だれかに話したくなる本の話

『ボルドーの義兄』 多和田葉子著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

ハンブルグにいる優奈は女優志望でフランス語を勉強したいと思っている。優奈は友人のレネからボルドーにいる義兄モーリスがしばらく家を空けるのでその家をしばらく借りて住むことを提案された。優奈はボルドーに行き住み始める。

あらすじとしては以上です。この小説の特徴はほとんどが1ページにも満たない文章毎にその文章の特徴を表す漢字が清水寺の今年の漢字のように一文字割り当てられていることです。しかもその漢字は左右反転しています(意味がわかりません)。ジャケットには優奈が出来事を記録するために文字を記していると書いてありますが、文章は優奈の過去の回想や物事に関するイメージ描写などのモノローグだけでなく、三人称で客観的に書かれている優奈と関係がある人々の描写など一貫したものではありません。

多和田さんの表現はさすがと思わせる鋭くイメージ豊かなものが多く文章自体は堪能できましたが、如何せん前述の通り何が起こるわけでもない話で、優奈の頭に浮かぶものが唐突に記されるので読んでいてなかなかリズムに乗れず200ページ少しの短めの小説ながら読むのに結構時間がかかりました。いつ話が展開するのだろうと我慢して読んでいましたが残り数十ページのところでその期待は叶えられないのだろうと気づきました。

ジャケットには「小説の見たことないカタチ」とありますので実験的な小説なんだろうと思います。なんとなくイメージ的には円城塔さんの小説っぽい感じもあり、ジョイスの「ユリシーズ」のような感じもします。根拠はないですが。

作家としての評価が確立された多和田さんだからできる実験なのでしょうが、正直私にはその意図が分かりませんでした。そもそもこの本を「読む予定リスト」に入れたのはかなり前で、今となってはなぜリストに入れたのかもわからないところも本自体の不思議さと相俟って妙な読書体験となりました。

(レビュー:darkly

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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ボルドーの義兄

ボルドーの義兄

言語の不思議な力。文学の美しい企み。 ハンブルグからボルドーへ。言語・記憶・意味の狭間にたゆたい躓きながら、優奈は漢字を一文字ずつ綴る。同時に起こりすぎるたくさんの出来事を記録するために。

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