インタビュー
「父親だからこそできる子育てがある」
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今の時代、お父さんが子育てに積極的にかかわっていくことはそれほど珍しいことではなくなりましたが、それでも戸惑うことは多いはずです。ご自身も男の子2人女の子1人と、3人の子育てを経験された七田さんですが、困ったことや戸惑ったことについて教えていただきたいです。
七田:まず、「迷子」ですね。自宅は島根なのですが、仕事で東京に来る時に、まだ幼児だった長男を一緒に連れてきたことがあったんです。ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって慌てたことがあります。都心のデパートのトイレに子供を連れて行って先に用を足させて、今度は自分が…となったわけですが、その間に走ってどこかに行ってしまったり…。迷子にしないようにするのは大変でした。
また、おもちゃ売り場で新しいおもちゃがほしいと「実力行使」で床に寝そべってしまうのも困りましたね。あとは病気とか体調不良の時の対応です。妻の方はそういう時の対処がわかっているのですが、私しかいない時は、どうしていいかわからずおろおろしてしまった記憶があります。
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七田さんと奥様で子供への接し方に違いはありましたか?
七田:基本的には妻の方が厳しめで、私が甘めだったと思います。だから子供たちは私の方が本音を話しやすかったかもしれません。
本にも書きましたが、両親とも厳しいと子供は逃げ場がなくなってしまいますし、両方が甘くても過保護すぎてしまったりする。どちらかが厳しくてどちらかは甘めというのがバランスがいいのかなと思います。
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本書の中で「父親だからこそできる子育てがある」とされていました。これはどのようなものなのでしょうか。
七田:一つは「ワイルドな遊び」ができることでしょうね。肩車をしたり、抱っこしながら軽く上に放り投げて受け止めたりといったこともそうですし、アウトドア的な遊びもお父さんの方が得意なことが多いと思います。お母さんが家の中での遊びが得意だとしたら、お父さんは外遊びの方で子供に色々な経験をさせてあげるという方が向いていると思います。
もう一つは言葉がけです。一般的にお父さんとお母さんどちらが家の中で話すかといったら、お母さんの方だと思います。子供に対して細々と声をかけるのはお母さんが多い。
だからこそ、お父さんの言葉というのはいざという時に重みがあります。特に仕事が忙しくてあまり子供と話せていないお父さんは、休みの日だとか子供の誕生日や卒業式といった節目のタイミングで子供の将来について言葉をかけてあげると、すごく響きます。
「将来大物になるぞ」でもいいですし「おまえは友達が多いから、人と組んでチームでやる仕事が向いてるぞ」でもいい。親から見た子供の長所を教えてあげつつ、将来のことを話してあげると、大人になっても子供の中にその言葉は残る。それは親が亡くなった後も、子供を励ます言葉になるんです。
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性別によって違うのかもしれませんが、男性の自分の場合は確かに母親の言葉よりも父親の言葉の方が覚えていることが多いような気がします。
七田:あとは、いいことでも悪いことでも「こうしたら、こうなるよ」ということを教えてあげることも、お父さんにがんばっていただきたいです。
これは自分の経験なのですが、小学生時代、算数が人より得意なつもりだったんです。中学に進む時に、島根県内ではなく広島の私立を受験したのですが、残念ながら落ちてしまった。特に自信をもっていた算数は十分に勉強していたつもりだったのにダメだったわけです。
それでしょげているところに父が公文式のプリントをもってやってきて「これをやってみないか」と言う。それで、診断テストを受けたら、「小学校5年生のところからやりましょう」と、公文式の先生に言われたのです。
これから中学に上がるっていうのに、5年生のものからやるのかとまたしょげたのですが、父は「人が1枚するところを2枚やってごらんよ。そうしたら1年で2年分進むから、中学3年生になったら高校の数学もわかるようになっているかもしれないよ」と言いました。
それでパッと目の前が開けたんですね。「それならぼくは4枚やる!」って言って、それを2年続けたら、私の学年の公文の成績上位者のベスト10入りするところまでいけた。これって「こうすると、将来こうなるよ」というのを父の言葉で見せてもらえたからだと思うんです。
