だれかに話したくなる本の話

『ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語』ホープ・ヤーレン著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

「山ガール」「歴女」「農業女子」……
正直に言うと私は、このテの言葉が大キライだ。
女性の進出を奨励しているかのように装ってはいるが、
山登りだって歴史だって、好きな女性は昔からいたし、
その道のプロだっている。

農業に至ってはどれだけ女性の労働に支えられてきたことか!
その努力と実力が長い間正当に評価されてこなかっただけなのに
一過性のブームのように扱って
またまた「女子」を消費しようなんてあんまりではないか。

とまあ、私はそういったことを考えがちな「女子」であるからして、この本のことも警戒しながら読み始めた。

ところが……
この本の著者である地球生物学者のホープ・ヤーレンときたら、予想以上のぶっ飛び方で「女子」の壁を突き破っていく。

幼い頃から父親のラボを遊び場にしてきた少女は、長じて研究者の道を歩み始めるが、その道は険しい。すさまじいほど険しい。

それはもちろん研究者となり、研究者で有り続けることの難しさでもあるのだが、同時にまた「女子」が研究を続けることの難しさでもある。

彼女は学位論文でエノキを研究対象に選び、その大きな種子を守っている鉱物がオパールだとつきとめる。
その研究を更に一歩進めるために、助成金を勝ち取るのだが不運なことに、その夏、彼女が選んだエノキは花も実もつけなかった。

どん底まで落ち込んだ彼女は、それでもただでは起きない。
自分が木が何を実行しないかという点に集中するあまり、何を実行しているのか観察する余裕を失っていたことに思い当たるのだ。
その夏、木にとってなにか優先事項があって花を咲かせて実をつけるという行為が後回しになったに違いないのに。

たとえ世の中を変えたいと思っていても実験はその手段ではない。
これからは植物を外側からではなく内側から研究しようと決意する。
植物が行動するときの理由を解明し、植物の論理的思考を理解するように努めれば、自分の論理にこだわって行き詰まるよりもよい結果が得られるはずだと考えたのだ。

もちろんそう発想の転換を図っても研究自体は一筋縄ではいかない。
なによりも資金不足。
自分のラボを持ち、それを存続させていくことの難しさだ。

研究費を捻出するために、自分の研究を売り込むだけではだめ。
本来の研究から少しばかりアプローチを変えて、軍事応用できる科学研究を提案して資金援助を受け
二つの研究を平行して行う……などという時期は、ましなほうで、文字通りすべてを犠牲にして寝る間も惜しんでボロボロになるまで働いてもどうにもならず、廃品の山をあさって研究資材を調達することも。

二人三脚で難問に挑む研究パートナーのビルの給料をまともに支払うことが出来ずやむなく彼は車上生活やラボでの生活を余儀なくされたりもする。

キノコが菌類そのものだと思っているとしたら、それはペニスが男性だと信じるのと同じだ。美味しく食べられるものから致死量の毒を含むものまで、すべてのキノコは単なる生殖器官であり、もっと大きくて複雑で目に見えない存在の一部でしかない。キノコが生えている地面の下には細い菌糸が網の目状に張り巡らされている。(中略)地上に姿を見せているキノコの命は短いが、暗くて豊かな地下の世界でそれを支える菌糸は何年も生き続ける。

著者の無謀で衝動的とすら思える、痛々しいほど懸命な生き方に圧倒される一方で折々に静かで穏やかな語り口で差し挟まれる生命の神秘やその奥深さを感じさせる植物にまつわる興味深いあれこれが、鮮やかなコントラストを描き出す。

なんとも不思議な読み心地の、なんだか妙に胸が熱くなる本だった。

(レビュー:かもめ通信

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ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語

ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語

研究を一生の仕事にすることを志した一人の女性植物学者が、男性中心の学問の世界で、理想のラボを築きあげていく生き様を綴った感動のサイエンス・メモワール。

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