著者インタビュー
■簡単そうで難しい「ほめて育てる」のワンポイントアドバイス
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『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』では、アメリカのスポーツ界で生まれた「ペップトーク」を職場での言葉がけに応用しています。まずはこのペップトークがどんなものか教えていただけますか。
占部:ペップトークの「ペップ」っていうのは、「ペプシ・コーラ」の「ペプシ」に通じていて、爽やかなイメージの言葉です。通常「pep up」という熟語として使われて、場を盛り上げて活発にするとか、よりよくするという意味です。かなり日常的に使われている言葉ですね。
なので、ペップトークにしてもアメリカではもうおなじみですし、アメリカ人はこれが大好きなんです。インターネットを見ると「私の好きなペップトーク ベスト10」みたいな記事が出ていたりして。
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具体的にどんな場面で行われるものなのでしょうか?
占部:スポーツでいえば、大事な試合の前に監督やコーチがダッグアウトやロッカールームで「さあ、行ってこい!お前たちなら勝てる!」といって選手達を勇気づけたり、気持ちを奮い立たせる言葉をかけるのが代表的です。
具体的な例としては、1980年のレークプラシッド冬季オリンピックでのアイスホッケーのアメリカ代表の活躍を描いた『ミラクル』という映画がわかりやすいと思います。
当時は冷戦中でしたから、スポーツの試合であってもアメリカとソ連が対決するとなると、代理戦争の様相でした。その頃のアイスホッケーのソ連代表といえば世界最強です。アメリカもむざむざ負けるわけにはいかないので、トップ選手たちを送り込むのですが、トップといっても学生ですから、実力ではソ連に太刀打ちできないんですよ。
それは本人達もわかっていて、ソ連との試合の前はみんながガチガチに緊張してしまうわけです。そこに監督がやってきてペップトークをするんですね。「10回戦ったら9回はソ連が勝つだろう。ただ、今夜この1試合は違う。お前たちが勝つ」といって。
すると、みんな顔色が変わって血が騒いでくる。「よし、この1戦に賭ける」といった雰囲気が出てくるんです。そして最後に監督が「ソ連の時代は終わった。お前たちの時代だ(This is your time)」と言って送り出すんです。
結果、アメリカは本当にソ連を破って金メダルを獲得するのですが、この出来事は「氷上の奇跡」といっていまだに語り継がれています。これが代表的なペップトークですね。
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ペップトークというものは、そのままビジネスにも転用できるのでしょうか。
占部:そのまま転用できると私は考えています。たとえば、営業などはスポーツと似たところがありますよね。コンペなどで競合同士プレゼンをして、その内容で受注が決まるのであれば、それはもう戦いじゃないですか。
そういう場面なら「おまえが練ってきたその企画をきちん説明したら、俺たち絶対勝てるからな」という言葉がペップトークとして有効なわけですが、ペップトークというのはただの激励ではなくて、本質はモチベーションのキープにあります。
だから、人事や総務など、わかりやすい戦いをしない人には、そういった人に向けたペップトークがある。たとえば「いつも、ひとつひとつの仕事をきっちり間違いなくこなしているのを見ているよ」とか「いつも正確な決算書つくってくれるよね。ありがとう」といった言葉がけです。
バックオフィスの人は、正しくミスなくやって当たり前と見られます。だからこそ、その正確さに光を当てて敬意を表すことで救われたり、やる気が出る人は多いはずです。
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本書では「ほめ方」についても多くのページを割いて解説されていましたね。今は「ほめて育てる」が主流になっていますが、これがなかなか難しい…
占部:ほめるところが見つからないなら、お礼を言えばいいだけのことなんですよ。
一所懸命企画書を作って出してきたら、内容を見る前に「これから中身を見るけど、ひとまずありがとうね」とお礼を言えば、部下の方も苦労を認められたと考えて、報われた気持ちになるでしょう。
それに、何十年も生きてきている以上、何の価値もない人間なんていませんよ。もしそんな人が職場にいるなら、それはどちらかというと雇った側に問題がありますよね。
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本にも書かれていましたが、近年は働くことへの価値観が多様化しています。今の会社で出世したい人と、起業したいから3年で辞めると決めている人、定時で帰りたいからあまり仕事を振らないで欲しいという人では、それぞれにやる気が出るポイントは異なるはずですが、そのポイントをどのように見極めればいいのでしょうか。
占部:これはもう、普段のコミュニケーションでしょうね。どんな時にやる気が出るかについて本人と話しておけばいいわけですが、ほとんどの上司は部下とそういった話をしていません。
なぜかというと、多くの管理職の方は「きちんと仕事をこなしていることを会社から認められたい、そのために部下をどう動かしてやろうか」という観点しか持っていないからです。上司と部下の関係に限らず、親子でも教師と生徒でも同じですが、自分の利益のために相手を教育しようとしても反発されるだけでしょう。
だから、自分の利益のためではなく、「相手にとって何が一番いい状態なのか」と相手の立場になって考えることが、上司と部下の関係においてもスタートなんです。となると、いかに日頃からコミュニケーションをとって相手のことを知るかが大切になるわけで、その一環として「どんな時にやる気が出るか」についても話されるべきだと思っています。
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本書では部下のやる気を引き出すワンフレーズが紹介されていますが、それも普段のコミュニケーションがあってはじめて機能すると。
占部:普段話していない相手をワンフレーズで変えることができるなら苦労しませんが、そううまくはいきませんよね(笑)。普段の会話があってはじめてワンフレーズが機能すると考えていただきたいです。
■職場にいる「困った部下」への対処法
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自分の言葉で話すことができたり、人望が厚かったり、上司から見てリーダーの適性があるにもかかわらず、本人にその気がないというケースがあります。こういう部下は上司からすると「もったいない」と思うものですが、どのように部下の心に火をつけたらいいのでしょうか。
