本書の解説
インターネットやSNS、スマートフォンの定着によって、個人ビジネスへのハードルは一気に低くなった。
会社に勤めるよりも自分でビジネスを、と考える人は増えているはずだし、会社に勤めながらもう一つの収入源を持ちたいと企てる人もいるだろう。また、子育て中の主婦など、働きたいが働く時間がないという人にとっても、個人ビジネスはチャンスとなりえる。
ただし、ビジネスを成功させて安定した収入を得るのは決して簡単なことではない。参入が手軽になっているということは競争が激しくなるということでもある。どんな商品・サービスを売るかという見極めはもちろん、「集客」でつまずくことも多いというのは予想できるところだろう。
Facebookは「魔法のツール」ではない
『スキマ時間にサクッとできる集客術』(坂口太枝子著、同友館刊)は、この「集客」に焦点を当て、マーケティングの知識がない人でもビジネスを成功させる方法を解説する。
本書によると、現在出回っているインターネットやSNSを利用した集客ノウハウについての情報には正しくないものや、今では時代遅れになってしまっているものも少なくないそう。
わかりやすいところでいえば「フェイスブックをするだけで商品が売れる」といううたい文句で集客ノウハウを伝授する類の広告は今でも多いが、当然ながらフェイスブックで自分の商品やサービスを告知するだけでモノが売れるはずもない。
ターゲットとなりうる層を見つけ、アプローチすることができるという意味でFacebookが集客ツールとして有用なことは著者も認めているが、問題は「どう使うか」なのだ。
また、集客ツールとしてよく使われるメールマガジンにも注意すべき点がある。「顧客のメールアドレスが1000以上ないと集客は難しい」と言われることがあるが、これも必ずしも当てはまらないと、著者の坂口太枝子さんは指摘する。
顧客になる可能性のほとんどないメールアドレスなら1000どころか10000集めても購買にはつながらない。大事なのは、自分の商品・サービスに関心を持つ内容のあるメールアドレスをいくつ集めるかなのだ。これは、メールアドレスをどうやって集めるかという問題にもかかわってくる。
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ブログもメルマガも上手に使えば自分の商品やサービスをアピールでき、顧客となりうる層を確固たる顧客へと育てていくことができるツールではあるが、成功させるには「ただやるだけ」では超えられない壁がある。
どんなツールをどう使えば集客に結び付くのか。本書では坂口さんが自身の成功体験からその秘密を明かしている。
(新刊JP編集部)
インタビュー
起業の前にやるべき人生の棚卸
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『スキマ時間にサクッとできる集客術』は女性が対象になっていると感じました。これはなぜなのでしょうか?
坂口:結婚すると特にですが、女性は家事に追われたり、子どもができれば育児、育児が終わったら今度は介護と、仕事以外の時間にかかる負担がまだ大きいです。今でこそ男性が協力的になってきたと言われますが、それでもまだ家事や育児の負担は男性よりも女性の方が重くなる傾向がありますし、会社勤めをしていたりすると一層時間が自由になりません。
ただ、大規模なものでなくても自分でビジネスを始めれば、ある程度時間は作れるようになります。その仕組みづくりを女性の方々に伝えたいと思ったんです。
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会社勤めをしながら子育てをしていると自分の時間はほとんど取れないのは想像できます。特にそういった方々に向けて書かれたということでしょうか。
坂口:そこは特に決めていません。もちろん会社勤めをしながら子育てをしている方にも読んでいただきたいですし、専業主婦でまだ子どもが小さいという方や、子育てがひと段落してちょっと時間ができてきたという方にも活用していただきたいですね。
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パソコンやスマートフォン、あるいはSNSなどの情報端末やアプリの発達によって主婦でも起業をしやすくなったというのは確かだと思いますが、その分参入者が増えたため、周囲に埋もれずに成功させるのはかなり難しいような気がします。
坂口:まだSNSを集客ツールとして使いこなせる人が少なかった数年前までは、そもそもSNSでビジネスの情報発信をする人が少なかったので、ちょっと発信するだけで集客ができていたのですが、今はもうそういう状態ではありません。飽和状態になっていますし、誰でも稼げる時代ではないとは思います。
一方で、SNSを使っての集客の取り組みを皆さん地道に続けられるかというと、途中でやめてしまう方も多いんです。集客にしてもそれより前のビジネスの仕組みづくりにしても、自分なりに勉強を続けてコツコツできる方はうまくいっている印象です。
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情報発信自体も工夫が必要だと書かれていました。
坂口:昔は「とりあえず何回も発信すればいい」とか「情報量が多いほどいい」というのが主流で、発信する情報の「質」や「内容」はあまり重視されていなかった気がしますね。今はやみくもにたくさん情報発信をするよりも、一回の内容を充実させる方が効果は出やすくなっています。
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本書は集客がメインテーマですが、坂口さんはビジネスの仕組みづくりのところからお手伝いをされているそうですね。
坂口:そうですね。今お話ししたとおり、SNSで情報発信をするだけでビジネスを成功させるのは難しいので、その前にどんなことをしなければいけないのかというところから教えています。
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ビジネスを始めたいが、どんなサービスや商品を売り物にすればいいかわからないという人は多いはずです。こうした方々にアドバイスをお願いいたします。
坂口:私がクライアントの方にいつも言っているのは、「自分のことは案外自分ではわからないよ」ということです。基本的に得意なことって努力しなくてもある程度できてしまうことですから、その価値に本人が気づかないことが多いんです。
ですから、その人の歴史といいますか、これまで経験したことや価値観を洗い出してみて、それらを客観的に評価してみるというのが大事です。そうすることで自分の強みにできることやビジネスの材料にできることが見えてくる。
「悩み」がビジネスのネタになる!
