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『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』R・F・ヤング他著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

本書は、タイム・トラベルをテーマにした海外SF短編集なのですが、サブ・タイトルが『ロマンティック時間SF傑作選』となっており、恋愛的要素がある作品を集めています。
編者による巻末解説によれば、どうも恋愛的要素があるタイム・トラベルSFについては、洋の東西でその評価に差があるとか。
つまり、我が国では海外以上に人気が高いようなんですね。
まあ、そうかもしれませんね。
というわけで、収録作品をご紹介しましょう。

〇 チャリティのことづて/ウィリアム・M・リー

250年の時間を隔てた二人が恋に堕ちるというお話です。
二人はそれぞれ体調を崩したのですが、それが妙なヴィジョンを生むのです。
最初は熱にうなされて見た幻覚かとも思うのですが、次第に誰かとつながっているということに気付いていくのです。
現代に生きているチャーリーは250年前のチャリティが生きている世界を見るのですが、それはまだマシな方です。
歴史などで知っていることですから。
それよりも250年前のチャリティが現代の姿を見た衝撃は比較にならないのです。
だって、チャリティにとって飛行機なんて何のことやらさっぱり分からないのですから。
そんな二人は互いの世界のことを教え合うのですが、それがチャリティにとって仇となってしまうのです。
ピンチに陥ったチャリティをピーターは救うことができるのか?
ラストがほんのりしますよ。

〇 かえりみれば/ウィルマー・M・シラス

おぉ!これは!!
著者は『アトムの子ら』というミュータントSFの古典を書いた作家なのですが、我が国に紹介されているのはこの位のもので、他の作品が読めるとは!
え~、現在の記憶を保ったまま、過去の時代に行ける(つまり若返ることができる)としたらって思ったことはありませんか。
そうできたのなら、例えば学生時代にはもうちょっと効率的に勉強することができただろうし、もっとうまくやれただろうって奴です。
でも、本当にそうだろうか?というお話です。

〇 時が新しかったころ/ロバート・F・ヤング

『たんぽぽ娘』の作者によるロマンティック時間SFなのですが、いかにもヤングらしい作品になっています。
未来から恐竜時代にタイム・トラベルして来た地球人のカーペンターが、その時代の火星からやって来たという姉弟を助けるというお話です。
設定では、地球が恐竜時代を迎えていた頃の火星には高度な科学文明が栄えていたということになっているのです。
この点もそうですし、全般に古めかしい陳腐なSF設定になっており、「これはダメかなぁ……」と思いながら読んでいたのですが、あ~!!
なるほど、ラストでいかにもヤングらしい落とし方をしてきましたよ。

〇 時の娘/チャールズ・L・ハーネス

エディプス・コンプレックスのせいか、いつも母親と張り合って男を奪い合ってしまう娘の物語です。
オチ命の作品なんですが、作中の描写によって、SFを読み慣れている読者であればオチを予想できてしまうと思います。
まあ、オチに気が付いてしまっても楽しめる作品なので安心してください。

というわけで、この手のロマンティックな時間SFばかりが集められていますので、SFは小難しくて苦手だという方にも取っつきやすい短編集ではないかと思います。

ただし、中にはかなり捻った、難解な作品も含まれていますのでその点にはご用心を。

なお、本書では全収録作品9作中3作が本邦初訳、残り6作のうち3作が30年以上前に訳出されたきりで埋もれていた作品、残りの3作も20年以上入手困難だった作品だということなので、かなりレアな作品を読むことができます(実際、私が既読だった作品は一つもありませんでした)。

また、既訳の作品も、本書ではすべて新訳に変えたということですので、この点でも良心的ではないでしょうか。

(レビュー:ef

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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時の娘 ロマンティック時間SF傑作選

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選

時という、越えることのできない絶対的な壁。

これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが現れて一世紀以上が過ぎた。

時間SFはことのほかロマンスと相性がよく傑作秀作が数多く生まれている。

本集にはこのジャンルの定番作家といえるフィニイ、ヤングらの心温まる恋の物語から作品の仕掛けに技巧を凝らした傑作まで名手たちの9編を収録。

本邦初訳作3編を含む。

この記事のライター

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