インタビュー
誰にとっても有限で、平等に与えられている時間。
仕事で大きな成果を出せるかどうかも、一度きりの人生を自分の納得のいくものにできるかどうかも、結局は自分に与えられた時間をどう使うかにかかっている。
実際、働き方改革の後押しもあり、生産性向上や時短に関するノウハウ本は世に溢れている。にもかかわらず、先進国最下位クラスである日本人の時間生産性は一向に高まる気配が無い。このことは、この問題の根深さを物語っている。根本的解決を図るためには、小手先の時短テクニックではなく、我々の時間に対する意識そのものを抜本的に見直す必要がありそうだ。
今回は、時間生産性を高める方法について、『仕事ができる人の最高の時間術』(明日香出版社刊)の著者、田路カズヤさんにお話をうかがった。
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はじめに、田路さんがご自身の時間の使い方に疑問を持ったきっかけはどんなことだったのかを教えていただきたいです。
田路:20代後半の頃、僕はリクルートグループで営業をしていたのですが、とにかく忙しく、常に仕事に追われている状態でした。一方、当時、同じ部署にすごく仕事のできる先輩がいたのですが、その先輩はそんなに大変そうに仕事していないんですよ。
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涼しい顔で結果を出していた。
田路:本当にそうで、しかもその先輩の営業成績は頭一つ抜けている印象でした。ある時、その先輩に、時間管理の方法について相談してみたんです。先輩からは「とことん仕事を詰め込んでみろ」というシンプルなアドバイスを貰いました。とことん仕事を詰め込めば、「重要じゃないもの」が自然にこぼれ落ちるはずだと。
はじめはその意図がよく分からなかったのですが、ともかく一度やってみようということで、自分で意図的に仕事を限界まで詰め込んでみたんです。そうすると、確かに「これ、やらなくていいんじゃないか」という仕事が見えてきたんですよ。
それまでは、結果を出すためには時間をかけなければならないと思い込んでいたのですが、実際に結果を出している人のやり方を取り入れてみると、彼らは時間をかけているから結果を出しているわけではなかった。時間に対する意識が違ったんですね。そのことが腑に落ちたことは、その後の飛躍のきっかけになりました。
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田路さんの場合、仕事を詰め込んだことでこぼれ落ちた仕事はどういったものだったのでしょうか。
田路:端的に言ってしまえば「自分じゃなくてもできる仕事」です。例えば、ホウレンソウ業務やちょっとした書類作成ですね。そういう仕事はルーティン化して、すべてアシスタントさんにお願いするようにしました。そのほうが、自分がいなくても仕事がどんどん前に進むので確実に生産性は上がります。結果、自分にしかできない仕事だけに集中することができるようになりました。
すべての仕事を始める前に、「この仕事は本当に自分にしかできないものなのか」と自問自答するようにして、そもそもやる必要がない仕事や、自分でなくてもできる仕事はすべて人に任せるようにしたんです。たったこれだけのことでも、生産性は飛躍的に上がりました。
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営業マンだったということですが、商談についても自分でなくてもいいような案件は人に任せていましたか?
