展示会への出展も「受注につなげられなければ意味はない」
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『最新版 飛び込みなしで「新規顧客」がドンドン押し寄せる「展示会営業」術』についてお話をうかがいます。まずは本書を出版した経緯から教えていただけますか?
清永:これまで「展示会営業」についての本を2冊出させていただいたのですが、非常に好評をいただいていて、ロングセラーを続けています。
「展示会営業」は展示会に出展して、顧客を獲得し売上につなげるという営業手法ですが、その手法の広がり、そして展示会業界の活況もあって注目を集めているということで最新の事例を加えた「最新版」を出版しました。
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最近の展示会の活況ぶりについて教えて下さい。
清永:この本にも書かせていただきましたが、展示会の開催件数も増えていますし、来場者、出展社数も伸びているので、規模が拡大しています。ただ、その一方で、そんなに深くに考えずに情報収集に来るというような来場者も増えている部分も見られます。
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というと?
清永:商品やサービスについて、「購入を検討しよう」とか「きちんと情報収集しよう」と思って展示会に来場するのではない来場者が増えたということです。だから、出展社側が「さぁ!今日は売上をつくるぞ!」と意気込んで当日を迎えると逆に上手くいかない。そういうケースが多く見られるんです。
展示会のその場で商談がまとまることはあまりないので、出展社側が次につながる仕掛けをつくっておくことが大事になりますね。
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つまり、顧客をつかむための「工夫」がブースに必要になっているわけですね。
清永:はい。出展社側があらかじめ受注までの導線を設計し工夫して展示会に臨めば、来場者は、優良顧客になり得ます。そこに対応する必要が出てきているということですね。
例えば、化粧品の大型展示会「ビューティーワールドジャパン」に出展された会社さんにアドバイスしたことがあるのですが、そのときはブースに掲げられていた「頬のシミを撲滅」というフレーズの中の一カ所を変えたんです。そうしたら名刺の獲得枚数が3.7倍になりました。
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一気に目を引くようになったわけですね。なんでしょう。「撲滅」という言葉が少し重い雰囲気を漂わせていますが…。
清永:そう思いますよね。でもそこではないんです。そこではなくて、「頬」を「ほっぺ」に変えたんです。ただ、それだけです。出展社側からすると「『頬』も『ほっぺ』も同じじゃないか!」と言いたいところだと思います。その通りなんです。でも、来場者はそこまで深く考えて展示会を歩いていません。どちらかというと、ボ~っとしながら回遊しているんです。その中でいろんな情報が目に飛び込んでくる。すると何に目が行くかというと、普段から自分が使っている言葉なんです。「頬」ってあんまり使わないですけど、「ほっぺ」なら使いますよね。
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キャッチコピーの力が問われますね。
清永:キャッチコピーというと少しおしゃれにしないといけないような気がしますが、何より重要なのはわかりやすいことです。だから「ベタ」でいいんです。来場者が日ごろから心の中でつぶやいていることをそのまま書くようなイメージですね。
逆になかなか来場者が寄り付かないブースは、来場者の目線ではなく、自社の商品の性能やスペックにばかりフォーカスしているケースが多いのです。
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先ほど展示会が活況であるとおっしゃっていました。その中で清永さんに寄せられる出展会社側の相談はどのようなものが多いのでしょうか。
清永:いろいろなものがありますが、大きく言うとふたつに集約されます。一つは「どうブースをつくればいいのか分からない」という悩み。もう一つは、「出展するのだけれど成果が出ない」「一生懸命やったけれどどう評価していいのか分からない」といったものですね。
展示会というのはある意味特殊ですから、単に出展するだけでは上手くいかないのは当然です。
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では、「成果が出ない」「評価がしにくい」といった声に対する回答としてはどのようなものがありますか?
