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定価 :

1,500円+税

著者 :

株式会社かぶら屋 代表取締役社長 内山九十九

出版社:

秀和システム

ISBN :

4798052981

ISBN :

978-4798052984
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BOOK REVIEW書評

脱サラや勤めていた店からの独立など、飲食店経営を志す人は今も昔も多い。

しかし、よく言われることだが、これらのうち大部分は失敗する。飲食店を開くまではこぎつけられても、繁盛させるまでには大きなハードルがあるのだ。

となると、飲食店経営で大きな成功を収めている人がどのようにその状態を作り上げていったのかを知ることは、成功を目指す人の道しるべになるかもしれない。

■飲食店経営の成功者が「味」以上にこだわるところ

関東を中心に、大衆酒場「かぶら屋」を展開する株式会社かぶら屋を率いる内山九十九氏は、本書で、飲食店が繁盛するか否かを分けるポイントを挙げている。

たとえば、来店した客が快適な時間を過ごせるかという「居心地」だ。「居心地のいい店」と言葉にするのは簡単だが、時間をかけてコース料理を味わうような店と、軽く一杯ひっかけてすぐに帰るような店では、「居心地の良さ」は異なる。

椅子一つとっても、前者の店が背もたれもクッションもない椅子 を使っていたら客は落ち着いて味わえないだろう。逆に後者の店がゆったり座れるソファを使っていても、すぐに帰るはずだった客が帰りにくくなってしまう。

ちなみに「椅子」が店の雰囲気づくりに果たす役割は意外なほど大きい。テーブルの高さに比べて椅子が高ければ、客はテーブルから離れて座るため、向い合った客同士には距離が生まれるし、反対に椅子が低ければテーブルに肘をつきやすいため、向かい合う客同士の距離は接近する。

これはどちらがいい、悪いということではない。客層や店の作りたい雰囲気によって、適した椅子が変わるということだ。照明の色と明るさにも同じことが言えるという。店の雰囲気を作り上げるのは接客だけではない。料理や飲み物、そして店にある備品・設備全てである。こうした雰囲気づくりに失敗すると、「居心地の悪い店」ができあがってしまうのだ。

■求められるのは「味」とは限らない

料理の腕に自信がある人ほど「味」で勝負しようとしてしまう。これはこれでまちがったことではないが、おいしさと繁盛するかどうかはまた別の話だということは覚えておくべきかもしれない。

特に大衆酒場の場合、求められるのは「味」よりも「この店に入るとホッとする」という安心感だろう。その場合、料理の方は「ご馳走のおいしさ」よりも「毎日食べても飽きないこと」を追求する方が店のコンセプトと合致するはずだ。



「飲食店だから味が一番大事」と考えられがちだが、繁盛させるためには他に考えることが山のようにある。

どんな人が、どんな用途で、どんな時に、どんな頻度で訪れる店にするのか。

それを明確にして、客の行動を想像し、どうすれば快適な店になるのかを考え抜いてメニューや店の構造や雰囲気を決めていく。このシミュレーション能力こそが、成功する店とそうでない店を分けるのだ。

本書ではこの他にも内山さんが明かす、繁盛する店を作るために必要な考え方やポイントが明かされている。
「いつかは自分も」という人も、すでに自分の店を持っているも、学べるところは多いはずだ。
(新刊JP編集部)

INTERVIEWインタビュー

■店長になっても月収40万が良いところ 飲食業界の厳しい実情

――内山さんは『串焼き1本80円でも年商1億円稼げます』で、ご自身が経営されている居酒屋チェーン「かぶら屋」の運営スタイルを明かすことで飲食店を成功させるポイントを指南しています。内山さんは「かぶら屋」の創業者ではないそうですが、どういう経緯で入社することになったのでしょうか。

著者写真

内山:
池袋に「かぶら屋」の1号店と2号店があるのですが、その店舗を自分に任せてくれないかと、飛び込みで本部に提案しにいったのが最初でしたね。

――いきなりですか?一体どうして…。

内山:
ちょうど勤めていた会社を辞めた時期だったんです。飲食店をやりたいという思いはずっとあって、頭の中に「理想の店」のイメージがあったのですが、そのイメージに1号店と2号店は非常に近かった。

それで事業計画書を持ち込んで、「こういう形でやらせてもらいたい」といった提案を持ち込んだんです。

――それは「かぶら屋」側からしたら驚いたかもしれないですね。

内山:
ただ、まったく何も知らない人間がいきなり飛び込んだというわけではありません。というのも、辞めた会社というのが「小僧寿し」でして、そこの本部にいたのである程度チェーン展開のノウハウや理論は持っていました。

「かぶら屋」は、確かに自分のイメージしていた理想のお店に近かったのですが、改善点も同時に見えまして、それで「こうした方が、働いている人たちが幸せになります」という形で提案をさせていただきました。

――「働く人の幸せ」というのは?

