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トランプ大統領を生んだ世界中に広がるポピュリズムの正体 トランプ大統領を生んだ世界中に広がるポピュリズムの正体

真面目に働いてきた人々が既存政治にNOを突きつける!
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本書の解説

なぜ「真面目」で「家族思い」のアメリカ白人労働者たちはトランプを熱烈に支持するのか?

データで捉えられなかった動き――。
2016年のアメリカ大統領選挙は、不動産王ドナルド・トランプの勝利に終わったが、多くの知識階層やメディアは彼の勢いを見抜くことはできなかった。ビッグデータでさえも、だ。

なぜトランプは勝利したのか。その原動力に白人労働者たちの存在があったことは、多くの人が知っているだろう。
その白人労働者たちにはさまざまな呼び名がある。
例えば「ヒルビリー」(田舎者)や「ホワイト・トラッシュ」(白いゴミ)、「プア・ホワイト」(貧しい白人)、「レッドネック」(野外労働者)などだ。すでに気付いている人もいるだろう。これらの呼び名は蔑称である。

彼らは、強国・アメリカの中で、いわば置き去りにされた存在だった。その歴史の中で彼らが主役になることはなかったのだ。
そんな存在が突如、主役になり、喧騒の中で静かに国を動かした。
彼らは一体どんな存在なのか? 何を考えているのか?

カリフォルニア大学ヘイスティングズ校のジョーン・C・ウィリアムズ氏が執筆した『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える"真・中間層"の実体』(山田美明、井上大剛翻訳、集英社刊)は、彼らの生活、文化、行動様式、教育、ネットワークなどを分析しながら、“真の中間層”たる「ワーキング・クラス」の実体を暴き出している。

では、「ホワイト・ワーキング・クラス」とは一体どんな人たちなのか。その特徴をいくつか箇条書きでまとめていこう。

これだけでもトランプ大統領誕生の原動力となった存在の正体の断片が見えてくるだろう。

本を読めば読むほどに、真面目で「家族を大事にする」という伝統的な価値観を持つ誠実な労働者白人像が見えてくる。
ほかにも教育(学歴)や人間関係のネットワークにも際立った特徴が見られる。外に出て浅いネットワークを広げようとするエリートと、土地に裏打ちされた内向きの深いネットワークを形成しようとするワーキング・クラスたちの姿は対極的だ。

エリートたちは彼らを軽視し続けてきた。その怒りが、トランプ大統領を生んだのであれば、大統領就任から今に至るまでの迷走においても、おそらくワーキング・クラスたちによるトランプ大統領への信頼は揺るぎにくいだろう。

本書を解説しているアメリカ研究者の渡辺靖氏は次のように述べている。

彼らにとって、トランプの勝利はポピュリズム=反権威主義、反エリート主義の象徴だった。トランプはしばしば彼らのことを「忘れられた人びと(forgetten people)」と呼ぶが、ワシントン(=既成政治)に失望していた有権者を再び政治回路の中に引き戻した点は、ある意味、米国の民主主義が健全に機能していることの証左とも言える。
(P232-233より)

本書を読んで、日本の状況に思いを張り巡らすだろう。
もちろん、異なる国なのだから状況は違うし、そう簡単に比較することはできない。それでも、本書を通してアメリカで起きていることが「対岸の火事」として捉えられなくなるのも事実だ。

(新刊JP編集部)

連載

第一回大統領・トランプを生んだポピュリズムの正体とは アメリカ白人労働者の現在

2016年11月。アメリカ大統領選挙は波乱を生む結果となった。
ドナルド・トランプ大統領の誕生――知識人やエリートたちはこの事態に慌てた。事前調査では民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢と言われていたが、その予測は見事に外れた。

“Make America Great Again”というトランプの掲げたスローガンに動かされたのは、白人労働者(ホワイト・ワーキング・クラス)という人々だ。 彼らはかつてアメリカの製造業を支えたブルーワーカーで、一つの企業で真面目に勤め上げ、家族を養うことを美徳としてきたが、時代とともに居場所を失いつつある、いわば“取り残された人々”である。

アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(ジョーン・C・ウィリアムズ著、山田美明・井上大剛訳、集英社刊)は、アメリカのポピュリズムを支えるホワイト・ワーキング・クラスの実体に迫る一冊。

今回はホワイト・ワーキング・クラスについて、本書で解説文を執筆している慶應義塾大学SFC教授の渡辺靖さんにお話をうかがった。そこから見えてくるのは、アメリカだけではなく、先進国中に広がるポピュリズムの姿だった。

(取材・文/金井元貴)

トランプ大統領を生んだ「ホワイト・ワーキング・クラス」とは何か

―― 渡辺先生はこの『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』という本についてどのように評価されていますか?

