インタビュー
インターネットで展示会モールを再現!? 展示会営業®コンサルタントの狙いとは
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清永さんは主に中小企業に向けて展示会や見本市を使った営業の推進に取り組んでいらっしゃいます。まずは、営業に困っている中小企業が展示会に出展するメリットについて教えていただけますか?
清永:展示会は特定のテーマに関わる企業が集まり、ブースを出展します。そこに来る来場者もそのテーマに関心のある人になるので、まずは見込み客の選定がしやすい。さらに、その人たちがその場で五感を使って体験・体感できるので、自社商材の特徴や強みをアピールしやすいんです。
さらに知恵と工夫次第で、大企業のブースに負けない成果を上げることができます。中小企業が大企業に勝てる場所が展示会だと思いますね。
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ただ、昨今の新型コロナウィルス流行の影響で、多くの展示会は中止になっています。また、リモートワークが推進され、人と接することが難しくなる中で、そもそもの営業方法に悩まれる中小企業も多そうです。
清永:そうですね。展示会については出展を予定されていた企業からも戸惑いの声が上がっています。営業のやり方についてもいろいろな相談が私の方に寄せられています。
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清永さんはどんなアドバイスをされているのでしょうか。
清永:展示会に出展したいのにできなくなってしまった企業さんのために、まずは受け皿が必要ではないかと考えました。そこで、私の方で、有限会社ビディアさんと「中小企業 応援!WEB展示会プロジェクト」という企画を立ち上げることにしたんですね。
「インターネット展示会tv」というウェブ上で展示会の様子やブースのプレゼンを動画で配信する、ビディアさんが提供するサービスがあるのですが、そこと協力して「新型コロナウィルスなんかに負けない! 中小企業応援 WEB展示会プロジェクト」として展示会モールをウェブ上に作ってしまおうと。
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なるほど。動画配信というと、YouTubeで清永さんがレポーターとなって展示会に行き、様々なブースを訪ねる動画を見ました。自社の網戸の頑丈さをアピールする会社のブースでは、とんかちで網戸を叩いたりして印象に残りましたね。
清永:あっ!見ていただいたんですね。ありがとうございます(笑)。印象に残る動画づくりは、成果が出るブースづくりと数多くの共通点があります。単に動画を投稿するだけでは大したことにはならないかもしれないけれど、私の展示会営業®ノウハウを活かした動画なら大きな成果につなげることができるぞ、と。
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動画で効果的に自社商品のアピールをして、営業に結びつけることは可能と。
清永:はい。開催予定だった展示会か軒並み中止になってしまい、せっかく準備してきたのに悔しいというクライアントの声が、私のところにたくさん寄せられました。せっかくのその準備を形にできる場所をつくって差し上げたい、と考えて、「WEB展示会プロジェクト」という企画を思いついたんですね。
具体的には、各企業さんに自社の商品をアピールする動画を作っていただいて、それをインターネット展示会.tvというWEBモールに無料でアップするという形になるのですが、先ほども言ったように、印象に残る動画づくりをするにはコツがあります。単に普通に商品の説明をするだけでは印象は残りません。
そこで、この「WEB展示会プロジェクト」では、わたしの著書である『展示会のプロが発見! 儲かっている会社は1年に「1回」しか営業しない!』を教本にして、動画を作っていただくようにしています。また、私の方でインパクトがあり、成果につながる動画をつくるためのレクチャー動画を作成しているので、そちらも無料で提供します。
それらを元に自社や商品をしっかりアピールする動画を作ってもらうという形ですね。
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印象に残るブースと動画は共通しているとおっしゃっていましたが、視聴者に訴えかける動画の作り方のコツなどはありますか?
清永:これは、拙著『展示会のプロが発見! 儲かっている会社は1年に「1回」しか営業しない!』にも書きましたが、展示会の来場者やウェブの視聴者は、どちらも、ブースや動画を「ぼーっと見ている」と考えてください。真剣に見ていない。だから、こちらから熱心に説明をしても頭にあまり入らない。難しいことを言うとむしろ逃げていきます。だから、シンプルに分かりやすく、そしてインパクトを出すことが何より重要です。
そのためには、叩く、落す、殴る、飛ぶ、踏むといった、プリミティブなことをするとよいです。
たとえば、壊れにくい網戸があるとします。ブースや動画では、ついなぜ壊れにくいかという材質を語りたくなりますが、それでは印象には残りません。そうではなくて、その網戸を思いっきり、とんかちでガンガン叩んです。
私がお手伝いした企業さんでは、軽量パイプの強度をアピールするために、「踏んでみてください」というアトラクションを仕掛けました。そして、実際パイプを踏んでもらうと「あ、確かに、すごく強度があるじゃん」と実感します。言葉の説明だけだと理解してもらえないし、印象に残らないけれど、感覚があれば腹落ちするんです。
動画では視聴者に実際に体験してもらうことは無理ですが、視聴者の代わりに撮影者側が体験することで、その感覚を伝えることはできます。ぜひそうした工夫をしてほしいですね。
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なるほど。プリミティブな動きを含める。
清永:そうです。あともう一つ挙げるとすると、できるだけ双方向感があるといいですね。視聴者に一方的に説明するのではなく、インタビュアーを置いて、そのインタビュアーが見ている人の疑問をちゃんと代弁して質問してあげると分かりやすくなります。
YouTubeの「展示会営業ノウハウ館」チャンネルでは、私がインタビュアーとなってブースにお邪魔する動画もあるのですが、その際には自分は視聴者の立場に立ってお話を聞くように心がけますし、その中でブースの中の訴求したいポイントを引き出せるように心がけています。
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動画を作る際によくありがちなのが、「とりあえず作ってアップしよう」と最終目的がおざなりになってしまうことです。展示会営業の場合、本の中でも書かれているように、成果に直結する目標設定が大事になりますが、その点についてはいかがですか?