占部:二つベクトルがあると思います。一つは将来どうなりたいのかというところをきっちり話すことです。表面上は「今のままでいいんです」と言ってくるでしょうが、「それで本当にいいのか。今がんばらずに20年後の自分に怒られないか」という話はした方がいいかもしれません。未来の自分は今の自分が作るものですから。
そうはいってもきっかけは大切ですから、歓送迎会の企画といった小さなことでいいので、リーダーをする体験を積ませてみる、これが二つ目です。
こうした小さな成功体験をたくさん積ませるのは、管理職の大きな役割です。こうしたことを少しずつ任せていって、成功したらその都度「ありがとう、次も頼むね」という言葉がけをする。こうして「勝ちグセ」をつけながら、すこしずつ大きくて難しい仕事を任せていくといいと思います。
そうするうちに、本人も「あれ、ひょっとして自分は他の人と比べてリーダーシップあるのかな?」と思い始めるものです。そうやって新しい自分に気づかせてあげるのも上司の務めなんですよ。
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言われたことはこなすが、それ以外のことは一切やらないというタイプの部下も上司としては困りものです。こういうタイプにはどんな対処が可能なのでしょうか。
占部:そこもやはり、その人が将来どうなりたいかという問題ですよね。言われたことだけきっちりこなすって、新入社員かせいぜい2、3年目のレベルですよね。「それでいいの?」という話なんです。
それでいいならいいけど、お金も地位も、明るい未来も手に入らないよ、と。それは悲しいでしょう。
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それでいいと本気で思っているんじゃないかと思える人もいるのは確かです。
占部:楽な働き方ですから、今はそれがいいと思えるのかもしれませんが、それで未来の自分に顔向けできるのか、ということです。
「今の自分は小さかった頃になりたかった自分なのか」「今の自分は将来恥ずかしくない自分なのか」という話は真顔でしたほうがいい。上司はそこから逃げてはいけません。
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こういう話は本人の生き方の問題でもあるので、なかなか立ち入りにくいところがあります。
占部:部下が将来どうなりたいかというのは、会社がどうなるのかという話とニアリーイコールです。それに、一日の労働時間が8時間とすると、生活の3分の1は会社で過ごしているわけですから、会社にとってその人が与える影響は大きいですし、その人に会社が与える影響も大きいはずです。
それだけの時間を過ごしている会社を、個々人の生き方と完全に切り離せるはずがないですよ。だから、上司は生き方の問題だからといって逃げずに、きちんと部下の生き方に対峙すべきだと思いますね。
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部下に不公平感を与えず、いかに平等に接するかも難しいところです。この点についてアドバイスをいただきたいです。
占部:どういう時に不公平感を感じるかを考えるとわかりやすいと思います。まずはえこひいきといいますか、大勢の中で一人だけほめた時ですが、これはみんなをほめるようにすればいいわけですから、そんなに難しいことではありません。
一番気をつけるべきなのは、上司の前ではいい顔をするんだけど、上司がいないところでは何をやっているかわかったものじゃないという、裏表のある人を皆の前でほめてしまうことです。これをやってしまうと、他の部下からしたら「この上司、何もわかってないな」となってしまう。
じゃあどうするかというと、ほめる時に主観や抽象論でほめないことです。一日10件訪問営業をしたなら、その事実をほめる。これなら裏表のある人をほめたとしても、訪問した事実はあるわけですから、少なくとも不公平感はないですよね。
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上司の接し方という意味で、占部さんがこれまで出会ったなかで印象に残った方はいらっしゃいますか?
占部:昔の上司なのですが、部下がちょっと拙い、そのままでは使えないようなアイデアや企画を出した時でも「そんなものじゃダメだよ」とは絶対に言わないんですね。
決してそのアイデアを否定せずに、「なるほど、じゃあもうちょっと膨らませてみようか」と改良する方向に持っていく。他の部下を呼んで「今、A君からこんなアイデアが出たけど、どう思う?」といって、第三者の視点を入れてみたり「どういう消費者の目を引くと思う?」と尋ねて、別の角度から再検討させたりして、一つの企画を膨らませていくことに長けた方でした。
ここまでやってどうしてもダメなら「やっぱりダメだったね」となってもアイデアを出した部下は納得するし、次にアイデアを出す勇気を失わせずに済みます。もちろん、うまく膨らんで形になればアイデアを出した人も、協力した人もうれしいですよね。
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会社には世代が違う様々な人が集まります。個人的には10歳以上離れていると何を話していいのか困るところがあるのですが、世代差のある部下との接し方についてアドバイスをいただきたいです。
占部:世代差を乗り越えようとするから難しく思えるんです。世代差はどうしたってあるものですから、そこは仕方がないんですよ。
この本で紹介している「ペップトーク」の手法では、「仕方ないものは仕方ない。今できることで何とかしよう」と考えます。10歳年下の相手がどんなことでモチベーションが上がるかわからないなら、話をさせればいいんです。「最近何かうれしいことはあった?」とか「最近どんなことがおもしろいの?」とか、雑談として話されることの中にヒントはたくさん隠れているはずです。
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最後になりますが、部下とのコミュニケーションや信頼関係の醸成に悩んでいる方々にメッセージをお願いいたします。
占部:自分目線で部下を「教育・指導」するのではなく、相手が主役と考えることが上司として一番大切なことです。「自分がどうしたいか、どう育てたいか」ではなく「この部下はどうすれば成果を出せて、会社に利益をもたらせるだろうか」と考えていただきたいですね。
もし、今自分が自分目線で部下に接しているのだとしたら、そこを切り替えるだけで言葉のかけ方や相手への接し方は全く変わってくるということが、この本を通して伝わればいいなと思います。