流される人生を送ってしまう人に共通する特徴
――本書は「あなたの人生を支配しているのは誰ですか?」という問いで始まります。大坪さんご自身はこれまで自分の人生が自分のものではなくなっていると感じる時期はありましたか?
大坪:
そういうことを自問することもなかったですね。昔から自分の環境について深く考えることはなくて「そんなものかな」と思う方だったんです。親に「公務員になりなさい」と言われたら、「じゃあ公務員になるか」となりましたし、祖父が「弁護士になったらすごい」と言っているのを聞けば「ああ、すごいのか」と。
――しかし、その割に大坪さんは十代の頃から優秀な営業マンとして活躍し、自身の会社を立ち上げるなど、周囲に流されない人生を歩んでいます。
大坪:
好奇心や反骨心が強くて、自分のやりたいことや考えを主張することはできていました。
だから、昔から「人生を他人に支配されずに生きよう」と思っていたわけではなくて、ただ自己中心的にわがままに生きてきたという感じです。協調性とか他人と調和して生きることは後々できるようになりました。若い頃はこれが全然できなかった。
――他人や環境に流されて、自分の人生が自分のものではなくなってしまっている人はたくさんいます。なぜこうなってしまうのでしょうか。
大坪:
自分の人生を誰かに支配されてしまう人の多くは「イエスマン」で人から言われたことにノーと言えません。言い方を変えれば優しい人です。
ただ優しさは弱さでもあって、たとえば親から「お金のかからない公立の学校に行きなさい」と言われた時、たとえ私立で行きたい学校があっても気を遣って親の言う通りにする人もいれば、親に逆らって自分でアルバイトしてお金を稼いででも行きたい学校に行く人もいる。
じゃあ、親に逆らう人はなぜあくまでも自分の考えを通そうとするのかというと、「なりたい自分」や「叶えたい目標」があるからですよね。そこが「自分の人生を生きられる人」とそうでない人の違いなのではないかと思います。
――本書で紹介している「超ドS思考法」とはどのようなものなのでしょうか。
大坪:
普通は「ドS」というと極端に攻撃的だったり厳しかったりという意味ですよね。僕自身も昔バンド活動をしていた頃は「ドSキャラ」を演じていたりもしました。
ただ、この本の「超ドS思考法」は、僕自身が成功するために大事だと思っている要素の頭文字をとったものです。
嘘偽りがまかりとおる世の中ですから、真実を見極める目を持ちましょう。また、「裸の王様」に出てくる子供のように、空気におもねらずに真実を述べられる人間になりましょう、ということで「真実」。
次に「信頼」です。僕自身、人間関係で失敗したり苦労したりしたこともあって、「人間関係って一体何なのか」と考えたのですが、結局は信頼なんですよね。ビジネスでもお客さんに信頼されるようになればお金は入ってくるし、儲からないのならそれは信頼がないからなんです。
三つ目は「進化」。お金が欲しいからって稼げる方法だけを追うのではなく、お金を稼げる人間に進化しなさい、ということですね。
「真実」「信頼」「進化」という三つの「S」をものすごく大事にして、これらを高めるためにものすごく真剣に取り組もう、ということで「超ドS」としました。
――人間関係で苦労されたとお話されていましたが、10代から会社経営をされるなかで、かなりアップダウンのある人生を送られてきたと聞いています。失敗したり挫折したりした後に再起できた要因はどんな点にあるのでしょうか。
大坪:
最初に失敗したのは二十歳くらいの時で、まさに人間関係のトラブルが原因でした。営業会社を経営していたのですが、スタッフが顧客のお金を持ち逃げしたり、任せていた人間が僕の人脈を全部さらって新しい会社を創っていたりといったことで経営が傾いてしまった。辞めてもらう従業員に退職金を払ったりといったこともあって、借金が1億円くらいまで増えてしまったんです。
再起できた要因は、今思い返すと「思い上がり」だったと思います。昔から「自分は天才だ」とか「人とは違う人間だ」というような根拠のない自信だけはあって、今考えるとそれはダメなんですけど、当時はその思い上がりが「一度億万長者になれたんだから、もう一度なれるはずだ」という気持ちにさせてくれたのは確かです。
それで、もう一度事業を興して再起することができました。それで、「ほら見ろ、やっぱり天才だ」と。
――強烈な自我ですね。
大坪:
はじめの時はそれでよかったんです。でも、ある時に上がれなくなった。
ものすごくセルフイメージが高くて、自分は天才だと思っているのに、なぜかうまくいかない。何をしてもダメで、いつも借金取りに追われていて苦しい思いをする。
その時に仮説を立てたんです。「もしかして俺って実は天才じゃなくて、ただの雑魚なんじゃないか。これまでのことは全部ラッキーだっただけなんじゃないか」と。そう考えたら全部腑に落ちました。
――ただラッキーだっただけではないと思いますが。
大坪:
当時はそう思ったんです。たまたまついていただけで、本当の実力ではなかったんだと。
それからは妙に謙虚で優しくなってしまいました。カラオケボックスでアルバイトをしたり、日雇いの仕事をしたり、人に助けてもらったりして、何とか借金の金利だけ払い続ける日々でしたね。弟の家に転がり込んで世話になったりもしましたし。
倉庫の仕分けの日雇い仕事でお台場の方に行くときに、モノレールの中でスティックパンと紙パックの牛乳で食事をして、情けなさに泣きながら通っていたのは今でも覚えています。大体夜通しの作業になるんですけど、夜の2時くらいに休憩があってみんなが休憩したり、カップラーメンを食べたりしているのを見ると、誰も彼も本当に覇気がなくてどんよりした顔をしているんですよね。こんなところにいてはダメだと思ったんですけど、でも向こうから見たら僕も同じように見えていたはずです。
――そこからどうやって復活したのでしょうか。
大坪:
お台場で作業が終わってから、早朝に品川までバスで帰っていたんですけど、車窓から30人くらいでラジオ体操をしているおじさんが見えたんです。
僕は母子家庭で、母親が工場で働きながら育ててくれたんですけど、その母がやっぱりラジオ体操を朝やっているって言っていたんですね。その光景を見て「こんな時間からがんばって僕らを養ってくれていたんやな」と、そんな母のことを思い出して目が覚めました。「俺は何をしているんだ」と思いました。もう一度やり直そうと。
すぐ日雇いの仕事もカラオケボックスも辞めました。お金はなかったですけど、「そんなことをやっている場合じゃない」という気持ちが強かったです。今はコンサルティングやセミナーの仕事をしているんですけど、始めたのはこのあたりからです。
――コンサルティングというのはそんなに簡単にはじめられるものなんですか?
