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本当は中国で勝っている日本企業

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本書の解説

企業の中国進出の難しさを物語る「チャイナリスク」という言葉がある。

取引先の倒産や契約不履行、日本人スタッフと現地採用スタッフの気質の違い、そして反日感情の高まりによる暴動など、これまでにも幾多の日本企業が、あらゆる意味で不安定な中国という国の実情を前に、撤退を余儀なくされてきた。

だが、それでも中国は日本よりはるかに巨大で、成長を続ける魅力的な市場であり、そこで荒波にもまれながらも「勝っている」日本企業もある。

飲料自販機ビジネスを可能にした中国の飲料事情

本書によると、飲料などの自動販売機を製造する富士電機が「自販機は中国で売れるんじゃないか」と、現地の企業と合弁で大連に自販機の工場を作ったのは2004年のこと。

身の回りにある飲料自販機を思い出していただきたいが、日本では「コカ・コーラ」「アサヒ」「伊藤園」など飲料メーカーが、自社製品を売ったり、認知を高めるために全国各地に自販機を置いているケースがほとんど。この勢力図がそのまま業界シェアになっていると言っていい。

だが、中国の飲料業界はそうではない。無数の地元企業が乱立し、大手に集約されていないため、日本でもお馴染みの「青島ビール」でさえ、どこででも手に入るわけではないという。他所の街に行くと、自分の街では見たことのない無数の「ご当地商品」が売っている、というのが中国の飲料業界なのだ。

おつりが出ない、商品も出ない中国の自販機

自販機に話を戻そう。

もともと中国にも飲料自販機はあるが、著者の谷崎さんによると、「どうせ商品、出ないんじゃないの?おつり、出ないんじゃないの?」と疑いながら、それでもチャレンジ精神でお金を入れると、やっぱり商品が出なかったり、おつりが、なかったり、という代物。メーカー側も、販路として自販機を重視していなかった。

こうした業界事情や自販機事情から、2014年、中国のミネラルウォーター大手・農夫山泉が富士電機の自販機を導入すると、翌年の同社の売上は激増した。たしかに、中国に自販機の需要はあったのである。

しかし、2016年に入ると事態は急転する。自販機に飲料を補充するルートマンが、商品在庫どころか自販機ごと持ち逃げする事態が多発、農夫山泉は自分たちの自販機がどこにあるかわからなくなってしまった。農夫山泉側に自販機の管理ノウハウがなかったために、富士電機への自販機のオーダーが止まってしまったのだ。

簡単そうで難しい海外での自販機ビジネス

本書によると、自動販売機で飲料を売るビジネスは、きわめて「日本的」なのだという。

自販機が持ち逃げされず、中の商品やお金が盗まれず、そして商品の補充員が在庫管理をごまかさずに正確に行うのが大前提だが、これは日本でこその「当たり前」であって、海外ではそうもいかないのだ。

また、一台の中に温かい商品と冷たい商品を同時に保存するのも、湿気でさびて、底が抜けないようにするのも高い技術を要することもあり、海外企業が真似をしようと思っても簡単にはいかないのが実状となっている。

こうした技術的ハードルの高さもあり、富士電機のもとには自販機の共同開発のオファーが別の飲料会社からきていた。中国飲料大手・友宝と共同で製作したスマホ決済や交通カードにも対応している最新鋭の自販機が、スマホ決済の流行もあって広く普及しはじめたおかげで、富士電機は、先述のオーダーストップによる売上減を乗り切れそうだという。

本書には、この他にも中国に進出し、着実に地歩を固めている日本企業が多く登場し、その足取りや取り組みが明らかにされる。

前年比で5倍になった売上が、翌年は10分の1になることも珍しくない中国は、日本のビジネスパーソンからすればリスキーではあるが、ビジネスの醍醐味を味わえる市場でもある。

著者の谷崎氏が「優位性を強く持てるのはあと10年」と語るように、日本が技術力やノウハウの面で、成長著しい中国に先行できる時間はもう長くない。その意味では、日本企業の中国進出は「今が最後のチャンス」といったところだが、先達たちの失敗談や成功体験が詰まった本書は、現地でビジネスを成功させる格好の教材になってくれるはずだ。

(新刊JP編集部)

