仕事で伸び悩む人ほど当てはまる「しなくていい努力」の正体
努力はいつか実を結ぶ。
そう信じて日々仕事に励んでいる人は多いはず。
でも、仕事には「しなくていい努力」がある。そう語るのは、研修講師として大小問わず様々な企業で仕事の「現場」と1万人以上の働く人たちを見てきた堀田孝治氏。堀田氏は著書『しなくていい努力 日々の仕事の6割はムダだった!』(集英社刊)で、この「しなくていい努力」の正体に迫る。
多くの人が知らずにやっているという「しなくていい努力」。
そして、仕事での成長を妨げてしまう「しなくていい努力」。
今回は堀田さんにお話をうかがい、その一端とこうした努力が生まれる背景について語っていただいた。
■仕事で伸び悩む人ほど「しなくていい努力」をしている
――『しなくていい努力 日々の仕事の6割はムダだった!』はこれから仕事を覚えていく若手世代にも、指導する上司にも役立つ内容でした。まず堀田さんが考える「しなくていい努力」についてお聞きしたいです。
堀田:「しなくていい努力」と混同されがちな言葉に「報われない努力」というのがあるのですが、両者はまったく違うものです。
サッカーの本田圭佑選手は90分間のサッカーの試合の中で、ボールに触っているのは2分くらいだという話があります。じゃあ残りの88分は何をしているのかというと、他の選手が動きやすくするために囮になったり、相手の選手を引きつけてスペースを作ったり、テレビの画面に入らないところでしっかり働いているんです。
そういう地味な努力を88分続けて勝つこともあれば、負けてしまうこともある。負けてしまったら、その努力は報われなかったということですが、無駄だったかというと決してそんなことはないですよね。
――そうですね。チームが勝つために必要なことだと思います。
堀田:必要な努力を精いっぱいやったんだけど、いい結果が出ないことはビジネスでもあるじゃないですか。これが「報われない努力」で、仕事の現場では必要なことです。
これに対して、「しなくていい努力」は、いってみればサッカーの試合中に野球のバットを振ったりするような、そもそもやっても無駄な努力のことを指しています。「そんなことをするわけがない」と思うかもしれませんが、これに近いことを仕事でしている人って、実は結構いるんですよ。「仕事」という競技に合わない努力をしてしまっているといいますか。
――的外れなことをしていることに、なぜ気づかないのでしょうか?
堀田:一つは会社側の問題です。日本の会社の新人研修って、最初に人事部長が出てきて、「今日から君たちは社会人だから、もう学生とはちがう。勉強ではなくて仕事をしてもらう」と言って新人を脅すんですよ。でも、脅すだけ脅して、「どこが違うのか」という説明はないんです。
現場の先輩に「仕事は何か」と聞いてみても、先輩の説明も「責任があるんだ」とか「厳しいものなんだ」とか、釈然としないものばかりで、結局わからない。となると新人は学生時代にうまくいったやり方で仕事をするしかないですよね。
――社会人になっても学生時代の戦い方を続けているのが「しなくていい努力」が生まれる原因になっている。
堀田:そうです。特に大きな会社に入ってくる人は、学生時代は勉強で勝ち組だった人ばかりでしょう。それが成功体験として染みついてしまっていることがあるんです。
でも、勉強から仕事への転換って、それこそ陸上の個人種目からサッカーに変わるようなものですよ。同じやり方でうまくいくわけがないんです。それで上司や先輩に叱られてしまう。
そこで素直に「すみません」と言えればいいんですけど、それまで勝ってきたものだから、そういう指導を受け入れられずに「理不尽」と感じてしまいます。そう感じているうちは自分に問題があるとは考えませんよね。これは僕自身の経験でもあるのですが。
――勉強は陸上競技の個人種目で、仕事はサッカーというたとえはよくわかります。
堀田:高度成長期は勉強と仕事の性質はある程度一致していたんです。多くの人は学校を出たら製造業の会社に入って、工場で働いていましたから、上司に言われたことを黙々とこなしていればよかった。これって学校の勉強とよく似ていますよね。
でも、今は自分で課題を見つけたり、自分でアイデアを出していかなければいけないわけで、言われたことだけやっていても仕事になりません。仕事というものの性質が、学校の勉強の性質とどんどん離れていっている。それにつれて「しなくていい努力」は増えていきますし、「しなくていい努力」に気づかない人も増えていくと思います。
――「しなくていい努力」の詳細についてもお聞きしたいです。本の中では「コミュニケーション」や「デイリーワーク」「キャリア」など、さまざまなテーマで「しなくていい努力」について解説されていますが、資格取得や留学を「しなくていい努力」としているのは意外でした。
堀田:資格取得のための勉強や留学がかならずしも悪いわけではないのですが、今の風潮として「スタート」と「ゴール」、そして「手段」と「目的」が逆になってしまっている人が多くて、資格取得や留学が「ゴール」であり「目的」になってしまっているところがあります。
本来、資格は、まさにそのビジネスをスタートするための資格を得た、ということにすぎません。たとえば、医師の国家資格を得た人が、医師としてのキャリアをスタートさせます。留学もその後のビジネスに役立てるためのスタート地点であり、その後、その「手段」を使って、現実のビジネスでどのような価値をアウトプットしたかが大事です。。そこを忘れて、資格取得や留学といったインプットばかりに偏ってしまうと、学校の勉強と同じになってしまう。資格も留学も、その先にあるものを考えていないと、「しなくていい努力」になってしまうということは言いたいですね。
――「アウトプット」が大事なのであって、「インプット」ばかり偏るのは「しなくていい努力」であるというのは、私も自戒しないといけないと思いました。
堀田:若手社員に「今日どんな仕事をしたのか」と聞くと「〇〇を調べました」とか「これを準備しました」っていう人が多いんです。企業研修の講師をしていても、こういう人はよくいますね。
インプットは楽しいものですし、インプット自体がダメだというつもりはないのですが、アウトプットのためのインプットだというのは忘れないでいただきたいです。
――「100点満点を目指す」のも「しなくていい努力」だというのも、驚きました。これはなぜなのでしょうか。
堀田:「100点満点」っていう発想って、点数に上限があって、相手がいることを想定していない勉強のような個人競技の発想なんですよね。仕事というのは自分が100点でも、相手がその上を行って105点取ってしまえば、お客様には選ばれません。逆に競合企業の商品が50点なら、こちらは60点くらい取れば勝ててしまう。そこで「100点の新製品じゃないと発売できない」というのは妙な話で、お客さんのためになるならいますぐ60点の商品でも出せばいいのかもしれないのです。自分にとってどうかというより、顧客にとってどうかというのがビジネスであり、提供する価値には先生が設定した上限などありません。。「100点満点」という考え方にはその部分が抜けていると感じているので、本の中でも取り上げました。
――「まず自分の勝ちを考えるから、負ける」というのは、多くの人が当てはまりますね。他者を勝たせるという視点を持たずに自分が勝とうとするのは「しなくていい努力」と言えると思います。
堀田:いい組織というのは、部下が「この課長を部長にしてあげよう」と本気で思って働いているものです。「この上司に課長にしてもらおう」とは考えていません。
もう一つ言うなら、いい上司というのは「自分の部下から社長を出した人」です。どちらも「自分が勝とう」ではなくて「相手を勝たせてあげよう」という視点が必要ですよね。その場では損をしているように見えますが、どういう姿勢で働いているかというのは、周りは見ていますから、いずれ自分も評価される時がくる。「自分が」だけの考え方はもったいないと思いますね。
(新刊JP編集部)