著者インタビュー
「嫁という役割を脱ごう。」 女性起業家が離婚を決意した瞬間
2011年に第一子を出産。その4ヶ月後、オーガニックにこだわったお菓子ブランド「ブラウンシュガーファースト」を立ち上げ、7年間で年商7億円の企業に育て上げた気鋭の女性起業家・荻野みどりさん。
愛する娘を通して直面した「食」の問題を解決するためにビジネスを展開し、猪突猛進にその事業を広げている。
最近ではココナッツオイルの火付け役としてテレビや雑誌などのメディアに姿を見せる荻野さんの生き方は、今後の女性の生き方のモデルケースになるかもしれない。
『こじらせママ 子育てしながらココナッツオイルで年商7億円。』(集英社刊)は、激動の半生を振り返りながら、仕事、子育て、離婚、ビジネス、食の未来について語り尽くした一冊。
注目を集める今、本書に込めた想いとは。荻野さんにお話を伺った。
(新刊JP編集部)
女性は「ねばならない」という檻に雁字搦めになっている
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ご自身の半生を振り返る、メッセージ性の強い本です。執筆の経緯から聞かせて下さい。
荻野:2011年にブラウンシュガーファーストを創業して以来、それなりに志を持ちながら、ずっとがむしゃらに突き進んできた中で、ビジネスを通して自分がつくりたい未来をつくるための手ごたえを感じられるようになってきたんですね。
それで、これは多分私だけじゃなくて、他の皆さんもできることなんじゃないかと感じていて、私のエッセンスが役立つならばそれを伝えたいと思って執筆をはじめました。
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女性の働き方、生き方については特に深く書かれていますよね。
荻野:はい。特に子育てしているママたち、日本で働いている女性たちが、いろんな場面で「ねばならない」という檻に雁字搦めになっているのを見て、私は学歴も立派ではないし、本当にこじらせてここまできたけれど(笑)、「こうしたい!」っていう思いが強ければ、自分で切り拓いていけるということを知ってほしいと思っていました。
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ブラウンシュガーファーストを創業して7年、今や年商7億円の事業になりましたが、もともとは青山の国連大学前の広場で開催されていたファーマーズマーケットという直売市で、オーガニックのお菓子を販売されていたんですよね。
荻野:それがスタートでした。ただ、そこから広げていくのがすごく大変で、食品業界にいたことがなかったので業界のルールも全然知らなくて。食品のサプライチェーンって参入障壁がすごく高くて、ここは苦労しましたね。
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本を読んでいると、自分のブランドのお菓子を取り扱ってもらうために、すごい行動力を発揮されていましたね。
荻野:そうなんです。コンビニで売ってほしいけれど、アテもないので代表電話から電話してアポを取りました。
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その時はもう勢いだけで?
荻野:そうです。「あ、コンビニだ!」ってひらめいて。でもそれも全部、このビジネスの目的がはっきりしていたから、淀みはなかったです。今の子どもたちが大きくなったときに、安心して食べられるオーガニックの食品を気軽に買える世の中をつくるというのが目的なので、シンプルに、それを達成するために一番実現に近づける選択をしたというだけですね。
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それはビジネスをするためのポジティブな「ねばならない」ですね。
荻野:そうですね。業界経験がないと参入できないとか、そういうことも言われましたけど、不安要素をひとまず脇に置いて走りました。それで実際走っていると、皆さんいろんなことを教えてくれて、「区役所の何々課に聞くといいよ」とか。
今でも当時のバイヤーさんに会いに行くと、「あのときキックボードでうちに来たよね」って話しています(笑)。インパクトが強いのか記憶に残してくださっていますね。
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確かに印象に残りそうですよね。
荻野:あとはベビーカーを押しながらお菓子のサンプルを配ったり。初めて取引をしてくださった代官山のヒルサイドパントリーさんには、先日お会いしたときに「娘さん、もう小学生なの!? 初めて来た頃は赤ちゃんだったのに」と言われました。
本当に見切り発車的なところがあったんですけど、失うものなかったですし、目的ははっきりしていたので、どんどん動いていきました。
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ご自身の中で「これはできるな」ということに対して何割くらい見えていれば行動しますか?
