インタビュー
初めての講演テーマは「飲食業は働く価値を学ぶ学校だ」
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『あなたの経験を仕事に変える技術』についてお話を伺います。まず、この本を執筆した経緯から教えてください。
鴨頭:世の中にはたくさんの素晴らしい知識や経験を持っている人がいます。それにも関わらず、その得た知識や経験を多くの人に伝えるといった機会をうまく使っていない人が多いと以前から感じていました。
でも、これからの時代は情報発信するためのツール、例えばYouTubeやSNSなどを使えばすべての人が講師業として今まで自分の人生で得てきた知識や経験を世に広げることができると思っています。この本は、その方法についての手引きを伝えることが必要だと思い執筆しました。
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鴨頭さんは「炎の講演家」という肩書きのもと、プロ講演家として活動されています。講演活動を始められたきっかけはなんだったのでしょうか。
鴨頭:社会貢献活動である「ハッピーマイレージ」を世の中に広げていく上で、講演家という方法が最も影響力を与えることができるのではないかというところからです。それだけで以前勤めていた会社をやめました(笑)。
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「ハッピーマイレージ」とは?
鴨頭:これはお客様が、サービス業で働いている人に対して「素晴らしい接客だな」「親切だな」と思ったときに渡すカードのことです。いわゆるカードを使った承認活動ですが、8年前から始めて今まで約52万枚配布されています。
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その以前、勤められていた会社というのがマクドナルドですよね。ハッピーマイレージという活動に行き着くまでに段階があったかと思いますが、その部分を詳しく教えてください。
鴨頭:マクドナルドでスーパーバイザー(管理者)をやっていたのですが、その時にちょうど運命の出会いがありまして。居酒屋「てっぺん」の代表で講演家としても著名な大嶋啓介さんの講演会を聞きに行ったんです。
そこで大嶋さんが立ち上げられた「居酒屋甲子園」の内容を知って衝撃を受けまして。居酒屋さん同士が共に学び、共に成長し、そして共に勝つという理念で勉強会を行ったり、大会を開催したりするんです。
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それは、どのようなところに衝撃を受けたのですか?
鴨頭:はい。そもそも飲食業ってマーケットの規模が決まっているんです。例えばラーメン屋であれば、自分の店の向かいに競合のラーメン屋ができたら、売り上げが普通半分になるんです。それは居酒屋業界も同じです。それにも関わらず、大嶋さんは「居酒屋同士で共に学び、良い情報をシェアしあって、日本を元気にしよう」と言うわけです。
この人は何を言っているんだという感じでした。その時、僕はマクドナルドで競合となるファストフード店をどのようにつぶすかを考える仕事をしていたんです。競合がつぶれれば、マクドナルドの売り上げになりますからね。それで成果をあげて喜んでいた、と。
そんな中で、自分より年下の大嶋さんが、自分の会社のことだけを考えずに「共存共栄」を呼びかけ、居酒屋という業界全体で社会を良くしようと呼びかけていたんです。悔し泣きしました。それまで考えてもいなかったことを言われて。自分はマクドナルドの売り上げを上げることだけを考えていて、視点が低かった。そこから、自分も世界を変えることができるんじゃないかモードに入りまして(笑)。
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そこでマインドが変わったと。
鴨頭:私が働いていた当時、マクドナルドには「ミステリーショッパー」という調査会社が派遣する覆面調査員がたびたび店に来て、従業員の接客態度や店内の状況などをチェックして、評価ツールとして使うという仕組みがありました。おそらく今でもあるのではないかと思います。
ただ、実際のところ、働いている人たちは対策を立てるわけです。マイナス評価をされたらまずいので頑張ると。だから、サービスのレベルを最低限まで引き上げるには効果的なんです。
でも、僕はサービス業って、マイナス評価されたくないから頑張るのではなく、目の前のお客様にどうすれば喜んでもらえるか、疲れている人をいかにして癒せるかというような、美しい世界が本来のあるべき姿だと信じています。また、そう思って頑張っている人も現場にたくさんいるんです。
それで「これは何か違うな」と思って、減点されるのを怖がって働くのではなく、お客様に褒められたから頑張るというような仕組みをつくりたい、と。そうなったら、サービス業で働く人はみんな輝くだろうと、ほとんど妄想に駆られて会社を辞めたんです。こんな仕組みをいち社員だけの力でつくることはできないので。
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外から変えていこうと。
鴨頭:そうです。言ってみれば、これは会社や従業員を変えるのではなく、業界そのものを変えようという考え方ですから、相当クレイジーですよね(笑)。でも、当時は自分の使命を見つけたという感じでした。
そこから「ハッピーマイレージ」に行き着くわけですが、それを広めるためにはどうすればいいかと考えたときに、講演家という手段があった。それで影響力を高めようと思って「自分もやる!」となったわけです。
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初めて人前で講演をした際のテーマって覚えていますか?
