インタビュー
「仕事を楽しみたい」と思っているすべての社会人へ
どんな業種でも「楽しんで仕事をしている人」と「楽しみを感じず仕事をしている人」がいる。
それは給料の多寡、企業のブランドや知名度、年代や経験年数にかかわらない。
では「楽しく仕事をする」ためには、一体何が必要なのか。そもそも仕事における「楽しさ」とは
なんなのか。これは、社会人一年目から企業経営者に至るまで、働く人すべてに共通するテーマだろう。
多くの社会人や経営者がその答えを出せない中、徳島県・香川県の地方エリアでシンプルなデザイン住宅の販売などの不動産事業を展開する株式会社プラザセレクトは、その答えを出し、社員も経営者も楽しみながら仕事をしているという。しかも、同社は創業1年で社員1人当たり1億円以上の売上を出すという高い成果も上げている。
そんな株式会社プラザセレクトの代表取締役社長であり、『楽しく生きよう よく遊び よく働け 想いを形にする仕事術』(現代書林刊)を上梓した三谷浩之氏にお話をうかがった。
インタビュー前半では、三谷氏に年代やキャリアに関わらずビジネスパーソンが楽しく働くために必要な考え方をお聞きした。
(取材・文/大村佑介)
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初のご著書となりますが、どのような方に読んでもらいたいと考えて執筆されましたか?
三谷浩之氏(以下、三谷):すでに仕事をしている人はもちろん、これから仕事を始める新社会人、就活を控える学生さんなど、年代に関わらず「前向きに生きたい」「楽しく仕事をしたい」と思っているすべての人に読んでもらえたらと思っています。
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本書のタイトルにも「楽しく生きよう」とありますが、三谷さんは「楽しい仕事」とはどのように働けている状態だとお考えですか?
三谷:主体的に自分が「やりたい」と思っていることができている状態です。
仕事がやりたくないことばかりで、且つ、それをやらされているという状態は辛いでしょう。
仕事をしていれば、当然やりたくないことや面倒なことは出てきます。
そうした「やりたくない」「面倒だ」という一部分だけを見るのではなく、自分の仕事を全体的に見て、自分がやりたいこと、やってみたいことの方向で仕事ができているのであれば、それは総合的に考えて「楽しい仕事」だと思います。
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「やりたいこと」が明確ではないまま、社会に出る人も少なくないと思いますが、やりたいことを見つけるための良い考え方はありますか?
三谷:やりたいことを考えるときに、多くの人が立派な夢や目標を描かないといけないようなイメージがあると思うんです。「世界中の人が驚くような発明をする」とか「社会を変革させる」と言うから難しくなるし、そんなことは普通の人はなかなかできないです。
だから、「やりたいこと」は立派だったり大きかったりする必要はなくて、「今晩、美味しいものが食べたいな」でもいいと思うんですね。「今日、美味しいご飯が食べたい」というだけで、そのご飯のための1万円を稼ぐのが今日の目標になる。それだけでその一日は精力的に仕事ができるし、その日一日は輝くわけです。
その連続が人生ですから、社会に出たばかりでまだまだ未来を描けないという人だったら、一日一日と小さな「やりたいこと」を積み重ねていく。その中で、出会いや刺激があって、もう少し大きな「やりたいこと」が生まれれば、次はそれをやっていけばいいと思うんです。最初の段階から、いきなり果てしなく遠くにある大きな目標を持つのは難しいですから。
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本書で、「お客様からお金を頂く以上、仕事は厳しいものでなければならないが、そうした仕事の中に楽しみを見つけることが大事」だと述べています。仕事の中に楽しみを見つけられる人とそれができない人には、どのような違いがあるとお考えですか?
