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中野さんは、今回『女の子の育て方 子どもの潜在意識にこっそり“幸せの種”をまく方法』『男の子の育て方 子どもの潜在意識にこっそり“成功の種”をまく方法』という二冊の本を同時に刊行されました。そこでまず、子どもが育むべき力について、男の子と女の子でどのような違いがあるのかを教えていただきたいです。
中野:長い間、「男の子は強くたくましく、女の子は優しくかわいく育てるべき」という意見が家庭でも社会でも言われてきたわけですが、今は変わってきていますよね。
男の子でいえば、もちろん強さは必要だとは思いますが、コミュニケーション能力や、周囲から愛され慕われたり、信頼されることも求められています。女の子もかわいいだけではなく自立できるだけのお金を稼ぐ力がないと、結婚や離婚にしても子どもを産むかどうかにしても、自分で人生を選べなくなってしまう。
「男の子はこうで女の子はこう」ということは言いたくないのですが、これまで言われてきた価値観では補えない部分というのは男の子と女の子でそれぞれ違うというのはあると思います。
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中野さんはセラピストとして活動をされていますが、子育てについても相談をされるのでしょうか。
中野:ものすごく多いです。
私のセラピーは「年齢退行療法」といって、潜在意識に目を向けるものです。どんな人でも、子どもの頃に親から様々な「種」を植えられています。たとえば親のちょっとした仕草や振舞い、生き方などがそうで、直接親から言われた言葉とは別のところで親のあらゆる行動を子どもの潜在意識はメッセージとして受け取っているんです。
そうした潜在意識に植えられた「種」は、後々子どもの人生によくも悪くも影響します。だからセラピーではその「種」を分析するわけですが、そうなるとクライアントさんは子ども時代の記憶を通じて自分の親について考えることになるので、子どものいるクライアントさんなどは自分の子育てについても疑問を持ったり、不安を抱いたりするようです。
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今回の本でも「潜在意識」はキーワードになっています。この潜在意識がどのようなものなのか、そして人間の発育にどのように関わってくるのかというところのお考えを教えていただければと思います。
中野:私たちの心には「顕在意識」と「潜在意識」という二つの領域があって、「顕在意識」というのは自覚している意識で、「潜在意識」は無自覚な部分、無意識な部分です。
では、それぞれどんなことを司っているのかというと、「顕在意識」は思考や分析、判断といったところを担当していて、「潜在意識」は想像や直感、感情、あとは内臓や神経のコントロールですね。
ということは「顕在意識」が、日中目覚めている間だけ働いているのに対して、「潜在意識」は常に休まずに働いているわけで、普段自覚することのないこちらの方が、実は私たちの感情や考え方、行動パターンの形成への影響が大きいんです。
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なるほど。
中野:さらにいえば、心理学に「交流分析」という分野がありまして、それによると、私たち人間は「どう生きて、どう死んでいくか」という「人生の脚本」のようなものが、子ども時代にできてしまうと言われています。つまり、子どもの頃の親との関り方によって、将来のシナリオが書き込まれていくというわけです。
でも、それは潜在意識に書き込まれるのですから、子ども本人は気づきませんし、親もわかりません。誰もその内容を知らないんです。だから、大人になって「こういう風なことをしたい」「こういう幸せがほしい」という目標を持った時に、そのシナリオとのベクトルのズレが出てきてしまう。そうなると、「がんばっているのにうまくいかない」ということになりがちです。
先ほど私のセラピーは潜在意識に目を向けるとお話しましたが、具体的には潜在意識に書き込まれた「人生の脚本」がどちらを向いているのかを知っていただいて、それを本人が向かいたい方向と一致するように少しずつ変えていくという取り組みだといえます。「人生のシナリオ」は小さいうちに書き込まれてしまうものですが、それを知ることによって後から変えることもできるんです。
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親の立場からすると、子育ては我が子の「人生の脚本」を書くことだといえますね。
中野:そうです。では「人生の脚本」がどのようにできるかというと、主に親からの3つのメッセージによってできると言われています。
