インタビュー
倒産寸前のカフェレストラン 経営者が下した驚きの決断
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『余計なことはやめなさい! ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』には、氏家さんの経営する「ケンズカフェ東京」が以前は思うように利益が出ずに苦しんでいたと書かれていますが、当時の取り組みで今振り返ると間違っていたと思うものがありましたら教えていただきたいです。
氏家:それはもう全てと言っていいでしょうね。当時の状況は、ランチはそこそこお客さんが来ているんだけど夜は閑古鳥、というものでした。入っても1組、2組という状態だったんですけど、こちらとしては、美味しいものを作っていればそのうちもっと来てくれるんじゃないかと思ってやっていたんです。
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「美味しいものを作っていればいつかお客さんもわかってくれる」という思考のままどんどん状況が悪くなるのは、飲食店にありがちな失敗だと聞きます。
氏家:そうですね。実際それをやっていてもお客さんは一向に入るようになりませんでした。今思うとそんな意味のないディナー営業はすぐやめるべきだったんでしょうけど、当時はそれがなかなかできなかったんです。なぜかというと、昼にランチをやったら夜はディナーをやるというのは、飲食店としてはごく当たり前のことだからです。
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確かにそうです。
氏家:だから「儲からないならディナーはやめてしまおう」という考えを持てませんでした。しばらくして本当に経営が苦しくなってからディナーを宴会だけに特化して、徐々に持ち直していくんですけど、本来ならもっと早くやめるべきでした。
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ランチもディナーもやっているお店としては「ランチは薄利なので回転で稼ぎ、利益はディナーで出す」というのがスタンダードなのでしょうか。
氏家:今でこそ少しずつ値上がりしていますが、日本の飲食店のランチはもともと破格に安いんです。その分そこで利益を出すのは難しい。周りのお店がみんな安いから、値上げをしにくいですしね。
だからこそお酒などの注文が増える夜でどうしても利益が欲しいわけです。ここで稼げないと本当に苦しい…。私の店が昔そうだったように、ギリギリでやりくりするような状態になってしまいます。
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そのギリギリの状況を脱出しようと、思い切ってディナーをやめて夜は宴会に特化したことで活路が開けた。
氏家:時期も良かったんだと思います。ちょうど「ぐるなび」のようなサイトが出始めの頃で、インターネットで飲食店を探す時代が来つつあったんです。そこに早めに気づくことができたので、早速登録して販促ツールとして使ったのがうまくいきました。
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ディナー営業を宴会に特化して以降、お店の営業スタイルはどのような変遷をしていったのでしょうか。
氏家:ディナーを宴会だけにした後は、ランチをやめて、カフェもやめて、完全に夜の宴会だけにしました。その過程で徐々にガトーショコラの人気が出てきたのですが、今のようにガトーショコラ一本でやるにはまだ厳しいかなという感じでした。世の中そんなに甘くないだろうと。
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なぜ最終的にガトーショコラ一本に絞る形になったのでしょうか。
氏家:「ケンズカフェ東京」のオープン時からチーズケーキだとかプリンとか、カフェ的なスイーツを出してはいました。ガトーショコラはそのうちの一つだったのですが、宴会で出すようになった時に「すごく美味しい」「売って欲しい」という声をいただいたんです。
でも断っていたんですよ。うちはレストランであってケーキ屋さんじゃないから、ということでやりたくなかったんです。でもあまり言われるものだから仕方なくラップに包んで、適当な紙袋に入れて売るようになった。それが最初ですね。自分もまさか最終的に「ガトーショコラ屋さん」になるとは思っていなかったです。
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ガトーショコラに特別な思い入れがあったから「ガトーショコラ専門店」になったわけではないんですね。
氏家:売るのを嫌がっていたくらいですからね(笑)。ガトーショコラって材料を混ぜて焼くだけで、誰でも作れるものです。それもあって、確かに美味しいんだけど取り立てて売り物にするほどのものでもないと思っていました。
売るようになったから、ということで店のメニューに書いたらまた注文が増えて、口コミで広がって、そのうちに取材がたくさん来るようになって、という感じですね。
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今ではガトーショコラ専門店になっている「ケンズカフェ東京」ですが、別の商品や味・サイズの異なる商品を売らずにガトーショコラ一本にこだわる理由はどんな点にあるのでしょうか。
氏家:うちのガトーショコラは一本3000円なのですが、仮にハーフサイズを作って1500円で売ったとすると、倍売れてようやく売り上げは同じですよね。倍売れたらその分手間暇、コストがかかるわけですから、それならば今のサイズだけでやっていた方がいいという考えです。
違う味を出すケースも同じで、たとえ売り上げが上がってもその分コストがかかりますし、ロスも出やすいんです。ミスだって起こりやすくなりますしね。そういう理由があってガトーショコラ一本でやっています。その方が原材料にお金をかけられますし。
ただ、ビジネスを大きくしていくなら商品が一種類というわけにはいかないでしょうね。うちのような年商3億円ほどのスモールビジネスだからできることだと言えます。
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ビジネスを拡大する計画は今のところないということでしょうか。
氏家:そうですね。これ以上大きくすると人件費や場所代など、いろいろなコストがかかってきます。現状スタッフ4人で今の年商を稼ぎ出しているという意味では、究極的に生産効率が高い状態ですし、一つの理想の形なんだと思います。
ガトーショコラだけで年商3億円!個人経営店が生き残るための秘策
