本書の解説
貯蓄に利息がついた時代はとうに終わり、年金制度も心細いものになりつつある今、いかに給料以外の安定収入を作るか、またはいかに手持ちの資産を増やしていくかは、誰にとっても無視できない問題になっている。
より切実なのは、子どものいない夫婦(DINKS)や独身者かもしれない。子どものいない夫婦はほとんど同時期に働けなくなり、独身者は病気などで自分が働けなくなればそこで収入が途絶える。特に独身女性は「自分がいつまで稼ぎ続けられるのか」という不安をどこかで感じている人は多いはずだ。
『「おふたりさま」の賢いお金のまわし方 DINKSなら低リスク不動産投資で豊かに暮らそう!』(みらいパブリッシング刊)の著者、花咲美樹さんは「DINKSや独身女性こそ不動産投資で安定収入を」として、不動産投資の初心者向けに物件の購入から金融機関との付き合い方、物件の管理方法までを解説している。
あなたはなぜ不動産投資をするのか?不動産投資でどれくらいの収入を得たいのか?
花咲さんいわく、初心者が不動産投資で失敗しないためにまず心がけるべきは「なぜ自分は不動産投資をするのか」という目的とゴールを決めること。何を目的として、どのくらいの規模を目指し、どのくらい稼ぎたいのかによって、取るべき戦略も変わる。将来への不安と焦りだけで始めてしまうと失敗しやすい。
「老後の心配をなくす」でもいいし、「給料以外に〇万円くらい入るようにしたい」でもいい。不動産を手に入れて、運営する前に自分の目指す先を明確にしておくべきだ。
無料のセミナーには注意せよ
新しいことを始める時はどうしても本やセミナー、勉強会などに参加して知識をため込みたくなる。これは不動産投資も同様だが、セミナーや勉強会の類は注意が必要だと花咲さんは指摘している。
特に「無料」をうたっているセミナーは、「なぜ無料なのか」を考えるべきだ。不動産投資関係の無料セミナーには、不動産会社が主催でその会社の営業マンが講師を務めているものが多々ある。もちろん目的は「不動産を買わせること」だ。無邪気に「講師=不動産の専門家ですごい人」と思っていると、さして魅力のない物件を買わされて痛い目を見ることになる。
リフォームに凝りすぎるのは危険
花咲さんが「女性にありがち」と語るのが、物件を購入した後のリフォームに過剰に投資してしまうこと。これは中古物件を購入した場合だが、不動産初心者はリフォームのポイントがわからず、ついついお金をかけすぎてしまうのだとか。
当然、お金をかければかけただけ初期費用の回収が遅くなる。「安いコストで、いかに高く貸せるかが勝負」なのはあたりまえといえばあたりまえなのだが、ついついおろそかになってしまいがち。「リフォーム費用は月額家賃の3ヵ月~1年分が目安」と心得よう。
一人でやろうとしない
一方で、何でも一人でやろうとするのはやはり危険だ。アドバイスを仰げるプロや不動産投資の先輩をいかに見つけるかは、初心者にとってはとても重要になる。
不動産投資には、どの選択肢にどんなリスクがあるか、経験者でないとわからないことが多い。不動産という大きな買い物に失敗しないためにも、アドバイスしてくれる人は早めに見つけた方がいい。
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「投資は失敗も勉強」と言われるものの、そうはいっても失敗しないで済むならそれに越したことはない。本書では花咲さんの不動産投資メソッドが明かされているが、過去の失敗体験についても隠さずに書かれているため、投資初心者にとっては不動産投資に潜むリスクに気づくことができ、同じ轍を踏まないように対策を立てられるはずだ。
(新刊JP編集部)
インタビュー
「不動産投資は女性に向いている」の真意
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『「おふたりさま」の賢いお金のまわし方 DINKSなら低リスク不動産投資で豊かに暮らそう!』は花咲さんの最初の著書になります。まずは本書をお書きになった動機からお聞かせいただければと思います。
花咲:私はあまり勉強せずに不動産投資を始めてしまったために、色々失敗して遠回りをしながら今のポジションにきました。その経験をシェアすることで、次の世代の方々が不要なつまずきをしないようにという思いからですね。
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どんな失敗をされたのでしょうか?