内山:
これは飲食業界全体にいえることだと思いますが、たとえばチェーンの居酒屋だと店長になっても給料はせいぜい月40万、年収500万円くらいです。それ以上稼ごうと思ってもその会社にキャリアパスがなかったりする。

それだと働いている人がライフプランを立てられないじゃないですか。それがあって、遅くても30代後半になる頃には先行きが不安になって辞めてしまうんです。

――それを変えたかった。

内山:
そうです。だから、会社が支援をしながら各店舗をそれぞれ独立させていきました。「雇われ店長」ではなくて「オーナー」を育てていったわけです。

そうなると、会社の中に中間管理職的な人は不要になるので、本部機能は縮小していきました。今、「かぶら屋」は52店舗あるのですが、本部スタッフは4人しかいません。役職者だけです。そういう組織体制にしないと各店舗で働く人が稼げる形にならないんです。

――ちなみに、独立したオーナー店長の年収はどれくらいなのでしょうか?

内山:
普通にやっていれば1000万円以上は稼げるはずです。店の月商350万円というのが標準的なのですが、そのくらいの売上があれば店長の年収は1000万円くらいになります。

ただ、最近でいうと各店の平均が月商450万円くらいですから、もっと稼いでいるはずです。

――独立させるとなると、アルバイトの採用なども各店舗が独自に行っているかと思いますが、近年飲食店の人材不足がよく指摘されます。「かぶら屋」はいかがですか?

内山:
大変は大変ですけど、そこまで困窮しているというほどではないと思います。店舗がある場所によってはなかなか人が集まらないということも聞いていますが。

やはり学生が人材供給源というところがあるので、うちが出店しているわけではないのですが日本橋ですとか銀座など、大学がなかったり学生があまり行かない街は人を集めにくい傾向があるようです。

かぶら屋の場合は、基本的にはビジネス街などではなく人が暮らす地域に出店しているので、騒がれているほどには苦労していないというのが実情ですね。

――タイトルにある「串焼き80円」ですが、これは他の店と比べるとかなり安いです。この値段で利益が出るものなのでしょうか。または「マクドナルドはハンバーガーではなくポテトで儲けている」的な、利益率のいい商品があるのでしょうか。

内山:
そういう商品があればいいんですけどね(笑)。でもほとんどの飲食店はそういうメニューはないと思いますよ。

強いていえば飲み物の原価が安いというのはあるのですが、うちの場合はメインで出るのがビールなので…。ビールって原価が高いんですよ。だから飲み物ではあまり儲けが出ないという。

そのなかで利益を出す秘密が何かあるとしたら、全部のメニューを店ごとに手作りしているということくらいでしょうか。だから食べ物の原価はそんなに高くないんです。手間がかかるということで人件費率は上がるわけですが。あとは、販促に一切お金をかけないという点もうちの特徴だと思います。

――販促をやっていないということですか?

内山:
そうですね。だから「ホットペッパー」も使いませんし、サービス券を配りません。その分材料費や人件費にしっかりお金をかけましょうという方針なんです。

■「うまいものを出せば客はつく」のまちがい

――飲食店をはじめる人は「おいしいものを出せば客がつく」と考えがちですが、そうではないことが内山さんの本を読んでよくわかりました。このほかに飲食店をやろうとしている人が陥りやすいまちがいがありましたら教えていただきたいです。

内山:
繁盛するかどうかは味だけじゃないというのは確かです。かといってサービスだけでもない。どこにどんな需要があるのかをきちんと知ったうえではじめるということが大切なのではないでしょうか。

自分が出そうとしている店、自分がやろうとしていることにどれくらいマーケットがあるのかを把握しないと難しいですよね。

――結局は立地がすべて、ということを言う人もいますよね。

内山:
立地は本当に大事です。ただ、アクセスのいい場所にあればいいかというと、そんなこともなくて、そこも商品によって変わってくるものだと思います。わざとわかりにくい場所に店を構えて、それでも繁盛しているお店もありますからね。

かぶら屋の場合は、「わざわざ食べに行く店」ではなくて「そこにあるから寄る」店ですから、人が帰宅途中に見える場所っていうのがポイントになります。

――駅から近いし、アクセスがいいのに、なぜか飲食店が入っては撤退してというのを繰り返している物件もありますからね。

内山:
ありますよね(笑)。

テナントの早期撤退が続くと、物件のオーナーが次の借り手を渋るようになるんですよ。どういうことかというと、自分のビルに入れる店をオーナーが厳選するようになるんですけど、それでうまくいくかというと余計ダメになってしまったりする。「あのビルはどこが入ってもダメだ」みたいな噂も立ちますし。