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自分の「悩み」がビジネスを作る材料になる、とも書かれていました。
坂口:一番わかりやすいのは恋愛ですよね。はじめはうまくいかなかった恋愛でも、相手の心理や行動について勉強して実践することでうまくいくことがある。恋愛は個人的な体験ではあるのですが、その恋愛の悩みを乗り越えた体験を求める人は多くいて、実際に自分の恋愛経験を生かして婚活カウンセラーになった人がいます。
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本書では主に個人ビジネス向けの集客を扱っています。坂口さんもかつては集客に悩んだ時期があったそうですね。
坂口:そうですね。まさに「悩み」がビジネスになったのですが、学生の時から肌のトラブルに悩んでいて、ケアについて自分で勉強していたので、同じ悩みを持った方の力になれるようなサービスを、ということでエステのお店を開業しました。
ただ、集客については何も知らなかったんです。チラシを作って新聞広告に挟めば誰かくるだろうと思っていました。
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結果はいかがでしたか?
坂口:問い合わせすら一件も来ませんでしたね。これは真剣に勉強しないとダメだと思って、マーケティングと集客を一から勉強した感じです。
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本書で坂口さんが明かしている集客術についてですが、ブログやSNSを使った集客法についてはネットに情報が氾濫しています。ただ、中には正しくないものも多いそうですね。
坂口:そうですね。特に数年前までは、ブログやSNSで集客をするなら「自撮り写真」や「プロフィール写真」は必須だと言われていました。だからみなさん、ブログには自分の写真をたくさん載せていたのですが、これは間違いとまでは言えないにしても正しくはありません。自分の顔を出したからといって信頼感を持たれるわけではないですし、写真がないからといって信用できないわけでもない。自撮り写真の有無は、あまり集客とは関係ないというのが本当のところです。
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集客ツールとしてよく使われる「メルマガ」はいかがですか?
坂口:メルマガは私も推奨していますが、どんなビジネスにも効果があるわけではないんです。たとえば美容院やエステなど店舗のあるビジネスで新規顧客を集めたい時にメルマガはいりません。こういうビジネスの場合、メルマガはリピート対策で使うべきですね。
一方でコンサルティングやコーチングといった必ずしも店舗を必要としないビジネスの場合は、メルマガを通じて自分のことやサービスのことを知ってもらうのが必須です。メルマガの読者を集めるというのが情報ビジネスの最初のステップですね。
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最初の顧客リスト作りには「アメブロ」を推奨されていました。これはなぜでしょうか。
坂口:アメブロ単体で集客をするのではなくて、メルマガやLINE@などの利用者を登録できるものと併用すると効果が高いということですね。
まず無料ですし、こちらから他のブログにアプローチするのが簡単なんです。検索機能をつかえば自分のビジネスのターゲットとなりうる人のブログを見つけることができるので、見つけたらこちらから「いいね」を押したりしてアプローチできるのが大きいです。
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最後に読者の方々にメッセージをお願いいたします。
坂口:リスクなくビジネスを始められる時代です。もしチャンスをつかみたいと強く思っているのならぜひチャレンジしていただきたいと思います。やってみないと見えない課題もあると思いますので、時間をかけて改善しながら前に進んでいただきたいですね。
(新刊JP編集部)