インタビュー
顧客の消費は感情が決める「通販番組」に学ぶリピート客のつかみ方
世の中には「繁盛店」と呼ばれ、リピーターの絶えない店があるが、繁盛させるために必要なものは一体何だろうか。
飲食店なら美味しい料理をつくる、モノを売る店や会社なら品質の良いものをつくる。それだけで繁盛するかと言えば、答えはNOだろう。
このモノ余り時代に、多くの競合他社から抜け出て繁盛する店や会社は、商品やサービスの質の良さを追求する以外の視点を持っている。それは顧客の「感情ニーズ」だ。
繁盛店は、顧客の「感情ニーズ」を掴んでリピーターをつくり、そのリピーターが続々と新たな顧客を連れてくるという仕組みができている。
そんな、顧客の心を掴み、リピーターの絶えないビジネスノウハウを、『8割のお客様をリピーターに変える「すごいお店」の秘密』(KADOKAWA刊)の著者、髙井洋子氏にうかがった。
髙井氏は経営コンサルタント会社Carityの最高顧問であり、これまで800社以上の経営者、経営幹部、独立希望者が集う「ビジネスモデル塾」で、ビジネスモデル構築や戦略・戦術の策定をアドバイスし、多くの中小企業の業績向上に貢献してきた人物だ。
そんな髙井氏に、顧客の消費を起こさせる感情をつかみリピーターをつくるポイント、顧客ニーズを的確に掴んでいるビジネスについてお話しいただいた。
(取材・文:大村佑介)
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前著でお話をうかがった際に、前著はストーリー形式にすることに狙いがあったとおっしゃられていました。今回の書籍も、読者の理解を深めるための仕掛けがあるのでしょうか?
髙井洋子(以下、髙井):今回は、話し言葉のような書き方をしていて、本というよりは私と一緒に話をしながらビジネスが学べるという形にしています。対話するような形にすることで感情に訴えかけ、よりわかりやすく読めるようになっていると思います。
それと、本の中で「○○について書き出してみましょう」といったワーク形式を取り入れていますが、これにも明確な狙いがあります。
本を読んだり勉強をしたりすることは、基本的にインプットです。でも、実際のビジネスは、アイデアを出したりイメージを形にしたりアウトプットが基本なんですね。なので、本に書かれていることをインプットで学びながら、ワーク形式でアウトプットもできるようになっています。
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今回は「リピーターの獲得」がテーマになっており、新規客よりもリピーターを重視することの大切さが書かれています。改めて、リピーター獲得に注力することのメリットをお教えください。
髙井:「1:5の法則」と「5:25の法則」という二つの法則で考えるとメリットは明らかです。
1:5の法則というのは、新規客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかる、という法則。もうひとつの5:25の法則は、顧客離れを5%改善できれば、利益が最低でも25%改善されるという法則です。この二つを組み合わせて考えれば、既存顧客をリピーターにすることに力を入れたほうがいいのは考えるまでもないですよね。
もちろんゼロから始めるなら全員が新規顧客ですから獲得は必須ですし、長い間やっているお店や会社でも新規顧客の集客は必要です。
でも、今回の本でお伝えしているように、長い間やっているお店や会社でも、既存顧客に注力していけば「お客様」が「お客様」を呼び込んでくれるようになるので、結局、大事なのは既存顧客のほうなんです。
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自社のモノやサービスを買ったり利用してくれたりする人を「潜在顧客」「お客様」「顧客」「お得意様」「信者客」「伝道師」という6つ段階で分けていますが、それぞれどのような位置付けの人を指すのか、改めてお教えください。
髙井:「潜在顧客」は、まだニーズが顕在化していない未来のお客様です。ちなみに「見込み客」との違いは「潜在顧客」のほうが購入意欲が高くないという点があります。なので、「潜在顧客」には購入のきっかけをつくってあげる必要です。
「お客様」は、初回来店してくださった方です。そこでコミュニケーションを図って、二回目に来店してくださる段階が「顧客」です。ここで初回とは違った対応をし、来店してくださった方の感情的な期待に応えられれば、三回目の来店もしていただけます。
三回目の来店になると「お得意様」。ここでは、さらに上の段階に顧客成長をしていくためにしっかりと囲い込みをしていきます。
四回目の来店になると、信頼関係もできて、他社や競合店に見向きもしない「信者客」に。そして、最後の「伝道師」の段階まで行けば、その人が新たな「お客様」を連れてきてくれるようになるんです。
「うちには常連客がいます」と言っても、単純に何回も店に来てくれる人がいるだけの状態では、ビジネスとしては足りません。最終的にお客様がお客様を連れてきていただけるように、6つの段階を意識していくことが大切です。
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イベリコ豚専門レストラン「イベリコ屋」をはじめ、リピーター獲得のために様々な工夫をしているお店が数多く紹介されていますが、これらのお店に共通する要素で、特に重要なものを挙げるとしたら何でしょうか?