三谷:それもやはり主体性だと思いますね。「やらされている」か「やっている」かの違いです。
結局、どこまでいってもやらされていることは辛いですからね。あとはそれを「やらされ感」がないようにやるしかないでしょう。
これは経営者的な感覚の話になりますが、選択の自由は個人にあるので「やりたくなかったらやめる」という選択もあるんです。
どこの会社でも、無理やり連れて来られて、無理やりその仕事をやらされているわけではないんです。自分が選んでそこに入社した、つまり選んだ責任は自分にあるということを忘れてはいけません。そして、その会社を選んだ時点で、その会社内には自分がやりたい業務もあれば、やりたくない業務もある。
だから、そこには100%やりたいことばかりができるわけではない、という現実もあることは知っておかなければいけません。そのうえでどうせやるのならば、前向きに捉えて「やっている」ほうが未来が拓ける可能性は高いです。
会社に入って仕事をするということは、誰かに使われるということです。でも、使われることにはメリットもあって、自分のリスクを経営者や他の誰かが負ってくれているという側面があるんです。
リスクと自由は常に表裏一体ですから、自由度が高ければ高いほどリスクも増す。リスクが低ければ低いほど自由度が減る。やりたいことだけを求めていけば、それだけリスクは増します。
なので、そのリスクと自由の度合いを自分の範疇の中で選べばいいんですね。
その上で、与えられた仕事を「仕事をくれてありがとうございます」と思えず、「なんで自分がこんなことしなきゃいけないんだ」と考えるのは、自分がその会社に入るという選択をしたこと、リスクと自由についてのそもそもの考えが間違っていると思うんです。
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三谷さんは起業される前は会社員だったそうですが、その頃からそういう考え方を持って働いていましたか?
三谷:新入社員の頃はそこまで思っていなかったですが、それでも同年代の人たちと比べればそういう考え方は強いほうだったと思います。
「あれが悪い」「これがイヤ」と文句ばかり言っている人も仕事をしている中で一定数出会ったことがありますが、「○○が悪い」と言えるくらいに問題点が見えているなら、その人自身が直していけばいいじゃないですか。でも、それもやらない。口で言うだけで何もやらないのであれば周りのモチベーションを下げるだけ。文句が多い人たちに対してはそういう思いがありました。
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そういう人たちとは関わらないようにしていましたか?
三谷:そうですね。もっと前向きな人たちと話していた方が有益だと思っていたし、文句を言いつつも何とかしようとしている人たちと一緒にいました。つまり、誰と関わるかという環境が大事なんですよね。
人の感覚は、目に見えているものに似てくるので、前向きな発言をする人と一緒に居れば前向きになるし、後ろ向きな人と一緒に居れば自分もそうなる。
私は、社員にそのことの大切さを伝えていますが、環境を整えるということは、別に経営者や上の人間から言われなくても、自分の周りからでも主体的に始められることだと思っています。
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三谷さんは、自社の社員にダブルキャリア、マルチキャリアを推奨しています。メインとなる専門的能力は今の仕事で身につくとして、サブ能力を身につけるならどんな基準で会得する能力を選ぶとよいでしょうか?
三谷:これもやりたいこと、好きなことを基準にするのがいいと思います。
例えば、うちは建築の会社ですが、営業の人間は設計についてのことはお客様に伝えられない。なら、設計の知識やスキルを身につけよう、と。
そうやって設計の知識とスキルを身につけたら、それまで以上により魅力的な提案がお客様に出来るようになる。それは設計でなくても、自分の仕事に関係していて興味のあることなら何でもいいと思います。
何を身につけてもまったく役に立たないということはありませんから、「やりたいこと」を基準に考えるのがいいと思います。
「予期せぬ悪いことは誰にでも起こり得る」 若き経営者がダブルキャリアを推奨する理由
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本書は、「一人のビジネスパーソン」「経営者やリーダー」という二つの視点から仕事についての考え方が書かれていますが、どちらにも欠かせない仕事に対する姿勢として、もっとも大切なものは何だとお考えですか?
三谷:誠実さです。ここでいう「誠実さ」の意味は「言葉に事実をあわせること」です。
営業マンであれば、「今月、受注を取ってきます」と言ったら、実際に受注してくる人。経営者であれば「社員を幸せにする」と理念を打ち立てたら、社員がそう感じられる会社にする人が「誠実な人」です。
私はそれを「誠実」の定義としていて、経営者であれ、ビジネスパーソンであれ、また一個人として、家族、恋人、友人との関係においても欠かすことのできない大切なものだと考えています。
逆に、「事実に言葉をあわせること」は「正直」です。例えば晴れた日に、今日は晴れだと言うことですね。「正直さ」も大切ですが、私はそれ以上に「誠実さ」のほうが大切だと思っています。
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経営者側が提供できる「楽しさ」と、社員が考える「楽しさ」は違う面もあると思いますが、経営者として社員に提供できる「楽しさ」は何だとお考えですか?