渡辺:非常に貴重な本だと思いますね。昨年のアメリカ大統領選挙が、ホワイト・ワーキング・クラス(以下、WWC)という人々に注目が集まる一つの大きなきっかけになったわけですが、彼らは非常にネガティブなイメージ語られています。そんな彼らに対して、多角的に検証し、その実体について分析しているのがこの本です。

こうした本はアメリカでもまだ少ないと思います。というのも、2016年の大統領選で民主党が敗北した原因がまだ十分に総括されていない状況があるのです。

リベラルなエリートや知識人たちがすべきなのは、WWCを理解すること、そして、アメリカの中に顕在する経済問題を直視することです。しかし、リベラルはアイデンティティ・ポリティクスばかりに目を向け、経済的なイシューをまだ見られていないんですね。

―― 民主党は労働者層や貧困層など、経済的弱者が支持層でしたよね。

渡辺:そうです。ところがエリート層が牛耳るようになってから、労働者層を見なくなってしまった。その結果、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州、ミシガン州の3州では僅差ながらトランプが奇跡的に勝利し、大統領になってしまったという背景があります。

だから、民主党はもう一度経済政策を見直し、WWCを民主党側につける努力をしなければ、未来はないのではないかと言われています。

―― トランプ大統領を生んだWWCとはどんな実体を持っているのでしょうか。

渡辺:「ホワイト」をどこからどこまでと定義するか、「ワーキング・クラス」をどう定義するかは様々です。ただ、この本で分析されている「ワーキング・クラス」の実体は、私自身が20年前、博士論文で調査した、ボストンのアイルランド系白人移民のコミュニティの分析結果と重なりますね。多様性のあるコミュニティでしたが、WWCも存在していて、その経験則からも共感できます。

特に第3章に「ワーキング・クラスはエリートに対して反発心がある。その一方で、貧困層に対して反感を持っている」ということが書かれていましたが、これは私が調査したコミュニティでもありました。

私が調査に行くと、「あの大学院生は自分たちを時代から遅れた人々だと見なし、自分たちを変えようとしているのではないか」と警戒心を見せるんです。その一方で、生活保護を受けているような貧困層に対しては、「何もしていない奴ら」というレッテルを貼るわけですね。

―― では、WWCは自分たちの存在をどのように認識しているのでしょうか。

渡辺:エリート層のような傲慢はないし、貧困層のように努力せず、福祉に依存している人間たちでもない。生活は貧しいかもしれないけれど、誇りを持って仕事をし、コミュニティを大切にしている。そういう風に感じていると思います。

―― 本書は今年5月にアメリカで出版された“White Working Class: Overcoming Class Cluelessness in America”が原著になりますが、米アマゾンなどの読者レビューを見ると、「WWCを単純化し過ぎているのでは」という批判も見られました。その点についてはどうでしょうか。

渡辺:それはこの本に限ったことではなく、社会学的な分析を試みようとすると、必然的にカテゴライズが行われ、単純化が起きてしまいます。

確かに単純化によって切り落とされてしまう部分があるのも事実です。WWCといっても世代間での価値観の差はあります。また、同じ白人系移民といっても、どの国の移民なのか、何世なのか、様々です。地域の差ももちろんあります。その部分を詳細に分析すると、また新たな角度からWWCの姿が見えてくるのかもしれません。

白人至上主義を強める「不公平感」

―― 8月12日にバージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義団体と反対派のデモが衝突し、死者も出ました。これはアメリカ内の分断を表す象徴的な事件だったと思いますが、この「白人至上主義」という思想とWWCは結び付けて考えてよいのでしょうか?

