『コクルおばあさんとねこ』フィリパ・ピアス著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!先日引っ越しをしたのですが、心残りだったのは、我が家にご飯を食べに来ていた四匹の地域猫のことでした。中でも、黒猫のクロは非常に用心深くて、人間にもあまり懐いておらず、夜しか出歩かないような猫でした。つまり、闇夜のカラスならず闇夜の黒猫なので、寝る前に庭にご飯を出しておくと、朝にきれいになくなるという状態で、姿を見ることも当初はなかったのですが、そのうち影で自分の存在を知らせるようになり、それから声をかけると「ニャ」と返事をするようになり、最近は私の姿が見えていても、ご飯を食べるようになっていました。
他の三匹は、あちこちでご飯をもらっていたようなので、私がいなくても心配はしないのですが、このクロだけは、そういう家があったのかよく分かりません。というわけで、クロのことが心に引っかかった状態でしたので、この本をジャケ買いしてしまいました。
「ロンドンの町の、高い高い家のてっぺんに、としよりのコクルおばあさんが住んでいました」
このお話はこういう風に始まります。身寄りのないコクルおばあさんは、黒猫のピーターと暮らしていました。ピーターには好きなことが三つありました。屋根にのぼること、コクルおばあさんと一緒にいること、おやつに新鮮な魚をもらうことでした。
ところで、コクルおばあさんは風船を街角で売ることで生計を立てていました。ですから、そんなに裕福なわけではありません。ある夏天候不順で雨が続いたおかげで、魚の水揚げ量が減り、魚の値段がとても高くなってしまいました。つまり、ピーターは魚のおやつをもらえなくなってしまったのです。おまけに、雨続きなもので、屋根に上がることもできません。ピーターはだんだんコクルおばあさんとの生活に不満を抱くようになります。
「コクルおばあさんが、ピーターはなんてきりょうよしなんだろうと、ほこらしく思っているのに、ピーターの方はさかなのことばかり考えていたのです。(中略)さかなが、いぶくろのなかに入っているときの気もちが思い出されました。そしてまた、舌の上にのっているときや、りょうほうの手ではさんでつかまえているときの気もちも、思い出されました」
我慢できなくなったピーターは、ある朝、コクルおばあさんがドアを開けたすきに、外に飛び出して家出をしてしまいます。(なんて猫でしょう!)ピーターがいなくなったコクルおばあさんは、夜も眠れず、食欲もなくなり、「ロンドンの町でいちばんふとったふうせん売り」だったコクルおばあさんは「今では、いちばんやせっぽちのふうせん売りになってしまいました」
ピーターがいなくなってから何週間も経った、ある風の強い日、いつもより風船をたくさん膨らませたコクルおばあさんは、強い風とともに、空に舞い上がってしまいます。どんどん上にあがっていって...。
まぁ、基本的にはハッピー・エンドですから、ご心配なく。このコクルおばあさんの空の冒険飛行の描写は、なかなかのもので、フィリパ・ピアスの作家としての腕の見せ所でもあります。そして、もちろん、ラストにはピーターとの再会が待っています。
本書のイラストは、イギリスでいろいろな絵本に絵を描いている1932年生まれのアントニー・メイトランドが、最初の絵本版とは別に1987年に描いたものですが、とにかくピーターがかわいくて器量よしに描かれています。そしてコクルおばあさんもかわいらしいこと!実に素敵な絵です。
楽しい本です。でも、クロは元気かなぁ。
(レビュー:hacker)
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