著者インタビュー

――本当は中国で勝っている日本企業 なぜこの会社は成功できたのか?』を読んで、日本が中国に経済力の面で追い抜かれたことと改めて実感しましたが、技術やノウハウなど、中国に先行している面もまだ多そうです。谷崎さんが普段生活していて「ここは日本の方が発達している」と感じた点、「ここは中国の方が上」と感じた点を教えていただきたいです。

谷崎: 全体としてまだ追い抜かれたとは思いません。中国は人口が日本の10倍ありますから、ちょっと発展すればGDPが増えるのは当たり前です。ただ、そのうちに、比べる、といった感じではない経済圏にはなるでしょう。
 実際、その大きな市場をつかんで、中国で大きな成功をおさめている日本の会社も実はたくさんあります。
 本当に勝っている会社は中国企業への売上が伸びたので、メディアはあまり伝えていませんが、中国での売上が数千億円から一兆円規模の日本の会社はたくさんあります。みんな黙って勝っているんですね(笑)。
 自動車や高速鉄道の部品などを製造する工場自体をオートメーション化することや、ロボット、センサー、スマホ部品やEV関連、素材などは本当に爆勝ち中で、中国での売上にひっぱられて本社が最高益となった会社もあります。
 また中国では、ネオ中流層が台頭しており、品質が高く安心して買える日系の雑貨や食品、化粧品も好調です。
 「発達」と言っていいかはわかりませんが、日本が非常に優れているのは企業内での犯罪が少ないこと。お互いが信用・信頼できてチームワークがいいこともあげられます。
 昨年、成田空港の荷物検査場で、クレジットカード含む日中全カードと30万円ほどの現金が入った財布(お土産に買った明太子の袋ごと)を置き忘れましたが、すぐに発見されて戻ってきました。

 もちろん一円もなくなっておらず、無事に飛行機に乗ったのですが、中国人や各国華僑の友達にそれを話したら大ウケされました。先進国含め世界中どこの空港でも、職員や関係者による盗難があり、財布が見つかっても100%中身は無くなっているそうです。

 たとえば将来、北京でカフェをやりたいなとときどき思うんですが、もし本当にやるとしたら、レジは日本人であれば、こちらで一回会っただけの人でも、嫌いな人でも、学生さんでも、だれでも全員に何の心配もなくお任せできると感じられます。

 しかし、中国人でそう思えたのは、17年北京にいますが2人だけです。鍵を渡してお掃除を任せていたような人でも、レジだと100%信用するのはむずかしい(or現金に触る仕事で信用するのはむずかしい)。中国人が血縁しか信じない理由が、こちらで暮らすとよくわかります。他人に任せるなら、もしかして起きるかも、のトラブル分の損失も最初から計算に入れておくのが中国流です。

―― テクノロジーの面ではいかがですか?

谷崎: 超トップレベルの開発やAI などの重点項目は、中国は国家威信にかけて、金に糸目をつけず権力を駆使してやるので、日中どちらのレベルがいいかはわかりません。
 ただその下のレベルにあたるハイエンドの工業製品製造は、日本のほうがかなり強いです。
 開発にも製造にもチームワークが必要になる中国は、技術の不備だけでなく、不正で品質が落ちたりもするので開発どころではなかったり。
つまりチームワークと、製品でウソをつかないまじめさ。最近は多少揺れていますが、それでも日本人らしさが「勝ち」の秘密です。

―― 中国の方が上を行っている点についてもお聞きしたいです。

谷崎: まず、物事の処理のスピードです。今、中国人は、仕事もたいてい微信というSNSでやってしまいます。挨拶も全部抜きで、いきなり仕事の用件だけ、「○○送れ」「5000元」「やる? やらない?」。礼儀正しくはないですが連絡は早い。自分の責任がどこまでかが明確なので、判断も早いです。これは中国がスピード発展した理由の一つです。先日、私の家の契約更新の契約書もSNSで送り合い、サインし合ってすぐ終了しました。とにかく早い。

また、スマホ支払いはすでに日本で有名でしょうが、それに連動したあらゆるサービスの開発と実用化、そして庶民がそれを取り入れる速さですね。本にも書きましたが、配達のIT化は日本以上です。タクシー手配のスマホアプリの運用も日本以上に進んでいると思います。

社会が「個人」を認めている点も、日本より進んでいると感じます。これはビジネス面で顕著で、会社でも成果主義のところが多いですし、成果さえ出せば上司は細かいことは問いません(反面、不正も横行していますが、利益を出していればつっこまれません)。

