■店長になっても月収40万が良いところ 飲食業界の厳しい実情
――内山さんは『串焼き1本80円でも年商1億円稼げます』で、ご自身が経営されている居酒屋チェーン「かぶら屋」の運営スタイルを明かすことで飲食店を成功させるポイントを指南しています。内山さんは「かぶら屋」の創業者ではないそうですが、どういう経緯で入社することになったのでしょうか。
内山:
池袋に「かぶら屋」の1号店と2号店があるのですが、その店舗を自分に任せてくれないかと、飛び込みで本部に提案しにいったのが最初でしたね。
――いきなりですか?一体どうして…。
内山:
ちょうど勤めていた会社を辞めた時期だったんです。飲食店をやりたいという思いはずっとあって、頭の中に「理想の店」のイメージがあったのですが、そのイメージに1号店と2号店は非常に近かった。
それで事業計画書を持ち込んで、「こういう形でやらせてもらいたい」といった提案を持ち込んだんです。
――それは「かぶら屋」側からしたら驚いたかもしれないですね。
内山:
ただ、まったく何も知らない人間がいきなり飛び込んだというわけではありません。というのも、辞めた会社というのが「小僧寿し」でして、そこの本部にいたのである程度チェーン展開のノウハウや理論は持っていました。
「かぶら屋」は、確かに自分のイメージしていた理想のお店に近かったのですが、改善点も同時に見えまして、それで「こうした方が、働いている人たちが幸せになります」という形で提案をさせていただきました。
――「働く人の幸せ」というのは?
内山:
これは飲食業界全体にいえることだと思いますが、たとえばチェーンの居酒屋だと店長になっても給料はせいぜい月40万、年収500万円くらいです。それ以上稼ごうと思ってもその会社にキャリアパスがなかったりする。
それだと働いている人がライフプランを立てられないじゃないですか。それがあって、遅くても30代後半になる頃には先行きが不安になって辞めてしまうんです。
――それを変えたかった。
内山:
そうです。だから、会社が支援をしながら各店舗をそれぞれ独立させていきました。「雇われ店長」ではなくて「オーナー」を育てていったわけです。
そうなると、会社の中に中間管理職的な人は不要になるので、本部機能は縮小していきました。今、「かぶら屋」は52店舗あるのですが、本部スタッフは4人しかいません。役職者だけです。そういう組織体制にしないと各店舗で働く人が稼げる形にならないんです。
――ちなみに、独立したオーナー店長の年収はどれくらいなのでしょうか?
内山:
普通にやっていれば1000万円以上は稼げるはずです。店の月商350万円というのが標準的なのですが、そのくらいの売上があれば店長の年収は1000万円くらいになります。
ただ、最近でいうと各店の平均が月商450万円くらいですから、もっと稼いでいるはずです。
――独立させるとなると、アルバイトの採用なども各店舗が独自に行っているかと思いますが、近年飲食店の人材不足がよく指摘されます。「かぶら屋」はいかがですか?
内山:
大変は大変ですけど、そこまで困窮しているというほどではないと思います。店舗がある場所によってはなかなか人が集まらないということも聞いていますが。
やはり学生が人材供給源というところがあるので、うちが出店しているわけではないのですが日本橋ですとか銀座など、大学がなかったり学生があまり行かない街は人を集めにくい傾向があるようです。
かぶら屋の場合は、基本的にはビジネス街などではなく人が暮らす地域に出店しているので、騒がれているほどには苦労していないというのが実情ですね。
――タイトルにある「串焼き80円」ですが、これは他の店と比べるとかなり安いです。この値段で利益が出るものなのでしょうか。または「マクドナルドはハンバーガーではなくポテトで儲けている」的な、利益率のいい商品があるのでしょうか。
内山:
そういう商品があればいいんですけどね(笑)。でもほとんどの飲食店はそういうメニューはないと思いますよ。
強いていえば飲み物の原価が安いというのはあるのですが、うちの場合はメインで出るのがビールなので…。ビールって原価が高いんですよ。だから飲み物ではあまり儲けが出ないという。
そのなかで利益を出す秘密が何かあるとしたら、全部のメニューを店ごとに手作りしているということくらいでしょうか。だから食べ物の原価はそんなに高くないんです。手間がかかるということで人件費率は上がるわけですが。あとは、販促に一切お金をかけないという点もうちの特徴だと思います。
――販促をやっていないということですか?