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今回の本ではこれまでやられてきた取り組みを一般化させてノウハウに落とし込んでいます。肝になるのは「余計なことの見極めてやめること」だと思いますが、「余計なもの」とはどのように見極めていけばいいのでしょうか。
氏家:立場によっても違うのでしょうが、ひとつ言えるのは「やりがいを感じないこと」はやめた方がいいということです。自分でやりがいを感じることであれば、途中苦しくても踏ん張れるというのはあります。
もうひとつ、「利益が上がらないもの」はやめた方がいい。これは当たり前のことのように聞こえるでしょうが、かつて僕がやっていた「ディナー」のように「レストランなんだからディナーはやるものだ」というような思い込みで、儲けが出ないものを続けてしまっているケースは少なくないんです。
ビジネスなので、目的は「儲けを出すこと」です。だから儲からないことをやらないというのは当たり前のことなんですけど、案外そこに気づかなかったり、妙なプライドからやめられなかったりします。
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ガトーショコラ一本に絞る過程も重要なように感じました。ランチをなくし、カフェをなくし、最後に宴会もやめました。こうして徐々に移行するというのがうまくいったポイントだったのでしょうか。
氏家:そうですね。あとはダメだったら元に戻せるようにしておくことも大事だと思います。
夜の宴会を最後まで残していたのは、「ガトーショコラ一本」がダメだった時のリスクヘッジなんです。もしうまくいかなかったら利益の出る宴会で立て直そうと。だから、本当は10年前からガトーショコラだけでいけるなとは思っていたのですが、実際に一本に絞ったのは5年前でした。やっぱり何があるかわからないので。
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うまく行くと確信していても、実際に一本に絞るのは怖いですよね。
氏家:怖いです(笑)。まして、ガトーショコラだけを売る店なんて前例がないですし、1本3000円のガトーショコラがいつまでも売れる保証なんてありませんから。ただ、もしこれがやれたらおもしろいぞ、という思いはありました。
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ガトーショコラ一本に絞ったのと同時期に、氏家さんはシェフをやめて経営に専念されています。もう作るほうには未練はないのでしょうか。
氏家:それはよく聞かれるのですが、まったくありません。「オーナーシェフ」っていう言葉があるように、経営者自身が料理を作れることは飲食店にとってプラスなのですが、シェフには旬がありますから、やはりいつかは経営に専念すべきなんだろうなというのが私の考えです。
実際、私がシェフを辞めて現場に任せてから売上はすごく伸びました。おそらく3倍くらいにはなっているはずです。やはり経営者のやることは経営であって、現場で商品を作ることではないと思います。
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ビジネスを拡大する予定は今のところないとおっしゃっていましたが、次のビジョンのようなものもないのでしょうか。
氏家:ないといえばないのですが、ファミリーマートのスイーツの監修をやっていたりするので、そちらの方も力を入れてやっていきたいというのはあります。「チョコレートならファミリーマートが一番だよね」というような風評ができたらいいなと思っていますし、もう少しいえば「ケンズカフェ東京が監修しているからね」と言われたらうれしいですよね。
コンビニは町のケーキ屋を潰すくらいの勢いでやるべきですし、町のケーキ屋はコンビニなんかには負けないという気持ちでやるべきです。そうやって切磋琢磨していければいいのではないでしょうか。
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確かにファミリーマートでケンズカフェ東京が監修したガトーショコラを見たことがあります。しかし、こちらが人気になってしまったら肝心のお店の売上が下がってしまうというようなことはないのでしょうか?
氏家:昔はそういうのは危険だといわれていたんです。ブランドが毀損されるといいますか。でも今はそういう時代じゃないと思います。客層も違っていて、ファミリーマートのガトーショコラを買った人がうちに来てくれることはあるかもしれませんが、逆はあまりないのではないかという気がしています。
ファミリーマートは全国にありますからケンズカフェを全国の方に知っていただくチャンスだと捉えています。
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ガトーショコラの味は、ずっと変えていないんですか?
氏家:この10年間を通して、段階的に砂糖を減らしています。今年の6月にはこれまでの三分の一にしました。
「ギルドフリー」という言葉がありますが、よりライトな甘さといいますか、食べても罪悪感を覚えない控えめな甘さが時代的にも求められていますからね。これまでは「濃く、おいしく」だったんですけど「軽く、おいしく」という方向に変えました。
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商品が1種類しかないだけに、味の変化が売り上げに直結する怖さがありますね。
氏家:それはありますよね。だから日々データを取りますし、ツイッター検索で反応を見たりもします。
ただ、これまでの成功体験にこだわりすぎて味が古くなってしまうのが一番危険だと思っています。これだけあちこちで「糖質オフ」が叫ばれているわけですから
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本書をどんな方に読んでほしいとお考えですか?
氏家:個人経営の方ですとか起業した方、あとは大きな会社のチームのリーダーの方が読んでも役立つところがあるのではないかと思います。
ビジネスの世界で戦っていくなかで「自分ここで戦うんだ」という軸を決めることの重要さをこの本では伝えたいです。とにかく余計なことはやらないこと。勝負する場所を絞ることで勝てる確率は上がるんです。
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「余計なことはやらない」「勝負する場所を絞る」ということですが、実践するのは勇気がいることです。最後にこの決断を後押しするようなメッセージをいただきたいです。
氏家:ダメだった時のための「逃げ道」は用意しておくべきです。私も「ガトーショコラ一本」がダメだった時のために、夜の宴会だけは最後まで残していました。うまくいかなかった時に戻れる場所を用意しておくことで、チャレンジしやすくなるのではないかと思います。「一か八かの賭け」にならないようにやってみていただきたいですね。
(新刊JP編集部)