魔法×ミステリ×ファンタジー 異色の小説が生まれた背景は?
サスペンスとコメディの融合、ミステリとS Fの融合、などジャンルを超えたり掛け合わせたりしてできる作品が小説でも映画でも、漫画でも存在する。
様々なジャンルの魅力を、互いが互いを相殺することなく共存させるのが、この手の作品においての作者の腕の見せどころ。『魔法で人は殺せない』(蒲生竜哉著、幻冬舎刊)はクロスジャンルの魅力が楽しめる小説集だ。
19世紀のイギリスと思われる舞台で、魔法を使った殺人事件が発生。主人公は、その「魔法」が残した痕跡を追って真相の究明を急ぐ。ミステリであり、ファンタジーでもあるこの作品。キーワードとなるのは「魔法をいかにミステリに組み込むか」である。今回はこの作品の成り立ちについて、作者の蒲生竜哉さんにお話をうかがった。
■魔法×ミステリ×ファンタジー 異色の小説が生まれた背景
――『魔法で人は殺せない』は「魔法」と「ファンタジー」が融合したミステリ小説集です。どの作品も単純な謎解きとは違う不思議な風合いで読み応えがありました。この作品を作るにあたっての最初のアイデアがどのようなものだったのかについてお話をうかがえればと思います。
蒲生:今回の本は小説投稿サイトの「カクヨム」で連載していた作品を書籍化したものなのですが、連載するにあたって「カクヨム」の方から「魔法+ミステリ」というお題をいただいたんです。
こういうテーマだとまず頭に浮かぶのが、ライトノベルでよくある「異世界転生」なのですが、僕はあれがあまり好きではなかったので、「異世界転生」はやめようと。どうせなら「19世紀のイギリス」というように、おおまかに舞台を設定して「ファンタジー」の要素を入れて書こうと思いました。それが最初のところですね。
――今回の本が「デビュー作」ということになりますが、小説自体はかなり以前から書いていたとお聞きしました。
蒲生:ブランクはあったのですが、30年くらい前から書いてはいました。ただ、今のようなミステリではなくて、当時は『ブレードランナー』に代表されるようなサイバーパンクが好きだったので、それに近いものを書いていましたね。
――ファンタジーとミステリの融合というと、他にもいくつかの作品が思い浮かびます。参考にされた作品やこの分野で好きな作品などありましたら教えていただきたいです。
蒲生:参考にしたということはないのですが、ラリー・ニーヴンの『魔法の国が消えていく』は好きですね。もうずいぶん前の小説ですが。S F的な作品なのですが、魔法の設定がすごくしっかりしていて、読者を白けさせない仕掛けがしてある小説です。
――魔法についての緻密な設計は蒲生さんの作品にも通じるところがありますね。表題作のほか「ホムンクルス事件」などもそうです。魔法をミステリの中に組み込むために留意した点がありましたら教えていただきたいです。
蒲生:「縛り」を作ることです。いくら魔法だからといっても「なんでもあり」にしてしまうと、ミステリとして成立しません。たとえば魔法が物理法則を無視したものになってしまうと読者がついてこられませんから、魔法を使う作品を書く一方で、自然科学と同列に扱われるようなものでないといけないとは考えていました。
――表題作の「魔法で人は殺せない」は魔法そのものというよりも「魔法陣」の作り方が肝になっている面白い作品でした。
蒲生:「バックファイヤー」という概念を作って、魔法を定められたルール通りに運用しないと大変なことが起こるという設定にしたんですよね。自分のかけた魔法が跳ね返ってくるという「バックファイヤー」はこの種の小説では新しい概念ではないかと思います。
―― 一見ライトノベル風に見えるのですが、中はすごくしっかり作り込まれています。「歌う猫」では、作中世界のディテールが会話などから垣間見えますが、表面的な設定ではなく深く世界を作り込んでいるように思えました。
蒲生:さらっと読めるのは大事ですが、それでも読んでくださった方の中に何か残るものがあればいいなと思っています。そこはこの作品で目指しています。
――異国情緒溢れる舞台に惹きつけられる読者が多いようです。これはやはりイギリスですよね?
蒲生:イギリス……風にしていますね。ただはっきりとは明言していません。読めばわかるようには書いています。「隣の国」「南の国」といえばフランスとイタリアだとわかるような書き方をしています。はっきり国名を出してしまうと興が削がれるかなというのがありまして。
(後編 ■カクヨムから生まれたデビュー作「魔法で人は殺せない」は今後どうなるか を読む)
(後編につづく)