『kaze no tanbun 特別ではない一日』【「本が好き!」レビュー】
「小説でもエッセイでも詩でもない、ただ短い文。しかい広い文」
17人の文章家による書下ろし「短文」アンソロジー。
“kaze no tanbun”シリーズ第1作ということで、
全部で3冊刊行予定なのだそう。
執筆陣がこれやたらと豪華で
こういう人たちを一同に集められる西崎憲という人は
やっぱりすごいなあ!と改めて。
「短文」といってもいろいろで
見開き2ページのものもあれば
10ページを若干超えるものもあり、
つぶやきのようなものもあれば
短篇小説のようなものもある。
書き手それぞれが描き出す世界も様々で
この1冊でいろいろな味が味わえる。
読み始める前は、
寝る前に1つ2つずつゆっくり読むつもりだったのに、
巻頭に掲載された山尾悠子の「短文性についてⅠ」で心がざわつき、
続く翻訳家岸本佐知子の「年金生活」に目を見張る。
いやいやこれは、なんともはや。
この“作家”の作品をもっとあれこれ読んでみたい!と
興奮のあまり眠気が吹っ飛んでしまった。
こんな調子で最初の2篇を読んだものだから、
このまま一気読みしたくなり、
(いやまて、じっくり味わうべきだ)と、
自分で自分に言い聞かせながら、
それでも数日で読み終えてしまった。
とりわけお気に入りは
岸本佐知子「年金生活」と
皆川博子「昨日の肉は今日の豆」。
谷崎由依「北京の夏の離宮の春」
山尾悠子「短文性についてⅡ」
藤野可織「誕生」
も興味深く、忘れがたい。
ちょうどいい大きさの、
ちょうどいい形の石ころを見つけたものだから、
なんだかちょっとうれしくなって、
蹴っ飛ばしながら歩きたくなった。
そんな読み心地の楽しい本だった。
(レビュー:かもめ通信)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」