渡辺:難しいところですが、その側面はあるのではないかと思いますね。
アメリカでは過去、白人中心主義を反省し、積極的に是正していくアファーマティブ・アクションという動きがありました。それは例えば入学試験や就職、昇進といった場面で、マイノリティを優遇する措置が取られるということなのですが、白人からすれば「それは逆差別ではないか」ということなんです。

特にWWCの人たちは、「自分たちはしっかり納税しているのに、その恩恵を受けられず、税金はマイノリティのためにばかり使われている」と不公平感を抱いています。

―― 声もあげることもできないのですか?

渡辺:声をあげることはできますが、「そんな考え方は遅れている」「差別主義者だ」と言われてしまうんです。だから、彼らは社会の中に自分たちの居場所はないという意識を持っているのだと思います。

―― それが今の白人至上主義の根底にある。

渡辺:特にWWCが抱いている憤りや不満は、白人至上主義的な考え方に強く影響していると思いますよ。

―― そのくらい白人に対する目は厳しくなっているわけですか。

渡辺:そうですね。一般的にはポリティカル・コレクトネスと言われていますが、それは一方で言葉狩り化ではないかとも言われています。

今年、ハーバード大学がこの秋から入学する予定だった学生10人の入学許可を取り消すということが起きたのですが、それは入学前にFacebookの限定グループで人種差別的な発言をはじめとしたかなり不適切なやりとりをしていたということが問題視されました。

また、最近ではやはりシャーロッツビルで、南北戦争時の南軍指揮官の像を人種差別の象徴だとして撤去する動きがありましたし、同じように歴史上の人物の名前がつけられた建物の名前を変えるべきだという主張もあります。
そういう状況ですから、WWCは、自分たちの過去や存在そのものが、ポリティカル・コレクトネスの目に包囲されている感覚が強くなっているでしょうね。

―― 包囲されている感覚。

渡辺:アメリカを支えてきた自分たちである、という誇りが否定されているのではと警戒心を高めていると言ってもいいでしょう。

―― ポリティカル・コレクトネスに対してWWCが警戒心を高めるようになったのは、いつくらいのことなんですか?

渡辺:アメリカの歴史をさかのぼれば、常に警戒心はあったはずです。1960年代のアフリカ系アメリカ人による公民権運動のときもそうでした。

ただ、顕著になるきっかけをあげるとすると、やはりバラク・オバマ氏の大統領就任ですね。同時にオバマ政権の間、LGBTの権利整備がかなり進んだのですが、それを見ていたWWCは「キリスト教的な価値観が世俗化してきている」と考えて不満を募らせます。実際に白人至上主義団体はここ2、3年で増えています。

そして決定打となったのがトランプ大統領の主張です。彼は選挙中からアメリカ国内の分断を煽るようなメッセージを発信し、そして彼が当選してしまった。WWCの有権者にとって、トランプ大統領の当選は、自分たちの考えていることを言うお墨付きを得たということになります。だから、堂々と異議申し立てをできる風潮がこの1年あたり強まっているということなんですね。

第二回トランプの主張はなぜ白人労働者層に響いたのか?

―― 日本から見ても「トランプ政権は大丈夫だろうか?」と思うことがありますが、そういう状況であってもトランプの支持基盤は揺るがないということでしょうか?

渡辺:そうでしょうね。トランプ大統領の主張は反グローバル、反エスタブリッシュメント(支配階級)、反リベラルが特徴的です。グローバル化によって、自分たちの地域の雇用の場だった工場が次々に海外に移転していき、雇用がなくなって地域が寂れた。今こそ、アメリカに雇用を取り戻そうという、トランプのアメリカ第一主義にWWCが共鳴したわけですね。

もともとトランプは民主党支持者でしたが、1980年代に民主党が公民権運動でマイノリティを支持したことから、共和党に一度寝返ります。ところが、共和党は最低賃金の賃上げを拒んだり、海外に雇用を輸出するなど、富裕層向けの政策を取ってきた。その共和党の主流派に対して不信感を抱いていたトランプは、「反エスタブリッシュメント」を掲げ、職業政治家に喧嘩を売るような形で選挙戦を展開していきました。

その中で、ホワイト・ワーキング・クラス(以下、WWC)がコアな支持層として定着していったということです。

―― トランプ大統領の発信するメッセージは非常に強烈です。かつて、ここまでラディカルなメッセージを発信する有力な政治家はいたのですか?