髙井:ちゃんとリピーターが獲得できているところは、ワクワク感があります。「これだけ通えばこういうことがある」みたいな。それが明確ですよね。
たとえば、イベリコ屋だったら、「次に来てくれたら生ハムスライスを目の前でお見せしますよ」とか。そういうことをちゃんと伝えてくれて、次に行く意味や意義を明確にしてくれると、「次も行こう!」「また行きたい!」となりますね。
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たしかに、値引きやサービスチケットのようなことはやりがちですけれど、そこには「ワクワク感」はあまりないですよね。
髙井:そもそも値引きをすると利益が取れなくなってしまうので、値引きは絶対にしてはいけません。
お客さんにとって20%程度の値引きはまったくワクワク感がない一方で、お店にとっての20%の値引きは致命的な状態をつくるんですよ。ワクワクしないのに、自分のところの経営をただ圧迫させるのは危険です。だから、値引きは絶対にやってはいけないんです。
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本書では、潜在顧客の注意を引くための「AIDMAの法則」や、会った回数に好意が比例する「ザイオンス効果(単純接触効果)」、三回で印象が決まる「スリーセット理論」など、脳科学、心理学などのノウハウが出てきます。顧客心理を掴むためにこうした心理効果や理論を学ぶことは、ビジネスにおいて有効的な手段なのでしょうか?
髙井:有効ですね。消費を起こさせる心理は学ぶべきだと思います。
たとえば「選択回避の法則」というのがありますけれど、商品がたくさんありすぎると、脳が考えることに疲れてしまって買うのをやめてしまいます。
家電量販店で色々な商品を目の前に出されて説明されると、面倒臭くなって「今日はもう買わない」ってなることがありますよね。そういったお客様の消費に関わる心理は知っておかないといけません。
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「感情が消費を引き起こす」というのは、髙井さんがこれまでの書籍でも読者に伝えていることですが、このことをよく理解しているなと感じる業種やビジネスはありますか?
髙井:まず、一生懸命モノを売ろうとしている人たちはわかっていないですよね。モノを売ることだけにとらわれて、「何が売れているか」ばかりを追ってしまう会社やお店は、モノが売れないです。
その一方で理解していると感じるのは、通販会社です。だから、私は「勉強になるから通販番組は見たほうがいい」とよく言います。
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通販番組はどんなポイントを見るといいのでしょう?
髙井:商品ではなくて、感情を刺激する売り方と演出です。
たとえば、エキストラの人たちが「まぁ、ステキ!」と盛り上げたり、腰が痛そうな人が本当に辛そうな表情で画面に映ったりしますよね。それは感情に訴えるじゃないですか。
単純に「腰が痛い人」と口で言うより、本当に腰が痛くて歩けないくらい辛そうな人が映像で出てきたりすると、感情を刺激するんですよ。
話し方も、人間の心理をよく突いていますよね。「残り○点です」とか「早く買わないとなくなってしまいます!」なんて言って焦らせたりするじゃないですか。そういう感情を刺激の仕方は学ぶべき点が多いと思います。
リピーターが絶えないABCクッキングが「夜10時」まで営業する理由とは?
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本書で、モノは「顧客ターゲット」「売り方」「商品」の777(スリーセブン)がそろわないと売れないというお話がありましたが、この3つの中で一番見落とされがちな要素はどれでしょうか?
髙井:顧客ターゲットです。多くの方がターゲットを絞り込めないんですよ。
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それはなぜでしょうか?
髙井:売れなくなるのが怖いからです。
よく見るのが、ひとつの商品を「20代~60代の女性をターゲットにしています」という方ですね。でも、それだとターゲットが明確でないから、商品のつくり方も中途半端になるんです。
たとえば、青汁を20代の女性に売るのであれば、「青汁スムージー」みたいな名前にして可愛らしいパッケージに入れたほうがいいでしょうし、ダイエットを打ち出す売り方もありますよね。
でも、60代の女性に売るのであれば、抹茶色のパッケージで「毎日元気に青汁」みたいなコピーが響くでしょうし。
だから、同じ青汁でも、20代から60代まで全員に飲んでもらおうと思ったら、コンセプトが明確にならないと難しいんですよ。
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なるほど、そうですね。
髙井:ターゲットの例で言えば、「ラウンドワン」というアミューズメントは明確です。
「ラウンドワン」は昔のボーリング場やゲームセンターの進化版のようなところですが、ゲームセンターも、ターゲットが「ビジネスマンの暇つぶし」か「最新のゲームで遊びたい子ども」なのかで、サービスも商品も立地も変わってきますよね。
その中の「子ども」にターゲットを絞るのであれば、今はネットに繋いで家でもゲームはできるわけです。だから、ミニバスケットやフットサルといった体験型のアトラクションを取り入れた結果、大人気なりました。
だから、どんな人が、どんな感情を満たすために、そのお店があるのかというターゲットのセグメンテーションができていないと上手くいかないんです。
「顧客ニーズ」がわからない限り、商品も売り方も変わってしまいますよ、というのが777(スリーセブン)の考え方です。
今の時代は完全に体験型が強いですね。なんでもネットで情報が引っ張ってこられる時代になると「いかに体験させるか」が重要になりますから。
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自社のビジネスに「体験型」を取り入れられないかを考えてみるのも面白そうですね。
髙井:それは面白いと思います、これからの時代。
やはり体験型で持っていかないと、「便利」や「気軽」という点で、アマゾンのような大手には勝てないですから。でも、アマゾンも「アマゾンスピーカー」のように、すでに体験型を始めていますからね。
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今、「アマゾンGO」というレジのないショップも出てきていますが、大手にそれをやられてしまうと小売店舗は大変ですよね。
髙井:だからこの本を書いたんです。顧客と家族になって、顧客が自分の事を応援してくれるようにならないといけない。やはり顧客との関係の根源にあるのは人間関係ですから。そこを意識しないとネットや大手企業にかなわないですからね。
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他にも「顧客ニーズ」を的確にとらえているなと思う会社やお店はありますか?