勉強だけじゃなくて、プロ野球選手になりたいというような夢でも同じで、「こうなりたいなら、こうするといいよ」っていう道を示してあげるのは親の役割ですし、これもどちらかというと父親の方が得意なんじゃないかと思いますね。
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子育ての目標設定のところは興味深かったです。七田さんは「一人で生きていける人間に育てること」が目標だったそうですね。
七田:この目標を作ったのにはきっかけがあって、私は3人子育てをしたのですが、上の子の時は「教育パパ」というか、結構あれやれこれやれと口うるさく言っていたんです。
うちにはちょっとしたルールがあって、親と暮らすのは15歳までで、高校からは親元を離れて寮生活をさせます。そんな決まりがあるわけですが、私は出張が多くて家を空けがちなので、帰ってくるまでにやっておくようにと子供に宿題を出していたんです。
でも、それとは別に学校の宿題もありますし、習い事も行っていたので、小学校の4年生くらいになると私からの宿題をやらなくなっていったんですね。こちらは「なんでやらないんだ」と注意したりしていたのですが、ある時はっと気づいて「この子はあと5年ほどで自分のもとを離れるのに、こんなことをやっていていいのかな?」と思ったんです。
つまり、このまま「やりなさいと言われてしぶしぶやるような子」を育てても、高校に行ったらうるさい親父から離れられてせいせいしたと思うはずで、それでは意味がない。そうじゃなくて、自主的に勉強する子にしないといけないと思って、それから宿題を出すのはやめたのですが、自分が漠然と子育てをしていたことに気づかされましたね。
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「一人で生きていける人間に育てること」は多くの親に共通する気持ちだと思います。特に気になるのが経済的な自立ですが、これについてアドバイスをいただきたいです。
七田:これは難しいですよね。実は私は大学生の時にローンであれこれ買い物をしていたら、結構な額になってしまって、「今回だけ」ということで父に残債を払ってもらったことがありまして、その時に身の丈に合った生活をするようにと教えられました。それ以来、住宅ローン以外は一括払いで払えるものしか買っていません。生活の中に本格的にお金が入ってくるのは大学生くらいからですから、実際的な金銭教育はその年齢になってから教えるしかないのかなと思います。
ただ、金銭感覚を身につけさせたり、計画的にお金を使うことを覚えさせるのは子供の時からでもできます。小遣い帳をつけさせたり、一緒に買い物に行った時に、大まかなものの値段感覚を教えたりといったことは小さなうちからやっておくといいでしょうね。
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本書では「愛・厳しさ・信頼」を実践すれば子育てはうまくいく、と書かれています。愛と厳しさのバランスが悩みどころだと思いますが、この点についてアドバイスをいただければと思います。
七田:ベースは常に「愛」です。厳しいことを言わないといけないこともありますが、それも愛があってこそなので。また、誤解されがちですが、悪いことをしても叱らないのは愛があるとは言えないですよね。
愛をベースにして、一人で生きていくための善悪の判断を教えていくのが親の役目です。子供が自立する時に「これからは親が近くにいないけど、この子にはやるだけのことをやってきたから、あとは信じています」と言える状態にするところまでは親の責任だと思います。
自主的に学ぶ子を育てるための幼児期の接し方
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子供の学力は親としてはどうしても気になるところです。子供が自主的に勉強に取り組むようにするのが理想だと思いますが、どんな働きかけをするのが有効なのでしょうか。
七田:極端に言えば「放っておくこと」なのかなというのが、子育ての大半が終わった今、思うことです。
ただ、幼児期と小学校に上がって以降では、接し方は変わっていい。幼児期は親が主体で、子供に学ばせる方がいいと思いますが、小学校に上がってからは子供の自主性に任せるのがいいと思います。
幼児期は学習習慣をつけたり小学校に入っても困らないくらいの素養をつけておいた方がよくて、それは親の役目です。そこまではやって、あとは本人に任せて、わからないことがあった時に教えるという感じですね。本人がやる気を出すまで待つというのは勇気のいることではありますが。
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どんな子にも何らかの才能があるといわれますが、子供の才能を見つけるためにどんな取り組みをしたらいいのでしょうか?