個人への発注でも、通訳、カメラマンなどは、すでに10年前から中国のほうがギャラがいい。ただ、人によって差が大きく、優秀な人なら金額もバーンと跳ね上がります(ただし不安定)。

これは会社間の取引にもいえて、日本のように大手各社が組織的に手を結んで、中小企業を完全に下請け化することはありません。広義の意味での実力があれば、ベンチャーも短期間で急成長します。今の中国社会の活力はここからきています。スマホ決済がまさにそうです。

このように、実力のある個人や、技術のある会社などには投資の機会が多く訪れます。ただ、突出した能力、学歴、人脈、技術、都市在住権利である都市戸籍などを持っていない人や、特色のない会社への搾取はすさまじい。これも中国の特徴だと思います。

―― 中国でビジネスを始めるというアイデアは、古くから多くの企業が持っていたものです。ただ海外の需要は、日本で調査を重ねても読み切れないところがあります。日本ではあまり期待していなかったのに、中国では需要があり思っていたより売れた例や、その逆の例がありましたら教えていただきたいです。

谷崎: 期待しなかったのに売れたケースとしてはホンダ車があります。私もノーマークだったのですが、最近、ホンダは南方中心に急成長しているんです。

もともと中国では、日系各社が「日本人の頭で考えた中国人好み」の車を乱発する中で、ホンダだけは「自分を貫く」という感じで事業を展開していて、コアなファンはいこそすれ、シェアは低かった。しかし、前期の社長が日本の高度経済成長時代にやった「兄弟車戦略」(既存の車の外観パーツだけを変える。開発コストも時間もかからない)を若者向けにやったことが、今、花ひらいてます。おそらく、ホンダの期待以上に売れているんじゃないでしょうか。

牛乳石鹸、無印良品のクレンジングクリームなどの日用品もウケていますね。自分は日本に帰るたびに買っていたけど、それが中国人に大々的に受けるとは正直思いませんでした。

意外といえば、日本のランドセルやお菓子。ランドセルは子供の教材が重いということで重宝されているようで、タオバオ(中国の大手ショッピングサイト)などで一定数売れてます。お菓子は、ブルボンなどの大衆向けお菓子。当初は中国人が持ち込み、安くておいしいのがウケました。今は現地生産しています。

 まとめるなら、ヘタに「日本だから」「中国だから」を考えるより、日本ですでに売れているもの(品質がいい)が、中国の物価と照らし合わせて安い場合、「性比価高(価格より中身がいい。オトク)」として売れるのだと思います。一般消費者向けなら、中国人が先に持ち込んでいるものが当然強いです。

―― 売れそうで売れなかったものはどうでしょうか。

谷崎: 日本の健康食品はあまり売れませんでした。これは中国医学に食からの栄養摂取の概念があるからかもしれません。認可と販売ルートもむずかしい。ただ、今後火が付く可能性はあると思います。

あとはお米ですね。10年ほど前から、日本政府の肝入りで「日本米は中国で売れている!」的話が作られてますが、実際には日本人の多いエリアのスーパーに置いた写真を撮って売れている記事を書かせたりしていることが多いです。中国の場合、富裕層は政府の無農薬農場の食品を調達できるし、中間層にとってはコストパフォーマンスが良くない。日本の品種はすでに中国東北地方で作られていて、味もいいですしね。あと、震災以後は東京を含むおおむね北日本の食品は、中国で輸入禁止です。

もしかしたら中国にも本当に日本米が売れている地域もあるのかもしれませんが、米余りへの日本政府の対策色を感じます。 本当に売れるものをもってきたほうがいい。

もしかしたら中国にも本当に日本米が売れている地域もあるのかもしれませんが、米余りへの日本政府の対策色を感じます。 本当に売れるものをもってきたほうがいい。

―― 日本が中国に優位性を強く持てるのはあと10年、と書かれていました。谷崎さんが考える10年後の日中経済の勢力図はどのようなものですか。

谷崎: 日本が今、頑張れば、日中の間で均衡を保てると思います。今後の人口が少なくても、少数精鋭で経済の活力を維持できる。ダメならば、中国に買われる企業も増える。わがもの顔の中国人がハイクラスの場所にもっと来るでしょう。

ただ、ダメになった日本はひなびた田舎みたいなもので魅力がないので、投資も一定ラインで止まる。生産拠点にするにも若年人口が少ないので、乗っ取りみたいな感じにはならないでしょう。優良資産でないと、全体を持つのはコストがかかります。銀座みたいな「性比価高(オトク、価値あり)」の部分は中国に押さえられてしまうかもしれませんが。

もし日本がもっと弱体化すれば、日本は中国企業・海外企業の開発とかデザイン部門など、一部署の拠点になるのではないかと思います。

―― 本書を執筆するにあたってたくさんの方々に取材をされたかと思いますが、その中でもっとも驚いたことは何ですか?

