『ハーレクイン・ロマンス: 恋愛小説から読むアメリカ』尾崎俊介著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!齢50のわたくしが物心つく頃、書店の片隅にたたずむハーレクインロマンス専用ラックはすでに存在した。ハーレクインが代名詞となったロマンス小説とは、女性主人公がイケメン実業家など(バブルの頃に3高(高学歴・高収入・高身長)と言われたモテ要素をオールクリアした男性)と喧嘩しながら仲良くなって最後に結婚するハッピーエンドストーリー。読んだことはないけれど特異な存在としてこれまで認識してきた。
男性目線では理解不能… (何で?) という著者の呻きが前半でチョコチョコ挟まれて、このジャンルの特異性を意識させ、ロマンス小説読者ではない女性も苦笑いで頷いてしまうだろう。
しかし第3章でロマンス小説の元祖「パミラ」について語られる始めると、18世紀の女性を取り巻く事情、ロマンス小説を求める心情に頷かざるをえない。わたしも心が疲れている時、ファンタジーや創作の世界に旅立ちたくなる。
また本や出版に興味のある人なら面白く感じるトピックを上手く押さえて流れるように成り行きを語ってくれる著者の軽快な語り口がよい。 1970年代から語り始められるイギリスとアメリカの出版業界隈の話や、ロマンス小説という新ジャンルが成長してゆく過程を興味深い様々なトピックを絡めながら描き出す。あの現代のロマンス小説『ブリジット・ジョーンズの日記』の著者が連なる系譜とは?!とかコバルト文庫との比較まである。
本書でハーレクイン社成立の歴史やその経営戦略を読み、ビジネスで偶然と必然が絡み合ってどんどん伸展してゆく面白さを感じた。また女性の手になる女性のための夢を供給し、そのサイクルを維持させてきた功績についても感嘆を覚えた。
ハーレクイン好みの表現は、日本の出版界でも何十年も前からあり、私はそれを軽佻浮薄なイロモノとして差別視していたが、この本を読んで少し見る目が変わった。
なおロマンス小説云々とは別に、私が特に興味深く感じたのは第六章「ロマンス小説を読むのはなぜ後ろめたいのか」。ウーマンリブ隆盛の時代、攻撃の的となったハーレクイン・ロマンス。フェミニストたちは、安直に男にぶら下がる夢を見る女に怒りを覚えた。この構図、実はいろんなところに当てはまるのではないかと思った。例えが適当かわからないが、わたしが思い出したのは美輪明宏がおすぎとピーコを非難したという話とか。(むかしの話です。しかし現在もLGBTの権利を訴える側とあからさまな異装をする側との間の意見の相違が存在するようだ)外側から見れば同じ立場にいるように思われるが、当人たちにとっては大違いだという事象は各所に存在するのかもしれない。
ロマンス小説は読んでいないが、わたしの場合はBL漫画を読んだりする。本書を読んで思い当たったのだが、現在のBLの中にも明らかにロマンス小説の流れをくむモノがある。「砂漠ロマンス」(石油産出国の大富豪と・・)も「アルファ・マン」(強引傲慢ヤンエグイケメンと・・)もある。
またBLジャンルでも書き手はほぼ女性だし、読者と書き手のサイクルも生まれている。日本だけでなく、アメリカ、イギリス、オーストラリア、などでも大量のBLペーパーバックが出ているもよう。ハーレクインジャンルは今も進化し続けているのだ。
(レビュー:そのじつ)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」