七田:とにかく色々な機会を与えることです。私の場合はそろばんや習字、ピアノといった習い事をさせたり、あちこちのイベントに連れて行ったりしていました。
親から強制するのではなく「これやってみたら?」という提案のスタイルですすめて、本人がやりたいといったことをやらせてみて、途中でやめてもいい。そこは自己責任でやらせていました。あとは子供が喜びそうな音楽イベントに一緒に行ってみたり…。
それと、おすすめなのは図鑑です。色んな図鑑を見せて、星座に興味があるようならプラネタリウムに連れて行ってみるなど、子供の反応を見て食いついてくるところを伸ばしていくというのはいいのではないかと思います。
子供がまだ経験していないことのなかに、大好きになることがあるかもしれません。宝探しのような気持ちで、子供に色々な場面を提供してみていただきたいと思います。
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最近のトピックですと、「子供にスマホを持たせるべきか、持たせるならいつ頃からがいいのか」というのも親の関心事です。七田さんのご意見をお聞かせ願えればと思います。
七田:幼稚園に行く前の2歳くらいまでは触らせるべきではないと思います。3歳くらいからは、お母さんが外でお茶をしている時に騒ぎ出してしまったらスマホで動画を見せておくとか一時的な使用はいいと思いますが、それでも常用はやめたほうがいいでしょうね。
脳細胞は、子供があちこち見たり聞いたり動いたりするなかで、目と手の供応動作によって育っていきますが、スマホを使う時に動かすのは指だけですし、視線は固まったままです。スマホは最近広まったものですから、子供に見せることの影響について、答えはまだ出ていませんが、「視線の固定化」は怖い気がします。
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1台与えるとしたら何歳くらいからがいいのでしょう?
七田:最大限早くて10歳からですかね……。そのあたりからは20時以降は親が管理するなど、制限をつけて持たせるのもいいのではないかと思います。
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共働きの家庭が増えている今、子育てに十分な時間をかけられない家庭もあるかと思います。こうしたなかで子供が親の愛情を感じたり、自己肯定感を持てるようにするために、どんな取り組みが必要だとお考えですか?
七田:一番は日頃の言葉がけだと思います。親子一緒にいる時は、親から見た子供のいいところや、良くなったところを教えてあげて、ほめてあげることで子供は親が自分を見てくれていると感じますし、自己肯定感を得ることができます。
逆に言葉がけがダメ出しメインになっていると、「どうして僕はダメなんだろう」という思考になってしまうので注意が必要です。
子供が親の愛情を感じたり自己肯定感を持てるかどうかは、一緒にいる時間の長さよりも、親子の絆を感じられる時間を作れるかどうかの方が大事だと思います。両親が仕事で忙しくて、子供は託児所などに預けている家庭もあると思いますが、そういう家庭でも、電話で会話をしてその日にあったことを3分でもいいので聞いてあげたり、ラインでメッセージを送ったりということはできるはずです。短くてもいいので、親子だけの濃密な時間を作ることを心がけていただきたいです。
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本書を読んで、自分の子育てが間違っていることに気づいた場合、やり直しはきくのでしょうか。
七田:能力的なことは別として、「自主性」や「根気」など生きていくための態度を身につけさせたいということであれば、いつからでも遅すぎるということはありません。この本を読んでいただいて、子育てについて間違っていたと思ったのであれば、そこから子供への接し方を変えていただければ大丈夫だと思います。
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最後になりますが、子育て中のお父さんにメッセージをお願いいたします。
七田:子育てをおおかた終えた今、思い出すのは、大変だったことではなくて、楽しかったことです。たとえば娘とピアノの発表会で連弾をするために練習した思い出であったり、親子で漢字検定の勉強をした思い出であったり、一生懸命子供と何かを一緒になってやったことが、今でもいい思い出として残っています。
もしかしたら、子供の方にとってはそんなに印象的な思い出ではないのかもしれませんが、でも、親にとっても子育てが終わった後に楽しかった思い出が残るのは大事なことです。プラモデルやジグソーパズルでもいいですし、料理を作るのでもいいので、「子供と一緒に何かをする」、「一緒に取り組む」ということをキーワードに子育てをしていただくと、親にとっても子供にとってもいいのではないかと思います。
(新刊JP編集部)