仕事で「しなくていい努力」をしてしまう人の特徴とは?
努力はいつか実を結ぶ。
そう信じて日々仕事に励んでいる人は多いはず。
でも、仕事には「しなくていい努力」がある。そう語るのは、研修講師として大小問わず様々な企業で仕事の「現場」を見てきた堀田孝治氏。堀田氏は著書『しなくていい努力 日々の仕事の6割はムダだった!』(集英社刊)で、この「しなくていい努力」の正体に迫る。
多くの人が知らずにやっているという「しなくていい努力」。
そして、仕事での成長を妨げてしまう「しなくていい努力」。
今回は堀田さんにお話をうかがい、その一端とこうした努力が生まれる背景について語っていただいた。その後編をお届けする。
■勉強で「勝ってきた」人ほど危ない
――「しなくていい努力」は、仕事という競技の性質を理解せず、個人競技だった学生時代の勉強と同じ方法で仕事をしていることで生まれるというお話がありましたが、かつては堀田さんも「しなくていい努力」をしていたそうですね。どこでそのことに気づいたのでしょうか。
堀田:気づいたのは30歳過ぎた頃ですね。入った会社がいい会社だったので、今思うと20代の頃から周りにいた方々が注意してくれていたんですよ。
「おまえ、仕事は作業とは違うぞ」とか「お客さんと議論して勝ってもいいことないぞ」とか「おまえ、自分が頭いいと思ってんだろ」とか、よく言われていたんですけど、当時の僕は変にプライドが高かったので聞く耳を持たなかったんです。
そんなふうでしたから、仕事がうまくいかなくて、30歳くらいでメンタルの不調で休職するまでになってしまったのですが、そのケアの過程で認知行動心理学に触れたのが一つの転換点だったと思います。
――認知行動心理学によってどう変わったのでしょうか?
堀田:休職明けで会社に戻った時に、それまでの自分の物事の認知を疑ってみようと思ったんです。あいかわらず社内で孤立していて、昼ごはんも食堂で一人で食べていたのですが、ある時に横で先輩と後輩が食事をしていたんですね。
その先輩は後輩の商談にフィードバックをしていて「おまえは頭が良くて口がうまいから、お客さんに反論されると議論になって言い負かしてしまう。議論に勝つと商売に負けるんだよ。学校の勉強じゃないんだから」というようなことを言っていました。
それを聞いてふと、もしかしたら僕も20代の時こうだったのかなと思ったんですよね。仕事で勝てないから休職したと思っていたけど、実はそうじゃなくて、そもそも「仕事はまず自分が勝つものだ」という認知がおかしかったのかもしれないな、と。それがきっかけでしたね。
――「しなくていい努力」に気づくためには、「仕事とはどういう競技なのか」を知る必要があるというお話がありましたが、これは「そもそも仕事とは何か」という問いに行きつきます。もし自分の部下に「しなくていい努力」をしている人がいたら、上司としてはどう気づかせればいいのでしょうか。
堀田:この本にはところどころに、まだ仕事がわかっていない新人が先輩にトンチンカンな質問をして、正されるという内容の4コマ漫画が入っているのですが、この漫画みたいに年長者が後輩に「そもそも仕事とは」ということを話す機会が、現実の仕事の現場ではもうほとんどないんですよね。
こういう会話ってひと昔前は、仕事が終わってから飲みながらしていたんです。それは説教だったり、自慢話だったりもしたのですが、その中から部下は「そもそも仕事とはどういうものなのか」を受け取っていたところがありました。
でも、今は飲み会自体減っていますし、上司や先輩の方もパワハラと言われるのを恐れるので、なかなかこういうことを話せません。だからこそ、今回の本が先輩と後輩、あるいは上司と部下の間で「そもそも仕事とは」ということを話すきっかけになってくれればいいなと思っています。こういうことは一対一で直接話すと「説教」と受け止められてしまいますが、本を読んだ感想を交換したりといったことなら大丈夫だと思うので。
――今の風潮として、大事なことなら飲み会での自慢話や説教の中に散りばめないで、業務時間内に端的に話してくれよ、となるんですよね。
堀田:そうなんです。でも、突き詰めていくと日本の仕事って華道や茶道と同じように「道」になっているところがあるので「見て学べ!」「察しろ!」といったように、そもそものところを言語化する習慣が上司にもないし、そしてとても難しい。すごく大事なことなのに、上司や先輩も端的には話せないんですよ。
それに、もしかしたら、恐ろしいことですが、今の上司も「仕事とは何か」がわかっていない世代になっているのかもしれません。
――「しなくていい努力」をしてしまいやすい人の特徴について教えていただきたいです。
堀田:多くの人がしがちなのですが、特に勉強ができた方、大学まで勉強で勝ってきた方は特に多いかもしれません。こういう人ほど、勉強から仕事へと競技が変わっても、勉強で得た成功体験が手放しにくく、新しい競技への順応が遅れてしまいやすいとはいえると思います。
――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
堀田:今の若い方は、「上司に言われたことをやっていれば、会社が定年まで連れて行ってくれる」という時代ではもうないのだ、ということは、私たちの若いころと違って、逆にしっかりと認識しています。私もそのとおりだと思いますので、であれば、「どこに放り出されても逞しく食べていける自分」を、早く創り上げた方がいいですよね、ということです。
そうなるためには仕事の実力をつけなければいけないわけですが、「しなくていい努力」をしているうちはなかなか実力は伸びていきません。ぜひこの本を読んで「しなくていい努力」に気づいていただきたいですし、「しなくていい努力」に気づくということは、仕事という競技の本質を理解するということでもあります。
いつか誰かに教える立場になった時に「仕事を語れる人」になっていただきたいなと思います。この本がそのきっかけになったらうれしいですね。
(新刊JP編集部)