渡辺:これまでも強いアメリカを取り戻すというメッセージを発した政治家はいましたが、実際に当選すると急に強いメッセージを発しなくなるんですよね。だから、WWCは裏切られてきたという感覚があるはずです。

一方、トランプ大統領は就任後もあまり発言にぶれがなく、公約に基づいて大統領令を発令していますから、簡単に考え方を変えないというところで信頼度は高いでしょう。WWCにとっては救世主に見えているのかもしれません。

―― 確かにアメリカに限らず、世界中で“ぶれない”政治家が求められていますからね。

渡辺:逆に言えば、トランプ大統領も支持層がはっきりしている限りは立場を変えることができません。NAFTAやTPP、パリ協定からの離脱はグローバルの枠組みから外れるという「反グローバル」のメッセージといえます。

―― そこでエリート層から批判が上がっても、アメリカ国民の雇用を守ろうというメッセージを送り続けているわけですね。

渡辺:まさしく、そういうことでしょう。

4年制大学卒でも抜け出せない… 再生産される階級

―― WWCの特徴についてもう少しお話を伺いたいのですが、本書で「家族を大事にする」ということが述べられていました。アメリカ国民は家族愛が強いと思っていたのですが、WWCとエリート層では差があるということでしょうか?

渡辺:差というよりは、家族に対する価値観の違いがありますね。エリート層も家族は大切にしていますが、例えば男女平等であったり、子育ての夫婦分担は、エリート層の方が進んでいます。一方でWWCは伝統的な家族観を大事にしている。

エリート層が家族を大事にしていないというわけではなく、家族のあり方に対する価値観が異なるというべきだと思いますね。

―― もう一点、ワーキング・クラスは地縁に基づくネットワークを築いています。近隣と結び付く関係ですよね。一方エリート層は土地にこだわらないネットワークを築いている点は特徴的だと思いました。

渡辺:エリート層は移動性が高いネットワークを築いていますよね。大学で出会った世界中の人と強いネットワークを築いていて、仕事もどこでもできる。名門大学になればなるほど世界で就職できるわけですから、職能的なネットワークがメインになってきます。

一方、ワーキング・クラスはそれほど競争力がないから、地域に根付いたネットワークを築き、地域密着型のライフスタイルになりますね。

―― 社会階級の問題を紐解いていくと、教育に帰結します。一度ワーキング・クラスに陥ったらもう抜け出せないというような状況にもあるように感じますが…。

渡辺:この本で、アメリカ人の3分の2が大学を出ていると書かれています。確かに統計的にはそうでしょうけど、4年制の大学を卒業した3分の1くらいは、少し前まで高卒の人が就くような仕事に就いています。つまり、アメリカにおいては4年制大学がかつての高卒と同じくらいの意味しか持たないという実態があるんです。

さらに、高校卒業でそのまま就職をするということになると、非常に不安定な雇用しか行き先がないためそこから抜け出すことができず、階級やライフスタイルが再生産されていきます。これがアメリカ内における階級間の断絶の大きな要因になっていると思います。

第三回極端に走るリベラルと白人至上主義 メディア報道も一因に?

―― ニュースで報じられていたのですが、先のシャーロッツビルのデモ衝突が起きたあとに、ニューヨーク市のシンボルの一つであるコロンバスサークルという円形広場のコロンブス像に対して撤去の議論が持ち上がったそうです。歴史を示す銅像に対してもそのようなことが起こるのかと驚きました。

渡辺:確かにコロンブスは英雄である一方で、侵略者でもありますからね。リベラルなエリート層が中心となり、歴史的なシンボルでも過去の差別や搾取の象徴だからと取り除くことで、社会の意識を高めていく動きがあるわけです。

ただ、ホワイト・ワーキング・クラス(以下、WWC)からはやり過ぎではないかという反発もある。また、必ずしもWWCだけではなく、エリート層の中にも「歴史の負の部分も伝えていくべきだ」と考える人は多いです。

