インタビュー
本書の著者である大須賀祐さんは、長く貿易ビジネスに携わり、現在は貿易アドバイザーとして活動。2004年2月には当時合格率わずか8.4%という「ジェトロ認定貿易アドバイザー」(現:AIBA認定貿易アドバイザー)の資格を取得している貿易ビジネスの専門家だ。
「自分で値段を決める立場になる」「独自の付加価値をつける」など、本書で大須賀さんが教える輸入ビジネスのイロハは、ビジネスの基本的な考え方に通じる。
大須賀さんが語る輸入ビジネスの"勝ち筋"の見つけ方とは?
良い商品を「安く」ではなく、「高く」売って利益を上げる時代に勝ち抜くためのヒントをいただいた。
ベッドメーカーの営業から「自分で自由に値段が決められる」輸入ビジネスの道へ
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『価格はアナタが決めなさい。』についてお話を伺います。大須賀さんは貿易アドバイザーの資格も取得されていますが、輸入ビジネスの世界に携わってどのくらいになるのでしょうか。
大須賀:本書にも書いていますが、輸入ビジネスを一人で立ち上げてから約37年経ちます。2004年にジェトロ認定貿易アドバイザー(現AIBA認定貿易アドバイザー)の資格を取得してからは輸入ビジネスアドバイザーとして活動をしています。
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大須賀さんと輸入ビジネスとの出会いについて教えてください。
大須賀:大学生の時になるのですが、ヨーロッパ、アメリカに長期で旅行をしたんです。最初はお金があるから値段に疑問を覚えずに物を買ったりしていくわけですが、後半になるにつれてだんだんとお金がなくなると、ちゃんと値段を見て買うようになるわけですね。
そのときに気づいたんです。海外には「定価」というものがないのでは、と。価格を決める裁量があるのは末端の小売店で、メーカーが定価を決める日本とは全然違います。その後、私は大手ベッドメーカーに営業マンとして就職するのですが、その会社は小売店にはあまり好かれていませんでした。
なぜなら、卸価格が定価の約7割で小売店にとってきわめて粗利が少なかったからです。もちろんお店側からは私の存在が嫌がられるわけです。そうなると、私自身もやる気が上がりませんし、仕事が嫌になるわけですよね。この会社にいてもしょうがない、と。それで自分が自由に値段を決められる商売の道、つまり輸入ビジネスの世界に入ってきたのですね。
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では、学生の頃にはすでに海外の値付けの仕組みに気づかれていた。
大須賀:旅行をはじめた頃は「これが普通の値段なんだ」と思っていましたけど、だんだんと同じ商品なのに店舗によって値段が全然違うことに気づいてくるんですね。
ただ、最初、私はその事実をお店の人は知らないんじゃないかと思ったんです。それで親切心から「この店は他の店よりも高く商品を売っているけど、大丈夫なの?」と疑問を投げてみたら、「当然知ってるよ。何か問題なの?」と言われまして。そこで初めて、値付けというのは、本来は自由なんだと驚いたわけです。
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街中の市場なんかにいくと、観光客相手にあらかじめ高くふっかけてくる人もいますよね。
大須賀:そういうケースもありますよね。値下げ交渉が前提になっていて、交渉しなければそのまま高い値段で買ってしまう。
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日本の定価制度というのが実は当たり前ではない、と。
大須賀:日本の場合、高度経済成長期における百貨店の影響が強いんです。小売の王様である百貨店はいろんな商品を扱っていますが、それゆえに売り場の担当者に異動があります。呉服の売り場にいた人が食品コーナーに行ったり、家具売り場に行ったりというね。そうなると、なかなか商品の価値を見定める目を極めることができない。
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そうなると、定価があったほうが合理的です。
大須賀:そうですね。このくらいで売ればいいということが分かっているわけですから。
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日本において実際に値段を決められる立場というのはどういう人なのでしょうか。
大須賀:製造者、製造元であったり、あとはコンセプトを作った人。それと、「だいたいこのくらいの値段じゃないかという相場勘も大きいですね。通例や慣習のようなものもあります。
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先日、白血病の新薬が保険適用になったというニュースが流れましたが、価格が3349万円と高額です。ただ、この場合は研究開発費なども莫大でしょうし、メーカー側としてはそのくらい高額でないといけないという判断をしたということでしょうか。
大須賀:新薬の研究・開発には相当な経費がかかっているし、他の会社が同じように造れるものではないですよね。だから、そのくらいの付加価値をつけても問題ないという判断なのではないかと思います。世界にないものだから、自由に値付けができる。必要なものだから購入する人がいる。その2点は大きいように思います。
