インタビュー
「モノが売れない時代」と言われて久しい。
これまでのように、商品を仕入れ、営業をかければ売り上げが立つ時代ではなくなった今、企業にとって大事なのは、顧客の困りごとや潜在ニーズをいかに汲み上げ、その困りごとへの解決法として自社の商品を売るソリューション型ビジネスである。
『「最強」ソリューション戦略』(日本経済新聞出版社刊)は、このソリューション型ビジネスで勝つためのノウハウを明かす一冊。今回は本書の著者で、経営コンサルタントの高杉康成氏に、ソリューション型ビジネスに必要な要素や組織作り、そして失敗する原因について語っていただいた。
情報には「営業情報」と「開発情報」がある
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『「最強」ソリューション戦略』の冒頭にもありましたが、今はものを作って売るだけではなかなかビジネスがうまくいかない時代、ということでソリューション戦略の重要性はかねてから指摘されています。高杉さんはソリューション戦略を導入しているもののうまくいっていない企業には「3つの勘違い」があると指摘されていますが、この勘違いに陥る原因についてまずはお話をうかがいたいです。
高杉:「ソリューションとは何か」という本質の部分を理解しないまま、ブームに乗るような形ではじめてしまっている会社が多いというのが、まず言えます。
たとえば、テレビのCMなどでも営業向けに、名刺管理ですとかマーケティング・オートメーションのデジタルツールを入れればソリューション力が上がるといった宣伝の仕方をしていますが、ツールを入れるだけで顧客の深いところのニーズを引き出せるかというと、そんなことはなくて、現状はまだ対話によるアナログなコミュニケーションが必須です。
この本の中で「デジタルとアナログの融合」と書いていますが、これはこうしたデジタルツールを妄信してしまうことへの警鐘の意味合いがあります。
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顧客の課題を解決する「ソリューション」「ソリューション力」はここ数年よく聞かれるようになりましたね。
高杉:そうですね。おっしゃるようにモノを作るだけでは売れなくなってきていることが大きいと思います。
特にインターネットが普及したおかげで、BtoBでモノを仕入れて売っていた地域商社などは、単なる「御用聞き」になってしまい、不要になってきました。相手も忙しいですから「何か必要なものはありますか」と聞くだけの訪問なら、メールでやればいいですし、必要ならネットを使って自分で頼めばいいわけです。
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なるほど。
高杉:地域商社に限った話ではなくて、弁護士や税理士、会計士も数が増えてしまいましたから、普通にやっているだけでは職業としてなりたたなくなってきていますし、金融機関もそうですよね。金利で稼げなくなったから、たとえばA社とB社をつないで手数料を取るビジネスマッチングを銀行や証券会社はやっていますが、それももういろんなところがはじめてしまって、レッドオーシャンになってしまった。
だから、M&Aや事業継承といった提案型の課題解決、つまりソリューションをやらないと生きていけなくなっています。いろいろなところでソリューション型ビジネスを始める必要は生まれてきていますね。
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高杉さんの提唱するソリューション戦略のあるべき姿について第1章で紹介され、第2章ではソリューション戦略の構造が明かされています。この戦略がどのように作り上げられていったのかについてお聞きしたいです。
高杉:この本で書いたソリューション戦略は、厳密には私のオリジナルではありません。以前に在籍していたキーエンスという会社がすごくソリューション力の高い会社でして、そこのやり方が基になっています。
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ソリューション戦略は「ソリューション活動」「教育システム」「組織支援」「モチベー ション向上」の4つが連動することでパフォーマンスが最大になります。この連動を作り出すために組織のマネジメント側にはどのような取り組みが必要になるのでしょうか。また、高度に組織化されたソリューション戦略を導入するにあたって、マネジメント側はどこから手をつけるべきなのでしょうか。
高杉:まず考えないといけないのは、自分たちの会社の提供価値です。どんなものを売っていて、何が顧客にとっての価値なのかをまず把握することが肝心で、そこに「ソリューション活動」「教育システム」「組織支援」「モチベーション向上」というソリューション戦略の4つの要素が絡みあってきます。
その意味では、この4つのどこから始めるかというのは、会社によって違ってきます。たとえば、商品力がすごく高い会社があるなら、その商品力をどうやって顧客に提案するかというところがポイントになる。となると「この商品のどこを、どんなお客さんに提案するのか」という話になるはずで、営業に行く前の事前報告と、行った後の事後報告で情報を集めながら提案力を磨いていくことになります。
また、システムインテグレーションといって企業間のアライアンスをするような会社なら、アライアンスをするための「教育システム」のところが大事になってきます。自社の強みと顧客が何を求めているかによって4つの要素のどこを強化するかを決めていけばいいと思います。
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自社の強みを把握したうえで、必要なところを埋めていくというイメージですか?
