『リーダーの「対話力」ノート ~できる大人は「言葉選び」で人を幸せにする~』
部下にとっての幸せを知ることで、仕事のパフォーマンスを最大限に引き出す
鬼頭: 本のタイトルに「リーダーの対話力ノート」とありますが、これは上からものを言うという意味ではなく、あくまで「部下の幸せ」という事をテーマにされているんですよね。細谷さんが部下の幸せを願うようになったきっかけは何でしょうか?
1つ目は、以前自分が勤めていた会社で初めて部下がついた時に、自分の子供を預かったような感覚があって、純粋にこの人たちに幸せになってほしいと思った事ですね。もう1つはプライベートの事情になるんですけれど、4年前に次男が病気で入院したことがありまして、それまでは色々なものを犠牲にして働いてきたんですが、その時に「やっぱり人って幸せにならなきゃいけないんだな」と強く感じました。この2つが部下の幸せを考えることになった大きなきっかけだと思います。
鬼頭: そう考えるようになってから、部下の方に何か変化はありましたか?
ありましたね。考えが変わってからは、部下がこの会社で何をしたいのか、どうなれば幸せなのか等、具体的なところまで話し合うようにしたんです。会社には、仕事を頑張って偉くなりたい人もいれば、家庭を持って仕事と私生活とのバランスを上手くとりたい人もいます。なので、とにかく話を聞いて、その人の価値観に合った仕事の役割を与えていく。こうする事で部下も信頼してくれるようになりましたし、各々が幸せに近づいていくので、仕事のパフォーマンスも上がったように思います。
鬼頭: 部下と深く話し合うという事は、プライベートにも踏み込んでしまいそうですし、勇気がいる事のようにも思うんですけど、何かコツ等はあるんですか?
思い切って「あなたには幸せになってほしい」と伝えてしまう事だと思います。僕の場合、部下と話をする時はまず、その対話の目的を話すようにしていますね。「あなたがこの会社、この組織で自分の人生の幸せを実現してほしいから、色々な事を聞くね」という前振りをつけて。その上で、部下がどういう働き方、どういう生き方がしたいのかを具体的に聞き出していきます。
世代が違う部下との対話は常時「フラット」に
鬼頭: 一昔前は、「裕福」=「幸福」という価値観が多かった、と本書に書かれていましたが、今の時代の「幸福」の意味を細谷さんはどのように捉えていますか?
「分かりにくい」というのが現状ではないかと思っています。日本が戦争に負けて、経済が復興する前の時代に生きていた人たちは特にそうだと思うんですけど、当時はちゃんとお金が稼げて、家が建てられて、子供にも恵まれて……というように幸せのモデルが今よりはっきりしていたと思うんですね。そういう「幸せの型」みたいなものが見えにくくなっているのが現代の価値観ではないかと思っています。
鬼頭: たしかに昔の幸福は、最近に比べるとイメージしやすい感じがしますね。
今の時代は、幸せになろうとみんな必死に頑張りはすると思うんですけど、「型」が無くなってしまった分、自分に合った幸せを探しにくくなっているんじゃないかなと思いますね。
鬼頭: なるほど……。会社に勤めていると、全く違う世代の人と関わる事があると思うんですけど、価値観の違う人と対話する時の重要なポイントはありますか?
一番大事なのは「フラット」に接する事だと思っています。上司になって肩書きがつき、ある程度歳をとってくると、周りが自分に頭を下げてくれたりするんですけど、そこで何となく「自分が偉くなった」と勘違いしてしまうことって結構ありがちだと思うんですよ。でも、それはたぶん「自分に」ではなく、「自分の肩書きに」頭を下げてくれているだけなので、そこだけは取り違えないようにしていますね。なので、世代の違う人と話す際は常に、「人としては互いに同等」という意識をもつ事が大事なんじゃないかなと思います。
情報量増加に伴う価値観の多様化は「ネガティブな選択の結果」
鬼頭: 「働くことの意味の多様化」についても書かれていたのですが、時代の流れに伴う価値観の変化を「ネガティブな選択の結果である」と本書で表現されていましたね。多様化という言葉はポジティブなイメージで捉えがちなんですが、これにはどのような意味があるのでしょうか?
先程も少しお話ししたように、「幸せの型」が分かりやすかった時代は、ある意味余計な事を考えなくて済んだと思うんですよね。しかし今の時代は、とにかく情報量が多いですし、幸せの型が見えにくくなっているので、色々な事を考えてしまいます。それは単純にしんどい事が増える事だと思うので、考える事が少なく、なんとなく幸せだなと思えた方が生き方としては良かったんじゃないかなと僕は思いますね。
鬼頭: たしかに今は、あらゆる情報が勝手に入ってきますから、どうしてもストレスが増えてしまいますよね。
そうですね。情報がどんどん押し寄せてくるようになったので、価値観もそれに合わせて多様化せざるを得なかったと考えると、あまりポジティブな結果とは言えないように思います。
鬼頭: 最近は早めに転職を決断する人も多いので、人によって働く目的そのものも変わってきている気がします。
僕が勤めていた会社でも、若くして違う道に転身していった後輩はたくさんいるので、やはりそれも、「自分のやりたいことは何なのか」「自分に向いていることは他にあるんじゃないか」と、考える事が増えた結果だと思います。