谷崎: 日本企業が思っていたよりずっと深く中国企業に入り込んでいることです。たとえば中国の液晶や半導体の工場をオートメーション化して競争力をあげるのを、いろんな日本企業がたくさん手助けしています。トランスミッションなどの自動車部品は、日本の部品メーカーが勃興する中国自動車メーカーにも在中の欧米合弁メーカーにも売っています。これは見方を変えれば、完成車メーカーと下請けの、日本の産業構造を変えるかもしれない話です。

ただし業種を超えると、同じ北京の駐在員同士でも互いの状況をまったく知らないということもいえます。

―― 今も昔も、多くの日本企業が中国に進出しますが、すべてが成功するわけではありません。撤退する理由として多いのはどんな理由ですか?

谷崎: 経営不振はもちろん、詐欺にあって資金が奪われたり、工場が稼働しなかったり、稼働しても機能しなかったり、地元政府や個人に、工場や店舗など経営資源を取られたり、といったこともあります。

あとは、ストライキや経営許可など、マネジメント上の問題ですよね。

―― 中国で成功する日本企業と、失敗する日本企業の違いはどんな点にあるとお考えですか。

谷崎: まずは代表の資質だと思います。自分の家族だけを大切にすることも含めて個人で生きる人の集合体であるという中国の本質をつかんでいること。度胸と責任感があることは成功の要因だと思います。企業が派遣するならひとりで判断&戦略立案&実行&マネジメントできる人。

最初から勝つ気がなかったり、戦う気がない人がきても、失敗します。そういう人を送る本社が悪いです。熱心でも中国に向いていない人もいますね。

それと、商品力の見極めですね。商品の品質と価格の両方で中国人にとって優位性があるものは成功しやすい。BtoBなら中国人が造れないもの。一般消費財なら、中国人が持ち込んでいるようなもの。たとえばサイゼリアは中国の他の洋食レストランより安く、ウケてます。

売る方の思い込みや希望が入っていたり、中国人からの客観的なヒヤリングが少ないと失敗しやすいといえますね。

一時、中国には富裕層がいると言うことで、漆塗りの超高級食器とか、日本でも売れないような伝統工芸品が大量に持ち込まれていました。日本人が買わないものは、中国でも売れません。少しずつ様子を見ればいいのに、失敗するところは、最初から全力でやってしまう。

逆に趣味のものでも、日本刀などは中国でも一定のファンがいますから、優良アンティークルートをつかめば売れるかもしれません。ただ、こういうものはプロの中国人に日本で売ったほうがいいかもしれませんが。

―― 日本企業が中国市場の需要を読み違えるケースはやはり多いのでしょうか。

谷崎: 代表的なのは携帯電話です。私は2000年代から日本の携帯の中国市場戦をつぶさに見てきました。当時参戦していたのは、ソニー、東芝、京セラ、シャープ……、大手ばかり20社ほど。

しかし正直、各社これが大手か、と思うほど、中国市場とずれた商品ばかりでした。中国語が一切表示されないものがあったくらいです。技術力はすばらしいはずなのに、中国人が必要とする基本的なことができない。こうなると店頭でも隅っこに置かれホコリをかぶる運命です。かろうじてソニーエリクソンが音楽携帯を出し現在も残っていますが、あとは全滅といっていい。

逆にユニチャームなどは、他社の2倍近い値段でも品質が抜群によく(どこの国でも必要なのは同じモノ)、この頃から優勢でした。

付け加えるなら、中国で成功する企業は、参入する業界や国を時代や全体から構造的に見ています。そろそろ中国でもうちの商品が売れる時代だとか、単純な労働集約産業は世界中を移動していくとか。一方、失敗しがちな企業は情報に単独で反応してしまいます。一時、大連政府と関係の深い某著名ジャーナリストが中国進出をあおり、その情報だけを頼りに、大連に進出した中小の会社がたくさんありました。小さな人脈だけをきっかけに、その業種に特に優位性のないエリアに行くと負けます。あとは、ちょっと偉そうですが、日本で負けている会社やオーナーなどが、起死回生とばかりに中国に来ても、基本勝てないです。