―― おっしゃる通り、「歴史を示すものとして残しておくべき」という声もあるそうですが、非常に極端な発想ではないかとも思いました。

渡辺:リベラルもWWCも両者の一部が非常に先鋭化しているんでしょうね。社会全体がリベラルに傾く中で、それに対する反発として白人至上主義が出てきて、その一部は暴力的な手段を通して訴える。さらにそれに対し、リベラルの一部がかなり過激に反応している状況です。

―― これは日本でも見られる光景だと思いますが、極端な考え方の声が大きくなりがちです。

渡辺:そうですね。また、主張が極端なほど、イメージとして広がりやすいという部分は有ると思います。実体以上に社会が分断しているように見える部分があるでしょうね。

―― それはメディアの報道にも原因がありそうです。この対立構造は世界的なものなのでしょうか?

渡辺:少なくとも先進国では見られます。どの国でもミドルクラスの没落が指摘されていて、anywhere(どこでも)生きていける競争力の高いエリート層と、somewhere(どこか特定の場所で)しか生きていけない競争力の低い没落したミドルクラスの差が大きくなっています。もっといえば、ミドルクラスが細分化されていると言っていいでしょう。

これはイギリスではEUからの離脱という結果で示されました。またフランスでもその傾向があります。自国第一主義、排外主義的で、既存のメディアを信じないという特徴があります。

―― 渡辺先生が解説で、この本で感銘を受けた点としてあげているのが、リベラルやエリート層とWWCの関係改善に対する処方箋です。

渡辺:白人だけではなく、広くアメリカ社会全体をとらえたときに、経済格差や勝ち組と負け組の断絶があって、それぞれが見えているアメリカ像が全く違うというところがあります。その断絶は非常に深刻なもので、修復を試みないといけないのですが、なかなかそこに対する処方箋を出してくれる本がなかったんです。

本書は、両者の相互理解を進めるためにWWCとエリート層が相互に誤解を解き、歩み寄るというためのいくつかの方法を書いていますから、その意味で重要な示唆を与えてくれていると思いますね。

―― でも、そう簡単に歩み寄れるのでしょうか。

渡辺:例えばトランプ大統領の支持率を見ても、彼を否定的に見ているのはエリート層が多い。一方で好意的に見ているのはWWCのコア層です。WWCからすればトランプ大統領は分断したアメリカを再び統合してくれる存在で、自分たちの声をすくいあげ、ワシントンに反映させているという感覚です。今までのアメリカの基本的な価値観を蝕むシステムを壊し、アメリカ本来の健全な価値観に戻して、よりフェアな社会で民主主義を機能させているように見えるわけです。

ただ、エリート層は、トランプ大統領の誕生や彼の言説はアメリカの民主主義を根本から否定していると見ている。つまり、見ているアメリカ自体が違うので、その認識をすり寄せていかないといけません。本書はそのきっかけとなりえる本だと思います。

13、14章の提言は非常に重要で、単にWWCの価値観を分析するだけでなく、ステレオ田タイプを修正する力があるというところがこの本の強みだと思いますね。

―― 最後に、本書の読みどころについて教えて下さい。

渡辺:まず一つは、トランプ大統領の誕生によって白人労働者層に強い関心が集まっている。それはまさにコアなトランプ支持基盤なので、トランプ大統領もこの層の価値観や存在を無視して、政権運営するのは難しい現状があり、それが今の、アメリカファーストの政策につながっています。
そういうこともあり、WWCは特にネガティブなステレオタイプで理解されがちですが、この本はデータ分析を通して実像に迫っている。それが大きな読みどころですね。

もう一つ、アメリカだけの話ではなく、格差が拡大した結果、世界に対する意識や考え方が国民間で断絶している中で、どのようにして意識の裂け目を修復するのか、その処方箋を書いているという点です。これは特にアメリカだけではなく、他の社会においても参考になるはずです。

書籍情報

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目次

著者プロフィール

ジョーン・C・ウィリアムズ

カリフォルニア大学ヘイスティングズ校法科大学院労働生活法センター初代所長。
過去四半世紀にわたり女性の地位向上に関する議論において中心的な役割を果たし、ニューヨーク・タイムズ・マガジンでこの分野における「ロックスター的存在」と紹介された。