「ドラえもん」の世界はすぐそこ?四次元ポケットの道具はこれだけ現実化している
「どこでもドア」や「スモールライト」など、子どもの頃「ドラえもん」を見て、四次元ポケットから出てくる秘密道具の数々に「こんなことができたらいいな」と胸をおどらせた人は多いはず。
一方で現実世界に目を移すと、ドラえもんが四次元ポケットから出した道具のいくつかは、すでに存在することにお気づきだろう。
『ドラえもん』の道具が次々に実現する時代
『「まだない仕事」で稼ぐ方法』(ワニブックス刊)の著者、吉角裕一朗さんによると、ドラえもんがポケットから出した2000種類あまりの道具のうち、5%ほどは類似した機能を持つ製品がすでに存在しているという。
例を挙げると、近道を教えてくれる「近道マップ」は「地図アプリ」として実在しているし、知らない言葉を翻訳してくれる「ほんやくこんにゃく」はGoogleなどが提供する音声翻訳として実装されている。「ポラロイドインスタントミニチュアせいぞうカメラ」は、今でいう3Dプリンタだ。技術の進歩は、昔私たちが考えていたよりもはるかに速く進むものなのだ。
これからは「働く人」より「発想できる人」が勝つ
四次元ポケットに象徴されるように、子どもの頃は無邪気に「こんなものがあったらいいな」と思えた道具も、いざ出現してみるとある種の不安を呼び起こす。夢としか思えなかった道具を実現させた技術力によって、自分の仕事がなくなるのではないかという不安である。
すでにあちこちで言われているように、スーパーのレジ係やホテルの受付、銀行の融資担当などなど、AIやロボットの高度化によってなくなっていく仕事があるのは確かだろう。一方で、機械では代替できない仕事があるのも事実。吉角さんによると、それは「人間の感情や創造性、教育といった、何かを生み出したり、人の心に寄り添うような職業」だという。
では、こうした職業で活躍したり、新しいビジネスを立ち上げて成功させたりするための資質は、どのようなものなのだろうか。それは、これまでビジネスパーソンに必要とされてきた資質とは全く違うものだ。
吉角さんは「働く人より発想できる人が100万倍の価値を生み出せる」として、言われたことを忠実にこなすことに価値が置かれた時代の終わりを強調し、これまでになかったサービスやビジネスを発想していくための着眼点を、
- ・今ある不便を何とかしたいという視点
- ・「こうすればもっと楽しくなる」という視点
だとしている。この二つを満たしたところに、まだ見ぬ斬新なサービスやプロダクト、ビジネスがあるのだ。
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子どもの頃は夢のような話だと思っていた四次元ポケットの道具も、今や決して夢物語ではない。本書では、これまでにドラえもんの道具のどれが具現化したかを紹介するとともに、テクノロジー全盛時代にどう働きどう生きるかについても考察していく。これからどんな未来が待っているのか不安な人、新しい技術を利用してビジネスを立ち上げたい人にとっては、手に取ると大きな示唆を得られるはずだ。
(新刊JP編集部)
「がんばって働かないこと」がこれからのビジネスパーソンの素養
―― 『「まだない仕事」で稼ぐ方法』はこれから実現する可能性がある新しい技術を網羅的に提示しています。読ませていただいて、新しい社会の姿や、そこで生きていくために必要な考え方や行動について考えさせられました。「自分も変わらなければいけないな」と覚悟ができたといいますか。
吉角:そう思ってもらえたならありがたいですね。
―― 「ドラえもん」の秘密道具はすでに実現しつつある、という切り口は面白いですね。2000種類あまりある秘密道具の中で、似たような機能を持つものが実現しているものがどれくらいあるのか調べたとお聞きしました。
吉角:調べました。ドラえもんの道具が全部載っているウェブページがあるんですけど、それをア行からワ行まで見ていきました。
―― その結果、5%くらいは実現していると。
吉角:そうですね。 僕が知る限りなので、実際はもっと多いのかもしれません。
―― 「ほんやくこんにゃく」のように言語を転換するものなどは、すでに多くのツールがありますね。調べてみてどんな感想を持ちましたか?
吉角:結構のび太って鬱屈しているんだなと(笑)。基本的にネガティブだし、「こうなったらいいな」という願望も、前向きなものよりは、人の心をコントロールしてやりたいというような「黒い」動機が多かったり。
―― 「しずかちゃんの心を自分に向けたい」というようなものですよね。
吉角:そうそう。大人が読んでも楽しめるのはこのブラック感がいいのかなと。作者はそういうつもりで書いたんじゃないかも知れませんが。
―― 秘密道具がどんどん現実になっているように、すごいスピードで技術が進歩して、それこそAIや高度なロボットが出てきているなかで、働く人間に必要な技能も変わってくるはずです。これから必要とされる技能や素養についてどうお考えですか?