花咲:一番大きな失敗は「かぼちゃの馬車」のシェアハウス物件のサブリース契約に簡単に乗ってしまったことです。
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「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズによるシェアハウス家賃未払い問題は大きな問題になりました。花咲さんも被害に遭われていたとは。
花咲:もう4年ほど前になりますが、サブリースで管理を丸投げできて、なおかつ利回りが8%というのにつられて「かぼちゃの馬車」の物件を買ったんです。まだ前の家が建っていて、これからつぶして更地にしてから物件を建てるという話だったのですが、立地が良くてつい話に乗ってしまったんですよね。
というのも、当時不動産投資のセミナーに行っていたのですが、そのセミナーで講師をやっていたのが、この物件の仲介会社の社長だったんです。その社長に紹介されて買ったという成り行きです。
初心者のうちはセミナー講師って「先生」なんですよ。不動産仲介業者だろうが不動産管理会社の社員だろうが先生なので「この先生が勧める物件ならいいのかな」みたいな感じで乗ってしまったのは今思うと浅はかだったなと思います。誰がどんな利害関係で動いているかは冷静に見ないといけない、ということはこれから不動産投資を始めようと思っている方には伝えたいですね。
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済んだ話を掘り返すようで気が引けるのですが、その件はその後どうなったのでしょうか。
花咲:そのかぼちゃの馬車の物件を買った後にアパートを一棟買ったのですが、その際は自分で勉強して知識をつけるようにしました。それにつれて、「かぼちゃ」の物件を買ったのは失敗だったんじゃないかと思い始めたんですね。周りの人からも「かぼちゃの馬車の現状のサブリースがいつまで続くかわからないから準備した方がいい」と言われていたので、スマートデイズがつぶれる想定で準備はしていたんです。
具体的にはスマートデイズとスルガ銀行が組んで、物件購入向けの融資を高金利で貸出していました。支払利息を減らす為、早めにスルガ銀行から他の銀行にローンの借り換えをしました。そのお陰で傷は浅く済んだのですが、逆にいうとスルガ銀行に対しては、今は文句を言える立場にはないんです。
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そして実際にスマートデイズが破綻して、物件の管理もストップしてしまった。
花咲:そうです。だから物件を管理してくれる管理会社を探しなおさないといけませんでした。ただ、「かぼちゃの馬車」の物件はサブリースの保証料(サブリース契約で大家に支払われる家賃)が高かったんです。それにみんなつられてしまったところがあったのですが。
だから、他の管理会社に物件管理を頼むとどうしても利回りが低くなってしまう、という。
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この件で得た教訓はどんなことですか?
花咲:人のうまい話に乗らないことと、人任せにせず自分で調べることですね。自分がまさかこういう被害にあうとは思っていませんでしたが、たとえ騙されたりするにしても、少なくとも自分で調べて納得してやったことならそんなに後悔はないと思うんです。
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今回の本は、これから不動産投資を始めるという方に向けて書かれたかと思いますが、中でも女性に向けて書かれているように感じました。
花咲:そうですね。私自身結婚していて子どもがいないので、まずそういう方々に向けて書いたというのがありますし、あとは30代、40代のシングルの女性に向けて書いてもいます。
なぜなら、私は35才まで結婚願望が無くて、ずっと独りで生きていくつもりだったから、独身女性の感覚が分かります。今もお金の運用や管理に関しては、我が家は女性主導型でやっているので、独身時代と同じ感覚です。
私自身も経験があるのですが「このままでいいのかな?」とか「この先どうしよう」という不安はシングルの女性なら誰でもあるはずなんですよ。でも物件を持っていてある程度そこから家賃収入があると精神的に安定するはずです。
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本の中で「不動産投資は子育てに通じる」と書かれていました。この真意をお聞きしたいです。
花咲:子育てってすごく大変だと思いますが、将来的には困った時にサポートしてくれるという希望にもなります。不動産も同じで、管理やメンテナンスは大変だったりもするけれど、いつかは自分を助けてくれるものなんです。
不動産は子どものいない夫婦にとっては子どもの代わり、独身者にとってはパートナーの代わりになってくれる存在だと思っています。
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不動産投資は女性に向いているとも書かれていましたね。この理由についてもお聞きしたいです。
花咲:入居者の方のためにこんなものがあったら便利かな、とかこういう風にしたらもっと住みやすくなるかな、というこまごまとしたことに気づく感性は女性の方が鋭いと思いますし、周りの方を見ていると入居者とのコミュニケーションも女性オーナーの方が楽しんでやっている印象があります。
へそくりの200万円でもできる!不動産投資の賢い始め方
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不動産投資は「へそくり程度のお金でも始められる」と書かれていましたが、100万円や200万円の手持ち資金ではじめてもできることは限られています。仮に使えるお金が200万円あるとして、花咲さんならどんなことをしますか?