清永:展示会の場合は売上や受注数、新規顧客獲得数などを最終目標に置いて、そこにつながる指標を定めていくことが重要です。例えば名刺獲得数などがあげられます。
では、インターネット展示会の場合はどうなるかというと、まず思い浮かぶのは再生数ですね。ただ、確かにこの数は重要なんですが、それだけが大事なわけではありません。最終目的は売上や受注数なのですから、そこにつながるための中間的な目標がほしい。
これは展示会でもそうです。『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない!』の第4章で説明している「フォロー術」は、まさに展示会でブースに興味を持ってもらった「そのうち客」を、どのように顧客化するかの道筋について説明しています。
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「そのうち客」とはなんでしょうか?
清永:名刺はいただいたけれど、今は特に自社商品にニーズがない来場者のことです。だいたいブースに寄る人の75%はこういう人で、「ちょっと面白そうだったから寄ってみた」くらいのノリでしょう。
そういう人にも自社のことを忘れないように、メルマガを通じて情報を提供したり、診断や点検などの特典を作って申し込んでもらうといったことで次につながっていくわけですね。
動画も同じです。展示会とちがって動画はリアルで対面していないので、展示会よりも少し緻密にやらないといけませんが、例えば興味を持った方はメルマガに登録をしてもらい、そこから情報を継続的に提供していく。その上でメールを読んでくれている方限定で、何かしらの特典を提供するといった形で丁寧にプロセスを踏んでいくというようなやり方をするとよいですね。
仕事をしている意味、感じていますか? 営業の本質に迫る
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3月に上梓された新刊『展示会のプロが発見! 儲かっている会社は1年に「1回」しか営業しない!』について伺います。今回で清永さんにとって6冊目となる本ですが、最も読んでほしかった部分はどこですか?
清永:2つありまして、まずは展示会に出展するならば会社の売上アップに貢献してほしいということです。ただ出展するだけではなく、売上の増加に直結させましょう、と。これは以前からの変わらないメッセージですね。
もう1つが本書の特徴で、展示会を上手く使えば売上が伸びるのは当然で、それ以外にもいろいろなプラスの面があるということです。それは最終章の「ムダな営業をしないことが会社にもたらす13個の幸せ」にまとめているのですが、例えば長期ビジョンを持つことができたり、部門間の垣根を越えてセクショナリズムを打破できたり、顧客視線の思考力が強化できたり、セルフイメージが高まったり、優秀な人材の採用につながったり、ということがあります。
展示会は、上手く活用すると、こうした売上アップ以外の課題をも解決するきっかけにすることができます。そうしたことを本書では踏み込んでお伝えしています。
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「1年に1回しか営業しない」というタイトルの言葉は強いなと。
清永:自分でも強い言葉だなと思っています(笑)。展示会出展にきちんと取り組めば、それくらい効果を発揮できるんだよということですね。無理な営業で利益が出ない案件を受注してしまったり、無茶な営業で営業パーソンを疲弊させて人材が定着しなかったりするくらいなら、展示会出展にリソースを集約した方がよっぽどいいですよと。
本書では「株式会社名井内(ないない)」という架空の企業を通して、プロジェクトチームの立ち上がりから展示会出展を経たポジティブな変化を書いていますが、まさにそういうことが事例として起きています。
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例えば、新規開拓のテレアポのみしかやっていないという営業だと、数をこなすことが目的化し、本質的にはクリエイティブではないように感じます。顧客と人間関係を築き上げていって、問題解決を促し、何度も仕事をもらえるようになるのが本質的な仕事ではないかと。展示会はそうした営業をするための入り口としてうってつけなように感じます。
清永:おっしゃる通りです。そして、私の展示会営業®ノウハウでは、展示会出展にあたってまず、自社が顧客に対してどう役に立てるかを考えるところから始まります。そこから成約に結びつくと役に立つ感覚を得られやすいんです。やっぱり顧客には喜んでほしいじゃないですか。
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確かに仕事をしている意味を感じられますよね。本書では「来場者の問題解決を支援する」というスタンスで展示会営業での商談に臨むことをすすめていますが、これは仕事をする意味を大きく感じられる方法だと思います。具体的にどうすればいいのでしょうか?