田路:商談については、自分より決定率の高い営業はいなかったので、まさに自分にしかできない仕事として取り組みました。ただ、同時に、短時間で成果を上げる工夫はしていました。
例えば、決裁権の無い担当者に対して、明確な目的意識を持たずに何度も訪問しても、時間の投資対効果は低いので、志の高いお客様にだけ時間を割くように心掛けました。また、決裁権のある人に出てきてもらうために、ここぞという場面では積極的に上司を連れて訪問するようにもしました。
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ちなみに何の営業をされていたのでしょうか。
田路:採用試験や昇格試験などで使われる適性検査、社員研修、そして、人事制度の設計・コンサルティングなどの営業ですね。
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いずれも高額なサービスかと思いますが、契約に至る場合何度くらいの訪問で決まるものなのでしょうか。
田路:自分の中で「5回ルール」というのを決めていて、大きな案件でも訪問するのは5回までにしていました。
金額の大きな商談だと1回や2回の訪問ではなかなか決まらないのですが、経験上、5回訪問して決まらなかったら、それ以上通っても決まらないんです。特に僕は大きな商談を作れるお客様しか訪問しないと決めていたので、引き際も自分なりに決める必要がありました。
拙著には「80%の結果は、20%の原因から生まれる」と書きましたが、営業もそれと同じで、100社担当していても、売上に大きく貢献してくれるお客さんは20社くらいです。この20社については何度も訪問していましたが、それ以外のところには1~2回訪問してダメならもう訪問しない、というふうにメリハリをつけるのも、短時間で成果を上げるためには大切なことだと思います。
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かけた時間に対してあまり結果が出ない営業マンは、メリハリがなく担当している顧客をまんべんなく扱ってしまう。
田路:そうですね。これもリクルート時代の話なのですが、売れている営業とそうでない営業は何が違うのかを調査するプロジェクトがあったんです。
売れない営業は、ただ行動量が少ないことやコミュニケーションスキルが足りないことが課題だと片づけられがちです。でも、スキルよりも大きな違いが「時間の使い方」にあるとその調査で分かったんです。
どういうことかと言うと、前職では、4月頭に立てた目標を9月末までの半年間で達成しなければならなかったのですが、売れない営業ほど月末や期末になって急に頑張り出すんです。一方、売れる営業担当は半年間まんべんなく頑張っている。
お客さんの扱いはそれと逆で、売れない営業はすべての顧客にまんべんなく訪問し、売れている営業ほど顧客に明確な優先順位をつけて訪問していることが分かりました。これも、仕事の結果に最も大きな影響を与えるのは「時間の使い方」なのだと確信した出来事のひとつでした。
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時間の使い方の重要性は、仕事に限らず人生すべてに共通しています。本に書かれているように、「何に時間を投資するか」を考える上で「パッション(情熱=自分がワクワクして取り組めること)」と「ミッション(使命=生き方に関する個人の信条)」を基準にすることは有効だと思いますが、多くの人は自分の「パッション」や「ミッション」について考えていないように思います。
田路:私は今、主に営業職向けの研修をファシリテーションしていますが、研修序盤で一番盛り上がり、受講者の目の色が変わる場面は、受講者の「パッション」や「ミッション」を言語化する作業をしているときなんです。自分の人生なのに、自分が本当にやりたいことすらわかっていない人が、それだけ多いということですよね。
本にも書きましたが、日本のビジネスパーソンは、自分の仕事に「パッション」を持てている人の割合がとても低いんです。そもそも自分の人生にすら「パッション」を持てていない人もいます。ただ、そういう人は、本当にやりたいことが無いわけではないんです。やる前から「自分には無理だ」と諦めてしまっていたり、何かを理由にして自分の欲求に蓋をしていたりする真面目な人ほど陥りやすい傾向にあります。一度きりの自分の人生なのに、贅沢に生きることができていない人を見ると、本当に勿体ないと思います。
自分の「パッション」と「ミッション」を明確にして、勇気ある最初の一歩を踏み出せるように伴走することが、講師としての私の使命と言えるかもしれません。
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本書のテーマになっている「時間術」ですが、今しきりにいわれている「生産性」とつながりが深いワードです。日本人の生産性は低いとされていますが、これは時間の使い方だけの問題なのでしょうか。
田路:社会や組織の構造上の問題やそこで培われたパラダイム(固定観念)の影響が大きいように思います。
日本企業では、まだまだ上司と部下の上下関係が強いこともあり、「これをやっておけ」という上司からの指示に、その必要性を検討しないまま部下が従ってしまうことが多々あります。本当は、そのタスクが必要かどうかを部下が検討して、無駄な仕事だと思ったら断ったり、やり方を変えたりすべきなんですけど、「上司に意見すること=ダメなこと」という固定観念が強いので、部下もそういったことをしようとしません。この負の連鎖が、日本企業で無駄な仕事を増やしています。まずは経営者や管理職側の意識が変わらないことには、本当の意味での生産性向上はできないと思いますね。
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組織構造上の問題で生産性向上が妨げられているとすると、個人が時間の使い方を見直してもどこまで効果があるのかという疑問が残ります。
田路:日本企業の多くがこうした問題を抱えているとしても、「仕方ない」と諦めてしまったら何も変わりません。だから、自分のできる範囲内のことだけでもいいので時間の使い方を見直して、変えていくべきだと思っています。
もっと言えば、自分でやれることをやり尽くしても、上から無駄な仕事が降ってきて、無駄に時間が消費されていると感じるならば、そもそもその会社にいるべきなのかを考えた方がいいです。そういう会社はこれから確実に淘汰されていきますよ。
企業側に「ブラック企業」と呼ばれる企業が存在するように、従業員側にも「ブラック社員」は存在します。
「ブラック企業」がなぜ無くならないかと言うと、自分の時間を会社に捧げることによって、会社から対価をいただくという考え方を持つ「ブラック社員」が存在するからですよね。この「ブラック企業」と「ブラック社員」の互恵関係が、日本企業の生産性を下げる1つの大きな要因になっていると思います。
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「どうせ残業することになるから」と時間の使い方を改善することを諦めてしまっている人にアドバイスをするとしたらどのようなものになりますか?