高杉:それは一つあります。もう一つは自社の弱点を把握したうえで、できていないところを補強して全体の最適化を図るというやり方もあります。
本の中に『「最強」ソリューション戦略・完成度チェックリスト』というのがあって、自社のできているところとそうでないところを把握できるようになっているので、ソリューション活動をするうえでどこから手をつけるかを考える参考にしてみていただければと思います。
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4つの要素の一つ「ソリューション活動」では、「情報力」がキーワードになります。顧客の潜在ニーズを探るための高度な情報を部署の全員が共有するためのポイントを教えていただきたいです。
高杉:3つほどあります。一つは情報に価値があるということを社内でまず認識することです。「情報が大事だなんてわかっているよ」と思うかもしれませんが、多くの企業は情報の扱いが雑です。
たとえば、顧客のニーズにつながる重要な情報を掴んでも、社内のグループウェアに投稿して終わり、というケースが非常に多い。それもそのはずで、情報を集めたり情報を共有することに対するインセンティブもなければ、周囲の人も共有されている情報にさして関心を持っていません。また、ミーティングを開くにしても、情報交換が目的のミーティングってなかなかみんな時間をとらないんですよ。「情報は大事だ」と口では言う割に、会社として大事に情報を扱っていない現実があります。
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今は日々目にする情報量が多いので、なかなかすべては見きれないという事情もある気がします。
高杉:顧客の困りごとを察知したり、潜在ニーズをつかんでいい提案をしようと思うと、顧客との「情報ギャップ」を作らないといけません。顧客は知らないけど自分たちは知っているということをいかに作るかがソリューションの前提なんです。そのためには日々情報を集めて共有することが大事なんですよ、ということは本の中でも口を酸っぱくして言っています。
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2つ目はどんな点ですか?
高杉:情報には「種類」があることを理解することです。多くの企業が顧客の情報を社内で共有しているのですが、集まってくる情報のほとんどは「何が何個売れた」という表面的な売買に関しての「営業情報」か、顧客から寄せられたクレームの情報です。
これに対して、ソリューション活動で大事なのは「開発情報」といって、「顧客がどんなことに困っていて、現状はどうしているか」という情報です。こういう情報は本当に少ない。
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なぜ少ないのでしょうか。
高杉:そこに意識を置いていないからです。ソリューション活動には開発情報が大事だという認識もないですし、そもそも情報には「営業情報」と「開発情報」」があるということを知っている会社は極めて少ないんです。
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情報には種類があることを理解して、欲しい情報を指定しないと、集まりやすい情報だけが集まってきてしまう。
高杉:そうですね。開発情報を取りに行きなさいと指示をして、そのための訓練をすべきなのですが、会社側もあまりそういうことはやっていません。
私はソリューション型ビジネスのための研修をやったりもしているのですが、ロールプレイングをしても、集まってくるのは「いつ売れるのか」「競合はいくらで売っているのか」「予算はいくらか」という情報ばかりですから。
3つ目は、ファシリテーターです。部署内で情報交換ミーティングを開いても、話が脱線したり散漫になってしまったり、うまくいかないことも多いんです。だから、ミーティングの全体を俯瞰できる人がファシリテーターになって、脱線したのを戻したり、面白い情報を掘り下げたりすることで情報の引き出しが増えやすくなります。
ソリューション型ビジネスで活躍する社員の見極め方
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顧客ニーズを踏まえた提案力の磨き方についてもアドバイスをいただければと思います。
高杉:提案力はある程度先天的なものがあって、顧客のニーズに気づいて、それにマッチした提案をするのが得意な人がいるんですよね。
ただ、一定のレベルまでは、提案力は情報力とニアリーイコールとも言えますから、まずは自社の製品や顧客について、さらには顧客の顧客について深い情報を集めることです。
そこまでは前提としてできないといけませんが、提案の内容はパターン化できる部分もあって、成功パターンは部署内で共有することで、横展開できるようにするのもポイントです。こうすることで個人のスキルに依存しにくくなるので。
まとめると、提案力はもともとセンスがいい人がいるので、そういう人はより提案力を磨けばいいですし、自力で磨いていくこともできます。ただセンスがない人は、センスがいい人がやってうまくいった提案の事例をパターン化するという手がありますよ、ということですね。
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「教育システム」も組織としてソリューション戦略を展開していくためには重要です。ソリューション型ビジネスに適している人材とそうでない人材の違いを教えていただければと思います。
高杉:問題意識の高い人や、ちょっとした違和感、腑に落ちないことに気づく人はソリューション型ビジネスに適していると思いますね。
たとえばある顧客から「4リットルのポットが10個欲しい」と言われた時に「なぜそんなにたくさんポットが必要なんですか?」と聞ける人は、ソリューション能力の高い人です。なぜポットが必要なのかを突き詰めて考えると、本当のニーズはポットではなく別のものかもしれません。そこに気づいてすぐ質問できる人はセンスがいいというか、何か持っている。
一方で、何も疑問に思わず「すぐ見積もりします」と言ってしまう人は、あまりソリューションの能力は高くないかもしれません。
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しかし、「気づける人」はそう簡単に集まるものではありません。社内の人材を「気づける人」に育てるために、マネジメント側はどんな取り組みや指導をしていく必要がありますか?