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品質が良く希少性が高いと、値段も高く設定できるわけですね。ただ、定価に囲まれて日々を過ごしている以上、値付けの感覚を磨く機会はそうそうないと思います。
大須賀:そうかもしれません。サラリーマンの場合、自分で自分の値決めをすることも難しいわけですからね。給料は上司や経営層に評価されて決まるものです。誰かに判断される世界に続けると、値決めの感覚を養うことはできないということです。
ただ、アメリカなどでは、極端ではありますけど「自分は年収1200万円の仕事をします。できなかったらクビにしてください」というような就職の仕方をしている人が多いですよね。それは自分で自分の価値を付けているということですから。
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そして、年収1200万円に見合った仕事ができればOKと。
大須賀:相手が認めれば1200万円満額支払われるでしょう。
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そうなると、商品を安売りしないということも大切ですよね。最近、1970年代にベストセラーになった藤田田さんの『ユダヤの商法』が復刊して話題になっていますが、藤田さんは「ユダヤの商人は自信のある商品は絶対に安売りしない。消費者に高く売るための教育をする」と言っています。
大須賀:なるほど。私も『ユダヤの商法』を昔読みましたが、まさにその通りだと思います。その会社や人が持つ独自のノウハウやサービスの付加価値を高めていき、それを提供することが大切です。安易に安売りに走ると資本力のある会社には勝てませんからね。特に中小企業は、自社の商品を安売りしないことが必要です。安売りをすると粗利はどんどん減っていきますから、会社が疲弊する一方です。
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そういう点では、海外のメーカーは自社の商品をブランディングで高く売るのが上手ですよね。掃除機メーカーのダイソンですとか。
大須賀:アップルのiPhoneなんかもそうですね。ただ、日本でもそういう企業が少しずつ出てきています。
例えば、株式会社バルミューダはオーブントースターを2万円くらいで売っていますよね。また、白物家電のメーカーであるシロカ株式会社も独自の路線で自社をブランディングしています。
こういった会社に共通する点は、商品の価値を伝えることがすごく上手ということです。すごく美味しいトーストが焼けるって、シンプルだけど響くじゃないですか。そのメッセージにストーリーを乗っけて、体験を含めて商品を売っている。非常に上手だなと思います。
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新しい会社が独自性を打ち出すことで、慣習にとらわれない値付けができているという点は大きな変化ですね。まさに「価格はアナタが決めなさい」の時代への突入というか。
大須賀:そうですね。その変化は大きいと思います。
アマゾン輸入はNG!大須賀流"輸入ビジネス"のキモとは?
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ここまでは日本における価格決めのお話をうかがいました。『価格はアナタが決めなさい。』の後半は大須賀さんの本分である輸入ビジネスの方法について書かれています。ご提唱されているビジネスの最大の特徴について教えていただけますか?
大須賀:やはり価格決定権を持つことができるということですね。あとは、設備投資することなしにメーカーになることができるという点も大きいです。
メーカーになるには、普通は製品を製造することが必要です。でも、海外のメーカーと取引してその商品を輸入すると、日本の法律上、輸入者がメーカーとして位置づけられるんですね。だから、物を造らなくてもメーカーの立場になれるんですよ。
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また、本書は中小企業経営者だけでなく、個人向けにも書かれていますが、「toC」向けの輸入ビジネス、いわゆるAmazonを使った輸入転売ビジネスを否定されているのも特徴だと思います。
大須賀:まずAmazonの中ですでに価格が決まっていますし、さらに店子さんに商売をさせておきながら、自分たちも同じものを売りますよね。あの構造は店子を潰しにかかっているようなものだと思います。
また、Amazon輸入というビジネスは海外の小売りから商品を買って、内外価格差を利用して利益を生む手法なんですが、今はそれが通用しなくなってきています。ブランド製品の並行輸入は禁止になりましたし、世界共通価格をつくろうとする動きも出ていますからね。
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では、その中でECサイトを使わずにどのように日本にはない商品を見つけ出せばいいのでしょうか。
大須賀:そのコツは一つ。海外で開かれている展示会に行くことです。実は海外のメーカーは、商品を広める手段として展示会をすごく利用しています。自分から売りに行くのではなく、相手に来てもらうのが基本スタンスですから。
私たちはそこで商品を仕入れる前にリアルに見ることができますし、すでに取引があるならお得意先に会うことができるので、これ以上の方法はないと思いますね。
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海外の展示会に行く前にもある程度の商品の目星をつけたほうがいいと思うのですが、いかがでしょうか?