清永:プロセスごとの目標をつくっていくことが必要です。まず、展示会に出展することで最終的にどのくらいの売上をあげたいか。まずはそっから決めるべきなのに、実は多くの企業が最終的に得たい売上を決めずに出展しているんです。
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ただお祭りとして出展するだけになっている。
清永:そうですね。確かに出展したら、知名度は上がるかもしれません。でも、知名度を上げるという目的ではいまいちです。知名度がどのくらい上がったかというのは測定できないからです。測定できないことを目的・目標においても検証できませんよね。
売上につなげるにはどうすればいいかというと、最終的にはこのくらいの売上が得たいから、この展示会を通して出会った見込み客から受注を何件取りたいという具体的な数字を、期限を決めて設定するんです。
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その期限はどのくらいのがいいのでしょうか。
清永:それぞれの企業さんによって商談のリードタイムが違いますから、さまざまです。ただ、何件受注取りたいかを設定すれば、そこに対して何件見積もりを提出すればいいのか、そこに行き着くために、展示会では当日何枚名刺をもらえばいいのか、などが逆算できるようになります。
「名刺を●枚獲得するぞ!」と名刺獲得枚数だけを目標値に設定する会社さんも多いですが、それでは意味がありません。ブースに人だかりができて、たくさんの名刺が集まったからといって、それが成果につながるとは限らないからです。名刺はたくさん獲得できたけれど、そこからの受注はゼロだった、というケースだってあり得ますからね。だから、展示会では「受注につながらなければ意味がない」と割り切ることも重要なんですよね。
営業は「売り込む」のではなく「教える」が理想の形
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引き続き、展示会営業での目標の立て方について伺っていきます。先ほど、最終的な「売上」の目標を立てて逆算していくことが大切だとおっしゃっていましたが、その難しさもあるのではないですか?
清永:そうですね。2点、難しいポイントがあります。一つは「やらされ仕事」になってしまう可能性があるんです。「ノルマ化」してしまうと言った方が分かりやすいですかね。「目標達成しろ!」と言えばいうほどその傾向は強まり、成果も出にくくなる。嫌々取り組むことが成果が出にくいのは、何事も同じですが、展示会は特にその傾向が強いんです。なぜなら、展示会はお祭りでありイベントだからです。でも、言わないわけにもいかない。そのさじ加減が難しいですね。
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「無理やり出展させられている感」のあるブースは結構あります。
清永:そうですね。これを解決する方法としてゲーム化する、というやり方をお奨めしています。展示会出展という取り組みの中にゲーム的な要素を組み込んでいくのです。例えば、「名刺を何枚獲得しろ!」ではなく、名刺をもらったら1ポイント、さらにその名刺が部長職以上ならプラス2ポイントとか、そういう要素を持ち込む。得たい成果を出すための工夫は必要ですね。
もう一つの「難しいこと」は、ブースでの賑わいを取るか、それとも最終的な売上を取るかという点です。もちろん、最終的な売上アップを目指していくべきなのですが、ただ、展示会に出る以上、にぎわいのあるブースにしたいという気持ちも出てくるわけです。サービスや製品を売るためには、社長や部長などの決定権がある人にアタックする必要があります。しかし、当たり前ですが、実際、そういう上位職の人は来場者の中の一部でしかありません。そもそも少数の人を狙うわけですから、ブースに人だかりはできないかもしれない。人だかりをつくるだけなら、母数の多い担当者をターゲットにした方がいい。でも、それだと、最終的な売上にはつながりにくくなります。このあたりの判断をしっかりする必要があります。
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本書にはIT・ウェブ関連の会社も自社営業に展示会を活用していると書かれていました。これは少し意外とも思える動きです。
清永:対面で実際にサービスを見せることの重要性が見直されているのではないかと思います。ただ、だからといってウェブでのPRは意味がないということではなく、訴求できるターゲットが異なるんですね。ウェブで訴求できないターゲットにどうやってアピールしていくかというと、飛び込み営業も電話営業も厳しい。ならば展示会でしょうという流れです。
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本書の「展示会営業術」の最も大きなポイントは、営業が売り込む人間になるのではなく、教える人間になるという点です。
清永:その通りです。自分が何らかの専門家になり、教える立場になることが求められます。
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教える側に立つための仕組みとして何かありますか?
清永:ブース作りとしては、商品の説明するためのブースではなく、何かを伝えるためのブースにすることが大切です。
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何かを伝えるというのは?
清永:自社の商品を一生懸命説明しようとして話し過ぎる。これはNGです。その来場者は他のブースもまわっていますし、一回説明を受けただけでは、すぐに忘れてしまうでしょう。だから、相手の悩みや不安ごとを引き出しながら、その解決に向かうような話をする。それがまず重要ですね。
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そこで関係ができた見込み客を次につなげていくためのコツを教えていただけますか?
