているような感覚なのだと思います。挑戦も「実験」だと考えていますし、失敗したけどラッキーというような感じです。
そして、彼らは「再現性」を重視するので、成果が出たときにはしっかり振り返って、こういうロジックでやれば上手くいく、こうすれば上手くいかないということをマニュアル化するんですよ。
越川: そうなんです。そういう力がすごいのが「5%社員」ですね。
越川: 「5%社員」の習慣や行動を聞いて「自分の意識を変えなきゃ」と思う人もいるかもしれませんが、「5%社員」は「意識改革なんてできない」と言っています。意識を変えるのが難しいから、まずは行動を変えている。
なので、身近にいる「5%社員」の行動を真似てみるというところから始めるといいと思います。その人のやっていることを一つ真似てみるとか、そういう実験を積み重ねていくとリスク少なく効果が出やすいのかなと。
あとは、「5%社員」は巻き込み力が高いのですが、それは普段から「ありがとう」という言葉をものすごく使っているんですよ。一般社員の3.2倍使っています。そういった、メンバーを認めるような動きをする。また、アウトプット重視なので、本を読んだら周囲に「この部分が良かった」と伝えたり、SNSやブログでちょっとした感想を書いたりします。だからインプットをしたら1行でもいいからアウトプットしてみると脳に記憶として定着しやすいのです。
■今後、「5%社員」はどう変わっていくのか?
越川: この調査を2年半ほど行ってきましたが、コロナ禍に入るまではそこまで変化はありませんでした。ただ、コロナ禍になってから「5%社員」の行動がすごく変わったように感じますね。
それはテレワークが様々な企業で導入されたことが大きいように思います。頷きが大きいという傾向もオンライン会議が普及した以後に見られる特徴ですし、雑談も出勤していたときは無意識にできていたものが、テレワークの中でその重要性に気付いて意識的に雑談をするようになった。だから雑談を盛り上げるためにネタを集めているところはあると思うんです。
越川: これは「5%社員」の方が言っていたのですが、出勤していたときは「おはよう」「元気?」といった挨拶が、雑談の役割の8割を果たしていたんですね。「おはよう」と声を掛け合うだけで、相手の調子とか状況を把握することができた。
でも、テレワークの場合はそれができません。雑談といっても中身が伴っていないといけないので、話すネタがある程度必要になる。そこでラジオを聴いてリラックスしながら勉強するというスタイルが出てきたのかもしれませんし、インプットをしたものを誰かに話す前に整理する意味でアウトプットをしているのかなと思います。
越川: 今、私が注目していることがありまして、528社に所属する人事責任者の58%が、評価制度を2年以内に変えると明言しているんです。評価がより成果主義に移行していくのではないかと考えているのですが、評価制度が変わるということは、これまでの「5%社員」が評価されなくなる可能性もあるわけです。その時に彼らはどのように動くのかということは確認したいです。
また、その一方でジョブ型雇用、成果主義に移行する中で、新たな「5%社員」が出てくると思います。例えば周囲を巻き込まずに一人で成果を出せる人は、今の評価制度だと突き抜けた評価にはなりにくいのですが、成果主義に移行するとそういう人も「5%社員」に入ってくる可能性がある。
だから、新たな人事評価制度が始まって、どういう人が新たな「5%社員」に入ってくるのかということは興味深いです。
越川: 「5%社員」「95%社員」限らず、この本を読んで成果を出し続けている社員と自分のギャップを見つけてほしいなと思います。この本に対して「自分、結構やってる」「(5%社員に)当てはまってる」という感想をいただくことがあるのですが、それだけではなく、自分がやっていないこと、当てはまっていないことを探してほしい。
本書で明らかになっている「5%社員」の行動や習慣はシンプルなものが多いですが、そこで出会うちょっとした気づきを自分の行動に活かしてほしいと思うんですね。
越川: そうですね。ただ、ギャップを見つけるだけでは、ただのインプットになってしまうので、どれか一つでも実践してみるということも重要です。意識を変える必要はなくて、まずは行動を変える。そこからではないかと思います。
おかげさまで本書を出版してから「読み終わってギャップを見つけて行動を始めました」という声をいただいています。行動に移した方々からはポジティブな声が寄せられていて、証券会社の方からいただいた「この本を読んだことを意識して新商品のプレゼンに挑んだら、全国で初めて受注が取れました」という声は嬉しかったです。偶然かもしれませんが、彼は本を読んでアウトプットしたわけですから、これからどんどん変わっていくのではないかと思います。そういう人が一人でも増えれば嬉しいですね。
(了)
越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役社長。株式会社キャスターAnywhere 事業責任者。
元マイクロソフト業務執行役員。
国内および外資系通信会社に勤務、IT ベンチャーの起業を経て、2005 年に米マイクロソフト本社に入社。2017 年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3 日・リモートワーク・複業で、支援した企業は600 社以上。
ムダな時間を削減し社員の働きがいを上げながら利益を上げていく「稼ぎ方改革」の実行を支援。
著書に『超・時短術』(日経BP)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)、『ビジネスチャット時短革命』(インプレス)などがある。
定額制オンライントレーニングサービス「Smart Boarding」にて特別講座を提供中。
メディア出演や講演多数。
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,500円+税