大坪:
経営者時代の人脈が多少ありましたし、本を読むのが好きで、自分がなぜ若くして金持ちになれたのか、なぜすぐ失敗して全て失ってしまうのか、なぜお金がある時に集まってきた人が、落ちた瞬間に去っていったのか、といったことを自分なりに研究していたことも役立ちました。人とお金についての疑問を解決したかったんです。
とはいえ、コンサルタントになろうと思ってなったわけではありません。居酒屋で知り合いの経営者と会っている時に、営業成績が伸びない従業員がいて…ということを相談されたんです。それに乗っていたらお礼を言われるようになって、段々いろんな人から相談を受けるようになりました。
ある時、暇な時に会社に来て従業員と会ってくれないかと言われたので、行って相談に乗ったんです。こっちはコンサルティングのつもりなんてなくて、恋愛相談に乗るような感じだったんですけど。その時のアドバイスで結果が出たようで、「ただというわけにはいかないから受け取ってくれ」ということでお金をいただいたのが最初のコンサルティングの体験ですね。
「中身のあるお金」と「中身のないお金」
――落ちたり上がったりを繰り返した経験から学んだことがあるとしたらどんなものですか?
大坪:
20代の頃に大金を稼いでいた時は、稼いだお金に「中身」がなかったなと思いますね。今は、お金は相手と信頼関係を構築した対価だと思えるのですが、稼ぐだけなら信頼関係なんてあろうがなかろうが稼げてしまう。
相手の信頼を勝ち取ったり、社会に対して何か貢献したりして稼いだお金を「中身のあるお金」だとすると、昔僕が稼いでいたのは、そういった中身の薄いお金です。
だから、最初に失敗して貧乏になった時、自分の周りから人が離れていった。当時はそういう人を見て「裏切られた」と思っていました。「おまえらキャバクラおごってやったじゃないか」「高級ホテルに泊めてやったのを忘れたのか」と(笑)。でも、今考えると自分にも問題があったんです。
ある程度、信頼関係に基づいてお金を稼ぐことができてくると、多少落ちても周りの人が助けてくれます。それこそお金を貸してくれたり、食事をご馳走してくれたり。相手に律儀に向き合って行動していれば、困った時に助けてくれる。それに気づけたのは自分にとって大きかったです。
――今回の本で一番伝えたいメッセージは何ですか?
大坪:
「自分の運命は自分で支配しなさい」ということです。そうしないと、人生がイチかバチかになってしまう。
たとえば、お父さんの教えを妄信し、お父さんに支配されていると、自分が幸せになれるかどうかはそのお父さんの教え次第になってしまいます。それは支配する側が国でもそうですし、友達でもそうです。
そういう人生ではなく、必然的な成功を目指して努力するのが「自分の人生を生きる」ということです。そうすれば必ずいい人生になりますし、夢や目標に近づいていけるということを伝えたいですね。
――どんな人に読んでほしいとお考えですか。
大坪:
もちろんどんな人にも読んでいただきたいのですが、この本を読んで人生が少しでも変わる可能性が高いのは、やはり20代30代の若い方でしょうね。
その頃になるとある程度知識がついてきて、人生の方向性も決まって、世の中のことや自分のことがわかってくると思うのですが、同時に「自分の人生はこれでいいのかな」と疑問を持つ時期でもあります。そんな時にこの本が役立てばいいなと思います。
――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いします。
大坪:
まず、自分はどうなったら幸せか、どんな友達が欲しいか、夢は何かなど、自分が実現したいことを思い浮かべてみてください。
自分が努力して、幸運に恵まれて、いろんな人が協力してくれて、つまりすべてがうまくいくとしたら、自分にどこまでの人生が可能か。そこで思い浮かんだことは、全部叶うからね、というのは伝えたいですね。
もし、そこで思い浮かんだことに対して自分で無理だと思うなら、現実的だと思える範囲まで下げて、ひとまずそこに到達してみてください。そこからもう一度景色を見直せば、最初無理だと思っていた夢も、今度は実現できそうだと思えるはずです。
手段や人の協力は後からついてきますが、何をするにしても最初の気持ちの部分がないとあとですべてがダメになります。「こうなりたい」という気持ちを強く持つためにも、ぜひ本書を手に取って読んでいただきたいですね。
(新刊JP編集部)