「ほしいほしい」ばかりの人はダメになる
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世の中には最初から「自分なんか」とあきらめてしまっている人が少なくありません。実際の能力はともかく、自分の可能性を少なく見積もり、自分を貶めてばかりいる人を本書では「ドM」と呼んでいますが、こういう性格・気質は自分の取り組みで変えることができるのでしょうか。
﨑本:もちろんです。こういう人は何に対しても「自分にはできない」と思い込んでいたり、実際はできるのに「これくらいでできるとは言えない」と考えているだけなので、視点を「私はできる」の方向に変えてあげればいい。それは自分の取り組み次第で変えられることです。
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そうした自己認識はどのように変わっていくものなのでしょうか。
﨑本:急に変わるものではないですよね。自分はできるという意識を持ち続けるということがすごく大切ですし、本を読んで出会った言葉ですとか、人に言われた言葉から得た気づきによって徐々に変わっていくものだと思います。
ただ、環境によって変わることもあります。「私なんてダメだ」とか言っていられない状況ってあるじゃないですか。大ピンチだったり、どうしてもやりたいことができたり。
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ありますね。「もうやるしかない」という。
﨑本:おっしゃる通りで、そういう時は「私なんて」という感情は自然に消えていくものです。
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人との出会いや人からかけられた言葉が、後から考えると大きな意味を持っていたということはありますよね。
﨑本:私はいろんな人と関わってきましたが、みんな誰かに言われた言葉で信じているものがあるんですよね。あとは自分の言葉も大切です。自分の言葉は自分が一番聞いているものですし、人生は自分がしゃべった通りになります。だから、まず変えるべきは自分の言葉なのかもしれません。「私なんてダメだ」を「私だから大丈夫」に変えるとかね。
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今回の本は「自分なんてダメだ」と思っている人が自分を変える最初のステップになればということで書かれたのでしょうか。
﨑本:そうですね。私は「自分のやりたいことで自分らしく成功しよう」というテーマでセミナーを主催しているのですが、この本はそこで私が話した言葉を集めたものなんです。それこそ受講生から「この言葉で人生が変わりました」と言われたものを一冊にまとめた形ですね。だから、もっと多くの人がこの本を読んで自分を変えるきっかけにしていただければいいなと思っています。最初から最後まで読んでいただかなくても、パッと開いたページで心に響く言葉が目に飛び込んでくるかもしれない。そういう風に作っています。
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﨑本さんには誰かから言われた言葉で心に残っているものはありますか?
﨑本:あるセミナーで言われた「自分がしてもらいたいことを相手にしてあげれば成功する」という言葉ですね。今でもこれが全てだと思っています。当時僕は人生のどん底にいて、二進も三進もいかないという状況だったのですが「自分を豊かにしたかったら、まず周りを豊かにすることだよ」ということを言われたんです。
お金がないとどうしても「ほしいほしい」だけになってしまうんですけど、それだとうまくいかない。そのことに気づかされましたね。
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本の中に「一時は借金が2000万円あった」ということが書かれていました。どん底というのは当時のことですか?
﨑本:そうです。でもその気づきがあってから、10ヵ月ほどで借金は返すことができました。
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すごい額ですがどうやって返したのでしょうか?
﨑本:もともと営業マンなので営業で返しました。完全歩合でやって、当時は本当にいろいろなものを売りましたね。
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当時のメンタルや考え方についてお聞きしたいです。
﨑本:今とは全然違います。当時は自分をいかにごまかすか、いかにうまくいっているように見せるかということばかり考えていた気がします。実際にはうまくいってなんかいないのに、うまくいっているように見せかけて苦しくなったりしていましたね。
うまくいっていないって自分ではわかっているのに、周りの人は僕がうまくいっていると思っているから、そういう風に接してくるわけです。
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自己評価と他者からの評価がズレてしまった。
﨑本:そうです。「そんなことないですよ」とかこっちも言うんですけど、相手は信じてくれません。「謙虚ですよね」と私が謙遜しているように言われる。これはきつかったですね。余計に自分をごまかす方向に行ってしまう。
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本書で書かれているように、自分の気持ちに素直に、てらいなく生きられるようになったきっかけはどんなことだったのでしょうか。
﨑本:ある人に「劣等感を埋めるための人生って寂しくないか?」って言われたんです。それで気がついたといいますか、私はずっと「本物」と言われる人になりたいと思って生きてきたつもりだったんですけど、いつの間にかダイヤの原石に金のペンキを塗るようなことをしていた。こんなことをしている場合じゃないと思ったんです。
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でも、当時も自分なりに一生懸命やっていたわけですよね?