田路:例えが不適切かもしれませんが、サービス残業が当たり前になってしまっている会社員の方は、戦時中の特攻隊と同じです。他に武器が何も無くなり、自分の時間を提供することで戦おうとしている。でも、時間は命ですよ。命を差し出していることと同じなのだと認識したほうが良いですね。
ですから、「ブラック社員」や「社畜」と呼ばれる前に、「自分がワクワクする退社時間」を設定することからおススメします。「この時間に帰ることができたら、ワクワクする」と思える退社時間を決め、その時間以降は仕事できないように、スケジュールをブロックするんです。1年分のスケジュールをブロックしてしまうことが重要です。そして、理想の退社時間を決めてから、「その時間に退社するためには、自分は何を捨てなければならないか」を脳みそちぎれるくらい考えてほしいです。
こんなことを言うと、「そんな簡単に変えられるはずがない」と思う人もいるでしょうけど、実際、「ワーママ」と呼ばれる働くママさんたちは、「保育園にお迎え行く時間」を絶対的な退社時間として認識しているので、総じて時間生産性の高い仕事をしていますよね。
この考え方だけではありませんが、私のメソッドを愚直に実践したクライアントは、営業部門の総労働時間を3分の2にし、売上を2倍にすることに成功しています。つまり、時間生産性を3倍にしたということですね。中には、労働時間ではなく、社員の数を3分の2にして、売上を2倍にすることに成功したクライアント企業様もいます。
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最後になりますが「時間が足りない」と日々奮闘している方々にメッセージをお願いいたします。
田路:私は、「忙しい」という言葉を世の中から撲滅したいと考えています。「忙しい」という字は、「心を亡くす」と書いて「忙しい」ですよね。こんなに恥ずかしい言葉を恥ずかしげも無く吐く社会を変えたいと考えています。
そんな私も30歳くらいまでは「忙しい」が口癖でした。昔の私のような現場の最前線で働く若手・中堅社員を特に救いたいですね。
今回の本のタイトルは『仕事ができる人の最高の時間術』となっていますが、私は、「自分の人生を贅沢に生きるための時間術」を書いたつもりです。「忙しい」を言い訳にせず、限られた時間の中でも自分の夢や目標を確実に達成するための方法を書きました。
ビジネスパーソンだけでなく、主婦や就活中の学生さんの人生も変えることができると思っています。実際、「夢や目標が明確になった」「生き方が変わった」「ダイエットに成功した」「内定が貰えた」「子供の受験がうまくいった」など、本当に様々な読者の方から嬉しい感想をいただいています。
また、書籍の購入特典としてダウンロードいただけるワークシートに日々書き込んでいただくことで、本を読んだ価値を何倍にもすることができるということはお約束したいと思います。この本は、「読む本」ではなく「実践するための本」であり、「習慣化させる本」だと思っています。
新しい夢や目標に向かうタイミングで読んでいただきたい一冊です。ぜひ年末年始や年度初めにこそ、手に取ってみてください!