INTERVIEW著者インタビュー
――『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則 未来を読む「世界の国・地域分析」と「47都道府県別の稼ぎ方」』について。まずは中村さんがインバウンドに関わるようになったきっかけについて教えていただきたいです。
中村:
私が今代表を務めている(株)ジャパンインバウンドソリューションズの業務の源流は、2008年7月に始動したドン・キホーテグループのインバウンド・プロジェクトです。そのプロジェクトリーダーに任命されたことが、私がインバウンドに関わるきっかけとなったのです。
その当時は「インバウンド・プロジェクトのリーダーをやってくれ」とオファーをもらっても「一体なんでしょう、インバウンドって?」という状態で、私はまったくの素人でした。それゆえプロジェクトを始めるにあたっては、何もかもが一からの勉強でしたね。当時はまだ情報も少なかったのです。すべてを独学で学び、調べあげるような感じでした。
――そのプロジェクトを始動してみて、何を感じましたか?
中村:
そうですね。もっというとそのインバウンド・プロジェクトは、当時任命されてうれしいような仕事ではありませんでした。マーケットは未知数でしたし、ドン・キホーテの未来に役立つかどうかもわからない。他の業務で手が回らないという状況でもありましたから、正直内心では断りたいなと思ったくらいです。
しかし、そうやってミッションを受けて、自分なりに調べて動き出してみて、インバウンドは"ドン・キホーテの未来、そして日本の金の鉱脈"になりうると気づきました。未開拓ではあるけれど、アジアの将来の人口動態やアジア諸国の一人当たりのGDPの今後の伸びしろというようなデータを見ていくと、10年後、20年後には巨大なマーケットになる可能性が見えていた。これはドン・キホーテの未来であり日本の未来だと確信したのです。
――本書ではインバウンドを通常よりかなり広い意味に定義されています。このことの狙いはどんな点にあったのでしょうか。
中村:
狙いというよりも、それがまさに現実そのものなのです。"インバウンド"という言葉は日本では「レジャー目的で訪日する外国人観光客」というふうに狭義にしか捉えられていないのですが、世界的にはもっと広い意味で使われる大きな概念です。
たとえば、今日本では「日本版DMO」(注:Destination Management/Marketing Organization)という従来の観光協会をバージョンアップさせた新組織への移行を政府は促しつつあります。ところが、たとえばイギリスのロンドンのDMOである「ロンドン&パートナーズ」という組織では、すでに観光客の誘致(ツーリズム)に加えて、海外からの留学生の誘致やロンドンへの投資の誘引(シティセールス)まで一手に引き受けているのです。
このロンドンの先進事例において、インベストメント(投資)もシティセールスもエデュケーションもツーリズムも一つの組織がマネジメントしていることからもわかるように、これらをすべて含めて広義の「インバウンド」なのです。
本来のインバウンドとは、観光業界やレジャー産業だけのものではありません。この本では、より広い意味でのインバウンドを扱っていますので、観光業界の方々だけでなく、様々な業種・業界の方々に手に取っていただきたいと願っています。
――インバウンドビジネスを持続可能なものにしていくために、本書では「哲学」と「ビジョン」を持つことの重要性を説いていらっしゃいますが、現場で働く人はどうしても目先の利益に目がいきがちです。リーダーは哲学やビジョンをどのように浸透させていけばいいのでしょうか。
中村:
ノウハウもテクニックも、それで稼げるのはごく一時期であって、それらは時代の変化の中ですぐに更新されて古いものになっていく。ましてや世界の新興国の成長スピードを考えると、小手先のハウツーなど瞬時に陳腐化してしまいます。
この本で述べている哲学やビジョンとはまさに読者の皆さんご自身が時代の変化にジャストミートできる新たなノウハウやテクニックを生み出す力を授けるものなのです。
読んでいただいて、いいと思ったら同僚や部下、上司など周りの人に広めて共有していただければ嬉しいですね。
――中村さんはこの本で書かれているようなインバウンドビジネスのビジョンや哲学を伝える活動をされています。この活動を始めた頃と今とで、受け取り手の反応が変わってきたと感じますか?