髙井:料理教室の「ABCクッキング」も体験型で、顧客ニーズをしっかりわかっていますよね。
ABCクッキングでは、生徒さんが楽しく料理をしている姿がガラス張りで見られるようになっていて、そこに「自分もやりたい」というワクワク感を起こさせる仕掛けがあるんですよ。
「料理がつくれるようになりたい」という表面的な感情ニーズだけを見ていると大失敗しちゃうんですよね。「お料理がつくれるようになりたい」「お料理を学びたい」に加えて「自分で体験してみたい」がないといけないんです。
もっと言うと、ABCクッキングは夜10時まで開いているんですが、それは、顧客ターゲットが独り暮らしのOLさんだからです。
一人暮らしの女性には、「コンビニ弁当を買って帰って一人でさみしく食べるくらいだったら、教室でみんなと一緒に料理を作って、仲間たちと食べて、楽しく喋って後片付けをして帰りたい」というニーズがあるんですよ。そのニーズがわかっているからこその「夜10まで」なんです。
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先ほど、アマゾンの話も出ましたが、海外で日本人以外の人をターゲットにしたビジネスでも、リピーター獲得のためのプロセスは基本的には同じであると考えていいのでしょうか?
髙井:結局は一緒だと思いますね。
商品の話になってしまうと、飲食店なら甘いものが好きとか辛いものが好きといった味覚の話が出るとは思いますけれど、人間の消費行動という意味では、基本は一緒ですよ。
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基本は同じということを踏まえた上で、日本人と、中国人や欧米人を相手にビジネスをする際に「ここは違うな」と違いを感じることはありますか?
髙井:たとえば、一口に中国と言っても国土がものすごく広いじゃないですか。上海なんかは日本のレベルを超えるような大都市になっているわけですよ。でも、一ヶ月4000円くらいで生活できるものすごい田舎もあるわけです。
だから、どこの国だからこう、というふうに考えるのは難しいですよね。同じ国でも上海のような大都市と田舎に住んでいる人の感情ニーズは全然違いますから。
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そうなると、その地域における年収や生活レベルのような枠組みで考えたほうがいいのでしょうか?
髙井:そうですね。そこに住む人たちの世帯年収やライフスタイルなど、基本的なところを押さえておくことが大切になります。
また、宗教観は多少関係してくる場合もあるとは思います。宗教的に豚肉を食べないとか。でもそれは、「顧客ターゲット」よりも「商品」の話になってきますから。
やはり大切なのは「かわいい」とか「便利そう」といった感情ニーズになってきますね。
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なるほど。感情ニーズを押さえるというどんな人にでも通じる基本を知ってさえおけば、どこの国や地域でもビジネスはやっていけそうですね。
髙井:「誰にでも売らないこと」はとても大切です。
恣意的に自分がセグメンテーションしたお客様にモノを売る――私がABCクッキングですごいなと思った話があるんです。
料理が得意な経営者の男性がいて、その人がABCクッキングに体験に行ったんです。
その人はすごく食にこだわる人なので「蕎麦打ちをやりたい」とワガママを言ったら、教室の先生が「うちには蕎麦打ちのコースはありません」と。
でも、その男性はさらに「こういうので出汁を取ってね――」と話し出したんです。そうしたら、先生は「私たちは楽しく家庭料理がつくれるようになることを目的にしています。そういうコースをつくる予定もないですから、他の教室に行かれたほうがいいと思いますよ」とハッキリ言われたらしいんですね(笑)
それを聞いて、私は「さすが」と思ったんですよ。
そういう人を説得して無理やりお客さんにするのではなくて、「この人を徹底的に幸せにするんだ」ということ明確に決めて、その人に届く告知を徹底的にする。
それで、来ていただいたお客様と信頼関係を築いて、自分の思いに共感していただいて、お友達やご家族を紹介していただく。そんなふうに、大事に人間関係を構築していくことがリピーターを増やすためには大切だと思います。