ただ、経験上うまくいかない立地というのは、駅から近くてもちょっとしたロータリーを二つくらい越えないといけなくて足を延ばしにくかったり、階段がすごく急だったり、なにかしら原因があります。

――また、本書からは店の雰囲気づくりへの強いこだわりが伺えました。

内山:
「居心地のよさ」というのはすごく大切にしています。ただ、「できるだけたくさん人を入れたい」というのもあるので、そのバランスですね。

たとえばテーブル席を壁際に作る時、テーブルと壁の間は70cmあればいい。それだけあればその間に椅子を置いても人が入れます。椅子と椅子が背中合わせになる場合は、テーブル同士の間は105cm必要です。あまり狭いとお客さん同士が触れてケンカになる可能性があって、このあたりがギリギリなんです。

この他にも、お客さんが入り口から入ってくる新しいお客さんと正対しないように、とか居心地をよくするための設計上の工夫はいくつかあります。顔同士が向き合ってしまうと落ち着かないので。

――「想いを共有している人」と一緒に仕事をすることの大切さについても書かれていましたね。新人を採用する際などは「かぶら屋への想い」をどのように見極めているのでしょうか。

内山:
こういうことはなかなか面接だけでは判断できないので、入ってからの教育によるところが大きいです。

将来的にかぶら屋の店舗オーナーをやりたいといって応募してくる人が多いので、かぶら屋の「想い」の部分を共有しておくことは欠かせません。だから入ったらまずは座学で「かぶら屋とはどんな店か」ということを教えていくのがスタートです。

その先のステップはまずかぶら屋の理念的な部分を理解しないと進めません。そのプロセスがないと、独立した後にメニューを勝手に変えられてしまったりということが起きやすくなってしまうんです。

――そうして教育を受けて、一定の水準を満たした人が独立していく中で、うまくいく人とそうでない人にはどんな違いがあるのでしょうか。

内山:
不器用な人間の方が成功しているように思います。そういう人ほど、いいと思ったことをやり続ける愚直さがあるといいますか。

ただ、器用な人がダメだという話ではなくて、そういう人は「別にかぶら屋じゃなくてもいいや」となってしまうんですね。かぶら屋のオーナーではなく完全に個人として独立することもあります。もちろんそれでうまくいっている方もいますし。

――最後になりますが「かぶら屋」に限らず、飲食店経営を志す皆さんにメッセージをお願いします。

著者写真

内山:
この本を書くにあたって一番伝えたかったのは、「飲食店をやるにしても“サラリーマンじゃない働き方”をしてほしい」ということです。

飲食店をやりたいと思っているなら、「どこかの会社に入って」と考えるのではなく、ぜひとも自分でやってみるという選択をしていただきたいと思っています。ただ、必ずしも一人でやれということではなく、一人では無理だと思ったら「かぶら屋」と同じような形で独立できるチェーン店に行くのもありだと思います。

とにかく最終的には「経営者」になる道を選んでいただきたいですね。

(新刊JP編集部)

BOOK DATA書籍情報

プロフィール

株式会社かぶら屋 代表取締役社長 内山九十九

(株)かぶら屋 代表取締役社長 1961年生まれ 静岡市出身 大学卒業後、築地の水産会社、上場前の小僧寿しチェーン本部(当時2,400店舗)で商品の仕入れを担当する。上場後、生産性を高めるために店舗の大型化。バブル崩壊後のデフレ期に事業領域を縮小し、寿司以外の事業をリストラ。その後のデフレ期に入り、店舗の売上減少と店舗数の減少の中、マーケティング部を創設しマーケティングの観点から商品企画、新規事業の提案、現在の事業のイメージを確立。その後退職(退職時の店舗数は1,400店舗。15年間で1,000店舗を潰す)。送別会の2次会で後輩に案内された現在のかぶら屋の1号店、2号店で働く人の笑顔に惹かれ、翌日(株)フーデックスに事業計画書を持ち込み契約社員として入社。現(株)フーデックスホールディングス傘下で2004年2月(株)フードゲート(現 株式会社かぶら屋)を創業。「1,000万円プレーヤーを1,000人排出する」を目標にして首都圏を中心に51店舗を展開中(2017年7月現在)。2020年100店舗。2024年250店体制を計画。

目次

  1. 第1章 流行るお店と流行らないお店の違いは何か?
  2. 第2章 異業種のマーケットから学ぶ
  3. 第3章 日常ビジネスの優位性
  4. 第4章 "人"が売り物
  5. 第5章 働き方を考える
  6. 第6章 感謝したい多くの人々
  7. 第7章 飲食店で独立
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