資産運用の専門家が明かす、老後資金の運用で失敗する人の共通点とは?
2019年に大きな話題を呼んだ社会問題の一つが「老後2000万円問題」だ。金融庁審議会の資料において公的年金以外で老後に2000万円必要になると報告され、若い世代を中心に波紋を起こした。
一方で現在50代、60代といったリタイアを見据えた世代にとっては、これから30年、40年と生きる上でいかに資産を運用していくかが喫緊の課題だ。
『老後の大切なお金の一番安全な増やし方 シニア投資』(アスコム刊)を上梓したIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)の西崎努さんへのインタビュー。後編では金融機関からの投資情報に惑わされないために必要なことを教えてもらった。
(新刊JP編集部)
■シニアから始める資産運用。困ったことにならないために気を付けるべきことは?
――今、高齢者向けの投資詐欺などがニュースになっていますよね。シニアの方が資産運用をしようと思うとき、困ったことにならないようにどんなことに気を付けるべきですか?
西崎:金融リテラシーの問題は一つありますよね。
これまでは、お金の運用の方法や手段にはどういうものがあって、何に気を付けないといけないのかということを知る機会がなかったのだと思います。
以前は退職金や年金もそうですが、銀行の預金金利も高かったですし、寿命も今ほど長くはなかったので、老後の資産運用を考えなくても良かった。一方、今は預金金利ものぞめないし、寿命も長くなり、運用が必要だという認識も生まれてきました。
仕事が多忙だったため、お金を増やすための基礎的な知識を得る機会がないまま、シニア向けの安定資産運用と言われても、これが本当に自分のニーズにあっている商品なのか判断することが難しい。
――そして、定年退職の時期に付近になってから急に金融機関から投資商品の案内が届きはじめ、言われるがまま始めてしまう。
西崎:退職金のようなまとまった額が口座に入金されたことは、当然金融機関には分かりますから、そこで連絡をして資産運用の提案が行われています。特にシニア世代の方々は、金融機関に対して高い信頼を置いている方が多く、基本的には任せようと思うわけです。ですが、実はこの「任せきりにする」ということが一番の問題なんです。
例えば、他社の商品と比較をすることなく決めてしまう。これは投資で失敗してしまう方の共通点です。
すでに投資に慣れている人はいいのですが、これから資産運用を始めようと思う人は、特に注意ですね。違う金融機関の担当者にも聞いてみるとか、インターネットで調べてみるとかして商品の情報を精査してから選ぶということをお勧めします。
――本書には「金融機関との賢い付き合い方」の章がありますが、注意すべきセールストークのフレーズは参考になりそうです。
西崎:私たちはIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)といって、金融機関に所属せずに業務委託契約を結んでお客様のご相談に乗り、ニーズに合った商品を提案しています。
その中でよくお客様から、金融機関に「すごく人気って言われた」「お客様のニーズに合います」と抽象的な表現で商品をお勧めされたと聞くんですね。
ただ、それって「どういいのか」「どう合っているのか」が分からないじゃないですか。で、お話を聞いていくと、「お客様のニーズに合っています」と言っておきながら、実は本人のニーズとは違った商品が紹介されているケースもあります。
――西崎さんもかつて大手証券に勤務されていらっしゃいましたが、そこで投資家の利益に反するようなビジネスに違和感を抱いたそうですね。それはどういう点に違和感を抱いたのでしょうか。
西崎:一つは商品ありきという点です。会社ですから今月はこのくらい利益をあげたいという目線があります。そして、そのためにはこの商品をいくつ売ろうという発想になり、商品の販売ノルマが発生します。しかし、そこにはお客様目線は何一つありません。
また、新規で商品を購入するお客様を見つけ続けることは困難です。そのため、今いるお客様に対して新しい商品を提案をしていきますが、そこに顧客ニーズというのはくっついていません。商品ありきで、完全に会社都合のビジネスになっている。そこに一番違和感を抱きましたね。
――現在はIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)として独立されていますが、こちらは商品の販売ノルマがないんですか。
西崎:そうですね。IFAは金融商品仲介業の登録を受けて、証券会社と業務委託契約を結び、お客様に投資商品の提案やアドバイスを行います。お客様が私たちの契約する証券会社と取引をすることで、証券会社に支払った手数料の一部が私たちにマージンとして収入が入る仕組みとなっています。
実は金融機関で働いている人たちが最も嫌だと思っているものが販売ノルマです。決められた商品を期限までに販売しないといけないために、お客様の本当に求めているニーズに合わないものでも販売しなくてはいけない。そこに悩んでいるんです。
でも、IFAは金融機関の社員ではありませんので、その縛りがありません。会社のモデルとして、自分たちが良いと思った商品の中で、お客様のニーズに沿ったものを提案できるという強みがありますね。
――今後、資産運用について営業を受けて悩んだときはIFAの方にも相談します。ただ、誰もが近くにそういう人がいるとは限りません。金融機関から送られてきた商品の情報を鵜呑みにしないためにはどうすればいいですか?
西崎:もしインターネットが使えるのであれば、商品を一度検索してみてください。よく提案される商品は誰かが分析していて、メリットとデメリットを書いています。特にCMや新聞広告、DMなどで提案されている商品は金融機関が力を入れて販売している商品なので、情報がネット上にも出回りやすいんです。
また、もう一つ知っていただきたいのは、広告を打つ理由です。なぜその商品の広告が打たれているのか。それは、利益を見込みやすい商品だからです。その一方で、収益にはならないけれど良い商品もありますが、そういう商品は広告されにくいんです。ノーロード投信(買付時の販売手数料がかからない投資信託)や個人向け国債などもその一例です。
基本的に商品を提案されたら、良い情報だけではなくて悪い情報を調べてください。投資商品に「リスク」と添えて検索をかけて、ちゃんとデメリットを把握することを心がけてください。金融商品には必ずデメリットもありますが、それが自分にとって許容範囲であれば投資を考えても良いものだと思います。
――では、最後に本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
西崎:タイトルの通り、シニアの方に読んでほしいというのが第一です。ただ、シニアの方だけでなく、30代や40代の方で若くして相続を受けたとか、まさに親がシニア世代で運用をしている方にも読んでいただければと思います。親が安定して生活できることを望まれていると思うので、そういう方に投資で失敗しないように、本書の内容をお伝えいただければと思います。
(了)
■西崎努さん
リーファス株式会社 代表取締役社長。
2007年に日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社、CFP資格も保有する全国トップセールスとして活躍し、シンガポール・ロンドンでの海外研修も経験。帰国後は新規・既存の上場会社や不動産投資法人(REIT)の公募増資等の株式引受業務に従事する。2017年4月に独立し、リーファス株式会社を設立。同年10月に金融商品仲介業の登録を受ける。金融商品の仕組みはもちろん、運用実務、大手銀行や証券会社の販売手法まで熟知したアドバイスが好評。
日経新聞、楽天証券サイト「トウシル」などメディアへの寄稿多数。自身の経験をもとに「資産運用の本音セミナー」を年間40回以上開催(2019年実績)。2020年の新春企画として東証「JPXアカデミー」にて講師として登壇予定。