『白の闇 新装版 』ジョゼ・サラマーゴ著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!一人の男が、信号待ちのほんの短い間に、突然目が見えなくなってしまった。
目が見えないと言っても、目の前が真っ暗な闇の世界になってしまうのではない。
「なんにもない、まるで霧にまかれたか、ミルク色の海に落ちたようだ。」
そんなふうに、彼は、突如真っ白な世界の中に取り残される。
この男と接した者たちが、次々と、同じように目が見えなくなっていった。最初にこの男を診察した眼科医は伝染病を疑い厚生省に連絡、他にも患者が続々と出始めたため、目が見えなくなった者たちとそういった患者に接触した者たちは、使われなくなっていた精神病院に隔離されることになった。
患者は、次々と増えていくばかりだ。そして、それが伝染病らしいということは分かっているから、次に目が見えなくなるのは自分かもしれないという恐怖が、人々の心を支配していく。
特に、隔離病院の警護を任された兵士たちはそうだった。彼らは、隔離病棟に患者たちの食料を運び込むとき、予想以上に近づいてきた患者たちを見ただけでパニックを起こし、発砲してしまう。だが、そうやって人を殺したというのに、兵士たちには全く罪悪感などない。それどころか、自分たちはまだ目が見えるという優越感から、目が見えない患者が這うように動き回るのを見て「ブタのようだ」と蔑んで笑う。
目が見えない患者たちもまた、徐々に自制心を失っていき、その行動は無秩序で残虐なものになっていく。 目が見える者と見えない者。明らかにあるようでいて、実際のところ、その差とはいったい何なのか。この話は、私たちは無意識のうちにしてしまっている差別化をひどく極端な話として象徴的に描いているのではないだろうか。
眼科医の妻は、自分は本当は目が見えているにもかかわらず、見えなくなったふりをして、夫と一緒に隔離病院に入った。そこで、彼女はさりげなく患者たちのフォローをしながら、同じ部屋の患者たちの心のよりどころとなり、良心となった。それは、神が彼女に、こういった非常事態になったときに起こる出来事のすべて、そういったときに発露する人間の醜さをすべてを、しっかりと見届けるという役割を与えたかのようだった。
(レビュー:ぷるーと)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」