一つは親の言葉です。いわゆる「言葉がけ」ですね。二つ目は、親の振る舞いや態度、仕草です。「こういう時に親はこうしていた」というのを、子どもは見ているので。
そして三つ目は親の生き方です。当然親にも「脚本」はあるわけで、自分の親から植え付けられた価値観や様々な固定観念だとか思い込みに従って生きていることがあります。それが自分の子どもにも大きく影響するわけです。
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言葉がけだけが子育てではないというのはよくわかるお話です。直接親に言われたことよりも、ふと見かけた親の振る舞いの方が大人になった今でも記憶に残っているというのはありますね。
中野:自分に「あなたのこと愛しているわよ」と口では言ってくれる親が、友達との電話で「私も結婚して子どもを産まなければ大学に行けてたのにね」と愚痴をこぼしているのを聞けば、そちらの方が子どもには強いメッセージとして残るというのは確かです。
これは逆もしかりで、直接的な言葉がけではない暗示によって、子どもの潜在意識にいい影響を与えるメッセージを送ることもできる。今回の本は親から子の非言語のメッセージがテーマになっています。
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今回の本では、男の子には「成功の種」、女の子には「幸せの種」と、それぞれに潜在意識に働きかける方法を明かしています。ただ、男の子だけみても「自分を愛する種」「学力アップの種」「愛され男になる種」など、「種」は7種類に及びます。親はこれらを全て撒かないといけないのでしょうか。
中野:全部撒けたらもちろんすばらしいです。ただ、男の子は全部撒かないと成功できないわけではありませんし、女の子も幸せになるために全ての種が必要なわけではありません。
今回の本で書いた「成功の種」と「失敗の種」をそれぞれ読んでいただいて、「あ、そうだったのか」とか「私がやっていたコレは実はよくないことだったのか」と気づいていただき、自分の子育てを振り返っていただくきっかけになればいいと思います。そこからは「失敗の種」を撒くのをやめて、「成功の種」をどんどん撒いていただきたいですね。
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「子どもは親の背中を見て育つ」といっても、自分の背中を見せていいものか自信がない親もいるはずです。こういう親にアドバイスをするとしたらどのようなものになりますか?
中野:そういった親にとっては、今回の本で書いたことは耳の痛いことが多いかもしれませんが、完全な人間がいないように、完璧な親はいません。私自身も親としては未熟でしたし、今振り返ると子どもたちに知らず知らずのうちに「失敗の種」をたくさん撒いてしまいました。
ただ、子育ては取り返しのつかないものではありません。悪い種を撒いてしまったことに気がついたら、新たにいい種をたくさん撒けばいい。
それともう一つ、子どもに幸せになってほしいなら、親自身が幸せになることです。心から幸せを感じながら自分らしく目標を持って生きる。その姿を子どもに見せるだけで十分なんだと伝えたいです。
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生きていくうえで「自己肯定感」はすごく大切だと感じています。もし親の自己肯定感が低い場合、子どもにもそれは影響するのでしょうか?
中野:ものすごく影響します。自己肯定感が低いと、自分そのものではなく「仕事をしている自分」しか肯定できず、病気になって体が辛いのに無理をして仕事に行ってしまったりします。それを子どもが見ていたら、「健康より会社に行く方が大事なんだ」と思うでしょう。
また、DVを受けていても、自己肯定感が低い人だとひたすら耐えることに終始しがちです。これもやはり、子どもの潜在意識は「男の人は強くて女の人は弱い」とか「男の人の機嫌が悪いと女の人は叩かれるんだ」と受け取ってしまう。そういった記憶はその子が大人になってからの行動にも影響するものなんです。
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最後になりますが、子育てをしている親の方々にメッセージやアドバイスをお願いできればと思います。
中野:先ほどもお話ししましたが、親が子どもに与えらえる一番の幸せの種は、親自身が幸せであることです。たとえ苦労していても、日々を楽しんで、ささやかなことを喜べる生き方、小さな喜びで笑い合える生き方をしていれば、それは子ども潜在意識に確実に植えつけられますから、自分らしく幸せに生きていただきたいですね。
(新刊JP編集部)