『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!私が子供だった頃、科学が進歩するということは大まかにいって「人間の生活が豊かになり、みなが幸せに暮らすこと」というイメージだった。
その幸せの条件の中では「労働から解放される」というのは大きな要素だったと思う。長時間の労働に従事する必要もなく、それでいて生活のレベルは過去よりも改善されていて、時間に追われずに物質的にも精神的にも豊かな生活を送る人が増える。科学進歩が人間を労働から解放してくれる。
しかし世の中が便利になればなるほど私たちはより一層忙しく動き回っている。分刻みで正確に運行される電車が私たちを次の目的地へと急がせる。
あれ、ゆったりとした明るい未来はどこへ行った? とふと思う。
著者によるとAIの発展がもたらすものは労働から解放ではく、労働市場からの放逐だという。大量の「役立たず階級」が生まれる。なぜならAIが行き渡った世界での仕事は高度な専門性が求められ、誰もがそのスキルを獲得できるわけではないからだ。著者の口ぶりからするとこれは警告ですらないようだ。
もう一度言っちゃう。みなが幸せに暮らせる未来はどこへ行った?
車の自動運転ひとつを見てみても、人の倫理感や情動、直感とは全く無縁のAIがハンドルを制御したら、道路に飛び出してきた子供を救うために車の所有者であるあなたの命を犠牲にするかもしれない、と著者は言う。その判断の瞬間あなたの意思は確認されることはない。なぜなら車はそう設定されているのだから。
将来、自動運転車の持ち主になった時に、利他主義者としてふるまう車か(持ち主よりも飛び出してきた子供を助ける)、利己主義者としてふるまう車(持ち主の命を第一に考える)のどちらとして車を「初期設定」するか選択を迫られるかもしれない。
物を所有する前に、そんな選択を強いる物が自分に必要なのかどうか考えることにもなるだろう。著者も技術的には可能だとしても社会へのインパクトが大きすぎて国家が制限、もしくは採用を遅らせるテクノロジーも出てくるだろうと書いている。
AIの発展も含め未来はあまりにも混沌としていて、著者も読者に対して具体的な展望や対処の方法を提示できてはいない。
そのため本の後半はオーソドックスな倫理観について語られる。でもその普通さはアルゴリズムとは違って私がよく知っているものだからそれまでの驚きと恐怖を宥めてくれた。
著者の本を読むのはこれが初めて。Audibleにて読書。最近SFをあまり読んでいなかったけれど、未来へのヒントはSFの中に見つかるのでは?と思わされた読書でした。
(レビュー:あられ)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」