内山:
そうですね。だから「ホットペッパー」も使いませんし、サービス券を配りません。その分材料費や人件費にしっかりお金をかけましょうという方針なんです。
■「うまいものを出せば客はつく」のまちがい
――飲食店をはじめる人は「おいしいものを出せば客がつく」と考えがちですが、そうではないことが内山さんの本を読んでよくわかりました。このほかに飲食店をやろうとしている人が陥りやすいまちがいがありましたら教えていただきたいです。
内山:
繁盛するかどうかは味だけじゃないというのは確かです。かといってサービスだけでもない。どこにどんな需要があるのかをきちんと知ったうえではじめるということが大切なのではないでしょうか。
自分が出そうとしている店、自分がやろうとしていることにどれくらいマーケットがあるのかを把握しないと難しいですよね。
――結局は立地がすべて、ということを言う人もいますよね。
内山:
立地は本当に大事です。ただ、アクセスのいい場所にあればいいかというと、そんなこともなくて、そこも商品によって変わってくるものだと思います。わざとわかりにくい場所に店を構えて、それでも繁盛しているお店もありますからね。
かぶら屋の場合は、「わざわざ食べに行く店」ではなくて「そこにあるから寄る」店ですから、人が帰宅途中に見える場所っていうのがポイントになります。
――駅から近いし、アクセスがいいのに、なぜか飲食店が入っては撤退してというのを繰り返している物件もありますからね。
内山:
ありますよね(笑)。
テナントの早期撤退が続くと、物件のオーナーが次の借り手を渋るようになるんですよ。どういうことかというと、自分のビルに入れる店をオーナーが厳選するようになるんですけど、それでうまくいくかというと余計ダメになってしまったりする。「あのビルはどこが入ってもダメだ」みたいな噂も立ちますし。
ただ、経験上うまくいかない立地というのは、駅から近くてもちょっとしたロータリーを二つくらい越えないといけなくて足を延ばしにくかったり、階段がすごく急だったり、なにかしら原因があります。
――また、本書からは店の雰囲気づくりへの強いこだわりが伺えました。
内山:
「居心地のよさ」というのはすごく大切にしています。ただ、「できるだけたくさん人を入れたい」というのもあるので、そのバランスですね。
たとえばテーブル席を壁際に作る時、テーブルと壁の間は70cmあればいい。それだけあればその間に椅子を置いても人が入れます。椅子と椅子が背中合わせになる場合は、テーブル同士の間は105cm必要です。あまり狭いとお客さん同士が触れてケンカになる可能性があって、このあたりがギリギリなんです。
この他にも、お客さんが入り口から入ってくる新しいお客さんと正対しないように、とか居心地をよくするための設計上の工夫はいくつかあります。顔同士が向き合ってしまうと落ち着かないので。
――「想いを共有している人」と一緒に仕事をすることの大切さについても書かれていましたね。新人を採用する際などは「かぶら屋への想い」をどのように見極めているのでしょうか。
内山:
こういうことはなかなか面接だけでは判断できないので、入ってからの教育によるところが大きいです。
将来的にかぶら屋の店舗オーナーをやりたいといって応募してくる人が多いので、かぶら屋の「想い」の部分を共有しておくことは欠かせません。だから入ったらまずは座学で「かぶら屋とはどんな店か」ということを教えていくのがスタートです。
その先のステップはまずかぶら屋の理念的な部分を理解しないと進めません。そのプロセスがないと、独立した後にメニューを勝手に変えられてしまったりということが起きやすくなってしまうんです。
――そうして教育を受けて、一定の水準を満たした人が独立していく中で、うまくいく人とそうでない人にはどんな違いがあるのでしょうか。
内山:
不器用な人間の方が成功しているように思います。そういう人ほど、いいと思ったことをやり続ける愚直さがあるといいますか。
ただ、器用な人がダメだという話ではなくて、そういう人は「別にかぶら屋じゃなくてもいいや」となってしまうんですね。かぶら屋のオーナーではなく完全に個人として独立することもあります。もちろんそれでうまくいっている方もいますし。
――最後になりますが「かぶら屋」に限らず、飲食店経営を志す皆さんにメッセージをお願いします。
内山:
この本を書くにあたって一番伝えたかったのは、「飲食店をやるにしても“サラリーマンじゃない働き方”をしてほしい」ということです。
飲食店をやりたいと思っているなら、「どこかの会社に入って」と考えるのではなく、ぜひとも自分でやってみるという選択をしていただきたいと思っています。ただ、必ずしも一人でやれということではなく、一人では無理だと思ったら「かぶら屋」と同じような形で独立できるチェーン店に行くのもありだと思います。
とにかく最終的には「経営者」になる道を選んでいただきたいですね。
(新刊JP編集部)