吉角:ひとことでいうと「がんばって働かないこと」じゃないかと思いますね。部活動が象徴的ですけど、今の学校教育では少なからず「努力すれば報われる」と思い込まされるところがあります。ただ、そこだけが評価される時代ではなくなると思っています。
―― 「実直さ」よりも発想力が重視されるようになるということを書かれていましたね。
吉角:マーク・ザッカーバーグやスティーブ・ジョブズのように、ドロップアウトして「学校教育の価値観から逃げた人」でも、アイデアと行動力で活躍できるのが大人になってからの世界ですからね。
このあいだ別の取材で、学校教育をまっとうした高学歴の人材がなぜ起業しないのかということを聞かれたんですけど、なんと答えていいかわからなかったんですよね。そもそも僕は大学行ってないし(笑)。ただ、自分の周りを見ると、起業してやっている人で高学歴って確かにあまりいないんですよ。
―― それはなぜなのでしょうか。
吉角:大卒組の方が平均的には高卒や中卒の人より収入はいいはずだから、そうなるとリスクをとって起業するという選択をしなくなるのは当たり前といえば当たり前です。自分のことを振り返ってみても、「底辺」だったからリスクをとってアタックしないと自分の社会階層を変えられなかった。周りの経営者に高学歴がいないのはそういうこともあるように思います。
―― 現状のままでいても「底辺」で生きるしかないなら、アタックしてみようと。
吉角:そうです。「実直さ」の話に戻ると、学校で出される課題は言ってみれば「止まっている標的」なんです。止まっている標的を倒していく。それこそまじめにコツコツやることでクリアしていけるわけです。
だけど、世の中ってもっと複雑です。昨日答えだったことが次の日にはもう違っていたりしますから「動く標的」を追いながら近しい解を求めていく必要がある。この両者は全然違う作業で、実直さだけでは補えないものなのかもしれません。
―― 本のタイトルにある「稼ぐ方法」についてもお聞きしたいです。これから「稼ぐ力」や「稼げる人」についても変わっていきますよね。
吉角:お金に関してはどれだけフォロワーを集められるかでしょうね。YouTuberを見ていてもわかるように、インプレッションをどれだけ持っているかが個人としての稼ぐ力に直結する時代です。この傾向は今後も強まるはずです。
「人生詰んだ感覚」を持っている人に読んでほしい
―― 今は経営者として活躍している吉角さんですが、キャリアがユニークで、かなり本格的に格闘技をされていたんですね。
吉角:高校の時に柔道をやっていて、卒業後に高田延彦さんの道場に入ってからは総合格闘技です。そこから4年くらいやりましたね。
―― 前編でご自身のことを「底辺だった」とおっしゃっていましたが、後に起業したのは底辺からの一発逆転を狙ったのでしょうか。それともやりたい事業があったのでしょうか。
吉角:明確にやりたいことがあったわけではないんです。夢もなかったですし。起業したのは地元の熊本に帰ってからなんですけど、帰る時には格闘技はやめてしまっていましたし、フリーターで職を転々としつつスロットをやって食べているような状態でした。
お金もなかったし、格闘技以外の自分の道を見つけなきゃという気持ちもありました。自分の好きなものと自分の人生プランがずれてきていることに気がついて、焦っていましたね。
―― なぜ格闘技をやめてしまったんですか?
吉角:ケガもあったのですが、21歳くらいの時から迷ってはいました。そのくらいの年齢になると自分の限界みたいなものが見えてくる。でも、その時人に相談すると「おまえ、それは逃げてるだけじゃないか」とか「最初やると決めていたことと違うじゃん」と言われるわけです。
冷静に考えると、あきらめないで最初に決めたことをやり遂げるだけじゃなくて、早い段階で損切りして新しい目標を設定しなおすっていうのも賢明な判断じゃないですか。でも当時の僕はこういうアドバイスを真に受けて、格闘技をあきらめるという決断がなかなかできなかったんです。結局は22歳でやめたわけですけど、「格闘技でPRIDEに出たい」という一心でしたから、リセットするのは大変でした。
―― 強い思い入れがあることほどやめるのに勇気がいりますよね。
吉角:やめると18歳からの4年間が無駄になると思うと、なかなかスパッとやめられるものではないです。時間かかりましたもん。
―― ただ、22歳で格闘技をやめてから2年ほどで起業されていますから、切り替えは早かったのではないですか?
吉角:やめてから語学の専門学校に通いはじめたんですけど、その2年目に就活をしたんですよ。渋谷でベンチャー系の就活イベントがあって、そこで何人かの経営者と話す機会があったんです。そこではじめて「世の中を作る側」と「作られたものに従う側」があることに気づいた。どうせなら「世の中を作る側」になりたいと思ったのが起業した理由です。
もっといえば、会場に来ていた経営者は大体2代目社長とか雇われ社長ばかりで、起業した人はほとんどいなかったんです。それで「この人たちより、絶対おれの方が能力あるし、いい世の中を作れる」と思ったんですよね。
―― そして始めたのが再生バッテリーの販売ビジネスだったわけですね。
吉角:再生バッテリーに限らず、コーンテックという、例でいうと焼酎を作った時に出る焼酎カスやパンのメーカーがだす廃棄のパンのような、これまで捨ててしまっていたものをエコフィードとして家畜のエサにする仕組みを作ったりもしています。
特に豚は、人間と食べるものがほとんど変わらないので、割と何でも使えるんですよ。経済性も含めて、社会の中で資源とエネルギーを循環させる仕組みを作るのが自分の仕事だと思っています。
―― 今回の本をどんな人に読んでほしいとお考えですか?
吉角:自分もそうだったのですが、「人生詰んでいる」感覚がある人に読んでほしいと思っています。
このままいっても自分はここまでだなとか、生涯賃金はこれくらいだよなとか、行き詰まりの感覚を持っている人って多いと思うんです。たとえば自分が働いている業界が先細りになるとわかっているのに、それでもそこでキャリアを積んでいる人は「詰んでいる」感覚を持っているはずです。
そういう感覚を持っている人に勇気を抱いてチャレンジしてほしいという思いがあってこの本を書きました。「自分はここまで」と決めつけているのは既存の価値基準や過去に縛られているからかもしれません。そういうものはばっさり切り捨てて、子どもの頃のように自由に「こんなことをしたいな」「こうなりたいな」と考えて、その方向に動いてみればいい。
その時は、今の価値観の流れに乗るのではなくて、何もないところから「次はこういう世界になるんじゃないか」「それならこういうことが必要じゃないか」と思考のアプローチを変えることが大切です。今回の本はそのための役に立ってくれるのではないかと思っています。
(新刊JP編集部)