―― 中国でビジネスをする時に考慮すべきリスクについて教えていただきたいです。

谷崎: 投資した資本を失う、売上回収の困難、卑近な例でいえば、小姐と遊んで逮捕拘留されたり犯罪に巻き込まれる、詐欺まがいの契約を結んでしまう、撤退できない(維持費がかさんでいく)、労働運動、市場の変化が速い、ニセモノリスク、技術移転、業種によっては黒社会とのかかわり、政府との関係など、挙げればたくさんあります。

日本の大手企業が、現地の政府と契約し、開発区の土地を紹介されたが、実はそこは沼地だったとか、資本金を振り込んだら、相手の会社が資金難で他社の支払いにあててしまったとか、予想のつかないリスクもあるので注意が必要です。

ただ政変や国家崩壊等の、いわゆるカントリーリスクは、私はこれから10年はたぶんないと思います。

―― 日本のビジネスマンが戸惑いがちな、中国との商習慣との違いがありましたら教えてください。

谷崎: 交渉では、中国側はライバルを出して競わせる。疲れさせて有利に持っていく、やたら自分を大きく見せる、ブラフかける、梯子かけて外す……等、中国4000年の戦術は使うでしょう。

意外な一面としては、面子のため、会話や通信文ではっきり要求を言わないときがあります。たとえば中国のA社は日本のB氏から技術を学ぶつもりで交渉中です。Cという技術が欲しいのですが、地方で旧式の技術しかなく、そんなこともできないのか、と思われるのが嫌で、わが社はDEFもできる!ばかり強調し、何を言っているか日本のB氏側はさっぱりわからないとか。

あとは、賄賂といいますか、通行料的なお金の支払いについては、ある程度の以心伝心が必要ですから、まじめな日本人はつらいかもしれません。

中国では決定のスピードが大事になります。今の中国は無数のベンチャーが起業してはつぶれ、をくりかえしている状態で、連鎖して資金難のところも多い。その分、資金調達のため、その場で決定すれば半額、明日は倍、みたいな話もあるし、逆にいい物も人も話も油断すると持っていかれてしまう。返答や決定の遅い日本は取引先として敬遠されつつあります。競争社会で判断を早くしないとチャンスがなくなるというのは、大手が寡占している日本にはあまりない感覚です。

さらにいえば、苦労して話を決めても、契約でサインをするまでは話をくつがえしていいのが中国です。有利な話が決まったら、速攻で契約に持っていかないと他に奪われたりもします。

―― 日本企業が海外で成功する秘訣として「お金を積んでも優秀な中国人を採ること」という意見が紹介されていました。日本では優秀な人材でも「お金よりも、仕事のやりがい」というように、賃金以外のことを理由に仕事を決めることがありますが、中国ではどうなのでしょうか。

谷崎: 中国人にも「お金よりやりがい」ということで仕事を決める人もいますが、最終的には、そのやりがいが自分の資産になること、上昇できることを重視します。「発展空間(その場での自分の上昇の余地)」という言葉が使われますね。

「やりがい詐欺」にかかる人は日本人より少ないのではないかと思います。能力があるのに、低賃金のアニメーターを10年やるような人はいないです。炭鉱など超絶ブラック企業は多いですが、そこにいるのは学歴や戸籍(!)がなかったり、借金があったり、他に逃げられない人も多いです。

逆に日本人もそうですが、「給料はそこそこだけど、安定した楽しいラクな職場」というのも、これはこれでまた一種の資産なわけです。日本人もやりがいといいながら、会社だと自分で仕事が決められないことも多いので、これに高得点をつける人も多いのではないでしょうか。

中国人も環境やその職場で得られる「賄賂的副収入」も含めて、総合点で評価する人もいますね。「給料は安いが(4点)、安定(8点)、職場の雰囲気(7点)、含金量多(賄賂)(10点)……」みたいな。

逆に中国的プレッシャーとしては「独立」があります。起業して成功するのがエラい、みたいな価値観が強く、実際成功している人も身近にいるので、無理する人もたくさんいます。

―― 経済成長率の鈍化が指摘される中国ですが、それでもまだ確実な成長を続けています。谷崎さんは北京在住とのことですが、北京の街を歩いていて経済成長による活気を感じる場所はどんな場所ですか?