清永:あらかじめに仕掛けをつくっておくことが大切ですね。そのブースで申し込みをしたくなる特典を用意しておくイメージです。
例えば、私がお手伝いをしている清掃会社さんで、介護施設の清掃を受注したいということで介護施設の経営者が来場する展示会に出展したんですね。その会社はカーペットの洗浄で日本有数の技術を持っているのですが、だからと言って、ブースで「うちのカーペット洗浄技術はすごいです!」とアピールしても、おそらく来場者の反応は鈍いはずです。そうではなくて、相手の悩みにズバっとリーチするべきなのです。そこで、介護施設経営者の優先順位の高い悩みである「施設にノロウイルス患者が出ると怖い」という点にクローズアップしました。
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なるほど。確かにノロウイルスが流行して亡くなる方が出ると施設そのものの営業停止処分もありますからね。
清永:はい。それで、「ノロウイルス怖いですね」という文言をブースに掲げました。
ただ、多くの企業はここで足を止めた来場者から「本当にノロが防げるの? それならうちの施設も検討したいから電話をちょうだい」と名刺を渡され、展示会が終わった後に電話するという動きを取ります。ところが、それだと相手はすでにテンションも下がっているし、日常の業務もありますから「やっぱり今はいいや」となって、2回目の接触をすることすらできなくなってしまうんです。
こうならないように、その清掃会社さんでは、ある仕掛けをつくりました。その仕掛けとは、「ノロウイルス危険度チェック診断」です。ブースで来場者に対して、「この展示ブースでは、通常33,000円で提供している「ノロウイルス危険度チェック診断」を限定120施設に限り、無料で対応します」とトークするようにしたのです。「申し込みが殺到していますが、まだ少し枠があります。どうしますか?」と。
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そうすると、次回の面談アポイントに確実に結び付けられますね。
清永:そうです。相手から望まれて次回の面談アポイントが取れる。結果から言えば、3日の展示会期間でウイルスチェック診断の申し込みが124件ほど。そこから受注につなげられたのが88件ほどだったと思います。その仕掛けをつくらなければ、ブースで200人対応したとしても、次回の面談につながったのはおそらく40件もなかったと思います。
そう考えると、一つの仕掛けで劇的に成果は変わりますよね。
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そういう仕組みを作る人は誰に任せればいいのですか?
清永:私は社内で展示会出展のプロジェクトチームをつくることをすすめています。
メンバーは営業部門だけでなく、マーケティング、開発、購買、経理、メンテナンスなど各部門から1人ずつ出してもらって、社長自身がプロジェクトオーナーになる。
多くの企業では、部門同士の仲がよくないケースがあります。セクショナリズムの壁と言ってもいいでしょうね。会社というのは機能別の組織ですから、一生懸命に仕事をすればするほど、たとえば、「『営業部は売りために早く出荷したい』、でも『製造部は原価を下げるためにゆっくり段取りしてからつくりたい』」のように、利害が対立してしまう面があるからです。でも、展示会で成果を出すという共通の目的をもって、何度もぶつかりながら、プロジェクトチームの中で話し合っていくことで、だんだんと壁がなくなっていく。社内の風通しを良くし、組織を活性化させるという意味でも、展示会は大きなきっかけになりますね。せっかく出展するなら成功したいと思うのは誰もがそうでしょうし。
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出展する上で旗を持つ人は、やはり経営者や経営層の方がいいのでしょうか。
清永:そうですね。全体を統括する部分は経営者や決裁者の方がやるべきだと考えます。私は中小企業をお手伝いすることが多いのですが、大企業だけでなく中小企業も人気ブース、売上につなげられるブースにすることは十分に可能です。特に社員数が300人まで以内の企業なら、社長自身がプロジェクトを統括してほしいですね。
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「展示会営業」を取り入れるべき企業はどんな企業ですか?
清永:どんな商材を扱っていても効果はあります。ただ、特に効果が出やすいのは法人向けのビジネスをしている企業ですね。
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「BtoB」の企業ですね。
清永:そうですね。消費者向けのビジネスならば、ウェブでのマス向けのPRを打つという方法もありますしね。ただ、BtoBだと、ウェブでのPRよりもちゃんと面と向き合う形の方が効果的なケースが多いです。
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本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
清永:「展示会に出ているけれど、なかなか成果が出ない」という経営者さん、出展ブースの責任者さん、あとは展示会のブースに立ったことがある方。また、以前展示会に出ていたけれど最近は出ていないとか、これから展示会に出展することを検討している会社さん、それに、展示会の主催者さんやブース設営会社さんにも役立つと思います。本書をお読みいただいた方が、本書のノウハウを活用して大きな成果を出すことを心から応援しています。