花咲:そのお金を頭金にして融資を受けるという手がまず一つあります。純粋にその200万円だけでやるとしたら、地方の築古の戸建てを買ってリノベーションをした上で賃貸に回しますね。
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地方の戸建て築古物件に入居者がつくのかという疑問があります。
花咲:地方といっても本当の田舎ではなくて、各都道府県の県庁所在地から近い市町村をターゲットにするといいと思います。たとえば千葉市やさいたま市の郊外とか、これは自分のことでもありますが大阪の堺などです。このあたりであれば戸建て物件が安く売りに出ていますし、多少時間がかかっても入居者は入ります。
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融資を受ける場合は、自己資金200万円だとどのくらいの額が上限になるのでしょうか。
花咲:今は最低2割くらいは自己資金として用意してくれと言われるので、200万円でひける融資は1000万円ほどでしょうね。
1000万円あるなら、同じように地方で二部屋くらいのちょっとしたアパートを一棟買えたりします。築古なら23区内でも江戸川区や北区などには安い物件があったりしますね。やはりリノベーションして賃貸で回すかなと。
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融資が下りるか下りないか、あるいはいくら下りるのかはどんな尺度で決まるのでしょうか。もちろん自己資金の額や購入しようとしている物件の価値は考慮されるでしょうが、それだけで機械的に決まるものなのですか?
花咲:自己資金や物件の価値はもちろんですが、大家さん本人も見られます。ですから「自己資金の額」「物件の価値」「大家さん」の3点を見られるということですね。
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花咲さんは物件の管理を管理会社に任せずご自身でされています。自主管理のメリットについてはどうお考えですか?
花咲:入居者から要望やクレームがあった時にすぐレスポンスができるのはメリットだと思います。管理会社を通すと深夜は連絡がつかなかったり、営業日以外は対応してくれなかったりと、どうしても遅くなることが出てしまうので。
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会社員として仕事をしながらですと、きつくないですか?
花咲:私が働いている平日の昼間は入居者も働いていますからほとんど連絡がくることはありません。だから仕事が不動産管理の障害になることは今のところないですね。平日夜や土日は何か連絡がきたらすぐに反応するようにしていますが、それがきついかというと私の場合はそうでもないです。
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管理会社を使うのと自主管理をするのではどちらが主流なのでしょうか。
花咲:はじめは管理会社に任せる人の方が多いと思いますね。ただ、これは不動産投資をどんな風にやっていきたいかというタイプにもよります。物件をどんどん買って手を広げていきたいという方は、管理なんてしている場合じゃないと思いますし、手を広げずにやっていきたいという方は管理自体も楽しんでいる方もいますしね。
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これまでに物件管理上のトラブルはありましたか?
花咲:シェアハウスの物件を持っているんですけど、そこで以前入居者が家賃を滞納したままいなくなってしまったことがありました。シェアハウスは普通のアパートよりも家賃滞納や入居者が逃げてしまう問題が起きやすいんです。
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なぜでしょうか。
花咲:ホテルのように家具や生活用品が備わっているので、入居し易いからです。スーツケース1つで入ってくる方もいます。入り易いということは、出てもいき易いということです。
普通のアパートの賃貸契約だと、ほとんどの場合入居者と物件のオーナーの間に保証人や保証会社が入りますよね。そうすることでトラブルの抑止になっているのですが、シェアハウスの場合は保証会社が入らないケースがあるんです。
やはり「入りやすさ」はシェアハウスの大きな魅力なので、保証会社を使うのを必須にしてしまうと条件面で他のシェアハウスに負けてしまう。だから管理会社に頼んでもやはり保証会社を入れないケースが多いです。
家賃を踏み倒す人はそういう事情を知ったうえで入ってくるんでしょうね。シェアハウスのオーナー同士の横のつながりがあれば情報交換して対策を打てるんでしょうけど、そういったものはないのが現状です。
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そうしたリスクがありつつもシェアハウスを運営されている理由はどんなところにあるのでしょうか。
花咲:普通にやっていればアパートより利回りが高いというのが大きいですね。あとは築年数で入居率が変わらないのもメリットだと思います。よほどきれいであれば多少競争率が増すのかもしれませんけど、築3年でも築10年でもあまり入居率に差がありません。
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不動産投資初心者がやりがちなミスがありましたら教えていただきたいです。
花咲:「のめりこみすぎ」には注意していただきたいですね。一度はじめてしまうと、手を広げて次から次に物件を買いたくなる人が多いのですが、そんなにたくさん不動産を保有して投資にかかりきりになっている状態は、はたして本人が望んだことなのかという気はします。
「どんな生活をしたいのか」「どれくらい不動産投資で稼ぎたいのか」という目標や目的を定めてからはじめないと、際限なく不動産投資にのめりこむことになりがちなので気をつけていただきたいですね。
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最後に、これから不動産投資を始める方々にメッセージをお願いします。
花咲:後悔のない人生を送るためには、少しでも興味を持ったことがあったら始めてみることです。不動産投資についても、興味を持った時がはじめ時です。やらずに後悔することはあってもやって後悔することはないと思うので、まず第一歩を踏み出していただきたいですね。
あとは、一人で進むのではなくて誰か頼れる人を見つけて一緒に進むといいですよ、というのもお伝えしたいです。
(新刊JP編集部)