荻野:少しでも見えていれば走り出します。で、もし手ごたえがなければすぐにやめる。やめるというか、保留箱に入れて寝かせておきます。
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生き方が究極的に合理的というか、自分と合わないことをバンバン切り捨てていくじゃないですか。
荻野:そうですね、どんどん切り捨てて行きます。
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目的を達成するための最短ルートを選ぶために、捨てなきゃいけないものもある。本書では「妻」や「嫁」としての役割が自分を悩ませていたことから、それを手放します。その決断は印象的でした。
荻野:「妻は、自分より先に夫の役に立たなければならない」という価値観が私にはしみついていて、「妻として自分は努力が足りない」と思うようになってきて、妻としての役割が次第に重荷になってきました。夫を支えることに時間を割けなかったし、夫婦の関係が悪くなると仕事や子育てにも悪影響が出てしまって。「妻」+「母」+「社長」すべてこなすなんてムリ。そうであれば、自分にとって優先すべき「母」「社長」に集中したくて、離婚をしました。
もちろん夫との関係は今も良いですし、子どもとの関係も良いです。娘が「パパとママといる時間が幸せ」って言ったら、その時間を多くとるようにしています。ただ、私にとって重荷になっていたのは「嫁」「妻」としての役割を果たさなければいけないというところだったんですね。
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娘さんは荻野さんのお仕事を知っているのですか?
荻野:はい、細かく伝えています。出張の時も何の目的でどこに行くかも説明しますね。離婚している状況も娘は理解していますし、これから家族がどんな風になっていくかのイメージも話しています。もしかしたら、娘が一番大人なのかもしれません。
また、娘に「どんなことしているときが一番幸せ?」って聞きますし、それをすり合わせることも日常的にしています。
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人間って役割を何個くらいまで大事にできると思いますか?
荻野:本当にフォーカスできるのは2、3個くらいだと思います。ただ、薄く広く色んな役割をこなしていくこともできるし、人生のシチュエーションで変わってきますよね。例えば親が突然病気になって介護をすることになれば、そこにフォーカスしないといけなくなりますし…。
だから、なんとなくモヤモヤを抱えている人は役割を一度全て棚卸しして、自分が大切にしたいものを選ぶことが大事だと思います。
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棚卸しの方法はどのようにすれば良いでしょうか。
荻野:この本でも書かせてもらいましたが、書き出すことが一番です。それで役割を並べて、どれが一番大事って問いかける。それがシンプルで最もやりいい方法だと思いますね。
また、今だけで考えず、時間軸で考えることも大切です。先ほどお話した介護の話もそうですし、子育ても子どもと一緒に遊べる時間は今だけかもしれないとか…。明日が今日と同じような一日である保証はどこにもなくて、変化するので。今は子どもとの時間が大事だと思えば、その優先順位を一番にして、後でもできるものは保留箱にいれるということもできますし。
「食を通したつながりを守っていきたい」 気鋭の女性社長が見つめる未来とは
「世の中、きれいな話ばかりじゃないですから」
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本書を執筆するにあたり、ご自身の半生を振り返ったと思いますが、自分で最も成長した時期はいつだと思いますか?
荻野:短大をやめて自力で生きていこうとしていた時期ですね。19歳から22歳くらい。
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どういう風な成長を?
荻野:ようやく物心がついた、という感じです(笑)。それまではどんなに暴れたとしても、やっぱりレールの上にいたんですよ。でもそのときに家出をして、福岡から上京をして、貯金どころか負債を抱えていた状況の中で、必死に生きないといけなくて。
そのとき、「最低限これだけあれば生きていける」という土台に気付けたのが成長につながったと思います。
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その頃、影響を受けた人はいたのですか?
荻野:その頃にお付き合いをしていた彼氏ですね。哲学者っぽい感じで、本をたくさん読みなさいと言われました。その彼が読めと言った本が、それまでの自分が読んだことのないような本ばかりで、「こういう世の中の切り取り方があるんだ」ということを吸収しました。
また、放送大学に入って、一般教養から学問まで様々なことを学んだのも大きかったです。ファッションというイメージの世界を抜け出して、突然社会の大きな骨格を見たような衝撃でした。
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社会の骨格ということは、一歩引いて物事を見る視点を身に付けたということですね。
荻野:そうですね、まさに。
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今でもその視点を大事にされていらっしゃる。
荻野:ちょっと行き詰ったりしたとき、グッと集中して考えたあとに、今度は俯瞰して全体像を見るということをしています。また、時間軸にも視点を広げて、過去と未来も見渡して考えるようになりました。
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本書の帯に「仕事の育児の両立」という言葉がありますが、この「両立できている状態」はどんな状態だと思いますか?
荻野:両立ですか。うーん、なんだろう…。でも、私自身そんなに冷静に両立しているという感覚はなくて、正直分からないんです。多分、上手くいったかどうか実感できるのは後々の話で、今は毎日起こるタスクを片づけていくのに必死です。
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では、「両立」という意識はないということですか?