清永:まずは、社内で見込み客の悩みを想像して出し合ってみることです。次に、既存顧客に意見を聞いてみるとよいですね。
私は、展示会営業®コンサルタントですが、クライアントの皆さんはみんな一様に売上アップだけに悩みを抱えているわけではないんです。採用や社内コミュニケーション、働き方の改善。今ならば新型コロナウィルスでどう舵を取ればいいのか、ということもあるでしょう。そうした問題にも対応できるツールとして、私は展示会の活用を提案するんです。だからこそ、問題解決になる。
最初の話に戻ると、自社で想像した課題って、自社商品を通して顧客を見た際の悩みばかりが出てくるんですね。でも、既存顧客に自社の商品をどのように使っているのか、どんな効果を発揮しているのか聞いてみると、それ以外の意見がたくさん出てくるんです。「意外にこういうことにも使えたよ!」みたいな声もあれば、「ちょっと使いにくいね」という声もあるでしょう。
つまり、商品が想定外の働きをしていることって結構あるし、相手がきちんと中身を把握していないまま商品を購入するケースもあって、その後全然使われていないパターンもあるんです。
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そうなると、アフターフォローが必要です。
清永:はい。なので、商品を購入していただいたら、3ヶ月後くらいにフォロー面談をしてみる。「どうですか?」と聞いてみる、そういう風にしていくことが大事です。もし「全然効果が出てないよ」と言われたら、一緒に悔しがればいいんです。「マジですか!わたしも悔しいです!」と。そして、「一緒に改善していきましょう」と言えばいい。共通の目標像を持ち、それを顧客とともに目指していく。上手くいってないからこそ、より踏み込む必要があるんです。
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確かにそうすると必要とされる営業になっていけますよね。
清永:そうですね。ただ、どの営業マンにもそういう会社って1、2社はあると思うんですよ。それを意識的に広げていくことが大事ですし、そういう関係を顧客と築きあげていくためのきっかけとして、展示会は最適なんです。
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清永さんは多くの中小企業をクライアントに持っていますが、近年、そうした企業の抱える悩みや課題について変化は見られますか?
清永:採用と人材の定着は悩んでいるところが多いですね。中小企業だと優秀な人材を採用するのは難しいという思い込みがあるようなんですが、そうとは限りません。
経営者が志をちゃんと持って、未来を語ることができれば、若くて優秀な人材を引き付けることができます。例えばFacebook社って20年前にはなかった企業ですよね。今、すでに会社があるだけでFacebook社よりリードしている。だから自社が20年後、Facebook以上に影響力のある企業になる可能性も0ではないんです。
経営者の皆さんには、前を見て大きな未来を描くということをしてほしいです。そのきっかけとして、部門横断的に力を合わせることができる展示会営業®の手法は有効です。
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新型コロナウィルスで経済の冷え込みが懸念されていますが、これからどんなことに気を付ければいいと思いますか?
清永:この状況は仕方がないので、今できることをやるということだと思います。「なるようになる」、いや「なるようになる」だと他力な若干諦めが入ったニュアンスになるので、「なしたようになる」と考えたいですね。
新型コロナによって外出自粛となり、できないことも増えていると思います。ただ、だからこそ時間もあるわけで、そのタイミングで長期ビジョンを社内全体で考えたり、Zoomなどを使って訪問しなくても顧客や見込み客と対話できる仕組みをつくるとよいでしょう。
手前みそですが、私自身も展示会が軒並み中止になり、いろいろな中小企業の経営者の方から相談をいただくなかで、「新型コロナウィルスなんかに負けない! 中小企業 応援 WEB展示会プロジェクト」というインターネット展示会を企画しました。
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新しい時代の売り方、働き方に一気に舵を取るチャンスですね。
清永:そうですね。それに、みんなこの状況に困っていると思うんです。その中で、自社のリソースで解決できる困り事は何かを考えることも有効です。
私の顧客の中に刺繍業の方がいるのですが、あまった布を使ってマスクを作るとか、自分でマスクを作るための方法を指南する動画をアップするということをしています。世の中に役立つことですから、社員さんはモチベーションが上がりますよね。
こういう不気味さが漂う状況下では、人間って集まりたくなるんです。でも、集まることができない。だからこそ、自分に何ができるか考えることが大事なのかなと思います。
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最後に、中小企業の経営者の皆さんにエールをお願いします。
清永:下を向いても事態は好転しませんし、右往左往しても仕方ないです。今できることをしましょう。「なしたようになる!」そのために私にできることがあれば、ぜひお手伝いしたいと強く思います。