大須賀:今あるもの、これまで使われてきたものの単価を下げるビジネスをするならば、それでもいいと思うのですが、今日本にない商品を見に行くというとリサーチのしようがないですよね。見た瞬間、「これ、何なの?」と驚くものがあれば、それは未来に広まる可能性のある商品だったりするんです。
私自身の話で言うと、自動掃除機のルンバですね。10年前に海外で見かけたときは「これはなんだ?」と驚きました。ただ、おもちゃのように思えてしまって手を出さなかったんです。
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でも、日本でも普及しましたよね。
大須賀:そうなんです。だから、何が売れるのかは分からない。
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逆に手を出した商品が全く売れないということもありますよね?
大須賀:「これは売れそうだ」と思っても全く売れないこともあります。そういう失敗をなくすように、まずはサンプルを購入して、そのサンプルを日本国内の展示会に出展し、客の反応を見る。そして、反応を見るまでは契約してはいけないということを本書で呼びかけています。
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なるほど。先走りするな、と。
大須賀:だから、輸入ビジネスを始めるにしても、100万円くらいの規模の出資は想定しておくべきでしょう。海外の渡航費、サンプルを購入する費用、そして国内の展示会出展費ですね。一方で、「これは売れる!」と思って先走って商品を発注してしまうと、1000万円、1億円クラスの損失が出る可能性が高まります。失敗のゴールデンパターンとも言うべきものですね。
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また、本書では独占販売権を取得しなさいと書かれていますが、契約書を含めて難しそうなイメージです。
大須賀:いえ、難しくないんですよ。実は契約書の作成は思っている以上にすぐにできます。本書では、独占販売権の取得方法はもちろん、BtoB輸入ビジネスのやり方を7つのステップにわけてわかりやすく解説していますので、ぜひ読んでみてください。
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海外の方とのコミュニケーションの取り方で気を付けるべき点を教えてください。
大須賀:当たり前ですが、挨拶を欠かさないですとか、あとはビジネスマン同士の交渉だということを忘れないことですね。どうしても日本人は「自分はお客である」という感覚が強くなりがちですから、気を付けないといけないところです。
ただ、貿易ビジネスについて、日本人というだけで優位性が高くなるのは事実だと思います。信頼性は高いですし、リスペクトを受けていると感じられることは非常に多いですよ。
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この本で書かれているビジネスは新規事業向けですよね。独立しようと思っている個人が新たな儲けの種を得るためのノウハウを学ぶことができる一冊だと思いますが、どんな点を重点的に読んでほしいですか?
大須賀:ビジネスにおいて価格を自分でつけられる立場に行くことが大事と言いましたが、それと同時に独自の付加価値をつけることも同じくらい大事だということです。あなたのビジネス、扱っている商品の強みはなんですか? と聞かれたときに「えーっと…」と考えずに言えるようにする。これがすごく重要なんです。
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どんな人が輸入ビジネスに向いていると思いますか?
大須賀:感性が若い人、好奇心が旺盛な人ですね。
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『ユダヤの商法』の藤田さんももともとは貿易商から身を興していますが、本を読むとすごく好奇心溢れている方だなと思いました。
大須賀:そうなんですよね。あと、歴史的な偉人で言うと、坂本龍馬も貿易会社を立ち上げていますからね。
輸入ビジネスで扱う商品は物じゃなくてもいいんですよ。知的財産、サービス、ビジネスの仕組みなんでもいい。今、日本が最も力を入れている輸出物の一つにアニメなどのコンテンツがありますが、それも貿易の一つの商品になるんです。逆に輸入ならば、アメリカの最先端のマーケティング手法を仕入れるでもいいわけですね。
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では最後に、本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?
大須賀:一番は経営者、社長ですね。世の中の変化が速い中で、どんどん新しい手を打ちながら改善をしていかないといけない。今はどんなに良い会社でも、20年後、30年後で同じ状態を維持してやっていけるかというと、そうではないでしょう。次世代に受けつないでいくためにも、新しいビジネスに足を踏み込んでいくことはとても大事ではないかと思います。
また、独立したいと考えているビジネスパーソンや個人事業主の方々にもおすすめです。実際個人で輸入ビジネスを立ち上げられている方も多いですし、本書はその方法も書いているのでぜひ参考にしてほしいですね。