鴨頭:もちろん覚えています。
講演家になると決めて、さっそく異業種交流会に参加しました。そこで名刺交換すれば、講演の仕事が取れると思っていたから(苦笑)。でも、この本の中でも「どうやったら自分が売れるか」ということを書きましたが、当時はそんなノウハウもなかったので、無駄なことばかりやっていました。
ただ、その異業種交流会にたまたまプロのセミナー講師の方がいらっしゃって、僕の熱い想いを語ったんですね。そうしたら、翌朝その講師の方に、ハローワークから、就業希望者向けに飲食店で働く楽しさを教えるセミナーをしてほしいという依頼が来たんです。
その時、ちょうどその人の中で僕の暑苦しい姿が思い浮かんだそうで、「ギャラはほとんど払えないけれど、やってみますか?」と聞かれて、即答です。その時のテーマは「飲食業は働く価値を学ぶ学校だ」というものでした。
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とても絶妙な講演テーマですよね。鴨頭さんにぴったりというか。
鴨頭:まさにそうなんです。飲食店で働くことがどれだけ素晴らしいかを激アツに語るという(笑)。その時、そのセミナー講師の方が僕の話を聞いて「この人は世に出られる」と思ったらしく、契約講師としての道が開けたという感じですね。
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今ではどのような講演・セミナーでお話されているのですか?
鴨頭:今は主に企業や個人に向けて組織のリーダーシップやマネジメント、コミュニケーション、営業力、接客などについて教えています。また、話し方の学校を通じて、あがり症やスピーチ対する不安を抱えている人の悩みを解決したり、プロ講師の学校を通じて、プロの講師業として食べていく方法も伝授しています。
他には、ビジネス実践塾を通して、売上を上げたい、利益を上げたい、組織を活性化したい、などの経営者の悩みの解決などを教えています。
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まさに、マクドナルドのスーパーバイザー時代の経験を活かしている、と。ただ、自分の強みや経験は他人の学びにならないのではないかと思う人もいるはずです。自分が何を教えられるのか分からないという人にはどのようにアドバイスしますか?
鴨頭:自分は何が教えられるのかわからない人に対しては、今まで自分の過去の体験の中から最も多くの時間を使ってきたことですとか、最も多くのお金を使ってきたこと。あとは、最も多く人に質問や相談をされたこと、最も自分が人に話したくないことなどを自分自身に質問し、リストアップしてもらいます。その上で、自分が人にプレゼントできる項目を選んでコンテンツを作っていくということを教えていますね。
なぜYouTubeに無料で講演をアップしてもセミナーに人が集まるのか?
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『あなたの経験を仕事に変える技術』は、自分の経験や強みを活かせるプロ講師への道について書かれています。鴨頭さん自身は、講師という仕事の魅力はどのような点にあると思いますか?