谷崎: ビジネス街の国貿あたりはおしゃれな女子が多いですね。学生街の五道口も、休日のレストランは若者で長蛇の列ができています。
北京の古いエリアの四合院(昔の日本の一戸建て的な建築)の中に看板のないレストランが林立し、若者でいっぱいなことも経済的な発展を感じさせます。
郊外のマンション群と、政府に移転される研究所などがどこまでも果てしなく成長していく様子も勢いを感じます。

―― 北京で、あるいは中国で最近ヒットした商品やサービスがありましたら教えていただきたいです。

谷崎: 今、外食のデリバリー(店が配達者を共有)サービスが大ヒットで、たとえばスマホでタップしていくだけで、「コンビニでジュースとお菓子と吉野家で牛丼、買い集めて持ってきて」というのが配送料100円でできます。オフィス街の昼食、夜食は今7.8割方これです。たいていのレストランがこのデリバリーに対応しているので、普通の料理も持ってきてくれて、共稼ぎの家庭でもラクです。

―― 中国暮らしが長い谷崎さんですが、中国で最初に感じたカルチャーショックはどのようなものでしたか?

谷崎: とにかく、モノが壊れます。最初、留学した大学の寮(一人部屋)は、入浴中ドアノブが壊れて服がなく裸同然で助けを求めにいったり、仕事用に買い求めた見かけは立派なオフィス風椅子が突然分解して、石の床で死ぬほどお尻を打ったり。櫛や物差しも何度も折れ(出かける前に櫛だと不吉な気分に……)。ホチキスは10個買っても使えるのがひとつもない。電話線がニセモノで、ネットの速度が遅かったり、電球の爆発は日常茶飯事、エレベーターが落ちた、ガス設備が爆発という話もしょっちゅう聞き、毎日の生活に命がけ感がありました。それが今の中国に変わりましたから、まあすごいです。

―― 最後になりますが、この本の読者の方々にメッセージをお願いいたします。

谷崎: 中国はたいへんと思うかもしれませんが、中に入ってみればものすごくおもしろいです。

会社員の頃は、現地の中国人とケンカばかりしていましたが、会社を辞めたとき、彼らがいっせいに転職の声をかけてくれました。それもそれぞれの転職先とポジションが具体的で、関係的にもほぼすぐ実現する話ばかり。今の仕事がしたくて辞めたので、いかなかったですが、印象深かったです。当時の知人の一人は現在、国籍も変わってカナダで富豪になっています。

中国人のビジネスマン(外国籍や華僑も多い)は昨日上海、次はアメリカ、休日は日本という感じで歩幅がやたらと広く、かつ男女とも死ぬまでみんな何かやっているし、時代的に壮絶な世界をくぐってきている人も多いので、視点が日本人と違う。接すると日本とは違う世界がある。何があっても生き抜くことが大事、という気持ちになれます。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  • 第1章 三菱電機

    中国全土にファクトリーオートメーションを売れ!
  • 第2章 富士電機

    スマホ支払い自動販売機で中国大陸を制覇する
  • 第3章 伊勢半

    アジア全域の口コミパワーが爆売れを呼んだ
  • 第4章 キユーピー

    中国人の舌と胃袋をとりこにした「味」の秘密
  • 第5章 良品計画 ユニ・チャーム 名創

    中国人を離さない、品質の良さ×デザイン性×マーケティング
  • 最終章 中国で本当に勝つ方法

    匿名でしか語れない本音のホンネ

プロフィール

谷崎 光

作家。
ダイエーと中国の合弁商社に総合職として5年間勤務。
退職後、商社時代の中国でのビジネスをコミカルに描いた『中国てなもんや商社』(文藝春秋)を発表し大ヒット。松竹で映画化もされる。
2001年からは北京大学経済学部に留学、以来、北京在住で執筆・創作活動を行い、現在17年目となる。
近刊に『国が崩壊しても平気な中国人・会社がヤバいだけで真っ青な日本人』(PHP研究所)『男脳中国 女脳日本 彼らはなぜ騙すのか』(集英社インターナショナル)『中国人の裏ルール』(中経出版)『日本人の値段 中国に買われたエリート技術者たち』(小学館)など。著書多数。