﨑本:もちろんです。ただ今思うと誰かから認めてもらいたいがために仕事をしていたところがあって、自分がどうしたいとかどうなりたいというのはなかった気がします。それをその人は「劣等感を埋めるための人生って寂しくないか?」と言ったんだと思いますね。
自信のない部下はこんな一言で変わる!
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もし自分の部下が「自分なんてダメだ」というタイプだったら、上司としてどんな働きかけや言葉がけをするのがいいですか?
﨑本:自信がないという人に対しては「自信がないことに対しては自信があるか?」と聞いていただきたいです。すると必ず「自信があります」と答えますよ。自信がないということを自信満々に言うんです(笑)。じゃあ自信があるんじゃんという。
そのうえで、上司の方はその自信のなさが何によるものなのかを聞いてみていただきたいです。「何を一番心配しているのか」「何が怖いのか」ですね。これは何かを伝える時や仕事を頼む時必ず聞いた方がいい。
本人は「失敗して怒られるのが怖い」とか「迷惑をかけるのが嫌だ」とか言うんですけど、なんにしても「うまくいくイメージ」が持てないんですよ。だから上司としてはそういうヒアリングを通してうまくいくイメージを共有することが大事になります。
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任せようとしている仕事を少し一緒にやってみるなどですか?
﨑本:それでもいいですし、「これがうまくいったとしたらどうなると思う?」と聞くのもいいと思います。もしそれで「わかりません」ということだったら、やはりうまくいくイメージがない。そこで「どうすればうまくいくか」をピンポイントでアドバイスすればいいわけです。
「自信がない」という人って、実際は人一倍「うまくやり遂げたい」という気持ちや期待に応えたい気持ちが大きいんですよ。その気持ちをうまく積極的に行動する方向に引き出してあげることが大切です。
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「自信のなさ」の原因の一つとしてコンプレックスがあります。たとえば自分の学歴の低さが劣等感となって物事に自信を持てないということがあるかと思いますが、こういう方にアドバイスをするとしたらどんな言葉をかけますか?
﨑本:学歴というのは「学校歴」ではなくて「学んだ歴史」だよと言いたいですね。どこの学校を出たかより、何を学んできたかが大事です。
実際、学歴が大事なのは最初の就職活動をする時だけですからね。学歴コンプレックスを言い訳に使うのではなくて「今から何を学ぶか」と前向きに頭を切り替えて人生を歩んでほしいと思います。
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学歴にかぎらず様々なコンプレックスがあると思いますが、乗り越えるためのポイントのようなものはありますか。
﨑本:ポイントといいますか、自分がコンプレックスだと思っていることって、他人からはそう見えなかったり、気づいていなかったりということが多いというのは知っていただきたいです。
そのうえでコンプレックスを自分の伸びしろに変えるために何をしたらいいかという風に考える。何かをやらなかったりチャレンジしない言い訳にコンプレックスを使っているならもったいないことです。
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「愛されるために何も証明する必要はない」という言葉はとてもいい言葉だと思います。私たちはなぜ愛されるために何かを手に入れる努力をしまったり、ありのままの自分に価値がないと思ってしまうのでしょうか。
﨑本:相手に対して何かをしないと愛されないと思いこんでいるんでしょうね。小さな赤ちゃんを見て、私たちは「かわいい」と思いますけど、赤ちゃんの方は私たちにかわいさをアピールしているわけじゃなくて、何もしていないけど愛されている。本来人ってそういうものなんですけど、みんなそれを忘れているんだと思います。
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仕事をし始めると成果をあげてはじめて評価をされるので、「まず何かを示さないと何も手に入らない」という価値観が染みついてしまいます。自分の手持ちの知識やスキルで何かを証明して、その対価として承認されるという価値観がプライベートまで侵食しているところもあるのかもしれません。
﨑本:本来仕事の価値観はプライベートの価値観とまったく違うもののはずです。仕事がうまくいっていないからといって存在まで否定されることなんて絶対にない。自分の人としての存在価値に条件はないんだと認めることが、人間関係の第一歩なのかもしれません。もしそれでも「自分なんて」と思ってしまうなら、誰かを認める心、誰かを愛する心を磨けばいいんです。
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最後になりますが、本書のいう「ドM」の方々。つまり自信がなく、何をするにしても「自分なんてダメ」と思っている方々にメッセージをお願いいたします。
﨑本:「どうせ私なんて」という言葉からは、少なくとも自分という存在を自分で認めていることがわかります。その自分をどうするか。「私なんか」と思いながら人生を歩むのか、いつかは「俺でもこんなことができた」「『あなただからできた』と言われてみたい」と思って人生を歩むのかというところで、もしこれまでの人生を「どうせ私なんて」と思いながら過ごしてきてしまったのなら、もうその過去は手放してしまえばいい。終わったことは終わったこととして、未来をどうするのかという風に考えるのも一つの選択ですよ。
(新刊JP編集部)