鴨頭:講師業は、自分が得てきた知識や体験を人に伝えることによって、聞いてくれた人に希望や勇気、夢を与え、喜んでもらう仕事であること。そして、自分自身がそれで食べていけるという「奇跡の仕事」であるということが最大の魅力だと思います。
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「講師」という仕事に向いている人の特徴について教えて下さい。
鴨頭:「体験」をしたことのある全ての人に向いていると思っていますが、その中でも特に「こんな人はぜひ講師をやってもらいたい」という人は、過去に上手く行かなかった体験、辛かった体験などを乗り越えた人です。
人前に立って話すというところで、完璧な人間にならないと話す資格はないのではないかと思う人もいるでしょうけど、実はそうではないんです。むしろ完璧ではない人のほうが学びになります。
もちろん、今が失敗の真っただ中であれば話すことは難しいけれど、その失敗をどう乗り越えたか、どう自分なりに受け入れたかということは大きな価値なんですね。失敗を話すのは恥ずかしいという人は、心の矢印が自分向きになっていて、「自分がどう見られたいか」を念頭に置いてしまいがちです。
講師業は聞き手に矢印を向けて話す仕事ですから、聞き手が何に価値を感じるかが大事になります。自分が失敗したり、上手くいかなかったことを乗り越えた経験が、聞き手の心を動かすんです。
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なるほど。どんな人でも多かれ少なかれ失敗はしているわけで、その生の声を届けることで話に価値が生まれる。
鴨頭:例えば、19歳のアルバイトリーダーの子の話は、40歳の管理職や経営者の人にはおそらく価値がありません。ただ、これから初めてアルバイトをする高校1年生の子たちにはすごく価値がある。そう考えれば、完璧じゃなくてもいいですよね。
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では、自分の経験を人のために役立てたい、セミナーや講師で自分の経験を伝えたい!と思った人は、まずどんな準備をすべきでしょうか? 持っているべきスキルなどがあれば教えてください。
鴨頭:講師としてデビューするときに、まず初めに取るべきアクションは、本書の中にも書きましたが、会場を予約することです。なぜなら、会場を予約しセミナーの集客を始めたときから人は必ずコンテンツ作りや集客に取り組むようになるからです。
また、講師のタイプによって必要なスキルは異なりますが、全ての講師のタイプに共通して必要なことは「スピーチ力」です。どんなに素晴らしい知識や体験があったとしても、聞き手に伝わるスピーチスキルがなければ価値に転換されにくくなります。
ある一定のスピーチスキルを身に着けているひとであればどのような些細な体験であってもそれを必要としている人に届けることができる。なので、準備段階として必要なスキルは「スピーチスキル」と言えるでしょう。
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本書では自分の存在を知ってもらうための手段としてYouTubeの活用をすすめています。鴨頭さんがアップされている動画の中には、300万回近い再生数を誇る動画もあります。普段のYouTubeの運用方法、再生数を増やすための工夫、動画制作で心がけていることを教えて下さい。
鴨頭:はい、実はつい先ほど私がアップしている動画のトータルの再生回数が5000万回を突破しました(笑)。
YouTubeは講師業にとって最強のツールです。なぜなら、お客様と出会う前に信頼関係を構築出来るから。人はその人についての情報量が多ければ多いほど、信頼をします。そして、テキストや画像よりも動画のほうが圧倒的にその講師の考え方や声や表情やトーン醸し出しているオーラなどを届けることができます。
つまり、YouTubeをお客様が見て、その講師の情報をたくさん得た上で「この人の話だったら信頼できる」と思ってから講座に参加することができる。そうすると、何の疑いもなく講演からコンテンツを持って帰ることができますよね。つまり、YouTubeはお客様が安心するためのツールなんです。
YouTubeの運用方法についてはそれだけで一冊の本になるくらいノウハウがたくさんありますが、もしこれから動画を始めようと思っているならば、とにかく一個でも早く動画を上げ、一回一回改善をしていくことをアドバイスします。
改善のプロセスの中で、きっと他の人気のYouTuberの動画がなぜ再生回数が多いのかということを理解できるようになっていきます。だから、まず知識を大量に入れることよりも自分が動画を上げながら優秀なYouTuberと比較し、ブラッシュアップしていく。これが道筋と言えるでしょう。
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鴨頭さんのプロ講師としてのポリシーを教えてください。
鴨頭:僕の講師としてのポリシーは「良い情報を撒き散らす」なんです。なぜなら、人は情報に影響を受けて生きているから。
例えば周りの人がいつも否定的で「夢なんて叶わない」「そんなの綺麗事だ」という情報ばかりで埋め尽くされれば、人はチャレンジする意欲を無くし、やがて周りに染まってしまうでしょう。
でも、「全体叶うよ!」「応援するよ!」とポジティブな情報ばかりが集まっていれば、人は新しいチャレンジをどんどんして、夢を叶えていくことができます。人は情報で変わりますから、私は「良い情報を撒き散らす」という事こそが講師業の醍醐味、存在意義だと思っています。
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では最後に、本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?
鴨頭:講師業を目指している人。また、今現在は講師業を目指していないけれど、今まで様々な知識や経験をもっていて、「今後、世の中に何か残したい!」と思っている方ですね。そんな時にこの本を読んで「そうか!自分の経験を伝える事によって自分が今まで人生を生きた証を残せるのだ!」という気付きとアクションをとってもらいたいですね。