三谷:未来を見せることですね。私の会社では、創業当初から「生活総合支援企業になる」というビジョンがあり、新事業を立ち上げるという目標がありますが、お先真っ暗で何が起きているかわからないまま働いていれば誰だって楽しくなくなります。
大きな会社になればなるほど理念やビジョンがすごく遠いところにあって、唯々、目の前の数字を作るために仕事をしている人もいるでしょう。それは楽しくないですよね。
私は、「不安が不信になって、不信が不満になる」と考えているので、未来が見えないという不安を、未来を見せることで払拭するんです。
未来が言った通り、思った通りにならないことは当然です。本当のところみんなそれはわかっているんです。だからこそ、「こんな未来にしよう」と声をかけ、そこに向かって一緒に進んでいくことが大切です。未来を描けているかどうかはとても重要だと思います。
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三谷さんは会社員時代に勤めていた企業が倒産し、言ってみれば未来を断たれた経験がおありです。本の中でも「企業の絶対的使命は倒産しないこと」と書かれていますが、倒産したことで一番苦しかったことはどんなことですか?
三谷:一番苦しかったのは、ビジネスパートナーやご契約頂いたお客様に謝りに行くことです。
お客様から「どうしたらいいの?」と言われても「どうしようもできません」と答えることしかできなくて、何もできず無力だということは本当に辛かった。
倒産すると「交渉してきます」「やってみます」「努力します」と言える次元ではなくて、本当に何もできないんです。罵られようが慰められようが、現実は何もできないというところから一切変えられない。それが一番苦しかったです。
選択肢がないことは本当に辛いです。だからこそ、倒産しないことは絶対的使命だと思っています。
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自分の勤めている会社が倒産してしまう事態に見舞われた場合、心得ておくべきことはありますか?
三谷:倒産するしないにかかわらず、常に自分を磨き「他社で飯が食える人材」になっておくことが大切だと思います。誰しも、自分は交通事故に遭うとは思っていないでしょう。でも、誰にでも事故のように悪い巡り合わせの出来事は起こり得るんです。だから、どんな状態になっても自分の足で立てるように、自分を鍛えておかないといけない。
「あれがイヤだ」「これがイヤだ」と言っているヒマがあったら、一つでもスキルを身につけておくほうが絶対にいいです。たとえ、会社という器が崩れたとしても、武器を持っていれば、誰かがどこかで拾ってくれるし、もしくは、そこで自分で事業を始めることもできるかもしれないですから。
それもあって、私は社員にダブルキャリア、マルチキャリアを推奨しているんです。そうした万が一のための備えを社員に持たせてあげるのも、経営者の使命ではないかと思います。
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プラザセレクトは創業一年で、社員一人あたりの売上が1億円を超えていたそうですが、生産性を高めるための取り組みとしてやってきたことはありますか?
三谷:無駄な作業をしないということは徹底しています。たとえば、書類や情報伝達の無駄を省くために情報のほとんどをウェブ上で共有しています。
また、この業界では珍しいと思いますが、紙ベースの広告も打っていません。すべてウェブでの集客です。広告をやめても同じように集客ができれば、紙ベースの広告にかけていた時間や労力、費用が全部なくなるわけです。実際、ウェブでの集客だけにしても売上は変わっていないので、大きく無駄を省けたことになります。
それと、三ヶ月に一度、一日かけて業務の棚卸の会議をしています。三ヶ月間で「面倒くさい」「時間がかかる」と思った仕事を社員に挙げてもらって、要らない作業はやめ、必要な作業であればよりスムーズになるように考えていきます。だから、うちの会社では仕事が増えないんです。
そうやって「本当の無駄」を省いてできた時間は、「必要な無駄」のために使います。社員とバカみたいな話をしたり、なんでもなくお客様の所にお伺いしたり、当社では「大人の遠足」と呼んでいますが、みんなで遊びに行ったりする行事などがそうです。一般的にはこれも無駄だと思われがちですが、それは楽しく仕事するためのモチベーションやお客様とのコミュニケーションとして絶対に必要な「無駄」ですから。
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最後に、読者の方々へのメッセージをお願いします。
三谷:人生は自分が主役なので、自分が「楽しい」と思える方向にすすむのが一番いいと思うんです。社会や会社のルールの中で、やらざるを得ないことや縛りはたくさんあります。でも、それはそれでしょうがないことです。
なので、その枠の中で自分が自由にできる範囲をなるべく広げていくことが大切です。そのためには、実力や専門的スキル、ものの見方や考え方を身につけることが必要です。この本が何かのきっかけになって、その本質を多くの人が気づき、行動にうつして、楽しい人生を歩んでいるなと思ってもらえたらいいなと思います。