高杉:やはり上司の毎日の教育でしょうね。特に大事なのが、客先に行く際の事前事後報告です。いきなり気づくようにはなりませんから、事前に「こういうことを聞いてきなさい」というヒントをあげる。何らかの開発情報(顧客の困りごとなど、潜在ニーズの把握につながる情報)を得られるようなヒントだといいですね。そして、事後ではとってきた情報をもとに、営業提案をするための作戦会議をしてフォローする。
うまいこと開発情報をとってくることができれば、いい提案ができるようになりますから、本人からしたら成功体験になります。「こうやって開発情報を集めるんだ」「こうやって提案するんだ」というのが、徐々にわかってくるはずです。事前にヒントを与えて、事後にフォローをするというのを続けることで教育システムが機能していきます。
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従業員の「モチベーション向上」も重要です。たとえば、部署のなかに顧客との情報のすり合わせがなかなか上達せず、やる気を失いかけている従業員がいたとしたら、どのように指導するべきだとお考えですか?
高杉:やはり先ほど同様、情報探索とかロールプレイングの事前準備ですよね。そこに時間をとってあげることです。
営業活動がうまくいかないケースの大半は準備不足なんです。なので、訪問件数を多少減らしても準備をしっかりとするように指導したり、実際に十分な準備ができたかをチェックしたりといった指導が有効だと思います。
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「組織支援」のところで、ソリューション戦略に適した組織づくりをについて教えていただければと思います。
高杉:本の中で、「1割の支援で9割を活かす販売支援組織づくり」と書いているのですが、組織図的なところでいうと、「1割」にあたる販売支援部門の置き所がポイントです。
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優秀な人は営業の現場に配置するのではなく、優秀な人こそ販売支援に置くべきと書かれていましたね。
高杉:そうすべきだと思います。1割の優秀な人が販売支援をして、残りの9割を生かすという考え方です。ですから、販売支援部門は営業部の部長よりも上位に来る方がいい。最低でも同位ですね。そうでないと、営業部が販売支援部の言うことを聞かなくなってしまうので。
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これまで培ってきたやり方を変えたがらない営業部が、販売支援部のサポートを拒絶する光景が目に浮かびます。
高杉:それぞれ視点が違いますからね。販売支援の視点は経営層に近くて、全体最適を優先させないといけません。端的には少数のエース社員に頼るのではなくて、80点の成績をあげられる人が10人いるような組織を目指す必要があります。
一方で、営業部は目の前の売り上げをどうあげるかという視点になりやすいので、少数のエースがいてうまくいっているようなら、それをわざわざ変えようとは思わない。結果、全体最適と個別最適の争いになってしまう。
販売支援を営業部の上に置くべき理由も、優秀な人を販売支援に配置する理由もそこにあります。優秀で、社内でリスペクトされている人の言うことならみんな聞くので。
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最後になりますが、本書の読者となる経営者の方々やマネジメント層の方々にメッセージをお願いいたします。
高杉:今回の本の一番の狙いは、質の高いソリューション、役立ち度の高いソリューションを実践するための戦略を解説することでした。
ビジネスの世界、結局は「どう勝つか」なんです。同じようなビジネスをしている会社の中でどう自分たち差別化し、勝っていくか。
ソリューションで差別化しようとすると、行きつくのは「質」と「深さ」です。どれだけ顧客の潜在的ニーズをとり、質のいい提案をするか。その方法をこの本では書いています。
とかく価格勝負になりがちな今のビジネスですが、いい提案をしていけば値段以上の価値を出だせる。たとえ商品力で勝てなくても、ソリューション力が高ければビジネスとして勝つことはできるんです。ですから、ぜひ深い提案ができる組織づくりを目指していただきたいと思います。この本は勝ち残るために必要なことを書いたつもりです。
(新刊JP編集部)