中村:
今回の本以外にもインバウンド関連の本をすでに5冊書いているのですが、読者層が広がってきた実感はありますね。以前は自分の本を手に取ってくれる方はどうしても観光関係の方々に限られていたのです。
今回の本については、すでに思いもかけない業種の方々から、読みましたよと声をかけていただいたりしています。インバウンドや観光に携っていない業種のビジネスリーダーの方々にも読んでいただけているようです。
また、講演に来てくださる方も増えてきています。私は国内外で年間約200回講演をするのですが、今は合わせて年間のべ約5万人もの方々に聞いていただけています。「中村さんの今回の本、もう読みましたよ!」と嬉しい声もかけていただいています。まだ読んでいないという方はぜひご一読いただきたいですね。
――本の中に「花仕事」と「米仕事」という印象的な言葉が出てきます。この二つの仕事の両立が今後のインバウンドビジネスの成功のカギだと指摘され、そしてまた同時に、中村さんは「花仕事から入れ」と提唱していらっしゃいます。この理由はどんな点にあるのですか?
中村:
まず言葉の定義からお話しますと、「米仕事」とは、「自分が食べていくための仕事」で、「花仕事」は「地域社会のためになる仕事」です。
「花仕事」がいよいよ重要になってくる理由についてですが、訪日ツーリズムを例に説明すると、今後観光バス等で「点から点を移動する」というような団体旅行の形態はどんどん縮小して、個人旅行(FIT)がマジョリティになっていくのはまちがいありません。そうなると、旅の形態もB2Bであらかじめ決められた特定の観光施設を巡るのではなく、自分たちで探し選んでその街やその地域にやってくるようになる。加えて言うなら、気に入った街や地域を何回も何回も訪れるリピーター化も進みます。
こうした訪日客の思考として、その地の観光の「ゴールデンルート」を巡るのではなく、「自分だけのオリジナルな旅」を求める方向にますますシフトしていくのです。こうなってくると、どんなに大きな企業でも、単独のプレーヤーだけで個人の訪日客のニーズを全て満たすのは不可能です。それゆえ、街や地域全体で訪日客をおもてなしする考え方や仕組みが必要となってくるのです。
それを実現しようとしたら、自分の店や自分の施設の都合と利益だけを考えているわけにはいきません。地域全体がより多くの観光客を呼び込めるようになるために、自分に何ができるかという思考と取り組みが必要になってきます。これこそがまさに「花仕事」なのです。
この「花仕事」をやらない限り、持続的な「米仕事」も実現できませんし、逆に言えば地域全体のことを考えた「花仕事」を続けていれば、それはやがて「米仕事」の大きな収益となって自分に自社に返ってきます。これが「花仕事から入れ」の真意なのです。
――都道府県別「稼ぎ方マニュアル」が興味深かったです。中村さんから見て、もっともポテンシャルが高いと思える都道府県はどこですか?
中村:
それはもう「47のすべての都道府県」ですよ。どの都道府県にもどの市町村、どの地域にも等しく大きなポテンシャルがあります。ただし問題なのは、当事者が自分たちのポテンシャルに気づいていないという現状なのです。
どの都道府県のどの地域にどのようなポテンシャルがあるかを、今回の本では狭義の観光統計にとどまることなく、広義のインバウンドの視点から見た各種データを使って明らかにしたつもりです。自らの地域だけでなく他の都道府県と比較しながら活用していただきたいですね。
――今後日本がインバウンドを振興させていくうえでお手本にすべき国はありますか?
中村:
どんな国にでもお手本にするところはあると思います。少なくとも国際観光統計上でベスト20に入るような国についてはしらみつぶしに研究すべきでしょうね。
たとえばシンガポールは560万人ほどの人口のうち、シンガポールのパスポートを持っている自国民はわずか約350万人。残りの約200万人は、留学生や高度な知識を持ったハイエンドな外国人就労者など、世界中から集まってくる様々な種類の人々です。彼らがいるから国が繁栄している。もちろんシンガポールは古くからヒト・モノ・カネ・情報を海外から呼び込む取り組みをしてきたわけで、まさに広義の"インバウンド"国家なのです。
グローバル経済は、いかに世界のヒト・モノ・カネ・情報を自国に集めるかという戦いです。これらを集めるための戦略は、すべて"インバウンド"なのです。
――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
中村:
すでにインバウンド領域に関わっているビジネスパーソンの方々、またこれからインバウンド市場に参入して自社の、そして自地域の生き残り、そして更なる成長を願っている方々にぜひ手に取っていただきたいと思っています。
ここには世界の現実や日本の現実、そして世界に向けて自地域のマーケティングをしていくための具体的な各種戦術に加え、それらの根底を貫く考え方や哲学がまるごと網羅されています。納得のいくまで何度も何度も読んでいただきたいですね。
(新刊JP編集部)