荻野:何をもって両立というのか、その定義が人によって異なると思います。私の中では、役割の優先順位が定まっているので、そこで発生するタスクをどんどん片づけていくという繰り返しです。そうやって前進して、数年後に振りかえって「あ、自分はちゃんと両立できていたんだな」という感覚になるのかなと。
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言い方を変えれば、優先順位が定まっていて、それがちゃんと順番に遂行できているかどうか、ということですね。
荻野:そうです。優先順位がぐちゃぐちゃしていると、両立できていたとは思えないかもしれないですね。なんかぐちゃーっとしていたなあと。
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でも、そういうご相談も多く寄せられていそうですね。
荻野:そうなんですよ。だからこの本を書いたというところもあるんです。みんなモヤモヤしているんだけど、何にモヤモヤしているのか整理できていなくて、じゃあ、それを一回整理しましょうと言うんです。
旦那さんへの愚痴もよく聞きます。だけど、実はその根源にあるのは旦那さんの存在ではなくて、自分がやりたいことを阻害するものがあって、それができていないから、そのモヤモヤを旦那さんにぶつけているということもあるんです。そこをクリアにすれば、喧嘩せずに済むかもしれないし、旦那さんや家族と話ができるかもしれない。
ただ、モヤモヤするのは仕方なくて、子どもを産んだ瞬間から「母」としての役割が増えるんですよ。これはかなりヘビーな役割で、社会からの「理想の母像」の期待も大きい。一気に優先順位があがります。それでぐちゃぐちゃになってしまう人も多いので、まずは整理しましょうかという話をしますね。
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最近ご活躍ぶりから、荻野さんのようになりたいという若い女性も増えているのでは?
荻野:おかげさまで…(笑)。私はきらびやかな人ではないし、有名な大学を出たり、著名な企業にいたこともないのに…。
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本を読ませていただいて、泥臭さを感じました。
荻野:そうなんですよ! ブルドーザーみたいな生き方で。雑草魂というか。
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今までの人生で最もしんどかった状況は?
荻野:20代前半の頃の、お金がない状況は本当にきつかったです。生命の危機というか。ネットカフェ難民になりかけたりもしました。
でも、その頃、社会の底支えをしている人たちに出会ったことは、私の原点でもあります。私もそうでしたけど、みんな生きるのに必死で、一日一日積み重ねていくような生き方をしていました。今の私の、目の前のすべきことをこなしながら生きるという特徴はそこで培われたものだと思います。世の中、きれいな話ばかりじゃないですから。
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当時の自分にアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?
荻野:母の口癖で「死にゃせん」という言葉ですね。博多弁なんですけど、どんなにきつい状態であっても希望を持っていれば死にはしない、と。こうじゃなければ自分は不幸だという基準なんて幻想ですし、生きていること自体が大切で、それだけプラスですから。
しかも日本という国の東京にいること自体がすごく恵まれているじゃないか。だから「何でそんなに悩んでいるの?」って。
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広がりを見せているブラウンシュガーファーストですが、今後荻野さんがやっていきたいことはなんですか?
荻野:食の未来についてずっと考え続けています。「食べる」って2種類あると思っていて、一つは「摂取」の意味での食、もう一つは「心を満たす」という意味での食です。
「摂取」の意味での食は大手企業さんIT企業さんがどんどん進めていらっしゃるのでそちらはお任せして、私は心を豊かにする食を追求したいと考えていて、その豊かさの根本はどこにあるのかというと、「つながり」だと思うんですね。
食べる人、作る人、売る人。みんなのつながりであったり、地球と人とのつながりであったり、過去と今、未来の時間のつながりだったり、そうしたつながりの複雑性が心を豊かにする食を実現できるのがオーガニックだと思っていますし、オーガニックという選択肢を世の中にもっと広げていきたいです。
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「つながり」を感じることができる食の文化ですか。
荻野:食べ物はお母さんから子どもに与えるのが基本だと思っています。子どもって純粋に母親から生まれてきますし、まず口にするのは母乳です。母乳神話みたいな話ではなく、「ヒト」という種の話です。そういう親子のつながりから食文化の本質が育まれてきたと思っているし、そういう時間や手と手、地球と人など多様なつながりの上にある食の文化を残していきたいんです。
いずれその人にとって適切な食品がそれぞれ届くようになる時代がくるのかもしれないけれど、最後はお母さんが子どもに料理を渡す、最終加工はお母さんがするというような「人と人のつながり」を守っていきたいですね。
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本書をどのような方に読んでほしいですか?
荻野:モヤモヤを抱えている人にぜひ読んでほしいです。また、自分の人生を生きていないと感じる人にも。ヒントになることがあれば、嬉しいです。